オープニングと本講義のテーマ
※このテキストは『デジタルマーケティング連続講座⑪ ありものからはじめるデジタル広告』の書き起こしです。文中の登壇者名表記は敬称略。
講座の紹介と講師の紹介
池田:はい、皆さんこんばんは。今週も始まりましたMARPSデジタルマーケティング連続講座でございます。お送りしている全16回講義ですが、今日は11回目です。
皆さん、どうでしょうか?全10回、アーカイブ含めてコンプリートしてるぜという方、いらっしゃるでしょうかね。毎回400名を超える方々が、本日もですがご参加をいただいております。皆さんよく頑張ってます。残りあと1/3ですね、今日は11回目。デジタル広告の回でございます。
さあ、デジタル広告の回なんですが、やっぱりこのテーマに関してはですね、これらの本を読んだことがある方も多いんじゃないかなと思いますが、いろんな本の著者でもあります。
アユダンテの寶さんですね。有名人なのでご存知の方も多いと思いますが、MARPSのこの回でお話しいただきたいという方の筆頭に上がりましたので、今日はお忙しい中来ていただいております。
で、今日のポイントは、後ほどもお話をしますけれども、ここのタイトルのところに書いてあるありものから始める。もうここが今日のポイント・オブ・ポイント、ポイント中のポイントなんですね。
後で話しますが、デジタル広告の裏技とかテクニックみたいなものをお話をする回はなくてですね、このありものから始めましょうよと。といったところが、今日一番お伝えをしたいテーマというところになります。またちょっと後ほど補足しますね。
MARPSの学びのポイントとデジタル広告の位置づけ
はい。いつも通り、MARPSのポイントについておさらいをしておきましょう。マーケティングは幅が広く、一つ一つの奥が深いので、毎日SNSやタイムラインに流れてくる。あとはYouTubeで気になったもののつまみ食いをしていると、賢くなったつもりなんだけれども現場では全く使えないということになりがちです。
いつも言っている通り、点を学んで線としてつなげて面として、体系立てて俯瞰的に理解をしていくことによって、現場で応用して実践に使えるものになっていくわけですが。なかなかこれが点のまま散逸をして、線としてつながらない、だから面にならないというところで、ほとんどの方が苦労してるのはそこです。
なので点の学び方が良くないのではなくてですね、面の中で点を学べてないからつながっていかないといったところが課題なので。是非MARPSではつなげるということ、全体の中のどこのパートなのかということを意識しながら学んでいってください。
今日はデジタル広告なので、デジタルマーケティングど真ん中ではあるんですけれども、いつも言っている通り、デジタルマーケティングを学習するのではなく、ありとあらゆるものがデジタル化をした世界において、今までのマーケティングをデジタル時代に適合させていくということですね。
右側の考え方で是非全体の体系理解をしていくと。多分左側で、リアルマーケティングとデジタルマーケティングを別々で学ぶ、それをどうやったら融合させることができるか、ではなく、デジタル時代におけるマーケティングというのはどういうものなのか。
デジタルデジタルしたものはこの体系の中で理解をするし。今までのマーケティングは、デジタル時代においてテレビCMは、交通は、雑誌広告は、どのように変わるべきか、みたいなことを考えた方が数値が良いです。
さあ、で、これがファネルマップで。今回の全16回講義で学ぶところがピンクになっておりますが。今日は最も赤く塗られているスペースの箇所が多いデジタル広告ですね。これら全部デジタル広告の範囲に入ってくるものになります。
で、見ていただくとですね、何が分かるかと言うと、結局フルファネルに全部ばらけてる。一言でデジタル広告と言っても、リーチを広げる、広く浅く、多くの人たちにまずは知ってもらうということが得意な広告もあれば。
興味喚起が得意なところもあれば。理解促進が得意、ないしは比較検討しているニーズが顕在化をした人たちを連れてきてコンバージョンをしてもらうみたいなところに強いのもあれば。
リテール広告なんていうのはもう最終的なコンバージョン直前にあるところで、商品を認知してもらうとか。購入の意向を高めるか。あるいはそのままコンバージョンしてもらうみたいに全然役割が違うんですよね。
一言でデジタル広告と言っても、プラットフォームも違うし、手法も違うし。目的に応じて同じプラットフォーム・同じ広告なんだけれども役割が変わる。ということはKPIもKGIも変わるってことですね。
なので一言でデジタル広告って言っても、それは千差万別であるということが1つです。KGI / KPIが目的によって変わるということは、全てのデジタル広告はできる限りインプレッションが多い。インプレッション単価が低い、CTRが高い、CPC / CPAが低いデジタル広告が一番いいと普通は考えがちなんだけど、全然そんなことないっていうことですよね。
例えば今日も日経クロストレンドで、ダイキンの片山さんの記事が、以前MARPSにも来ていただきましたけれども。
エアコンっていうのは13年に1回しか買っていただける方がいらっしゃらないので。13年に1回で、クォーターっていうのは4ですから、13×4ですよね。そうすると全体エアコン市場の中で今期の今クォーターにエアコンを買おうとしてる人っていうのは全体の2%しかいないんだと。
なので広告をガバッと打ったって、このクォーター中にエアコンを買ってくれるコンバージョンしてくれる人ってのは2%しかいないから。大事なのはそのうち客を育成することである。つまりは、最も重要なKGIっていうのは想起率である。
ニーズが顕在化した時に、先に思い出してもらえるかであるっていうこと考えると、そういう目的でデジタル広告をやる時っていうのは、KGI / KPIはインプレッション単価とかCTRとかCPAとかではなくて想起率でなければいけないみたいな話ですね。
なぜ「ありものから始める」のか
講師の自己紹介と講義の流れ
寶:アユダンテ株式会社の寶と申します。「ありものからはじめるデジタル広告」というタイトルでお話させていただきます。
まずご挨拶ということで、今アユダンテという会社におります。デジタル広告・デジタルマーケティングの支援会社です。そこで広告チームの責任者をしております。デジタル広告はかれこれ19年で、比較的ベテランの方になるかなと思っています。
広告チームの責任者をしながら放送大学に通って、様々な勉強をしていたりします。関心分野としては、哲学・美学・技術哲学・サービスマーケティングなどがあって、サービスマーケティングについては勉強会をやって学びを続けています。
好きなことは、この後にも出てきますが料理で、3匹の猫と一緒に暮らしているんですけど、3匹の猫たちとの暮らしというのもとても好きなことです。
それから好きな生成AI、もう好きな生成AIというものが出てきちゃう時代になりましたが、Claudeですね。Claudeは夫婦でそれぞれ有償プランを使っていて、かなり使い込んでいます。「Claude先生、こんな事を言っているけどどう?」みたいな会話を妻とよくしています。
