デジタルマーケティング連続講座④ 属人化からの脱却! MOpsで実現するマーケティング組織の変革

2024年12月5日

本講座のアーカイブ動画および資料の公開期間は終了いたしました。講座の内容については、講座書き起こしをご覧ください。

講座概要とMOpsの全体像

池田:皆さん、こんばんは。定刻になりましたので今週も始めてまいりましょう。MARPSのデジタルマーケティング連続講座でございます。さて、本日は全16回のうちの4回目ですね。テーマはマーケティングの組織変革 MOps(エムオプス)の会になります。

結構このデジタルマーケティング連続講座の中でも比較的、新しいテーマで聞き慣れない言葉の方も一部いらっしゃるのかなと思っていたんですが、人数は言いませんけども、相当多数の数百名のお申し込みをいただく、超大人気回になっております。

というわけで、今日こちらのテーマをお話しいただく方は、この方しかいらっしゃらないということで、お呼びをしております。ゼロワングロース株式会社取締役COOの廣崎さんにお話をいただきます。皆さん、この本読みましたか?

MOps、 マーケティングオペレーション。大変売れている本ですね。今日は、こちらの本をベースに、このMOpsについて解説をいただくんですけども。

今日のゴール設定

このテーマは、すでに結構組織で実行しているぜという方から、今これから始めようと思っている方、ないしは一部取りかかっているんだけれども、まだ全体を線として繋げることができてなくて「まだ全体が俯瞰できない、点としての取り組みになっちゃって困ってます」みたいな方まで、結構すごく濃淡が激しいと思うんですね。

こういう回ってすごく難しくてですね、もうすごいやってるという方からすると、結構知っていることが多かったので簡単すぎたという感想になっちゃうし、超初心者だったりこれからやり始めますとかやり始めたばっかりですみたいな方からすると、ちょっとついていけなくて難しかったですみたいな感じになっちゃいがちなんですよね。

なんですけど、今日はものすごくテーマが大きいですし、かなり奥行きが深い概念なので。まずはこのMOpsというのは全体として、どこからどこまでのことを考えるもので、こういったところがポイントですよというところをきっちりと理解をする、全体感を俯瞰をして理解をするというところが今日のゴールになります。

すごい応用編の、めちゃめちゃ具体の話をするわけでもないし、超べったべたな初心者の方にお話をするわけでもなく、全体を俯瞰をしてきっちりと理解するというところを、今日はゴールに廣崎さんにお話をいただこうと思っております。
ということで、是非皆さんそういう変換をしながら、「それに効いているんだからそういう話になるよね」ということで、自ら変換をしながら聞いていただければなと思います。

デジタル時代のマーケティングとMOps

マーケティングはいつも言っている通り、超幅が広くて奥行きが深いんで、今自分が全体のどの部分をやっているのかということで道に迷ったり迷子になっちゃいがちです。

個別で皆さんが日常生活の中で学んでいくものって、どうしても特にデジタルマーケティングの場合というのは、ものすごい施策が細かくてめちゃめちゃな数があるので、放っておくと点の学習ばっかりになっちゃって、結局何のことだかよくわからない。

前工程、今工程、後工程の繋がりが分からん、全体像の中のどこをやっているのかが分からない、みたいな感じで皆さん悩んでいます。

なので、MARPSができる限り全体の面を示し、面の中にはマーケティングの売上の獲得に至る線というものがあって、この線の中のこの部分の点を学んでいるんだよ、といったところの位置関係を理解して、点を学んでいくことが線として繋がりやすくなって、それがいつか面になって、皆さんがマーケティングの現場で応用しながら実践に活かせるようになっていく早道であるという風に考えているんです。

できる限りMARPSではこの面を示し、線の中の点を意識して学んでいっていただくということをやっております。

デジタル時代へのマーケティングの適合

今回はデジタルマーケティング連続講座という名前にしていますが、正しい言い方としてはデジタル時代のマーケティング連続講座です。

今までデジタルマーケティングは歴史上大体25 年ぐらいだと思いますけど、リアルのマーケティングというのがあって、そこにインターネットやSNSが出てきて、デジタルが出てきたからデジタルマーケティングもやろうよ、となって、これ別々でやっているのは良くないから融合していこうよというのが今までだったわけですね。

