講座概要と本田哲也氏の紹介
※このテキストは『マーケターのためのPRスキル強化講座④ PR✕マーケティング考』の書き起こしです。文中の登壇者名表記は敬称略。
池田: はい、皆さんこんばんは。今週も始まりましたMARPSの、マーケターのためのPRスキル強化講座です。
今日はお待ちかねですね、第4回目、PRマーケティングということで、本田事務所の本田哲也さんに来ていただきました。今日はこのPRスキル強化に一括で申し込みをされていらっしゃる方、結構多いんじゃないかなと思います。
実はですね、今回だけちょっと趣向が違いまして、毎回いつも20時半までやっておりますが、今日はちょっと短めの1時間、20時終わりの回でございます。
本田氏と戦略PRの歴史
池田: 本田さんはですね、実は私もものすごいお付き合いが長くなってきていて。
本田さんが、プラップ・ジャパンのグループ会社として戦略PRを専門で行うブルーカレント・ジャパンを設立したのが2006年ですね。私のトライバルメディアハウスが翌年の2007年に設立されているんで、2人の会社がすごく設立も近くて。
本田さんは戦略PRで、2009年ですね、本が出て大バズって業界の中に戦略PRブームが巻き起こったわけです。戦略PRのあまり細かい解説はできないですが、戦略PRっていうのは、通常の広報部がパブリシティを行うというものよりも、宣伝部が特定の商品サービスのプロモーションを大々的に行う前の市場作り、広告の効きを良くしておくために売れる空気をPRアプローチで作っておく。
多くの場合、PRは当然動くんですけれども、広告宣伝予算で行う、宣伝前に行うPR活動みたいなところなんですよね、戦略PRは。
このPRも戦略PRも、SNSソーシャルメディアとめちゃくちゃ相性がいいということで、本田さんとはかねてから結構いろんな案件を実務でご一緒させてもらっていて。
その延長線上で、もうSNS・ソーシャルメディアマーケティングもこの戦略PRも単独で行う時代はどんどん終わっていき、いかにこの2つを最初からセットで行うということを両者が前提としながら、しっかりとプランニングをして実行していけるかというところが肝だよね、と。
このソーシャルメディア時代における影響力の行使の仕方ということで、この戦略PR✕ソーシャルメディアの設計図という『ソーシャルインフルエンス』という本を2012年に書いてますね。もう今から13年前です。
本田さんも、今本田事務所を設立されてシンガポールに移って、カンヌ審査員とか色々と手広く活動の領域を広げていらっしゃいますが。
この経営やマーケティングとPRの連結みたいな話が、実務レベルでできる方というのはなかなか少ないので、今回はこのテーマで本田さんと色々ディスカッションをしたいなと。
対談形式での進行
池田: 皆さん多分見てないと思うんですけど、この講座の概要ページにこれ書いてあって。今日は講義じゃなくてですね。PRとSNSの上手な掛け算方法とか、パーセプションの本質とか、経営に資するPRとは何ぞやみたいな話というのは、一方向的な講義を聞いているだけだと、なかなか頭に入ってきづらいテーマだなと思うんで。
せっかく本田さんに来てもらうんだったら、僕と2人で対談ディスカッションをしながら、いろんな多様な「PR✕○○」のテーマについて深掘りしていくというやり方がいいだろうなという回なので。
僕の前説が終わったら、いつも「じゃあお願いします」っていう感じでやってるんですけれども、今日は僕と本田さん2人で、掛け合いをしながらお話をしていくことになります。
今日の時間割はこんな感じです。20時に終了しますけれども。本田さんのXアカウントはこれですね、@hondatetsuya70 。この70はなんで70なのか後でご本人に聞きますが。
僕も当然フォローしているわけですが、こう言っちゃなんですが、日々結構いろんないいネタを投稿されているんですよ。いいネタというのはTipsとして「なるほどそうやってやればいいのね」という感じのPRは、いろんな方が投稿しているんですけど、考えさせられる投稿が多いんですよ。「なるほど」とか「確かに」とかなんですよ。