デジタル広告の歴は19年と長いのですが、本当にデジタル広告の運用畑で19年生きていて、自分自身「デジタル」を取った「マーケティング」の話はですね、先ほど池田さんも「デジタル時代のマーケティング」というお話をされていましたが、正直学びの途上にいる者だと私は考えています。
なので、参加者の皆さんと一緒に理解を深めていきたいと思います。とはいえ、デジタル広告歴が長いということもあって、「デジタル広告で考えた場合には、どのようにマーケティング活動というものは接続していくことができるのか」ということを考え続けているので、自分ならではのお話ができると良いかなと思います。
長くやっているので、書籍を書かせてもらったりとか、色んなところでセミナーに登壇させてもらったりとか、メディアに寄稿させてもらったりしています。これらを通じて少しでも業界に貢献できればなと考えています。
今回も池田さんからお声がけいただいて、池田さんの活動にはすごく共感していたので、参加をさせていただきました。今日のお話が皆さんのなにかしらの学びになったらとてもうれしいです。
今日は三つのお話をさせていただきたいということで三部構成になっています。
第一部は「なぜ「ありもの」からはじめるのか?」ということで、タイトルに即した内容になっています。キーワードは「ブリコラージュ」「エフェクチュエーション」それから「3つの不確実性」です。
第二部は「不確実な時代だからこそ内部資源に目を向ける」というお話です。キーワードは「アセット」私はデジタル広告でアセットと言い続けているのですが、そのアセット、それから「リソースベーストビュー(RBV)」「生成AI活用」のお話を第二部でします。
第三部は「機械学習を超えて – 人間の学びをアセット化する」。機械学習はデジタル広告では欠かせない存在になっているのですが、これを超えるというお話です。「機械学習」「ダブルループ学習」「知識スパイラル(SECIモデル)」みたいな話がキーワードになってきます。
予測困難な状況と「ありもの」の活用
デジタル広告の世界って今、機械学習AIの運用っていうのがもう当たり前になってる。もうデフォルトみたいになってるんですけど、その一方で予測が難しい、不確実な状況ってのがどんどん増えてきてるんですね。そんな中で大事になるのは、新たに特別なものを求めるんじゃなくて、手元の資源、すでに手元にあるものですね、資源っていうのを工夫して活用していくっていう考え方が大事になっていると私は考えてます。
これを説明するためにですね、ブリコラージュとかエフェクチュエーションみたいな考え方を紹介しながらですね。なぜありものから始めることが重要なのか、効果的なのかっていうのをお話をしていきます。
料理の例に見るコーゼーションとブリコラージュ
はい。まずは料理の話ですね。タイトルのこのセミナーのリードのところに料理の話ってあったじゃないですか。あの話があったので、ちょっとつなげて考えるために料理の話をしたいなと思うんですけど。料理って揃えるありきでしょうかって話なんですけど。
私料理好きだってお話しましたけど、結婚してから料理するようになったんですけど、最初のうちこんな感じだったんですよね。
完全に食材を集めて、最先端の調理器具でレシピ通りに作るっていう、こういう感じですね。この調理器にこだわるってところの写真は、全部私が持ってるやつです。なんかちょっといい包丁みたいなのも買ったりですとか。低温調理機を買ったりだとか。ドイツ製のフライパンとか製麺機みたいなのを買ったり。
要するに調理器具にこだわったりとかしてレシピ通りに作るので、いろんな調味料を買い揃えてですね。出番が少ない調味料があったり。レシピ本もですね、非常に重厚で、超一流の和食みたいな、これ実際持ってる本なんですけど、を用意してレシピ通りに作る。
結局マニュアル通りに作るみたいな、だいぶ長い間こんな感じで料理を作っていきました。別に全然後悔はしてないんですけど、私の料理の作り方は最初こんな感じです。
一方妻の作り方はどうかっていうところですね。この話をする上でですね、妻にどんな風に料理作ってんのって改めて聞いてみたんですけど、全てが揃うことってほとんどないそうです。
基本姿勢って書いてますけど、新たな食材ってもう買いに行かないです。もういいよ、買いに行かないですよ。徒歩5分のところにスーパーがあるんです。買いに行かなくて代わりのものでなんとかする。
もし買う時も、計画は本当にざっくり立てて、その売り場で考える。レシピも細かく見ないし。味見しながらだんだん整えていく。外食で気に入った料理を自宅で再現する。
5番目はすごい大事ですよね。食べる人の好みとか栄養をいつも考える。なんか言ってみれば当たり前なのかもしれないですけれども、自分、料理し始めたころはこんなこと全然考えてなかったです。なんかめちゃくちゃバターを大量に入れた料理作ってみたりとか。そういうようなことをしてたと思っています。
非常に重要なことなのかなという、あるもの使ってレシピを細かく見ずに、美味しいものを作っているっていうのがうちの妻だなって思ってます。
ブリコラージュの概念とビジネスにおける応用
ここで出てきますキーワードが、ブリコラージュですね。ご存知の方も多いかもしれないと思うんですけど、文化人類学者のクロード・レヴィ=ストロースっていう方がいらっしゃるんですよね。この人が提唱した考え方、提唱したブリコラージュってこれフランス語なんですよ。
「器用仕事」っていうような言葉なんですけど。「野生の思考」ってこの左にあげてる本の中で、いわゆる原始的とされている社会に暮らす人々は、手近にある道具とか素材をその場で即興的に組み合わせて問題を解決してるっていうような姿を、ブリコラージュと呼びました。
そういう風に、即興的に創造力を働かせる人のことを、ブリコルールって呼びますね。本の中でこれは面白いですね。古い、もう1962年の本なんですけど。本の中でエンジニアとブリコルールって対比されてるんですね。普段マーケターの方でエンジニアと一緒に仕事してる方は多いんじゃないかなと思うんですけど。これちょうどですね、さっきの料理の話と対比、ぴったり重なるようなものが出てきます。
「仕事の1つ1つについて計画に即して考案され購入した材料や器具を用いる」。これは私みたいな考えなんですよ。「その時その時の限られた道具と材料の集合でなんとかする」。うちの妻みたいな考え方になるでしょうね。こんな形でブリコラージュって言葉ができます。
で、ブリコルールが妻だけのことなのかなと思ったら、多分皆さん、意外とやってるんですよね。それがよく分かるのがこの代用っていう語を含むGoogle検索フレーズのデータ。これキーワードのツールから取ってきて対比してみてるんですけど。
例えばこの一番上の「みりん」っていうのは日常的にめちゃくちゃ使えますよね。みりんっていう言葉で見てみると代用を含んだ検索数、「みりん代用」って言葉の検索数って、みりん単体の検索数に対して約82%もです。約8割もあるんですね。これ、すごい工夫ですよね。他にも麺つゆとか、料理酒とかお好み焼きソースみたいな、代用の検索の割合が非常に高いものがありますよね。こんな風にですね。
キッチンっていうのは、普段の私たちのキッチンっていうのは、毎日のようにブリコラージュが繰り返されてる場所なんだ。っていうのが分かるんじゃないかなと思います。