今もう、ありとあらゆるものがオンライン化・デジタル化をしている中でのマーケティングに変わっていかなきゃいけないという意味からすると、もう全部デジタルなんですよね。

全部デジタル化をされた中にリアルのマーケティングが含まれているという考え方の方がよっぽど自然であるということと、デジタル時代のテレビCM、デジタル時代の交通やサイネージ、デジタル時代におけるPR、デジタル時代におけるバリューチェーンみたいに、デジタルじゃないものとデジタルっていう風に分けちゃうんじゃなくて、ありとあらゆるものがデジタル化した世界において、マーケティングを適合させていくという考え方で、是非この連続講座は学んでください。

デジタルさえあればいいわけではなくて、デジタル時代において今までのマーケティングをどのように適合させていくか、フィットさせていくかっていう考え方です。なのでマーケティングとデジタルマーケティングを別個で学んでいくのではなくて、デジタル時代におけるマーケティングの新しいセオリーというのはこういうことだよねということを頭の片隅に置きながら点を学んでいくようにしてください。

MOpsの役割

デジタルマーケティングの最終目的地は、基本的にOne to Oneマーケティングであると。これからの勝負というのは、One to Oneマーケティングをマスレベルで行う。かつ1日後、1週間後にデータ解析をしてカスタマイズしたレコメンデーションを提案していくものではなくて、マスレベルのOne to Oneマーケティングをリアルタイムで行っていくというのが、このデジタルマーケティングの最終ゴールになっていきます。

今回のMOpsというのは、まさにこの点になってしまいがちな、細分化をして全てのKPIが分断をされて、全体最適がされていないというところを、ちゃんと線として繋げていくことによって収益を最大化をしましょうよっていう考え方になっています。

マーケティングオペレーションの定義と現状

廣崎: よろしくお願いいたします。皆さん初めまして。ゼロワングロースの廣崎と申します。今日は1時間ちょっとお時間頂戴いたしまして、マーケティングオペレーションについてお話をしていきたいと思います。

ゼロワングロース株式会社について

簡単に私どもの会社の自己紹介をさせていただきます。ゼロワングロースという会社は2021年にできた、まだまだ新しい会社です。主要メンバーとしてはこの4名ですが、全員マーケティングオートメーションベンダーのMarketoで知り合ったという共通点があります。

私自身はMarketoからはじまって、それから渡米して教育スタートアップのCouseraでフィールドマーケティングとマーケティングオペレーションを担当しました。その後シンガポールにわたり広告のDSPベンダーであるMediaMathにてAPAC地域でのフィールドマーケティングとマーケティングオペレーションを担当していました。

4名それぞれマーケティングや営業、開発などそれぞれ違う強みを持ってレベニュー組織の課題解決のお手伝いをしています。

呼称と発祥

いろんな方に質問いただくのですが、これ「エムオプス」ですか、「モップス」ですかと質問をいただくのですが、色々と呼び方がありまして、マーケティングオプスと呼ばれる方もあれば、エムオプス、モップス、マーケティングオペレーション、全部正解ですので、あまり気にせずに呼んでいただければと思います。

マーケティングオペレーションというこの概念は、生まれたのはアメリカになります。アメリカの中でも、IT企業、IT業界の特にSaaSと呼ばれるところでコンセプトが生まれたという風に言われています。

米国と日本における普及状況

米国で、専任のマーケティングオペレーションの役割がありますよと答えた企業は80%くらいというデータも出ているほど、マーケティング組織の中に、こういったような役割を担っている方々がいるというのはある程度当たり前に、米国ではなっているというデータが出ています。