今日は、僕が最近の、過去半年ぐらいですかね、本田さんのXを目視チェックさせてもらって。この投稿をネタに本田さんと1投稿あたり数分間、今日ちょっと15個ぐらい一応ネタ持ってきてるんで。
時間の許す限り「これどういう意図で投稿されたんですか」とか、「この背景なんですか」とか、「もうちょっと詳しく教えてちょうだい」とか、そこの話をしていきたいなと思っています。皆さん、是非、hondatetsuya70はTwitter、Xですね、チェックしてみてください。
池田: じゃあ本田さんご登場ください。
本田: よろしくお願いします。
池田: どうもどうも。よろしくお願いします。
本田: 今シンガポールから参加してます。
池田: 今そちらは6時と。
本田: そうですね。こっちの方がちょっと早い。
池田: もうそちらに引っ越してどれぐらいでしたっけ。
本田: 3年目に入ってるんですよね。だから丸2年は超えて3年目って感じですね、今。
シンガポールからの視点とディスカッションテーマ
池田: 今の仕事って、日本にも出張で度々来てますけど。日本で日本企業への支援をやっているというところも当然今もありながら、結構グローバルのアジアパシフィックのヘッドクォーター系の支援みたいなやつはやっぱりシンガポールで増えてる感じですか。
本田: 徐々に増えてきてますね。ただやっぱりどっちかっていうと日本企業への支援で。日本企業の海外進出。日本企業がアジアでとかアメリカでとかヨーロッパでっていう、海外向けのお仕事を結構こっちで受けてるっていうのが増えてきてますよね。
池田: やっぱこのマーケティングもPRもやっぱり悔しいですけど、進んでいるのはアメリカだったり、ヨーロッパだったり、あとはシンガポールだったりするところもあると思うんで。本田さんはそちらにも拠点を移して、相対的に今の日本のPRの状況とか見えていると思うんで。ちょっとそこら辺も今日はね、お話が聞けるといいなと思ってます。
投稿ネタの選定とテーマ
池田: さて、じゃあですね、本田さんと僕が話し始めると話が長いので。次々行きたいと思います。
本田: 何時間でも話しちゃう。
池田: 今日は、僕が本田さんのTwitterの投稿、いくつかの投稿からピックアップしたのはおよそ大体こんな感じのテーマだったんですよね。幅広いんですよ。
本田: ありがたいですね。
池田: これって、ネタとかバラすとあれかもしれないけど、別に一つ一つ投稿カレンダーとか作ってネタを作って今日はこれ行こうとか、別にやってるわけじゃなくて。
本田: 全然やってないですね。
池田: なんとなく思いついた時に思いついたことを投稿してるって感じなんですよね。
本田: あ、そうですね。過去に投稿したのを再投稿することもあるんですけど。あんまりこうカレンダーみたいなのは意識してないですよね。
池田: 僕が整理させてもらったら、半年間ぐらいでこういうようなテーマを投稿している様子でした。
本田: ちょっと新鮮ですね。こうやって整理してもらうのは。
広報PRの真髄:社会とのつながりとメディアリレーションズの役割
池田: じゃあいくつかの塊りごとに聞いていければなと思うんですが。一つ目。まず第1発目ということで、やっぱり広報PRの真骨頂に関するネタがあったんで。行きます。
「やはりPRの真骨頂とはいかに企業(ブランド)と社会をつなげるかだ」と。『広報活動はメディアリレーションズだけじゃないよという意味は、「メディア露出」だけが企業と社会の関係性の発露ではない、ということ』。これも奥深いんで、少し解説をしてもらいたいわけですね。
「それでも、PRパーソンにその経験が大切だと思うのは、真骨頂を会得する近道だからだろうな」。これはどんな思いから投稿された感じですか。
本田: 改めて見るとなんか禅問答みたいな。
池田: そうなんですよ。でも、これだけのリポストといいねがついてるんで。それなりに感じるところがあった投稿だと思うんですけど。
メディアリレーションズの役割