はい。なんかビジネスの話が全然出てこないんじゃないかと思うかもしれないですけど、ここでブリコラージュっていう考え方が、ビジネスの分野でも研究されてるっていうお話をしたいと思います。
これはですね、限られた資源しか持たない企業、アメリカを対象にですね、フィールド調査を行って。ブリコラージュがどのように活用されたか、活用されているのかを検証した論文です。ビジネスの文脈で言うと、アントレプレナーシップとか。それからイノベーションみたいな文脈で語られてるようなお話だと思ってます。
その中で紹介されてるのは、このオートバイ修理店のジムさんの修理法なんですね。このジムさんは手元にある道具を最大限に活用する。一般的なその専用器具である器具を使わないで、レンチとドライバーだけで調整しちゃうみたいなことをやったりだとか。廃材を資源として再利用することでコストを抑えつつ、十分な価値を生み出すみたいなことをやってます。
さらに面白いのは、なんか最初の修理っていうのはあえて無料にすることでお客さんとの顧客との関係性を築いて、この顧客から高価なエンジニアリングフィーの提供をしてしてもらえるような信頼関係を構築してるみたいな話ってのがこの中で書かれてます。
こんな風にですね、実際のビジネスでブリコラージュがどのように生かされてるのかっていうのは、これ豊富に事例が載った非常に面白い論文なので、もし関心のある方は是非見てみていただけたらと思います。オートバイ修理店のジムさんの修理法はもう本当に一例です。
それから、組織論とかリーダーシップの研究の文脈の中でもブリコラージュの重要性ってのが指摘されてるんですね。これはですね、アメリカのモンタナ州で実際に起きたマン・ガルチ火災っていう山火事での、消防隊の行動を分析した研究で、カール・ワイクっていう、アメリカで非常に影響力のある心理学者が書いてる論文になります。
この事故ってすごい痛ましい事故なんですけれども、飛行機で消防隊がパラシュートを通じて降りていって。そこで降りたから消火活動を消防隊がするんですよね。確か14人か15人、消防隊員が消火活動に当たったんですけど。火で両サイドに挟まれちゃった時に、ほとんどの隊員たちはみんな逃げちゃったんです。
で、火に追いつかれて、ほとんど命を落としてしまったんですけど、隊長のドッジっていう方だけが、あえて避難用の火を放すっていう、即興的な方法で生き残ったっていう話がここに書かれてんです。この論文っていうのは、ここからですね、細かく見ていただければと思うんですけど。
混乱した状況では、いわゆる決まりきった対応だとか本能みたいなものに頼るんじゃなくて、ありものを使って柔軟で即興的に対応する。つまりブリコラージュの能力ってのが重要で。
それが組織とか個人、生存力や生存率とか成功を左右するみたいな教訓みたいなものを導き出してます。非常に興味深い、重たいという、ずんと来るような論文なんですけど。面白いので、こちらも後で参考文献に貼ってあるので見てみていただけると思います。
エフェクチュエーションの考え方
ブリコラージュの話をしました。もう1つの重要なキーワード。エフェクチュエーションっていうキーワードはMARPSでも吉田満梨先生の講義があると伺っています。もうご覧になってる方もいらっしゃるんじゃないかなと思ってます。エフェクチュエーションに基づくその行為者っていうのは、手段からスタートするとされてますよね。
この本の中で面白いのはですね、このサラス・サラスバシーさんが、このエフェクチュエーションを提唱したサラスバシーさん自身が、このエフェクチュエーションの原理のメタファーとして料理を上げてるんですよ。ここのコーゼーションとエフェクチュエーションのところのアプローチって書いてあるんですけど、これ、この本に書いてあることなんですね。
「コーゼーションは、メニューを選んで、メニューに応じたレシピを参考にして、材料を買い出して、用具や器具を揃えて料理を作る」。まさしくエンジニア的なコーゼーションアプローチですね。
「エフェクチュエーションは、棚にある材料や器具を見て、その上で可能なメニューをデザインする」。料理の準備をする中でメニューが生まれてくることも少なくない。これ、まさしくブリコルールのあり方ですよね。
つまりですね、ありものから何ができるかっていう発想がここでは重要であるっていうことなんですね。
ちなみにですね、ここの帯を書いているジェイ・バーニーさんっていう方がいらっしゃるんですけど。これはですね、後ほど登場するので、ちょっと楽しみにしていていただければと思います。
手段から始めるって言った時のこの手段ってなかなか、なんて言うんですか、ピンとこない。最初のうちは私もピンとこなかったんですけど。ピンとこない方に手札って考えると「あ、そういうことか」って分かるんじゃないかなって思うので。手札っていうのも合わせて考えていただくといいかなと思います。
エフェクチュエーションでは、熟達した企業家は3つの手札を持ってるんだって。そこから出発するんだと書かれてますね。吉田先生の話とか多分ご覧になってる方が多いと思うんですけど。
それはですね、この3つってのは、Who am I、私は誰であるかというそのアイデンティティに関わるようなこと。それからWhat I know、何を知ってるか、知識とか経験に関わるようなこと。それからWhom I know、誰を知ってるかという人脈とかネットワークに関わるようなもの。この3つですね。
自分自身とか、自分が持ってる知識とか経験とか。それから自分の周囲の人々とかネットワークみたいなものっていう「ありもの」ですね。ありものから出発して新たな機会を創造していくっていうのが、エフェクチュエーションの出発点であり、本質的な考え方なのかなって考えてます。
今日マーケティングを非常に勉強されてる皆さんと一緒に勉強するってこともそういう機会なので。この例ちょっと非常に面白いのかなと思うので取り上げたいと思います。エフェクチュエーションの本の中に登場する思考実験があるんですよね。サラスバシーさんってインドの方なんで、架空のインド料理店カリーインハリーっていうのを出すのを巡って思考実験をしてるんです。
ちょっと考えていただきたいんですけど、皆さんがもし新しい料理店を開くとしたら、どんな計画を立てますかという話ですね。いわゆるマーケティングの教科書では、よくSTPって言われるのってご覧になったり、考えたこと、どこかで目に触れたことってあると思うんです。
セグメンテーションとターゲティングとポジショニングです。もしこのマーケティング、いわゆる教科書的なマーケティングSTPのプロセスで考えると。まず市場全体を定義して、それをいろんなセグメント、様々な変数で分けますよね。人口動態、居住地、所得水準はどうかとか。外食習慣はどうかみたいなセグメントの変数で分けて。アンケートとかグループインタビューみたいなことで調査をしたりとかします。
そうした上で、商売になり得るようなことかという評価っていうのを含めながらターゲティングをしていきますよね。例えばここで言うと、裕福で週2回外食するインド人とか。インド人以外の家族っていうのをターゲットとして選んだとします。