一方でですね、日本では、パワー・インタラクティブさんの調査によれば、「マーケティングオペレーションを知っています」という回答をいただいた方は全体の72.7%ということで、認知はすごく広まっています。一方、すでに組織体制を持っていて実行していると答えているのは9%ということで、認知は広がる一方で、なかなか実行にまだ落とし込めていない企業さんが多い状況にあります。

ビッグオプスと質の高いデータ運用

このマーケティングオペレーションは、数ある「なんとかオペレーションズ」という役割のうちの1つで、営業部門のセールスオプス、カスタマーサクセスのオペレーション、ファイナンス、リーガルのオペレーション、そして昨今ではAIオプスも欧米で誕生しており、部門名の最後に「オプス」とつければ何かしらオペレーション部隊がいる状況が昨今はすごく増えています。

これはBig Ops(ビッグオプス)という考え方に基づいています。デジタルというチャネルが出てきたことで、データがたくさん収集できるようになりました。しかし、意図なしにたくさんのデータを集めただけでは、明確な指針や方針がなければ「ゴミデータ」として溜まってしまい、有用なインサイトを導き出せません。

この状況を打破するべく、マーケティングのみならず企業全体の活動をオペレーショナライズするという意味でビッグオプスというコンセプトができました。質の悪いデータを入れても質の悪いものしか出てこないため、オペレーションという役割の方々が、いい質のデータやプロセスで運営することで、いいアウトプットを出すというポリシーで動いています。

B2B/B2Cにおける適応

マーケティングオペレーションにはB2BもB2Cもありますが、元々マーケティングオペレーションの概念が生まれたのは、B2Bのレベニュープロセスに寄ったコンセプトになっています。

B2Bのレベニュープロセスは複雑でリードタイムが長く、マーケティング、営業、カスタマーサクセスと対応部門が変わっていく中で、データや管理の仕方、流れをしっかり整理しないとカオス状態になることから、やはりB2Bでのユースケースが多く見られているのが現状です。

MOpsの活躍が顕著な業界は、IT SaaS、金融、映像、その他人的販売を伴う業界です。B2Cでは不動産や人材などで進んでいますが、欧米ではD2Cのオンライン販売でも導入例があり、日本でも今後広がっていくと予想されます。

MOpsが必要な背景と役割分担

戦略と戦術設計の必要性

マーケティング組織は緻密に戦略を練りますが、この練った戦略を、じゃあやってみようかと一足飛びで実行にジャンプしてしまいがちという傾向があります。

理想的には、戦略を「どうやって実行に落としたら一番効率的なのか、そして生産性高く、属人的にならず実行できるのか」という、効率的、効果的な戦術設計が本当は必要です。

日本では、「売上○円マーケティングで貢献しないといけない」という目標があった時に、これをイベント○本、ウェビナー○本、メール○本やって達成するのか、あるいはイベントに全振りするのが効率的なのか。

チャネルや人的リソースの配分を含めて、「どうやってこの戦略を実現するのが効率的か」ということに時間を割くことがあまり多くありません。

欧米企業ではここに注力する背景が強く、戦術設計の方法論やデータマネジメントモデルは、ある程度みんな試してきて固まってきている標準的なオペレーションモデルが存在します。この標準的なオペレーションモデルを推進する役割として、マーケティングオペレーションのニーズが高まりました。

戦術設計がしっかりやられていないと、「あと2週間でリード数が足りません」といった焦りから、「とりあえずこのイベントやってみるか」といったとりあえずやってみる施策が横行してしまうケースがあります。

また、要件定義をしっかりせずに導入した高価なマーケティングツールが、機能の1/5しか使いきれていないといった背景から、マーケティング投資のROIが低下するといった課題にも繋がりますので、標準的なオペレーションの実行に力を入れていきましょうというのが、MOpsの存在意義になります。

テクノロジーの爆発的増加と低い活用率

マーケティングテクノロジーの数は最近めちゃくちゃ増えており、チーフマーテックの調査では、2011年の150から、今年は1万4,106へと急増しています(前年比27.8%増)。これはAIの進歩も要因の一つとされ、今後も増えると予想されています。