本田: やっぱりPRの本質ってこの「企業と社会のつながり」、マーケティングで言ったらブランドかもしれないですけど、と思っている。その時にその具体的な活動ってやっぱメディアリレーションズって日本で強いので、記事を出したりとかってなっちゃうけれども。
企業ブランドと社会とのつながり方って別にメディアに出ることだけじゃないからって意味ではメディアリレーションズだけじゃないと。
これは他の投稿でも言っているんですけどね。ただこの最後の一文を加えた意味っていうのは。割とPR業界の若手の方とかには言うんですけど、やっぱり一丁目一番地みたいなメディアリレーションって大事だよと。
それは相対的に記事とか番組に出るっていうことが、昔よりもワンオブゼムにはなってきてるんですけど。やっぱりメディアの人と話すっていうことは、どうやったら企業が社会とつながるかなっていう答えがそこにあると思うんですよね。
メディアリレーションだけがPRじゃないし、企業と社会がつながるってことじゃないんだけど。僕はメディアの方と話したり、プレスリリース持って会いに行くとかっていうのは今だいぶ減りましたけど、やっぱり仕事として一番大事な勘所って、そういう経験は大事だなっていう意図ですね。
池田: なるほど。メディアの方々は広告と違って当然枠をお金払って買うわけじゃないんで。その視聴者とか読者にSomething newだったり公共性、公益性のある貴重な情報であるなら報道しますよっていうスタンスだから。記者や編集者の方っていうのは、企業側は当然向いてなくって、読者、社会に向いているじゃないですか。
だからその人たちと話すと、いかに自社が自社主語で事を考えてて社会に向かってないか、自分で思った以上に向かってないということをメタ的に自覚をするから。やっぱりメディアの方と会うっていうことがいいよねっていう…
本田: その通りです。「やっぱりそんなに興味を持ってもらえないか」とかね。そういうネガティブだけじゃなくて、めちゃめちゃヒントもらえる時もあるわけですよね。
「これってこういう観点で見ると御社ってすごいことやってるんじゃないですか」とか、「この商品って面白いよね」みたいな。マーケターとかPR担当としては意外と思いつかなかったな、みたいなヒントをもらえたりするから。客観的な視点がすごくもらえる。
池田: だから、一丁目一番地だからメディアリレーションズはやっぱり通過しておいた方がいい。だけど一方で、ハック的にティップス的にプレスリリースの上手な書き方講座に行って、あとはPRタイムズに投げ込んでおしまいっていうんじゃ、メディアの方とは会ってないからそれじゃだめと。
本田: そうです。それじゃあ意味ないよと。
池田: もう一つの企業と社会との接点っていうのは、メディアだけではなくて、他にも色々ある中の一つがメディアだよねという文脈だと思うんですけど。例えばそれ以外っていうのは。
本田: そこは池田さんの長けている領域のソーシャルメディアマーケティングもあるし、オウンドメディアもあるし。結局メディアとかジャーナリストを介さない接点って今いくらでもありますよね。それはつながり方の手段としてはあるんだけど。オウンドメディアにどういうコンテンツを出しましょうとか。
自分の公式アカウントでどうつながるかっていう時に、また一方通行な話ばっかりしてると。物理的にはつながっているかもしれない、SNSとかオウンドメディアの視聴者に。でも響かない内容になってたら意味ないわけですよね。
メディアの人と話すっていうのは、記事を書いていただいたり番組出してもらうっていうアウトプットもあるけど。視点をもらう。「なるほどな、そういう風に紹介すると結構社会性出るな」とか。それはSNSとかオウンドメディアのコンテンツ作りにもめっちゃ役に立つわけですよね。
池田: そうですよね。本田さんが昔からずっと言ってる関心テーマっていう。
本田: そうです。社会と自社のちょうど真ん中にある。これはどうしてもなかなか難しいですよね。全部自社主語が身に染みついちゃってるから。
池田: 自社主語で広告的にオウンドメディアのコンテンツ作ったりSNSの投稿したって、結局自分が主語になっているから誰も振り向いてくれない。