そしてそのターゲットに、どんなメニューが好まれるか、価格帯、内装、営業時間などを具体的に決めていきながら。効果的なマーケティング戦略を設計していく。できたのがこの右側の図にあるような高級感のあるインド料理店みたいなことができるかもしれないと。
どうでしょうね。こんな高級感のあるインド料理店があったら行ってみたいですかね。これが、いわゆるマーケティングの定番的なアプローチ。つまりこれはコーゼーション的なアプローチだとサラスバシーさんは 言ってるんです。
もう1個、エフェクチュエーション的なアプローチでインド料理店を作ろうとするとどうなるのかって話なんです。さっきお話したように手持ちの手段からの話です。自分が今持ってる手段から確認をするところから出発するって話ししたじゃないですか。
例えばこういうことです。学生時代にインドに放浪してた経験がある。手元には3万ドルぐらい貯めた資金がある。あるいはインド料理とかスパイスの知識を持っている。あと友達に料理好きな友人がいる。みたいなところから確認して、何ができるかどうかってところから出発するんですよ。
小さくスタートします。例えばなんですけど、いきなり店舗を持つとかじゃなくてですね。自分が作った食べ物を友人と働くオフィスに持っていって、食べてもらって。そこをきっかけにですね、まずは友人のオフィスを使ってランチ宅配サービスのところを始めるみたいなところからちっちゃくスタートする。
その小さな一歩を踏み出しながら、予想外の反応。そういうランチサービスを行ってるうちにですね、中にはこう少しずつ話題になっていって。うちでそのインド料理教室やってよ、みたいなことを言われたりだとか。
インド料理教室をやってみたらどうやらその味だけじゃなくて。なんかその人の性格とか人生観に関心を持たれてるんだみたいな意外なニーズみたいなものを発見してる。
もしかすると、最終的にはビジネスが進化した中でYouTubeやったりだとか、料理の作り方を教えてる中で、独自の生き方のトークみたいなものが話題を呼んで新たに起業するとか。コンサルティングビジネスをやる。そんなようなあり方っていうのをエフェクチュエーションのアプローチと言えるという。
全然違いますよね。計画通りに立てたような高級店。自分の可能性を手札にして即興的に始めて進化していくようなお店。皆さんだったらどっちがワクワクするだろうみたいなことを考えるとですね。いわゆるマーケティングのプロセスと、新しい起業家の理論であるエフェクチュエーションっていうのは対比的に考えられるんじゃないかなって思います。
不確実性の高まりと真の不確実性への対応
もう1つエフェクチュエーションが重要になるのが、不確実性が高い状況において重要になるっていうことを伝えておく必要があると思います。
経済学者のフランク・ナイトって方がこの世の中の不確実性を3つに分類してるんですね。この3つの分類ってのはその吉田先生のこの論文に整理されていて、それが非常に分かりやすかったので、それを参考にこの3つの不確実性っていうのを整理してみてるんですけど。
まず1つ目の不確実性っていうのは、いわゆるサイコロのように確率が明確に分かってるものなんですよ。なのでこれが起こる確率があらかじめ分かってるので、ビジネスではあんまり起きないので、1つ目は除外されます。
2つ目と3つ目を見ていくんですけど。2つ目は確率が分かってるわけじゃないんですけれど。過去のデータを分析することで確率を推定できるっていう不確実性になります。これをフランク・ナイトはリスクと呼んでます。
3つ目が、そもそもこの起きること自体っていうのが予測ができなくて、確率っていう数字での表現ができないようなものっていうのを、これを真の不確実性と呼んでます。
ここに当たるものが、例えば新しい市場が生まれたりだとか、革新的な技術が、テクノロジーが登場したり、みたいなことっていうのは、これはリスクっていう過去のデータから分析することができないので、こういったものはリスクとは異なって真の不確実性であると定義してます。
サラスバシーさんはこの真の不確実性。もうやってみなかったら何が起きるか分からないよねっていう状況に対して、有効な行動の原理を示しているのがエフェクチュエーションであると本の中で伝えてます。だから、こういう不確実性の中でこそ生きる行動原理がエフェクチュエーションなのだっていうことですね。
ブリコラージュとエフェクチュエーションの話をそれぞれ見てきたんですけども、両者に共通するポイントってだんだん見えてきたんじゃないかなって思います。予測困難な状況で、今ある手段を有効に生かす行動原理っていうことが一つ言えるんじゃないかなと思います。
実はサラスバシーさんは、『エフェクチュエーション』の新しい版の中でブリコラージュとエフェクチュエーションの違いについて述べているのですが、実務的なマーケティング活動の観点で言うと、むしろ共通点に着目して理解を深めていくだけでも十分に意義深いと考えているので、ここでは「予測困難な状況で、今ある手段を有効に生かす行動原理」ということでブリコラージュとエフェクチュエーションというものを捉えていくのが良いと思います。
2025年デジタル広告。大きく、政治、プライバシー規制、それから生成AIの普及っていう3つの大きな要因によって不確実性ってのは、非常にますます高まってる状況と考えることができます。
政治面では、2025年トランプ政権成立以降の政治環境がビッグテックを大きく揺さぶっており、GoogleやMetaが事業分割のリスクにさらされている状況や、米国でのTikTokに関する問題などが不透明な状況です。
また、プライバシーの重視と法規制の強化が非常に大きく、サードパーティーのクッキー規制に伴って広告の計測やターゲティング精度が低下しています。それがデジタル広告の未来を、ますます不透明にしている要因になっています。
個人情報保護法の厳格化は不可逆と見られますが、代替ソリューションがユーザーや広告主にどの程度受け入れられるかは疑問が残る状況です。
生成AIの普及も劇的で、AIが作る広告クリエイティブの一般化、AI検索による検索広告のあり方の変化、AIコンテンツ利用に伴う著作権の問題などが絡み合い、予測を難しくしています。
池田先生の『売上の地図』の中でもPEST分析に出ていましたよね。政治とか経済とか社会とか技術、複雑な要素が絡み合っていて、デジタル広告はこれまで以上に先を見通すのが難しい時代になっているというのが、私の今の現状認識です。
予測されている方もいらっしゃると思うんですけど、私はむしろ「予測が難しい時代になっている」ということをお伝えするべきなんじゃないかなと考えています。
そんな中で、先ほどのフランク・ナイトの「3つの不確実性」が、デジタル広告の文脈の中でも生きてくるのです。ナイトさんの言う2つ目の不確実性、「過去データを分析すればある程度は予測できる不確実性」というのはまさに現在進行型というか、今リアルタイムで支配的に(メジャーに)なっているデジタル広告のプラットフォームが得意とするやり方ですね。
データを活用した広告、いわゆる機械学習による最適化というものに当てはまるんじゃないかと思います。統計的な推定をして、デジタル広告は最適化されていく。
