マーケターのためのPRスキル強化講座のコンセプトと重要性
※このテキストは『マーケターのためのPRスキル強化講座① PRの基本と再定義』の書き起こしです。文中の登壇者名表記は敬称略。
池田:はい、皆さんこんばんは。久しぶりに始まりましたMARPSでございます。いよいよね、今日から新たな連続講座が始まります。マーケターのためのPRスキル強化講座です。今回もですね、もう300人以上の方からの申し込みがありまして、マーケターがPRを学ぶというところの、興味が非常に強いといったところが分かります。
さてですね、皆さんこれからこの連続講座が始まりまして全5回やりますけれども、ポイントは、世の中に広報/PR担当者のための広報PR講座というのはいっぱいあるんですけども、今回MARPSでやるのはあくまでも「マーケターのためのPRスキル強化講座」なんですね。
なんでかというのは、僕のノートを読んでいただいた方もいらっしゃるかもしれませんが、PESOというね、ペイド(Paid)とアーンド(Earned)とシェアード(Shared)とオウンド(Owned)の4つのメディアがあるうちの1つがこのアーンド、広報PRの領域なわけですが。広報PR講座だから言うわけではないですよ。ないんですが、これからこの4つのメディアのどこが1番重要になるかと言ったらもう僕はアーンドだと思ってるんですね。要は広報PRがめちゃくちゃ重要な時代になったと。
なぜならば、このPESOにおける影響力が、昔は圧倒的にペイドメディアがあったわけですが、それがなかなか難しくなりつつある中で、これからどこかのメディアの影響力が大きくなっていくのかというと、広報PRの領域である。だからこれからはPRの時代だという風に、ずっと僕も言い続けてるんです。
この広報PRという領域は単独で行うよりもシェアードと組み合わせた方が、パワーがものすごく大きくなるので。このPESOの中のアーンドとシェアードをどのようにもっとうまく組み合わせていくことが、これからの時代における影響力を最大化するところにつながるのかということをマーケターこそ勉強するべきである、ということが今回の連続講座のコンセプトになっています。
今回もですね、宣伝会議とかマーケティング協会とかいろんなところでお話をしている、第一人者の方々に協力いただき、5回ですね、5つのテーマに関してお話を進めていきます。今日から始まりますが、こんな感じのプログラムですね。全てめちゃめちゃいい内容だと思いますので、ご期待ください。
講師紹介と本講座の位置づけ
1番最初の内容と講師を務めていただくのは、この『広報PRの実務』の本の著者でもある井上さんに、今回お越しをいただいてます。
井上さんは、宣伝会議の広報担当者養成講座という、広報の担当になった方が広報の全域について学ぶという大体10回の連続講座で、結構長い間この広報PRの概論、全体像に関してトップバッターでお話をいただいている講師の方です。
そちらでも1番最初に全体のお話をしていらっしゃる井上さんなんで、今回もマーケターのためのPRスキル強化講座の1番最初の部分で、まずは全体を掴んでいただくところをご担当いただきます。
「マーケターのためのPRスキル強化講座」なんですけれども、そもそも広報PRとは何ぞやといったところが基礎として分かってないと、それをマーケターがどのようにきっちりとマーケティング活動の中で、上手に活用していくのかみたいなところが分からないので。
今日はどちらかというと、広報担当者の方々も1番最初にきっちりと学んでいる広報PRの大原則みたいな部分と、井上さんがおっしゃっている、それを踏まえた上での再定義みたいなところのお話をしていただくプログラムになっています。
広報PRの基本と概念の整理
広報とかPRとかいろんな言葉が出てきますけれども、じゃあ皆さん例えばコーポレートコミュニケーションとしての広報PRと、商品サービス寄りのパブリシティと、売れる空気を作りに行く戦略PRの違いを、一言で明確に区別した説明ができるでしょうか。結構怪しい方が多いのが実態なんですね。
超大上段の1番大きな「全ステークホルダーとの良好な関係を構築維持向上させていく」と言っている、パブリックリレーションズ、パブリック/公けとの信頼関係を作っていくという超大きな概念としてのPRと、その中の一部分である商品サービス寄りのパブリシティ、あとは若干宣伝寄りの、戦略PRというのは似て非なるものなんですね。
全部PRという言葉がついてるんで、なんとなくバクっとわかった気になっちゃうんですけども、PRの中でも全然違うわけです。
ペイドとPRの違いってどこにあるんですかと。目的が全然違う。解決できる課題も違う。追うべきKPIも全然違いますよ。