2011年〜2014年頃であれば、マーケティングツールに詳しい、あるいは興味がある方であれば、だいたいマーケティングテクノロジーの分野やトッププレイヤー5社くらいはなんとなく把握できていました。

しかしツールが1万4,000以上ある中から、自社に最適なツールを選び、既存ツールとインテグレーションし、将来のニーズに合うか判断するには、専門知識を要します。

マーケティングテクノロジーへの予算は増え、機能も進化しているにもかかわらず、アメリカの現状では、活用率が低下しています。2023年時点で、全体で持っているマーケティングテクノロジーの33%ぐらいの機能しか使えていないと皆思っており、7割の機能が使えていないという厳しい現実があります。

マーケティングテクノロジーツールが複雑化して、マーケターに一層の専門知識が求められていることや、DXの流れで様々なツールを導入した結果、ツールごとの機能の重複が生じているといった要因があると思われますが、それにしても33%というのは寂しい数字と言えます。

MOpsとフィールドマーケターの分業

マーケターはメール配信、イベント、広告、クリエイティブなどやることが非常に多く、デジタル化と技術の高度化を考えると、ある程度専門性を追求していかなければなかなか活躍できないという背景があります。

フィールドマーケター: 広告、イベント、メールなど、マーケティングの施策を実行するプロフェッショナルです。

マーケティングオペレーション (MOps): 施策は一切やらないが、フィールドマーケティングの方々が効率的に生産性高く、施策を実行できるような環境作りを行うことがミッションです。

MOpsの活動には、MAツールの導入・設定・運用管理、データサイエンスを用いた高度な分析によるインサイトの提供、運用プロセスやデータマネジメントモデルの検討などが含まれます。この2分化が進んでいます。

例として、フィールドマーケターが飛行機を操縦するパイロットだとすれば、MOpsは管制塔で働いているようなイメージです。

この専門性の追求の必要性は、マーケティングだけでなく、営業(セールスオペレーション)やカスタマーサクセス(カスタマーサクセスオペレーション)といった収益創造部門全体に共通しています。

MOpsの主要な4つの役割

マーケティングオペレーションの業務は、大体4つの分野に分けることができます。

1. キャンペーンマネジメント

キャンペーンマネジメント(施策管理)は、MOpsの効果が顕著に現れる分野です。

マーケティング部門はイベント/ウェビナー/メール/広告など、いろんな施策を用いてキャンペーンを行っています。

こういった施策を実施するにあたって、皆さんの企業では施策立案フェーズでWordのドキュメントなどで、この施策が「誰に対して、なんのために、どれくらいの予算を使って、どんなチャネルで、いつまでに、どんなメッセージを届ける」という施策計画を作成されているのではないでしょうか。

どの施策が一番収益に貢献できているのか、ウェビナーの中でもどのトピックが反響がいいのかなど、すごく細かい軸で施策の効果検証をしていかないと、限られたマーケティング予算のROIを最大化できません。

このため、施策を始める際に立てる施策計画の内容を、ウェブフォームとしてデータ収集する(キャンペーンリクエスト)ことが、キャンペーンマネジメントで欠かせない活動になっています。

このウェブフォームで施策の詳細(誰に、いつ、どんなチャンネルで、いくら使って、どんな目標値で実行するのか)を全てデータフィールドとして入力してもらうことで、バラバラに散在していた施策ごとのデータが収集され、自然と自社のキャンペーンのデータベースができてくるわけです。このデータフィールドは、MAツールのプログラム設定やCRMのキャンペーン情報に引き継がれ、分析軸に繋がります。

自社がどんな分析軸で施策の効果を見ていきたいのかという利用シーンを明確にした上でフォームを作り、データトラッキングと効果測定を行う一連の流れをMOpsが担っています。