ただ、矢印を下に向けて描いたように、デジタル広告を取り巻く環境はますます複雑化していくことによって、3つ目の不確実性つまり「真の不確実性」に広がっていくと私は考えています。そうならざるを得ないんじゃないかと。
従来型のデータの最適化のアプローチでは足りず、新しいマーケターの進化が必要なのではないかと考えています。この「進化」とはなんなのかということを、この後掘り下げていくことになるんですけど、ここではいったん大きな方向性だけをお伝えします。
真の不確実性が高まっている状況で立ち向かうためには、ありものを創造的に生かすことが有効です。具体的には、限られた内部資源(ありもの)を創造的に組み合わせていくこと。その際に生成AIを使うことで新しい組み合わせの可能性を広げることが重要になります。
また、偶然予想外の結果から即興的に新しい仮説を見つけ、素早く試行錯誤をすること。小規模なテストを繰り返す中で、最適化というよりも発見した新たな機会をマーケティング施策に生かすやり方も有効です。
それから、エフェクチュエーションというのは起業家の行動原理なんですが、こういった不確実性の高いデジタル広告の現場にいるマーケターにとっても、有効なマインドセットになるのではないかと思います。
第1部のメッセージとしては、手持ちの資源を再評価して、偶然も歓迎しながら、小さな実験を重ねるというマインドセットが、データ最適化だけでは対処困難な状況で有効な手段となります。
不確実な時代だからこそ内部資源に目を向けよう
デジタル広告におけるアセットの重要性
1部では、ブリコラージュ、エフェクチュエーションの考え方を通じて、自社が持っているありものを創造的に活用する姿勢が大事だという話をしました。「ありもの」とは、企業の内部に存在する人とか物とか金とか情報である資源のことを指すと考えられます。
この2部では、不確実な時代だからこそこの内部資源に注目し、それらをデジタル広告で価値あるアセットにどう変えていけるかを、リソースベーストビューの考え方を軸にお話します。それから生成AIを活用した方法についても触れていきたいと考えています。
私は2017年くらいから、デジタル広告はアセットが重要であると伝え続けてきました。アセットは、資産とか資源、経営資源、それから特に、企業がビジネスを行う上で保持する情報やデータベースのことと定義しています。
過去のデジタル広告では、ウェブサイトのコンテンツ(ウェブページ)をアセットとして活用したり、データフィード(構造化された商品情報)をアセットとしてショッピング広告等に活用したり、ユーザーリストや顧客の連絡先情報をアセットとしてリターゲティングやカスタマーマッチに活用したりしてきました。
生成AI時代のデジタル広告の成否を決める要素
最近では、Google広告(Gemini)やMicrosoft広告(Copilot)のように、広告の管理画面の中に生成AIが入ってきています。例えばGoogle広告のMerchant Center内のプロダクトスタジオでは、商品画像の背景を生成AIで変更したり、アセットを使って動画に変換したりすることが可能です。Microsoftのレスポンシブ検索広告の作成画面では、リンク先URL、つまりコンテンツを入れると、そこから5秒程度で見出しや説明文が生成AIによって作られます。
このように生成AIがアセット(コンテンツやデータフィード)を元に広告を効率的にサポートしてくれる時代において、顧客ニーズを深く理解した質の高いアセットを投入すれば、独自性の高い広告と良質な顧客体験が提供できます。逆に質の低いアセットでは、生成AIが効率化しても平凡な広告とありふれた顧客体験にしかなりません。
つまり、デジタル広告の成否は、もう管理画面に登録する前からアセットの質で決まってしまっている。成果を出すためには、どのようなアセットを作るかという段階まで遡って見直す必要があります。
リソースベーストビュー(資源と資産)の視点
企業内部の経営資源に競争優位の源泉を求める戦略論がリソースベーストビューです。第一人者であるジェイ・B・バーニーさんはVRIO分析を提唱しており、この考え方は現代でも影響力が大きいです。また、エディス・ペンローズさんの「企業成長の理論」では、企業のリソースが成長を決定するとし、内部資源の価値は固定化されたものではなく、組み合わせによって生まれるとしています。
ペンローズさんは、資源そのものが大事というよりは、その組み合わせによって資源が提供できるサービスが重要であると伝えます。企業にとっては、まだ使われていない未利用の資源(潜在的な可能性の束)に目を向け、それを創造的に組み合わせる(アセット化する)ことによって、競争力につながる価値が顕在化します。これはブリコラージュの考え方とも通じます。
資源(リソース)は、ビジネスを行うための材料や道具(人、物、金、情報)にあたるものであり、これらを組み合わせて再構成し、価値あるものに変換されたものが資産(アセット)になります。リソースをうまく組み合わせながらアセットに変えていくことが重要です。
例えば人をただ雇用するだけでなく、その人が持つ知識やスキルをチームの中で効果的に活用することで、はじめて組織能力として育てることができます。このように内部資源の勝ちは潜在的であり、適切な組み合わせとアセット化(再構成)によって初めて自社独自の価値を生む仕組みとなるわけです。
これがリソースとアセットの違いなんだと考えていて、リソースを上手く組み合わせながらアセットに変えていくということが重要だと解釈することができます。
デジタル広告における内部資源とアセット化
デジタル広告の領域では、内部資源(人、物、金、情報)をそのままプラットフォームに乗せるのではなく、アセットとして再構成することが必要です。
例えば、人が持つ知識やスキルはコンテンツや広告のクリエイティブに。商品の情報は構造化してデータフィードに。顧客の行動履歴情報は広告主の保有データとして。これらを戦略的にアセットとして整理し、広告フォーマットに組み込んで各プラットフォームに配信することで顧客に価値を届けます。
デジタル広告の成果は、アセットの背後にある内部資源をどのように構築し資産化し、そのアセットをプラットフォームを通じた価値提供に活かせるかに左右されます。いかに戦略的なアセットとしてこの内部資源を活用できるかが重要なポイントです。
内部資源の具体的な活用
内部資源「人」の連携と活用
デジタル広告は、マーケターや広告運用者だけでなく、様々な登場人物が関わっています。
- 経営者やマネジメント層:事業の目的や目標、予算を設定し、全体視点で意思決定を行う。
- マーケターや広告運用者:実務を行い、施策の企画、運用、改善を繰り返して価値を創出する。
- エンジニア:広告の効果測定やデータ基盤の整備、技術的な仕組み(タグ、データフィード設計)を構築し、見えない部分を支える。
- デザイナーや制作担当者:ランディングページや広告クリエイティブを作成し、訴求力のある表現を生み出す。
- 法務や顧問弁護士:クッキーや個人情報保護の観点から高まる法的なリスクに対応し、安心して施策を進めるための連携が不可欠。
- パートナーの企業:専門的な知見を元に、戦略の実行をサポートする。
- 広告プラットフォームの窓口:最新の市場動向や公式機能のサポートを通じて情報を提供する。