なので、ここら辺がしっかりと概念として整理ができないと、どんなイシューに対してどの施策で、いくらぐらいの予算で、どれぐらいの時間をかけると、どのKPIを動かすことができるのか、何はできないのかといったところの議論がめちゃめちゃズレるんです。ということで、ここら辺をきっちりと基礎から学んでおくということはめちゃくちゃ重要です。
マーケティング活動における広報PRの位置づけ
いつもMARPSでお話をしていることですが、マーケティングと言っているのはお客さんに買っていただく、買い続けていただくために行う全事業活動がマーケティング活動に入ってきますが、パブリックリレーションズでは売ることは目的ではないですね。
ただ、売ることが目的のところに隣接をしている領域というのもパブリシティとかで、あとは戦略PRとかもあるわけです。ここら辺をきっちりと理解をしていかないと、マーケティングの中における広報PRは一体どの領域を担えるのか、担えないのかみたいなところが分かりません。
とにかくマーケティングは幅が広くて1個1個の奥が深いんで、点として学んでいると一体自分はどこの何を学んでるのかよく分からなくなっちゃうという話をずっと言ってますね。
点を学んでそれを線としてつなぎ、面としての全体的な体系を俯瞰して構造的に理解をしているからこそ、現場で立体的なものとして応用ができるんです。
皆さんは娯楽としてマーケティングを学んでるわけじゃなくて、実務でのその問題解決力を上げるためにマーケティングを学んでいるわけですから、最終的にはこの立体的な知識にしていかないと、知っている、分かる、できるの領域に行けないわけですね。
売上の地図はもう長い方は見慣れたものだと思いますけども、ここにPESOがあるわけですね。周辺に1番最初のインプットです。全ては入力と出力の関係ですから、広告やPRやシェアードやオウンドメディアという、このメディアからのインプットによって、意識態度が変わることによって行動が変わって売上になっているというものですね。
この広告とPRといったところが並んでます。これから全5回で学んでいっていただきますけれども、全然違いますよというものです。
ややこしいのはやっぱり広告とPR、ここですね。ペイドとアーンドというのは大体出ている場所は同じなんですね。テレビだったり、時に新聞だったり、大手のWebのニュースメディアだったりに広告として出ているのか、情報、記事、報道として露出されるのか。コントロールができるものとできないものみたいな明確な違いがあるわけですね。
それによって同じメディアで出てるんだけど、出方が全然違うわけですから、認知を獲得するのか、興味を喚起したいのか、好意度を上げたり信頼度を上げているのかみたいなところは全然効果として違うものになるわけですね。
このファネルマップのところでも、戦略PRとかパブリシティと書いてありますね。これはマーケティング活動の中におけるマーケティングコミュニケーションのファネルマップですから、この中には広い意味でのパブリックリレーションズは入っていないんですね。
なぜならば、これはマーケティング活動のファネルを示しているから、広報部が一般的に行っている広義のコーポレートコミュニケーションはこの中の施策には入っていないからです。
このアーンドが何ができて何ができないのか、みたいなところは他のペイド、シェアード、オウンドと何が違うのかという相対的な比較によって、より浮き彫りになっていくと思います。アーンドの理解を深めるのであればアーンドの勉強をしながら、他と何がどう違うのかみたいなところの相対的な比較ができるようになるといいと思います。
ということで改めて、今回は井上さんに担当いただきます。よろしくお願いします。
井上岳久氏の自己紹介と実務家としての特性
井上:井上戦略PRコンサルティングの井上と申します。私は、井上岳久と申します。井上戦略PRコンサルティング事務所ということで、もうかれこれ20年以上コンサルティング事務所を運営し、基本的にはマーケティング及びPRのコンサルティングをやっています。
基本は広報。広報部というのが会社さんにあって、広報がうまければ私はお呼びは掛からないんですけども、「広報がうまくいってない」「なかなか思ったような成果が出ない」という方から呼ばれましてですね、そこに行って診断をして、どこに広報がうまくいかない要因があるのかというのを事細かに色々チェックしてですね、そこから1つ1つ修正なりして、最終的には戦略まで立てて、効果が出るようなコンサルティングを基本ベースでやっている。
その他に、宣伝会議さんは20年前から、広報担当者養成講座の第1回目からずっと担当してまして。セミナーとか講義、もしくは社内研修。社内研修も大企業中心に50回ぐらい年間やらせていただいたりとかしてですね。セミナーや、研修も年に100回か120回ぐらいやらせていただいてる。