やっぱりメディアの方と会って、いかに社会の中で自社が興味すら持たれてないのか、じゃあどうしたらいいのかっていう、その思考の癖。ブリッジさせていく関心テーマの設定のコツみたいなやつは、やっぱりそこからっていう意味だったんですね。
本田: もう癖、なんか癖ですよね。そういう思考の癖をつけるのは何年かかかると思いますけどね。
PRの永続的な価値
池田: 広報PRの真の価値や機能ですね。
「メディアやSNSが消滅しても、自分の仕事は残るか?」。要はメディアやSNSを運用するということが仕事のど真ん中になっちゃうと、自分の仕事はなくなっちゃうけど、そうじゃなくて残るのかを広報PRパーソンは是非一度考えてみてちょうだい、と。
PRの起源
池田: 「それらがなかったら仕事になんないなら、それは極めて限定的なPR業務。」になっちゃっているんじゃないかと。「メディアが発明されたからPRという仕事が生まれたんじゃない」。さっきの話に通じますよね。「社会を動かすにはどうするか?というニーズからPRは生まれた」んだよ。メディアに出すっていうことが目的じゃないんだよ、ということですね。
本田: 結構いい投稿してましたね。 これは結構本当に大事というか、自分にも言い聞かせるようなことなんですけど。さっきの話にかなり繋がるということプラス。若干マニアックな話になっちゃいますけど、そもそもPR、つまりパブリックリレーションズがどうやって生まれたかって言うと。メディアがない時代に生まれてるわけですよ、アメリカで。
これ結構大事で。メディアありきじゃなくてテレビもラジオも、なんなら新聞も怪しいですよね。ない時にパブリックリレーションっていう概念が生まれているっていうのが大事で。だからメディアをどう使うかっていうノウハウではなく。どうやって企業、それは主語が企業か政府かもしんないけど、パブリックとつながるかっていうところから始まってるから。
メディアをどうこうしようというのは後付けの話で。実は長いPRの歴史からすると。元々は社会を動かしがどうするかとか、どうやって人を動かすかっていうところから始まってる。そういう話ですね。
池田: なるほどね。すごい面白いテーマじゃないですか。それで1本ノートをお願いします(笑)
手段を選ばないPR
本田: 我々の世代というのは、若い方はもちろんメディアが登場してからこの仕事してるし、マーケターの方もそうだから。仕事の大部分ってメディアをどうバイイングするか、どういう風にPRするかっていうのになってくのはしょうがない。しょうがないし、そうしないと成立しないんだけど、たまにこういうこと考えた方がいいと思ってて。
池田:いつもじゃ困っちゃうけど。「お前そんなこと言わずにリリース、メディアプロモートしてこい」って言われちゃうね。
本田: こんなこと毎日言う人はうざいですよ。 「本田哲也がこんな投稿したんで」とか言って 「だからメディアリレーション行きません」とか、「メディアバイイングやらなくてもいいですかね」とかはやめてください。それは僕の真意ではないんで。
メディアの仕事超大事なんですけど。「メディアがなかったら何もできないですか」というのはまた違うだろうと。
池田: 半年とか1年に1回ぐらいこういう問いを自分に投げかけていくと、「メディア起点のPRのプランばっかりになっちゃってるな」という戒めになるかもしれないですね。
本田: 博報堂の嶋さんが、博報堂ケトルの時から面白いこと言ってて。「恋と戦争は手段を選ばない」と言うんですよね。PRも一緒。つまり手段を選ばなくていいんだと。メディアに記事出しましょうとか記者会見やりましょうっていうのはThat’s手段の話で。
本当にどうしたいかっていう時はもう手段を選ばなくていいから。彼らは手口ニュートラルとか言ってますけどね。ジャーナリストとかメディアとかを介在させないPRのやり方もあるんじゃないかっていうのは常に問いかけてた方がいいかなと思いますよね。
池田: とはいえ、本田さんがさっき言ってたけど、やること全部やった上で。さらにそういう本質的な問いから新たな切り口からの何かが生まれ、発想が生まれると、アイデアとして分厚くなるからいいよねっていう感じですね。