発展的なキャンペーンマネジメントをしている企業では、これを全て自動化しています。施策の詳細がデータフィールドとして入力され、マーケティング責任者の承認後、自動的にMA上でプログラムが自動生成され、必要なメールやランディングページがテンプレートベースで作成され、CRMの方にデータが連携されるといった、APIを使った連携でプロセス全てを自動化しています。

これにより、特定の担当者しかできないといった属人的なアクションをなくして、フィールドマーケティングの方々がクイックに施策の実行までを推進できるようにしています。

2. レベニュープロセスマネジメント

これはB2Bに特化した内容が多く、MOpsはB2Bの複雑な購買プロセスにおいて、中間指標を設けたプロセス管理を支援します。

新規獲得(MQL、SAL、SQLなど)のデマンドジェネレーションプロセスはもちろん、既存顧客からのアップセル、クロスセル、継続契約といったカスタマーマーケティングやアップセル・クロスセルのレベニュープロセスが中心となる場合もあり、自社の方針に応じて、マーケティング部門としてどういう中間指標を設け、コンバージョン率を保つかといったKPIが変わってきます。

MOpsの役割として、プロセスの中間指標の置き方、受注できなかったリードやコンタクトをリサイクルしていくかといったプロセスを考えること、また、リードスコアリングやアカウントのスコアリングの仕組み作り、B2Bの複雑な購買プロセスにおいて収益に対して最も効果的なチャネルや施策を分析するためのアトリビューションモデルを設計することなど、各種プロセスを設計・構築することが含まれます。

これらのプロセスが整備されデータが取れるようになると、目標達成のために必要な商談数、セールスクオリファイドリード(SQL)数、MQL数といったものを逆算していき、データドリブンにマーケティングの活動計画を立てる支援をMOpsが行います。

3. マーケティングの生産性マネジメント

この役割は、営業のSFA導入時と同様に、マーケティングの生産性を可視化しようという動きです。

MOpsは施策を直接行わないため、獲得リード数などのKPIを持たないことが多いですが、多くの企業で業務の生産性向上を一番の主要KPIとして持っているというデータがあります。

これは、施策にかかっている作業コストや人的リソースを効率化することによって利益を増やし、収益に対する貢献度を増やすというアプローチです。

では実際にどのように生産性を可視化したり、改善をしているのかというと、プロジェクトマネジメントツール(Jira、Asana、Backlogなど)を使って施策の実行を管理します。

施策ごとに、クリエイティブ作成、MAプログラム作成、メール作成といったタスクが上がり、それぞれの担当者に振られます。これにより、チャネルごとで大体の平均の人的コストが出てくるということができます。

プロジェクトマネジメントツールの生産性のダッシュボード機能で、特定のプロセスで時間ロスしている、特定の担当者に業務が集中しているなど、組織全体のボトルネックを可視化します。ボトルネックを見つけたら、マーケターの採用、ツールの導入による効率化、インテグレーション不足の解消などを検討し、改善策を投じて生産性を上げていくのがこの役割です。

4. データ・テクノロジーの運用管理と設定

MOpsは、データやテクノロジーの運用管理、設定を担います。

これにともなって、データモデルやテクノロジーを最大限活用するための組織モデルだったり、担当に応じた権限の割り振りなどにまでつながっていくため、非常にやることの多い役割になります。

具体的には、MAやCDPといった基盤ツール、エンゲージメントツール、PMツールなど、自社が持つべきマーケティングテクノロジーの最適解を選び、導入設定していきます。

最近、マーケティング全体の予算が縮小傾向にある欧米でも、マーケティングオペレーションの予算はどんどん拡大しています。2020年の調査では、マーケティング予算の40%がMOpsに関連するものに使われているほどです。これはテクノロジーツールのライセンス費用などが含まれますが、一方で活用は進んでいないという課題があります。

日本だけでなくグローバルで見て、MOpsが目下注力しているのは、企業全体で分散しすぎているアプリケーションだったり、データの統合です。事業部ごとのアプリや、EC、ソーシャル、メールなどプラットフォームごとのデータの分散により、点と点がバラバラになり、何が効果的かわからない状況を解決します。