その他に、著作ということで、本もですね、全体で20冊を超える本を出させていただいてて。宣伝会議が出している広報会議というところで「リリース道場」というのを、これも創刊からずっと連載をしております。
私の場合、他の広報のコンサルとか広報をPR会社で専門家としてやっている人と、1番の違いは何かと言うと、実は広報PRのコンサルをやりながら実務をしてるということですね。実務は、元々横浜カレーミュージアムの責任者をずっとしてたんです。その関係で実はカレーの専門家として実務もあります。
例えばカレーの実務で言うと商品開発。さっきこの取材に来る前までも、NHKから特集を組みたいというのでずっと打ち合わせしてたんですが、新商品とか、新サービスとか、もしくは店舗開発、店舗の運営なんかもやってますので、実際に自分で商品を作って。もしくは顧問先、大手のカレーメーカーさんなんかとも色々お付き合いがあるので、そういうところで商品開発したものを、いかにメディアに広報でうまく浸透していくかということを半分やっている。
実務経験から得られる知見
広報やってる方ってやはり10年前に現場を上がっていたりすると、もう全然対応できないんです。今なんかは、AI。AIをいかに広報で使いこなすかというのは今すごい最重要の課題になってます。やはりAIと広報ってすごく相性がいいんです。
私はもうChatGTPが出てきた時からやってて。この間ある研修機関でその講演をやってるんですけど、「井上先生、どのくらい時間が短縮されたのかを全部メモ、全部チェックして数字で出してくれ」と言われて計ったら、なんと広報に時間を使ってる量が23%ぐらいまで減ってたんです。
要は70%以上はですね、時間を削減できていたんです。その分じゃあ発信する量はどうなのかというと2倍に増えてるんです。ということで作業量は1/5になって発信量は2倍になってるということで、これを使いこなすと広報の場合すごい武器になると思います。
戦略広報の提唱と成功事例
さて、私の場合は戦略広報というのを提唱してやっております。昔は、戦略PRという言い方を20年以上前からしてたんですけど、これは別の意味ができてしまったので今は戦略広報という言い方をしています。戦略は「経営戦略」の戦略で、経営戦略の1つとして広報を据えていくというような活動をしています。
この戦略広報。ずっと前からやってるんですけど、実際にこれで成果を上げてますし、私以外の会社もこれで成果を上げてるのが、多々あるので。こういう経営全般の側面から経営に広報を入れていくというような話をまずさせていただいてます。
戦略広報とは何なのか。私の言葉としては、戦略広報というのはここに書いてある戦略、経営戦略の中心に広報を据えてしていくような、1つの経営手法。あとはそれが会社の中心がマーケティングであればマーケティング手法。これを戦略広報というような言い方をしてますね。
具体的に言うと、何か色々物事を展開していく時に、広報を経営のあらゆる部分に入れていくような、広報の展開をすることを、戦略広報と言っています。
スターバックスとかザ・ボディショップとかAmazonとかYahooとかGoogle、ハリーポッター。こういう2、30年前はベンチャー企業というか創業したてで、ほとんど小さい企業だったのが、広報を巧みに利用して活用して、ある意味経営の中心にして、経営で展開することによって成功してるような会社が、こういった企業だという風に言われてる。
Apple。スティーブジョブズは戦略PRをひたすら展開してる人で、それがAppleだということを確信したんです。
iMacとか、そういったものを出す時に、どう言ったらメディアに取り上げられるかというのを考えて、それを秘密裏に。情報が漏れちゃうと、広報上価値がなくなっちゃうんで、秘密裏に作って、それをプレゼンテーションで、メディアに向けたプレスセミナーというのを徹底してやって。
それでバーっと一気に世の中に商品を知らしめて一気にバーっと売る。また新しい商品をどんどん考えて、また同じように、メディアが注目するような製品というのをきちっと作って、また展開していく。その繰り返しをひたすらやる。
日本でもそういう手法で成功している会社が出てきています。ソフトバンクの孫さんなんかはとても上手ですよ。うまく巧みに使いこなしてますよね。ソフトバンクの広報なんかものすごい巧みなノウハウ・戦略を用いている。楽天の三木谷さんもユニクロの柳井さんもやはり会社が小さい頃から、そういう経営の中心に広報を入れながらやっている。
ダイヤモンドダイニング。社長の次に誰を雇うかという風に考えた時に、この社長はなんと広報PR担当を入れたというんですね。要はそれだけPRを重視して、本社機能の1番に、広報を置いていこうと。ワークマンなんかもめちゃめちゃ広報上手ですよ。やはり広報を中心に立ててやっている。
従来のマーケティングと戦略広報の対比