本田: そんなニュアンスですね。
パーセプションの重要性:認知から認識変容への移行
池田: ここからパーセプションのネタがいくつかあって。2つ取り上げますが、まず認知と認識違うぜ問題っていうのは、やっぱりめちゃめちゃ大事で。本田さんも、赤い表紙のパーセプションの本の中でも「認知だけでは売れない時代」という感じで書いてますけど。
「我が社やプロダクトがどうも世の中に「誤解」されてて、、と言う経営者や事業責任者は多いけど、それがパーセプション(認識)の問題だと早く気づいた方がいい」よと。「知名度とは関係ないので認知向上施策だけ打ってもダメ。」要は認知だけ上がってもだめよと。「パーセプションギャップを埋めるコミュニケーション戦略に本気で着手するのが正解」。こちらは。
「誤解」ではなく「パーセプションリアリティ」
本田: これは2つぐらい意味合いが込められてるのかな。まずは、池田さんもそうかもしれないですけど、「なんか分かってもらえないんですよね」みたいな話は多いじゃないですか。若者のこととか、「これめっちゃいい商品なんだけど」とか。
ブランドとか企業に対するロイヤリティだったら愛情だし、自分の子供を分かってくれないみたいなことだからすごい分かるんですよね。ただ、それが「誤解されてんだ」みたいなのはちょっとやっぱり企業側というか主体者側のエゴかなと思って。
やっぱり大事なのは、向こう側からどう見られてるかっていう方に意識を持っていかなきゃいけないから。「誤解されてる」っていう時点でちょっとおかしいと思うんですよね。
池田:それが正解というか事実でしょっていう。
本田: そうです。パーセプション is リアリティという言葉があって。結局世の中どういう認識かっていうことが現実だから。いくら自分で「本当は違うんだよ」「俺こうなんだよ」とか、「この商品こうなんだよ」って言ってても、それはパーセプションからすると現実じゃない。もうそう見られちゃってるっていうのはそっちの方が現実だよっていう言葉があるから。
だから、誤解を解こうっていう発想よりは、本当にどう見られてるのか。色々調査をしたりとか手法はありますけどね。頭に来ることとかがっかりすることもあるかもしれないけど、冷静にパーセプションを把握するっていうのがまず大事。
もう一つ込めた意味はさっきの話で。知名度とか認知度とは関係ないというか、知ってるか知らないかとは違う話ですよね。「もっと知ってもらおう」って、その認知向上施策にお金バンバン入れるっていうのは。認識がおかしいまま有名になるだけ。
あるいは、もう「有名」って意味じゃ認知度90%じゃんみたいな商品とかブランドはやりようがないですよ。それ以上知ってもらおうったって。やっぱり広告とか認知施策に割と投資しがちなところはあると思うんで、そこに対する気づき。
池田: 本田さんのパーセプションの本が出たのはもう4、5年経ちましたか。
本田:2022年かな。
池田: じゃあ3年ぐらいですね。ありそうでなかったんですよね。パーセプションの本って。
本田: かもしんないですね。
池田: このパーセプションギャップ。つまり認知を上げよう、認知が上がったら売れるだろうから認知を上げよう。ただ、認知が上がっても売上はきれいに相関をしないので、うちは認知じゃなく想起されなきゃダメだよって最近はずっと言ってるんですけど。
本田さんもおっしゃる通りで、例えば子供だけじゃなくって大人も十分にお楽しみいただける商品だとしても、「この商品は子供用の子供のための商品でしょ」っていう認識されちゃってたら。どんなに認知上げたって、それは「これは大人じゃなくって子供のものでしょ」って思われちゃうから。そのパーセプションギャップ埋めない限りはしょうがないよっていうことじゃないですか。
本田: ですね。
認識変容への取り組み
池田: 本田さんのところにどれぐらいこの認知を卒業して、ようやくパーセプションギャップ埋めないとだめなんだなっていうコミュニケーション設計を相談してくるところって、ちょっと高度な要件だと思うんですよね。