- 生成AI:アイデア作成の支援や、異分野の知識をつなげて新しいアイデアを生み出す共創の役割を担う。
役割にとらわれず、各人が持つ得意分野や能力を生かすこと(未利用の資源の活用)が新たな価値を生む要素となります。
内部資源「モノ」(商品・サービス)の把握
内部資源である「モノ」(商品やサービス)を把握するためには、これを価値の集合体として捉え、マーケティングミックス(4P)を使って構造化しながら競合と比較することが有効です。
4Pの視点:
- 商品(プロダクト):製品の品質だけでなく、保証、アフターサービス、情緒的な価値(ランキング、取引実績)も含めて評価する。
- 価格(プライス):単なる価格の高低だけでなく、価格設定の柔軟性や支払いの利便性も重要となる。
- 流通(プレイス):顧客の立場で見た、商品がどこで購入できるかという利便性。
- プロモーション:広告だけでなく、SEOやSNS施策(上位表示率、フォロワー数など)も含めて考える。
デジタルマーケティングでは、SEOなどプレイスとプロモーションの境界が曖昧になっている。検索エンジンにおけるデジタルシェルフとして捉えることもできる。
4Pで競合と対比することで、自社の強み・弱みが明確になり、競合が簡単に模倣できない自社ならではのオリジナルな価値を見つけることができます。これが内部資源を価値ある資産アセットに変える第一歩です。
内部資源「カネ」(広告費)の捉え方
デジタル広告の広告費は、コストとして考えるのではなく、成果に応じた変動費、つまり売上を拡大するための投資として柔軟に捉えることが重要です。デジタル広告は他のマーケティング手法に比べて費用対効果が数値化しやすい特性があります。
これはデジタル広告への投資が上がってきた理由でもあります。ただし問題をはらんでいる部分でもあって、池田先生の『売上の地図」でも広告は必ずしも売上に直結するものではないというメッセージがあって、非常に大切な考え方だと思うんですが、デジタル広告は半分その期待を受け止めながら成長してきた経緯があります。
そういったことを踏まえつつ、具体的には広告費用に対して得られたコンバージョンやROAS(売上÷広告費用)を明確にし、これが利益に出る範囲で柔軟に調整します。これにより、チャンスを逃さず積極的な投資を行って売上拡大につなげるのがデジタル広告の定石となっています。デジタル広告は利益を最大化するための投資、成果に応じて変動させるものとして考えることで機会を広げます。
内部資源「情報」(定量・定性データ)の活用と生成AI
内部資源の情報は、定量データと定性データを組み合わせて活用することで、顧客理解を深め、広告施策の質を高めます。
- 定量データ:広告の出稿データ(クリック率、購入リスト)、オンライン行動データ(GA4のイベント計測、訪問数)、アンケートデータ、競合分析データなど、数値で表現できるデータ。施策の現状把握や問題発見に役立ちます。
- 定性データ:なぜ行動が起きるのか、文脈や理由を探るデータ。広告データの中の定性的な文脈(検索語句、評価の高かった広告の背景)、レビューサイトの顧客の生の声、問い合わせ内容など。
定量データと定性データを行き来しながら深掘りすることで、顧客ニーズの本質的な深い理解が可能になります。これにより、顧客に寄り添った解像度の高い広告コンテンツやクリエイティブを設計し、自社の広告アセットの価値を高めることにつながります。
ただこれはボリュームがあるので大変そうに見えますよね。そこで生成AIです。
データの収集、整理、分析といったプロセスは生成AIが非常に得意であり、定量と定性を行き来するスピードと質を大幅に向上させることができます。生成AIは大量のデータを処理し、パターンや変化の把握、課題の抽出、反応の理由の叩き台作成を素早く行えます。
ただし、これらのデータにはセンシティブな情報が含まれるため、情報漏洩やデータ流出を防ぐために、自社のデータが学習されない安全な環境を利用することが必須となります。
VRIO分析とアセットの活用度チェックリスト
ジェイ・B・バーニーさんが提唱したVRIO分析は、企業が競争優位を維持するための資源を4つの基準で評価します。
- Value(経済的価値):市場ニーズにマッチし、価値を生み出しているか。
- Rarity(希少性):他者にない貴重な資源や能力を持っているか。
- Inimitability(模倣困難性):他者が簡単に真似できない独自の歴史や複雑な要因に支えられているか。
- Organization(組織):資源や能力を持続可能に実現するための体制が整っているか。
このVRIOの視点は、デジタル広告における自社の強みを見極めるために重要です。
また、デジタル広告のアセット(コンテンツ、広告のクリエイティブ、データフィード、広告の保有データ)の活用度をレベル0からレベル3で整理し、現状を把握し、次に何を強化すべきか判断するチェックリストも有効です。
なお、最近関心が高まっているファーストパーティーデータへの取り組みよりも、コンテンツや広告クリエイティブのレベル強化の方が、優先順位が高いと考えられます。
ユーザーインタビューと生成AI活用事例
実例の話をすると、ユーザーインタビューを実施し、その結果をペルソナやカスタマージャーニーに落とし込むプロジェクトで生成AIが活用されています。
インタビューの実施やペルソナの確認・調整は人間が行いますが、音声データをテキストデータに変換し、インタビューデータを元にペルソナの叩き台を作成し、完成したペルソナの文字情報を生成AIに入れてカスタマージャーニーの叩き台を作成する際にAIが使われます。
人間がディスカッションを通じて、顧客のフェーズごとの受け皿となるコンテンツの必要性などの新たな気づきを得て、アクションリストを完成させます。この取り組みにより、生成AIを適切に活用することで、顧客理解の質もスピードも大きく向上し、ウェブページのコンテンツや広告のクリエイティブといったアセットの構築につながります。
機械学習を超えて:人間の学びをアセット化する
「ユニコーン」を追うな
第2部ではアセットの重要性について述べました。第3部では、デジタル広告の高度化に伴い主流となっている機械学習に全て任せて良いのか、という問題に触れます。
10年以上前、ラリー・キム氏が、大量データ分析から「上位1%の広告主はクリック率がめちゃくちゃ高い」ことを発見し、そのずば抜けて優れた広告をユニコーンと呼びました。
しかし、現在、機械学習によって評価されインプレッションが伸びる広告(ユニコーンのように見える広告)は、実際は誰でも思いつくような定番でベタである表現であることがほとんどです。こうしたベタな表現のバリエーションを試しても、多少クリック率は改善するものの、新しい顧客層を積み上げたり、事業成長にはつながらないことが分かってきています。
そのため、「ユニコーン」を追うのではなく、新しい顧客層を見つけて積み上げていく施策が重要です。例えば、ワイヤレスイヤホンで「安くてカラバリが豊富」という一般的で検証済みの切り口に留まらず、「激しいワークアウトで深い集中をしたい人へ」や「家族みんなで使える」といった、まだ試されていない新しい切り口を積極的に検証し、新しい顧客層を積み上げていくやり方を提唱しています。