従来のマーケティングって、大体昔はこういうことでした。事業構想を考えて、製品企画を考えて、その次にコミュニケーションプランを考えて、コミュニケーションを実施していく。その時大体広告でプラスSP(セールスプロモーション)。余裕があればPRやる。余力があれば広報やるって付け足しぐらいの存在が、従来のマーケティングの中の広報の存在であったと。
これだと広報はほとんど機能しないです。広報って6ヶ月単位で展開していかないと効果が出ないんです。よくあるパターンとして、新商品があるから出してくれよなんてね、もう1週間前とか2週間前に情報もらって、広報の人がそこから情報整理してリリース書いて、メディアとコンタクト取らなくちゃいけないんですけど、そんなの1、2週間で、企画から広報のリリースまで書いて出すなんていうのはまず無理ですよね。
そうすると「あいつら使えねえ、情報やってもしょうがねえ。最後に余裕がある時だけ渡そう」みたいなちょっと広報がかわいそうな存在の会社って未だにいっぱいあるんです。基本、広報が機能してない。
戦略広報における製品企画とニュースバリュー
戦略広報を展開してる会社というのは、もう最初の事業構想の時に広報の要素入れるんですよ。企画、製品企画時にPRの要素を入れる。これどういうことかと言うと、メディアが興味がないような情報をもらってもメディアの人は取り扱ってくんないですよ。
なので、その商品にメディアが興味を持つような、要素も一緒に入れるんですよ。我々の言葉で言うとニュースバリューと言うんですけど、ニュースバリューを入れた商品を作っていくということがとても重要になります。
例えば今取材を受けてるNHKのところも、単なるレトルトカレーなんですよ。そこで例えば地域、地域のある特性を生かしたレトルトカレーを出すと、メディアが、「こんなね、地域のこんな特徴を入れたレトルトカレーがあるのかと。これは地域活性化にもなるから取り上げよう」ということになるわけですよね。
分かりやすい例で言うと、世界初とか日本初とか、世界一とか日本一とか、そういった要素があれば絶対メディアが取り上げてくれんですよ。そういった要素を入れる商品を作る。
エレコムという会社は、発火とかしない、素晴らしいモバイルバッテリーを作って世界初、商品化したということで出したらめちゃめちゃメディアで話題になってかなり売れている。
こういうPR的な要素を、事業構想とか製品企画に入れた上でPRを中心にやる。そうすると、そこでメディアにぶわっと発信する。プラスお金があれば広告。必要最低限のSPをやって、お金があれば広告をやる。最後に営業で、そういうメディアにいろんな情報が拡散する、広報で。広告でもいろんなとこに情報が乗る。
営業で最後どんどん売上を獲得してもらう。その時も営業も今回テレビにこんなに出ました、出てますよとか、ネットでこんな話題となってますよなんてね、データを持っていくと営業がとてもやりやすい。どんどん説得できる。ということで、営業ツールにもなる。一貫して広報をそういう風に使っていくやり方のことを戦略広報として提唱しています。
コミュニケーションの新しいモデル:PESOモデル
その戦略広報の中で、コミュニケーションのところが、広告も含めて近年すごい変わってきてます。それがPESOモデルというやつですね。昔はね、この広告と広報しかなかったんですよ。
この2つしかなかったのが、時代が進んで、特にネットなんかがどんどん増えていくと、新たに2つ加わったんです。これの1つがオウンドメディア。もう1つがシェアードメディアというのが加わって、情報を展開していく時、広告だけ/広報だけだとなかなか成果が上がらない。この時にプラスオウンドメディアとシェアードメディアも一緒に巧みに使いこなさないと、なかなか成果が出ないというような時代になった。
各メディアの定義と特性
アーンドメディアは信頼を受けるメディアという意味で、広報って基本的にはメディアのフィルターを通して発信するので信用力が高いと。基本的には広報のことを示す。同じ媒体なんですけど記事欄とかテレビの中に入れることが、アーンドメディア。
広告は、広告欄とかテレビで言うとCMなんていうのがある、そういう広告の枠に入れていく。お金も払うのでペイドメディアという言い方になります。
オウンドメディア。自分でコントロールして情報を発信できる。ホームページとか。あとはSNSの公式ページとか。自分が発信したい情報ってのは基本的に100%全部発信できる。
シェアードメディア。これはシェアして、口コミの世界でネットを中心に行くというようなシェアードメディア。
コントロールの可否と必要な要素
オウンドメディアは自分で出すので、コントロール可能です。広告もお金を何億とか何千万出すので、基本コントロール可能。