最近どうですか。若干やっぱり増えてきてますか。このパーセプションというものをちゃんと正しく認識し、ギャップを埋めていこうっていうような取り組みは。
本田: いわゆる大企業からめちゃ増えてますよね。生活周りで見ても、大体認知度が9割ぐらい行ってるロングセラーブランドとか多いわけですよ。そうすると、それの認知度を上げるっていうよりも、若い世代にもっと売らなきゃいけないとか。ジェネレーションギャップとか性別とか色々ありますけど、見え方を変えなきゃいけない。
もっと言うと、そのパーセプションギャップ自体が売上を阻害している要因じゃないか?というところまでたどり着いていれば、おのずとそういう相談になってくる。
実際なってるケースが多いですよ。それは知ってるかどうかじゃなくて。「そんなものだと思ってませんでした」とか「自分の生活に関係ないと思ってました」っていうのが、結局その売上の障害要因になってるケースも多いので。
池田: 本田さんも関わっていらっしゃる味の素冷凍餃子とか。あれもまさに「手抜きじゃなくって手間抜きです」っていうところで、パーセプションが大きく変わったわけじゃないですか。
本田: そうですよね。認知度が100%近いですからね。
池田: そうですよね。冷凍餃子を晩御飯に出しちゃったらそれは手抜きだから自分の良心の呵責が。「手抜きじゃなくって手間抜きなんだ」っていうパーセプションに変わっただけで。自信を持って食卓に出せるようになるわけですもんね。
本田: 利用意向とか購買意向に直結するパーセプションを変えた話なんですよね。
池田:皆さん、今日はちょっとそのテーマじゃないんだけど、実はこのパーセプションとブランド連想とかイメージっている話は結構似ているんですね。このパーセプションがキャップが埋まって正常なところに行っていることでカテゴリーエントリーポイントを獲得し、想起されるっていうところとパーセプションギャップを埋めるって全部話がつながっているんです。この辺りは皆さん深堀るとめちゃめちゃ面白いと思いますね。
商品パーセプションか社会パーセプションか
池田: もう一つパーセプションに関して。パーセプションチェンジですね。
本田さんがいつも出しているピラミッドの、パブリシティがあって、パーセプションチェンジがあって、ビヘイビアチェンジがあるんだという。この真ん中の認識変容。「パーセプションチェンジ(認識変容)はマーケティング的にめちゃ大事なのだが発想のコツがあって、自社の商品のパーセプションをどう変えようか?」ほとんどの方がこのアプローチで考えますよね。
じゃなくて、「どんな社会のパーセプションが変わったら自社の商品が売れるようになるか?って考えた方がいい。この違いわかるかな?」と。
本田: もちろん、どっちもありなんですけど。自社のブランドとか商品のパーセプションを変えるってのは一義的には大事なんだけど。場合によってはってことですよね。場合によっては自分のところの商品のパーセプションをいじるというよりも。社会側、使う人々側。
何の話をしているかと言うと、既存の社会習慣とか、さっきの冷凍餃子の話は結構近くて。冷凍食品というものを食卓に出すという行為。これは社会で起こっていることで、それが「手抜きだ」とか「サボってんだろう」とかいうのは一つのパーセプションなわけですよ。
それを商品のパーセプションを変えるというよりも「違う、これは手間を抜いているだけで今時めちゃめちゃ賢いやり方だよ」とか。「みんなが幸せになるためにこういう社会にしていった方がいいね」みたいな。
そっちに持っていくのは商品のパーセプションじゃないんですよね。それが必要になるような世の中にしていくためのパーセプションっていうのがあって。そっちを変えるってのは結構PRが得意なことで。なかなかアドバタイジング(広告)ではできないんですよ。
池田: そうなんですよ。広告ではもう10億20億使ったって、その社会のパーセプションを変えるのって相当難しいじゃないですか。それをまさにこのPRの真骨頂としてやるんだと。