特にB2Bでは商談期間が長いため、マーケティングから営業、CSまで一気通貫でデータを見て何が売上に繋がっているのかを綺麗に出せるようにするための、データの統合、そして全体の最適化というニーズが高まっています。

MOpsは、データを統合するためのデータハブを作ること、効果的に管理するためのガバナンス体制を考えること、ユースケースに沿ったアウトプットのためのワークフロー設計(AIが使われることが多い)、そして会社全体の知見としてデータを貯めていく活動を推進します。

MOpsの役割は、この1〜2年でただ単にテクノロジーを管理する人から、データのモデリングとか、データの管理体制というのを率先的に推進していく立場に変わってきています。B2BでもクラウドデータウェアハウスやCDPの導入が広がり、データのマチュリティ(成熟度)を高めることで、マーケティング全体効果の向上に貢献していきます。

MOps最前線:AI活用とレベニュー組織

最先端のAI活用

欧米などの先進企業では、AI活用はコンテンツ作成といった施策レベルだけではありません。

データの統合をした上で、マーケティング、営業、様々な部門のデータを元に学んだAIで、ターゲットオーディエンスの適切なセグメンテーションを行い、各セグメントに対する最適な施策の案を立案するというのをAIで自動化したりします。

また、データでAIを学習させることで、収益中心のレコメンデーションをAIで出したり自動化したりといったアクションが多く見られています。

このあたりはまだ欧米の先進企業で今まさに取り組んでいる内容なので、すぐにキャッチアップするのは難しいかもしれませんが、将来像としてこういったマーケティングテクノロジーやデータの管理体制が求められていると言えます。

全体最適の追求

データを統括管理することで、個別最適化が進んでしまい、合理的な意思決定が難しくなったり、データのガバナンスの問題が発生したり、重複コストが増えたりするリスクを回避し、全体最適という形を取れることが最も大きな利点となります。

これらは日本の企業でも当てはまる課題と言えるでしょう。組織全体として集中管理しなければいけないテクノロジーやデータはどんどん統合していきましょうという流れが、今は当たり前になってきています。

理想像は、マーケティングと営業が使っているツールが別であっても、それらのデータは全てクラウドデータウェアハウスにちゃんと保管がされており、マーケティングがCSの対応データを施策に活用するなど、部門間を横断したデータ活用や分析が可能になっている姿です。

レベニュー組織とレベニューオペレーション

全社単位でデータを見ていくようになると、MOpsが他の部門のことも見るのは難しくなります。このため、収益創出に責任を持っている部門(マーケティングと営業、またはカスタマーサクセス)を統括して見ていくレベニュー組織という組織がゆっくりと立ち上がっていきました。

そのレベニュー組織全体のオペレーションを担うレベニューオペレーションという役割も出てきています。MOps担当者は、セールスオペレーションや他のオペレーションチームだけでなく、このレベニューオペレーションと密に連携をして推進していくということが求められています。

レベニューオペレーションやレベニュー組織は新しい分野であり、欧米でもチームがある企業は6割ちょいです。

ガバナンスモデルの策定

MOpsをやる上で重要な点として、ガバナンスモデルの策定があります。色々なテクノロジーやデータを効率的に管理していくためです。

マーケティング活動のそれぞれの中で、どこを全社で集約して知見を1箇所に貯めてデータ統括管理にしていくのか、そしてどこを切り離して事業ごとや地域ごとに柔軟に変更していかなければいけないニーズがあるのか、この整理を通じて自社のガバナンスモデルを決めていく必要があります。

3つのモデルとハイブリッドの重要性

ガバナンスモデルは、一般的に集中管理、分散管理、そしてハイブリッドという3つのケースが挙げられます。

  • 集中管理: MOpsを始める際は、絶対に集中管理から始めましょうと推奨されています。データやプロセスの管理が行き届きやすく、全体のプロセスを標準化し合理化できます。
  • 分散管理: 各事業部などで自由に実行するため、統括が難しく、MOpsをしっかりしている企業で分散管理を採用しているケースはほとんどないです。
  • ハイブリッド: 組織が成長するにつれて、地域ごとの特性を汲むなど、ある程度のカスタマイゼーションを許すバランスを取って調整していくニーズが発生します。中央管理と個別カスタマイゼーションのバランスをマーケティングオペレーションが見ながら、全体の最適化を行う。これがMOpsの最も難しい点であり、面白い点でもあるかなと思っています。