シェアードメディアは、全然コントロールできないですよね。コントロール不可能です。アーンドメディアも基本メディアに情報を出すと、当然いいことも書いてくれますけども、彼らも悪いことがあったら悪いことも書く。基本、コントロールはできない。
アーンドメディア、広報PRは何が必要かと言うと、知識です。知識、スキル。
オウンドメディアは、いかにそれを書いたり、出したりする労力、人的労力。これがどれだけあるか。
ペイドメディア。これは、お金がないとできないですね。広告はもう資金量、お金次第だと。
シェアードメディアは、運でうまく展開していけばいいし、悪い方向に行ったらすぐ修正するようなことをやらなくちゃいけない。
広報(アーンドメディア)の特性と実務に必要なスキル
PRの基本的な言葉の元の言葉はパブリックリレーションズ。日本語訳にしたものを広報と言います。パブリックリレーションズのPRも広報も基本的に同じことを指します。
パブリック。この社会。社会に対してリレーションを作っていくこと、望ましい関係を構築すること。
日本広報学会が、2023年に発表したのがこの新しい定義。組織がこの社会と望ましい関係を構築していく。プラス個人も必要だろうと。コミュニケーションというのは手段だと。広報をやるのは、目的とか課題を達成するために、手段としてのコミュニケーションを用いて、組織とか個人が、展開するもの。もう1つ追加されたのは、経営機能だと。これは経営機能の1つなんだと定義しています。
広告と広報の違いを復習します。広報は新聞で言うと記事に載せる。広告は、新聞で言うと広告欄。広報の担当者は職人。広告の担当者はビジネスパーソン。
記事に乗る時はメディアの人が実際に「これはいいな」と思ったもの、取り上げたいなと思ったら事実を載せる。広告は広告主の主張であり、主観である。
広報は、客観的に評価をした事実ということで、信頼性が高いと言われてます。広告の信頼度は低い。
広告はポイントが予算。広報はスキルとかテクニック。お金では済まされないコミュニケーションの技術。スキル・テクニックをいかに駆使するか。
広報は将棋で言うと角のような存在。広告(飛車)は使いやすいんですけど、角(広報)は斜めに進むんで使いづらいんです。広報って基本的には自社でやるものなんで、この角をうまく使いこなすようなポイントが身につかないと、飛車だけで戦ってるみたいな企業がいっぱいある。
広報活動の展開と多段階リリースの重要性
広報はどんなことをやるのかというと、メディアに情報提供していくというのが仕事なんですが、流れとしては1番最初にPRのコンテンツ。社内から何をしたらいいのか情報を集めていく。
その中で、メディアが必要な情報じゃないと、発信してもメディアにとっていらない情報、ただのゴミなので、メディアが必要な情報を集めていく。もしくはメディアが必要な情報に加工してあげる。これがPRコンテンツ。 PRコンテンツを、発掘・創出するという作業がまず1つある。
これができたら、広報でメディアに発信する時に、基本的に広報ツールを作らなくちゃいけない。それは皆さん聞いたことあると思うんですけども、リリース。プレスリリース。
ニュースリリースとも言いますけど、そういう書面に落として、PRコンテンツを書いて、星の数ほどあるメディアに情報を提供していくという活動がしたいので、この書類を作らないといけない。これを作る作業。 広報ツールを作る作業ってのは2つ目になります。 できたらこれをメディアに一件一件配信していく。
メディアが「これ面白い情報だな。記事で扱いたいな」と言うと、基本メディアの人は取材に来ます。 リリースは、書いたことがある人は分かると思うんですけど、大体2枚から3枚で書くというのが通常です。そんな細かいことまで書けない。
まして、一方的に送り付けてくる企業の情報なので、メディアもどこまで正しいかはよく分からない。あと腑に落ちないとか分からないとかあるので、基本取材にきます。 要は質問攻めに来ますね。そこでメディアがいろんなことを質問して、分かったらそれを記事にする。テレビにする。Webの記事にする。
この3つの作業をするのが広報だということで、それぞれに先ほど言ったスキル。コンテンツ化するスキル。テクニックが必要なんです。
リリースを書くスキル。テクニック。これが必要になってきます。 リリースを書いたことがある人は分かると思うんですけど、独特な所作で書かないといけないんですよ。 企業でリリースという所作で書くのは大体どこの会社も広報部だけなんです。だから広報部に入った時に、このリリースを初めて書いて、広報部から別の部署に行くと、もう書かなくなる。
本当にリリースってその会社の一部だけで書くので、これをマスターするのに時間がかかるんですよ。広報部に入って、1〜2年は書いてもなかなか採用されないという。ちょっとクオリティの低いリリースを何回も書いていくと、早い人だと2年とか3年目ぐらいに記事に載るようになる。修行が必要なんですね。