機械学習と人間側の学びの減少
広告プラットフォームの機械学習は、デジタル広告の効率化に不可欠ですが、今の仕様では成果は見えても、なぜ良かったか、なぜ悪かったかという理由が分からないというブラックボックス問題があります。その結果、人間側の学びが減少しています。
短期的には成果が出ても、長期化すると企業が競争力を失うリスクが高まるため、人間側の学びを維持向上する必要があると考えています。
実務で、特にB2Bでよく起こる例として誤登録問題があります。機械学習は設定した仕様に向けて自動で最適化を進めますが、ターゲットユーザーではない無関係者からのオンラインコンバージョンがたまたま続くと、機械学習はそのコンバージョンに集中して広告を出してしまい、結果として真のコンバージョン(ビジネス成長に結びつく制約)につながらない見かけ上のコンバージョンがめちゃくちゃ増える状況が起きます。
これに対処するには、機械学習に任せきりにせず、ビジネスモデルや顧客の理解に基づいて、人間が機械学習の暴走を防ぎ、コントロールすることが必要です。これこそが人間側の学びが欠かせない理由の1つです。
ダブルループ学習の重要性
ここで重要な概念がダブルループ学習です。これは、一度決まった戦略や目標をただ維持・改善するシングルループ学習とは異なり、環境が変わった時にそもそもの戦略や目標、その根本的なことも含めて行う、より深い次元での学習です。
名著『失敗の本質』(1984年)では、第二次世界大戦における日本軍の失敗は、シングルループ学習にとどまり、根本的な戦略の見直しを行うダブルループ学習を行わなかったことが原因であった、決定的な欠陥であったと指摘されています。
デジタル広告において、機械学習に任せきりになると、表面的な最適化に目が向き、根本的な課題や戦略そのものを問い直す力が弱まる可能性があるため、ダブルループ学習を意識することが重要です。
デジタル広告は、内部資源を組み合わせてアセット化したものをユーザーに届けるものです。広告の結果はアセットに対するユーザーの反応や声そのものです。しかし、ほとんどの現場では、結果を受けて改善する範囲が広告の表現やターゲティングの調整といった広告運用の範囲内(シングルループ学習)に限定されています。
ここから一歩踏み込み、広告の結果をアセットそのものの改善、つまりウェブサイトや商品、サービスそのものを見直すダブルループ学習につなげていくことが重要です。このフィードバックを内部資源と一緒に組み合わせ(ブリコラージュ)、新たなアセットを作り出し、継続的な改善を繰り返すことで、デジタル広告の運用の枠を超えて、持続的な競争力の高いマーケティング活用が実現できます。
組織的な学びの蓄積:知識スパイラルとSECIモデル
学びを個人のレベルに留めず、組織独自のアセットとして蓄積するには、野中郁次郎先生が『知識創造企業』で提唱したSECIモデル(知識スパイラル)が参考になります。
SECIモデルは、個人が持つ感覚的なノウハウである暗黙知を、言葉やデータといった形式知に変換し、組織で結合することで新しい知識を生み出すプロセスです。
デジタル広告の現場では、広告担当が広告運用で得たユーザーの反応や成功の暗黙知を、ミーティングやディスカッションを通じて言語化して形式知として共有し、それを内部の資産と連結化します。
さらに知識をメンバーに吸収させ、自社のノウハウとして改めてアセット化(内製化)して活用していく循環を繰り返します。これにより、知識が組織に蓄積され、他者には模倣困難な独自のアセットに進化していくと考えられます。
ダブルループ学習を繰り返しながらSECIモデルを活用して組織として学びを蓄積していくことが、長期的に持続可能な競争優位を築くために重要です。
第三部のまとめとして、人間と機械(生成AIを含む)がそれぞれの強みを発揮し、継続的に学習を積み重ねる環境を整えることが求められます。
本講義のまとめ
ブリコラージュとエフェクチュエーション
第一部不確実性の高い環境においては、ブリコラージュとエフェクチュエーションの考え方を用い、手持ちの資源を創造的に活用し、即興的に価値を生み出す姿勢が重要です。
リソースベーストビューとアセット化
第二部では、リソースベーストビューの視点から、内部資源を組み合わせてアセット化することで、独自の価値創造が可能になると述べました。生成AIを組み合わせることで、独自性をより高められます。
機械学習とダブルループ学習
第三部では、機械学習だけでなく人間にも学びを取り戻すことが重要であり、内部資源をアセットとして活用して得られた経験をダブルループ学習につなげ、組織的な学びに変えることで、組織独自のアセットが蓄積されるという話をしました。
参考文献をこちらに掲載しているので、興味がある方は見てみてください。みなさんの学びが少しでもアセットになるとうれしいです。ご清聴ありがとうございました。
Q&A
池田:いやいや、ありがとうございます。とても熱いお話をいただいて。
寶:長くなっちゃいました。申し訳ない。はい。
池田:今日本国内でデジタル広告をここまで抽象度の高いお話で展開をする人はやっぱり寶さんがナンバーワンなんじゃないかなと思いますが。どうぞ一息ついてください。
寶:ありがとうございます。
池田:このお話を伺ってて、僕は山口周さんの「なぜ世界のエリートは美意識を鍛えるのか」っていう。まさにこのデジタル広告をやってる方は、デジタル広告やデジタルマーケティングの本を死ぬほど読んで勉強する。特にさっきのシングルループのところを徹底的にやるわけですけど。
今日の話で出てくるのは、極めて人間科学とかリベラルアーツとかそっちのところから厚みを持たせて、側面から光を当てているなっていうところをすごく目の当たりにして。MARPSの会員は具体の話も好きなんですけど、極めて抽象度の高い学びが大好きな方々がすごく多いので、結構刺激されて熱くなってる方も少なくないんじゃないかと思いました。
これ。さっき冒頭でも話しましたが。インプレッションとか。CTR、CPC。あとはCPA、ROASみたいな。いわゆるそのシングルループの中でよく出てくるような話っていうのは。今日。このありものから始めるっていうことがいかなるものなのかっていうことがとてもよく分かったんですけど。
ちなみにこれ。アユダンテさんってこのデジタル広告周りでは先進的ですけど。ここまで抽象度の高いお話をしながら。実際の運用をしている客先っていうのは大体何割ぐらいなんですか?
寶:ケースバイケースにはなっていくのかなって思ってますね。はい。ただ私たちはたくさんのお客様とお付き合いするっていうより、一社一社と深くお付き合いする、長くお付き合いするってやり方をしてるので。要所要所でこういった考え方みたいなものをお伝えしながら。二人三脚で取り組むみたいなことってのはしてたりしますよね。
池田:なるほど。まさに最後のダブルループ学習のところで。その広告の成果から広告を最適化をするだけではなく、商品サービスそのものの改善もみたいな話って、本質的には僕も本当にそうだよなと思う反面。
大企業は超縦割り、サイロ化されてるからデジタル広告担当が商品改善なんて、もう部署が違いすぎて、とてもじゃないけどできませんみたいな。なんかそういったところのジレンマはどうですか?現場では?