成功事例

旭化成エレクトロニクス様は、以前からデジタルマーケティングに取り組んでいましたが、効果を数字で出せない、営業投入戦略が難しくなり、マーケティング起点の収益貢献を上げなければいけないという課題がありました。

マーケティング組織全体の最適化、MOpsの実施を進められ、キャンペーンマネジメントや生産性の可視化を通じて、マーケティングの効果の可視化、組織全体の知識のアップデート、共通認識の向上をすることで、属人化を排除していったという事例があります。

Q&A

池田: ありがとうございます。

廣崎: どうもありがとうございます。

池田: 完璧にMOpsができているところはまだまだ少ないという前提があるものの、ツールが1万もあって、今日お話しいただいたようなことが自社のリソースやノウハウだけで内製化できるレベルを、もはや超えちゃっているというところについて、どうお考えですか?

廣崎: 正直テクノロジーとかはカバーできると思うんですよ。やろうと思えば。一番難しいなと思っているのが、このマーケティングオペレーションを始める時にマーケティング組織の形が変わることになってしまうので、その推進がですね、マーケティングのトップがやろうとしないと、もしくは経営層を全員を巻き込んでやろうとしないと難しいっていうことで。そういった背景から外部サービスを使うっていうケースが多いかなと思いますね。

池田: 結局社内で言うと角が立つけど、外部の人間がもうこれはこうしなければいけませんって言ったから言われたら、じゃあもうしょうがないからそうしようかっていう。チェンジエージェントとしてそれをアウトソースしているという。

MOpsは多部署連携、多部署が複雑に入り込んだプロジェクトを推進することになると思いますが、そこにいたるまで、例えば海外ではCMOやCROなどが旗を振ることもあると思いますが、日本だとみんな横並びだと、事業部で一番力を持っている事業部長が偉いみたいな感じだと思うんですけど、やっぱそこが一番の障害ですか?

廣崎: そうですね。一番の障害です。旭化成エレクトロニクスさんも、営業、マーケティングが主導したものの、全社のDX推進を担当されている部門も一緒に入って伴走するような形でやっていました。会社の中でDX推進というような役割がある場合は、そういったところも一緒に推進するのも1つの手なのかなとは思うんですが、それが難しい場合はある程度トップダウンアプローチが必要になってしまうので、ボトムアップは難しいところ。

池田: 現場がどんなに課題意識を持っていたとしても、自分の直属の上長がさらに上の役員を巻き込んで、社内でムーブメントを起こして既成事実化をしていくという、温めていく時間軸みたいなものも結構裏側では相当かかるみたいな感じですよね。

廣崎: おっしゃる通りだと思います。

池田: 今日聞いた方たちに向けて。全体がぼんやり分かったけれども、まず何から始めたらいいかというスモールスタートはどこら辺になるんでしょうね。

廣崎: 例えば今日お見せしたようなマーケティングオペレーションの役割が4つありましたけど、最初から全部やる必要はないと思っています。特にトップダウンでできない場合は、ボトムアップのアプローチになった場合に一番手っ取り早くその効果を可視化して「ほら、マーケティングオペレーション必要でしょ」と説得する材料になり得るのかなと思うのはキャンペーンマネジメントのところ。

池田: やっぱりそうなんですね。右上のところですね。

廣崎: はい。そうですね。そこはマーケティングオペレーションとか名前をつけなくても全然推進できると思うので、そこから手をつけていってじわりと重要性をアピールしていくというのは他の企業さんでもトライしている方々いらっしゃいますね。