そういったスキルも身につけて、テクニックを身につけていかなくちゃいけないし、配信する時に、メディアの人に配信して、落とす技術というのもあるんですよ。 飲んで仲良くなる、営業的なコミュニケーションじゃなくて、メディアを落とすためのコミュニケーション技術って、全く別なものがあるんです。これも身につけなくちゃいけない。
メディアと話す時のお作法があるんです。 先ほどメディアの人って職人だと言いましたよね。ちょっとルールが違うんですよ。
ビジネスやってるという感覚は無いので、そこで接する。これもきちんとしたお作法というかルールがあって、これができてないと「こいつふざけんな」と。「なんだ無礼なやつめ」みたいな。「2度と取材に行くか」。 会社自体がブラックリストに載っちゃったりするんです。
これもきちんと知っておかなくちゃいけない。広報はそういったスキルやテクニックの塊りですね。こういったものをひたすらやっていくというのは広報の作業になりますね。
リリースのテクニックで1つ例を上げると、リリースを出しても効果がない、という人がいるんですよ。私に言わせるとそういう人は基本リリース1個しか出してないんです。これ1回だけで、取材がいっぱい来ることはほぼないです。
我々は、このように1店舗のオープン前に、最低15本ぐらいは出します。メディアにいろんな情報を多角的に与える。内覧を展開し、内覧会やりますよという導入リリース。内覧で来ると100%書いてくれます。開店後、達成リリースというのもどんどん出す。
リリースの種類って100種類ぐらいあるんですよ。それをケースによって使い分けていく。要は武器みたいなものです。そのスキルという武器が1個だけだとまず勝てない。より多く武器を持つ、広報のスキルを知っておくというのは必要です。
アーンドメディアには、広告やオウンドメディアよりも1番最初に情報を出すようにしています。広報のルールとして、メディアの人が知るより前に情報がある(公開されている)というのは絶対やってはいけないこと。ニュース価値というのは新規性だからです。
基本リリースの前に中身を教えないみたいなリリースを、一応出してくんです。心の準備ができる。調査リリースを出しておく。情報を明かさない一部だけを匂わせるみたいなリリースをテクニックとしてやる。
マーケターが広報を活かすための3つのパターンとスキル習得の重要性
皆さん今マーケティングの担当者なので、マーケティングの担当者が広報とどういう風に携わっていったらいいのか。大体3つのパターンがあります。
- 自分で全部やる(自社で、マーケティング部署で)。広報経験の実務能力が高い人がいるチーム。自分たちでやった方が1番効果が出ます。
- 広報部と連携してやっていく(広報部を使いこなす)。コーディネート力が必要です。広報部の人も納得しないと動かないので。
- PRに依頼する(PR会社へ発注)。PRはお金がかかります。使いこなすディレクション力が必要。PR会社を使う場合は予算とディレクション力がないと、大体効果がないなんて話はよくあります。
どのパターンを選ぶにしても、広報PRは知恵とスキルがポイントになります。どこで基本的な知識を学べばいいのかとよく聞かれるのですが、参考までに私が携わっているところをご紹介すると、日本広報教育センターでオンデマンド講座を設けてやっています。
私の広報知識とスキルは、自分と自分のチーム中に留めていましたが、自分も57最なので後世に残したいと思ってやっています。本やYouTubeもありますので、興味のある方は見てみてください。
Q&A
池田: 久しぶりに広報ど真ん中の話をもう一回改めて伺って、すごく新たな発見が今日もいくつもありました。ここから少し応用とディスカッションをしたいのですが、広報の方もそうですし、マーケターが広報と連携をする場合もそうなんですが。やっぱり企業の偉い方々、部長も役員層も、社長も、コントロールできないものに関する拒絶反応があるじゃないですか。
広告はお金かければすぐに絶対コントロールできて、出したいとこに出したいだけ出すことができちゃいます。広報の場合そうじゃないので、僕もPR関連の方とお話すると、みんなやっぱりすごく悩みが深いわけですよね。うちの会社はものすごく広報に理解がないと。やった後って結局出るかどうかわかんないし、どのように出してくれるかもわかんないみたいな話があるじゃないですか。
井上: あります。よくあります。
池田:広告とは違うパワフルな、ダイナミックなことをやるんであれば、むしろ一番最初から広報視点で、商品開発からいろんなものを設計していった方が僕も絶対いいと思ってるんですけど。井上さんもいろんな企業に入っていく中で、この上層部との折り合いをつける、広報中心にしていった方がいいんだという時に、何かコツはありますか?