寶:実際。やっぱり縦割りの組織の中でっていうのは、難しさを感じながら。一歩一歩。その広告のデータをフィードバックする際に、丁寧にこれはどういう意味を持っているのかっていうのをお伝えするようにしてます。
そもそもその広告のデータっていうのを最初に設計する際に、そういったものを説明しやすいように設計してお伝えするみたいなことってのは心がけながらやってます。
あとは新しい、例えばD2Cみたいな、かなり商品開発とマーケティングのすごい近いところみたいなところだと、すごくフィットしやすいような考え方かもしれないなと思います。ただなかなかそういう企業さんばかりではないという。
池田:スタートアップとか中小中堅系とかだと。もうまさにこの考え方でやった方が絶対いいですよね。
寶:本当に。広告そのものが商品とかサービスの改善にも生きていくっていうような使い方ができてくるので。それはお勧めしていますね。
池田:広告の成果が悪いと、広告運用担当のお前らの努力不足だろうってされちゃうんだけど。いやいや、商品サービスとか値付けとか、先ほどの4Pで整理するみたいな話が結局表出化してくるのが広告のレスポンスであるにもかかわらず。そこを全体で話するっていうより、「それはお前の仕事だろう」となっちゃうのはとても良くないなって思いますね。
ちょっと時間に限りがあるんで。資料で例えば28ページ目のところあたりで。アセットの話をずっとしていただいていたじゃないですか。
今までの考え方って、アセットの考え方というよりも広告のコピーとかクリエイティブを作って、それをうまいことデジタルで配信することによって、広告効率高めてコンバージョンみたいな話やってたわけですけど。
今日の寶さんの話に立脚すると、いやいや結局このアセットによるんだぜみたいな話じゃないですか。このアセットによるというところで「そうか。アセットでなんとかうまいことできるのか!」と喜ぶアセットを持っている会社と、「いやアセットないんだけれども。うまいことデジタル回すことでごまかしながらコンバージョンさせてたんだよな」みたいなところって結構分かれるよな、っていう気もしていて。
何が言いたいかって言うと。いよいよこれからアセットこそが大事であるということは。アセットが弱いところはやっぱ本質的に生き残れなくなっていくっていう未来なんですかね?
寶:難しいところですよね。私がやっぱりお伝えしたいのは、デジタル広告の中って新しいマーケティングの手法みたいなものだとか、プラットフォームが新しい情報、新しい機能とか出してきたりすると、そういうところってすごく目を引きますし、新鮮だったりするので。そちらに目が行ってしまいがちだと思うんですけど。
ただ効果的なデジタル広告の活用の仕方を考えると、このアセットであり内部資源を見つめ直した上で、それをどうやって組み合わせていくかってことの方がはるかに重要度が高いので。中小中堅企業であれば、ここの部分っていうのは話し合って、それこそ生成AIも活用しながら、新しいものを組み合わせていくことって十分にできると思うので、そこの部分にフォーカスをする。した上で広告を展開するってことをお勧めしたいですね。
池田:うん。まさにだから先ほどの話にあった組み合わせの妙がとても重要であると。そうすると、次の37ページのところでアセット内部資源のお話がありましたよね。で、ここのところで行き来するっていうところにAIのマークついてますけども。
ここのところは本当にAIが一番得意なところで、人間が今までゴリゴリやっていたところを一瞬にしてパパッとやってくれちゃうみたいなところに、今2025年時点でこのレベル感じゃないですか?
やっぱり全てのデジタル広告に携わっている方は。自分の仕事がいつAIによってどんどん浸食されるのか。恐怖はもうみんな毎日ひしひしと感じてるところだと思うんですけども。
この行き来するっていうところがAIに代替されていく時間軸っていうのは、大体どんな感じと予測されていらっしゃるでしょう?
寶:予測は難しいですよね。私自身はあんまり予測はしていなくて。ものすごく過度にAIに対して期待を持ってるわけでもなければ「いやこんなこと大したことねえよ」と思っているわけでもなくて。
実際今活用できる範囲の中で生成AIを活用するっていうのが、一番のなんて言うんですか。今フォーカスするポイントなのかなと考えてます。
あとやっぱり一番最初に物事を始めるとか、言うこととか、あるいはユーザーへのインタビューも。私たちはAIにインタビューするってことじゃなくて、ユーザーにちゃんとインタビューするっていうことを大事にしたんですけど、それは一次情報であるからっていうことがその理由だと思うんです。
要するにネットに出ていない、学習される前のものが存在してる以上、一次情報を最初に取りに行きながら、最初に触れるものっていう意味で言うと、人間がやれることの領域なんだろうなと考えていて。それをうまく組み合わせながら。
生成AIを活用しながら出していくことによって価値を高めていくっていうような流れは、結局はそこは人間が大事かなとは思ってはいますね。正直分からない部分はあります。
池田:時間になっちゃったので。最後にお伺いしたいのが19ページ目の、今日の一番最初のポイントの、ブリコラージュとエフェクチュエーションのあたりのお話なんですが。
ここですね。やっぱり日本人はみんな、幼少期からの学校教育と、ビジネスの世界に入ってきた時の「論理的にちゃんと説明しろ」みたいなところが、コーゼーションの教育をもう体に染み込まされてるじゃないですか。なのでこの2番目のところの問題解決に関してはすごく発達をしているんですけど、3番がとにかく弱いみたいなところがあって。
まさに今日聞いていらっしゃる方も「やっぱりそうだよな。3番できるようにならないとまずいよな」っていうところがあると思うんですけど。
この体に染み込んだコーゼーションみたいな考え方の、思考のフレームだったり行動の様式を、どんなところから始めていくと、ブリコラージュとかエフェクチュエーションに少しずつ思考や行動の様式を変えていくトレーニングができるんだろうと。
考え方は分かったけど、じゃあ明日から何をしていくとそういうスキルが身についていくんだろうか、みたいなところってどうなんですかね?習慣的に?
寶:そうですね。正直な話をすると。私がそういうような考え方みたいなことを身につけられるようになったっていう話を言うと、それこそ一番最初に話をした料理。
池田:料理ね。
寶:料理の話を実際に手を動かしてみて。最初は本当にこんなやり方でしかできなかったんです。全ての材料を集めるっていうやり方です。いわゆるコーゼーション的なやり方がほとんどだったんですけど。
それを、妻とか周りの人とかと話をしながらやっていく。他の人、身近な人を見ていくと「あ、違うやり方でいいんだ」って気づいて、だんだん自由になっていったみたいなことはあるんですよね。
できることって本当に身近なことで。なにか一歩、新しいことをちょっと始めてみたりだとか。
すぐできるようなことを始めてみて、その中で最初は染みついて離れないようなやり方があると思うんですけど、その中で、できた仲間とか、私の場合の料理の例だと妻ですけど、「こういう違うやり方があるんだ」と知ったりするプロセスの中で身につけていくのがいいと思います。正直何でもいいんじゃないかなって思っています。
池田:確かに仕事でいきなりコーゼーションをエフェクチュエーションにって言われてもなかなか躊躇するし難しいところはありますけれども、私生活のこういったところを、知らず知らずコーゼーションで予定調和的にやろうとしてるところを、エフェクチュエーションに変えていくっていうのは比較的やりやすいかもしれないですね。
寶:やりやすいかもしれないですね。
池田:いやいや、あっという間に時間になってしまいました。皆さんいかがだったでしょうか?私としては本当に今日MARPSのデジタルのこの連続講座のデジタル広告をこの内容で寶さんにお話しいただけて。本当にMARPSっぽくてすごく良かったなって思っております。
是非ですね、寶さんにもアンケートをお送りして、今後の学びや励みにしていただきたいと思っておりますので、皆さん終了後アンケートにご回答いただけると大変ありがたいなと思います。
寶:よろしくお願いします。
池田:ということで。今日は寶さんに「ありものからはじめるデジタル広告」についてお話をいただきました。改めて寶さん今日はありがとうございました。
寶:はい、どうもありがとうございました。
池田:では皆さんまた次回お会いいたしましょう。さよなら。