池田: なるほど。ポイントとしては、「今話題のMOpsが、キャンペーンマネジメントが」みたいな横文字や概念は使わず、キャンペーンマネジメントからやって成果として数字に見えると、「すごい!このやり方いいね!」となって、少しずつじわじわにじませて領土を広げていくみたいな。

廣崎: そうですね。実はマーケティングオペレーションって何なのかよくわからないということはよく耳にしまして、「うちではマーケティングテクノロジー推進室って呼んでます」とか、色々な呼び名をつけている方って結構いらっしゃって。
オペレーションという言葉は日本語ではタスクを淡々とこなしている人みたいなイメージを持たれがちなんですけど、実際にはCMOとかマーケティング責任者の右腕になる方々なので、呼び方はもう本当に何でもいいと思います。

池田: 確かに、「マーケティングオペレーション」って聞くと、「なんでそんな現場べったべたの話をしなきゃいけないんだ」という印象になってしまうということですね。

まずはキャンペーンの右上のところでしっかり成果を出して、少しずつ領土を拡大するってことですよね。海外ではもう80%がMOpsに取り組んでいる。型は同じだけれども、欧米のMOpsを日本で導入していく際は、カスタマイズというかジャパナイズが多少必要な印象があるか、そして日本での普及の時間軸はどうか。

廣崎: 一番は営業連携かなと思っています。

アメリカとかは広いので一緒に働いてないじゃないですか。元々はリモートワークじゃないですけど、一緒にチームがいないことが普通なので、ツールとかでそれを解決しようという意思が結構強いんですけど、日本の方々はやっぱりその場でタッチとかもありますし、すり合わせ文化があるので、それが結構ハードルになることって実は結構あってですね。

自動化とかプロセス化をする上で、「いや、営業さんに確認してからじゃないと」みたいなことが日本の独特なところで言うとあるかなと思いますね。

これは、マーケティング部門の考え方もちょっと変えていかなきゃいけない。リード数とかMQLだけ見てればいいわけじゃなくて、それが収益に繋がっているのか、受注しているのかというところをやっぱりマーケターの方ってもっと貪欲に追い求めていく必要があるなと思った時に、日本の営業さんとの関わり方、連携の仕方というのはちょっと頑張らなきゃいけないところがあるなというところ。

池田: データやツールが繋がったとしても、結局その心理的なところで結局連携が進まず、マーケとセールスのところに結局分断が継続しちゃって。 なるほどね。そこら辺は結局、人間と人間がすり合わせていくことによってちゃんと血が通った、この線に繋げていくというところが、欧米に比べるとより一層そこに、落とし穴があるというか、注力をしていかないとうまく流れていかないというところが日本の特性かもねと。

廣崎: おっしゃる通りです。

池田: ちなみに時間軸的にあとどれぐらいの期間で、日本でもみんなが本格的に取り組み始めるかと言うと?

廣崎: 結構大手の企業さんはだいぶ始めてますね。組織が大きければ大きいほどこの問題が顕著になるというのはあると思うんですが、結構数が始めていらっしゃるので、本当に数年以内にちゃんとした効果のケーススタディとかもっと出てくるんじゃないかと思っていますし、もっと広がるのは本当に数年以内という風に思っています。

池田: なるほど。ということはですね、今日このタイミングでしっかり本格的な全体像を学んだ今日の聴講の方々は、まだ時間軸的にはまあまあ一歩リード組ということを考えると、ここからきっちりここをキャッチアップをしていくと、ちょっと早めに取り組んだ先進的なグループに入れる感じですね。

廣崎: はい。

池田: 時間いっぱいになっちゃいましたが、今日はこれにて終了とさせていただきたいと思います。皆さんいかがだったでしょうか?ということで、今日はゼロワングロース株式会社、取締役兼COOの廣崎さんに、マーケティングオペレーションについてお話を伺いました。どうもありがとうございました。

廣崎: 皆さんどうもありがとうございました。

池田: また皆さんお会いいたしましょう。さよなら。