井上: よくやるのはやっぱり成功事例ですよね。以前コンサルに入ったある会社では、マーケティング予算がつかない商品があったんです。それを広報にすがってきたので、徹底的に広報でやってやろうとやったら、なんと大ヒットしちゃったんですよ。
という事例が1個あって、そうすると社内で、上層部の人も中心になって、なんであんな予算もなくつまらない商品が、日経のヒット商品番付の上の方に行っちゃったのか、なぜですかという話になった時に、「実は広報の人にいろいろ支援してもらってそういうことやりましたよ」というのが社内に知れ渡った。
そういった勉強会に上層部の人も来て、「こういうのは広報部を動かすだけなので、基本的に予算がかからないんで、じゃあ使わない手はないだろう」と言って、骨太の商品が入ってくるようになった。またそれで成果が上がって、広報部の地位がどんどん上がっていったということがあります。
なかなか社内でそういう成功事例が生まれにくいじゃないですか。そしたら競合。「絶対ここに勝ちたいんだ」という会社があるはずなんですね。そこが広報で上手ければ、そこを調べます。広報と広告の違いのもう1つは、広報は丸秘なんです。ほとんどスキルとかって出てこないんですよ。
池田: 見えないですよね。裏側でね。
井上: 広報のノウハウってなかなか分からないんですよ。広告は代理店がばらしちゃうから意外に分かっちゃうじゃないですか。なので、やはり競合が広告もそんなに打ってないのにすごい勢いでメディアに取り上げられてるってのは、そういうことを色々やってるんですよ。
僕なんかはそれを暴くのがすごく好きです。そういうものを分析して、「競合はどうも広報がうまく機能している。我々もこれをやらないと、単純にマーケティング上で負ける可能性があるし、今後どんどん差が開く可能性がある」。
さっきの飛車角抜きの話じゃないけど、広告は飛車のサイズが広告予算で決まっちゃいますからね。競合に今後どんどん差を広げられますから、というのをプレゼンでやると、それなりの感度のある方はちょっとやってみようかとなります。
池田:まず自社の中で実績作れなかったら、他社とか類似会社がこんなうまいことやってますぜっていう事例で引きつけ。あとは社内でうまいこと事例が作れると、「あれ俺の事業部で俺の商品でもやりたい」っていう感じになるということですね。
井上: 広報がうまくいくかどうかは、その後展開していくかどうか、その一番最初の広報は相当力を入れてやった方がいいです。1発目で効果が出ないと「やっぱりダメだろう」みたいな雰囲気になっちゃう。1発目は絶対に成功しなくちゃいけないです。絶対成功もなかなか難しいんだけども、絶対成功させるんだっていう気合十分でいくのと、広報で機能するような商品っていうのがやっぱあるんですよ。鉄板のもの。その時にやった方がいいです。
池田:そうなんです。2個目に聞きたかったのは、井上さんもいろんな商品・サービスの相談が来ると思うんですけど、どう料理しても難しいものは難しいなってやつあるじゃないですか。お金もなくて宣伝できないからPRでって無茶言うなみたいな。
井上さん言うように、その中でも比較的アーンドと相性がいい何かキラッと光るものがあるところで、一旗稼いで1発目の成功事例作りに行かないとダメってことですよね。
井上: そう、そうです。 逆に僕なんかが見てて、なんでこんなメディアが絶対に来る商品を広報がやらないのって商品いっぱいあります。
池田:この感覚ってすごくハイコンテクストで、PRのプロしか気づけないじゃないですか、その匂いに。
井上: あと面白い事例で言うと、僕、住宅メーカーの顧問先が結構あるんですよ。広告すごいやってて広報やってないんだけど、その住宅の企画がめちゃめちゃ広報がやったらいい企画をいっぱいやってんですよ。ただほとんど広報が機能していなくて、広告だけ押してテレビCMをいっぱいやってるんですよ。
僕の顧問先は地域的に全部それを真似させるんですよ。必ずヒットします。そこはすごくお金をかけて、広報でも受けるような企画を多分何億もかけて作ってるんだけど、広報をやらないからメディアが知らないんです。それも丸パクリしていろんな地域のビルダーでやらせるんです。そういうのを基本、見い出してやっていくってのも1つの手としてありますよ。
池田: なるほどね。PRっていうのは結局は知識であり、スキルであるというお話があったじゃないですか。そのベーシックなものをきっちり座学で、しっかりと基礎をきっちり勉強するっていうところは絶対的に大事だと思うんですけども、その上で。どうやったらこのPRスキルっていうのは磨けるんでしょう?
井上: それはやっぱりね、一番いいのはOJTなんですよ。さっきの名前が出てたような会社ってやっぱり先輩にできる人がいるじゃないですか。基本的に知識は自分たちの会社で学ぶんですよ。そうしたら先輩が教えてどんどん実務経験を積ませていくというのでやる。本来はそのやり方が一番身につく。
身につかなければ、それを持ってる人が、例えば私とかPR会社とかが指導して最初の段階は身につけさせて、誰か1人がきちっと身につけられれば、それをどんどん移植していくのがいいです。
池田: マーケターは広報部に所属してないから、その広報をOJTで教えてもらう先輩が近くにいない、っていうのがすごく多いと思うんですよね。こういった時はどこら辺にこう近づいていくとなんか比較的そういったOJTなりに近いような実践的なスキルが磨ける機会を増やせるんですかね。
井上: まずだから会社にマーケティング部署じゃない広報部があるところは、広報部の人を巻き込んで一緒にやったりとか勉強しに行ったりして。やるっていうのは、お金もかからず気軽に質問できるから身につくっていうパターンですよね。
あとは意外に広報の人って1人広報とかで厳しい中でやっている人がいるので、勉強会をしてやるっていうと結構意外に力つきますよ。
池田:なるほど。代理店に務めてる方も事業主サイドの方も色々といますけど、やっぱりその部署とかの垣根を超えて自分の方から積極的にその広報とかPRをやっていらっしゃるところに近づいていって、色々と一緒に勉強したりとかなにか一つプロとしてやるように動くとか、そういった動きとかをしていかない限りは、やっぱりいつまでたってもスキルって実践的にはなかなか磨けないですよね。
井上: そうです。あとはケーススタディ。ケーススタディを学べばいいんですけどMBAみたいに。ただケーススタディがあんまりないんですよ。本とか。
池田: 最近はね、カンヌとかにもPR文脈のやつが色々と出てきてるんで、ああいったものを少し追っかけてみるのもいいかもしれないですね。PR思考でのコミュニケーションプランニングがかなり多く出てきてますよね。
井上: そうですよね。僕も元々マーケティングをやってたんですよ。広報なんか全くやってなくて。そういう立場に置かれて、広報やらざるを得なくなって広報を身につけると、そもそもマーケティングが分かるじゃないですか。そうするとかなり面白くなります。さっき言った角をね、今まで角抜きだったのに角が来るぐらいだから相当違いますよね。
池田:受講してくださった皆さん、これからAI時代で、マーケティングの仕事どうなっていっちゃうんだっていう不安になってる方もいらっしゃるかもしれませんが、このマーケティングの中でもPRが分かるマーケターって本当にかなり希少部位ですよね。
是非ダイナミックな力を自分のものにすべく、是非今回の連続講座で学んでいただきたいなと思います。井上先生今日は初回のトップバッター、いい講義をありがとうございました。
井上: どうもありがとうございました。
池田: はい。ということで今日の講座はこれにて終了です。井上先生、ありがとうございます。
井上: はい。どうもありがとうございました。
池田: 皆さんまた次回お会いいたしましょう。さようなら。