すごい似ているアプローチに聞こえるかもしれないけど。発想の出発点がもう全然違うじゃないですか。冷凍食品に対して社会の人たちが思っている社会通念としてのパーセプションそのものを変えれば。自社の商品が、みたいな話は一切何もしてなくっても。社会のパーセプションが変わるんだから、そのままの商品が受け入れられる土壌が整うということを言ってるわけです。
本田: そうですね。セットですけどね。両方の相互作用によって売上ができていくっていう考え方。ケースバイケースでよくそういう分析するんですけど。「御社のブランド、このブランドの場合はどっちの方が早いか」って議論があって。あるいは勝ち筋か。
「これは意外と社会側のパーセプションを変えるっていう方が勝ち筋である」という判断をしたらそういう戦略を取るし。「ちょっときついかな」と。社会側のパーセプションを変えるって考え方はあるけど、リソースとお金相当かかるぞと。それだったらやっぱ商品側をいじった方が近道だっていうケースももちろんありますよね。
池田: 社会のパーセプションそのものを変えちゃおうぜっていうことに取り組んでいい企業というのは。戦略PRと同じでやっぱり業界最大手じゃないと。社会通念が変わったら業界各社全員の売上になるじゃないですか。それで一番儲かるのはトップシェアブランドだから。業界2位とか3位とか5位とかの企業が社会通念を変えに行くってのは筋としてあんま良くないですよね。
本田: シンプルに言うとそうでしょうね。この間、面白い、さっきシンガポールでアジアって話が出たんですけど。まさに一つの例で言うと。例えばバイクにみんな乗ってるじゃないですか、アジアの国って。ベトナムとかフィリピンとか。インドネシアとかね。 すごいでしょ。バイクも日本のヤマハさんとかスズキさんのが多くて。いいビジネスになってると思うんですけど。
面白いのが特にフィリピンかな。「女性はバイクに乗るな」という社会通念みたいなのがあるらしいんですよ。この理屈で言うとですよ。「女性だってバイクに乗っていいんだ」っていうパーセプションに変えてった方が、市場がぐーんと広がるっていうことになるわけですよね。
ヤマハがどうだとかスズキがどうだっていうパーセプションを変えるよりも、そっちを変えた方がいいという発想になるから。アジアは割とそういう話がまだ高度経済成長中の国もマーケットもあるんで。意外と多いですよね。
アイデア発想とネットワーキングの最適解
池田: じゃあちょっと次行きますね。アイデア発想は2個ぐらいあったんですけど。カンヌで、本田さん、もう何年やってますか?審査員。
本田: 審査員は毎年やってるわけじゃないんですけど。いろんな関わり方でもう10年ぐらい、10年以上かな、関わってますね。
異なる業界からのヒントの発見
池田: この「カンヌで膨大な世界中の事例を見ていて思うけど、案外自分達と全然違う業界やカテゴリーの成功例にヒントがあったりするかもね。」自分たちと全然違う業界にヒントがあるんだと。多くの人は同じ業界やカテゴリーの中での成功事例をほとんどの人が知りたいんだけれども、そうじゃないよ的な投稿なんですけど。
本田: これは本当に思うんですよね。カンヌなんか行くともうものすごい何千という事例見れるから勉強になるんですけど。やっぱり食品会社だったらついつい世界の食品のキャンペーン見ちゃうし。自動車会社の方がいたら世界の自動車の事例を見ちゃう。
それはそれでいいと思うんですけど。意外とちょっと離れたカテゴリーにヒントがあって。業種が一緒っていうよりも、僕は状況が似てるものを探した方がいいと思って。
つまり、例えば業界ナンバーワンなんだけど、めちゃめちゃナンバー2にキャッチアップされつつあるとか。 あとは50年ぐらい続いたブランドで大人気だったんだけど、去年ある不祥事をやらかしちゃってそこからズドーンと売上落ちたとか。
色々なシチュエーションってあるじゃないですか。これはインダストリーという意味での業界関係なく、似たような状況に陥ったブランドのケースを見た方が参考になることもあったりするんですよね。
池田: それは確かにめちゃめちゃありそうですね。
本田:マーケターとかも、かなりの解像度でそれを見なきゃいけなくて。車だから車とか食品だから食品、じゃない。自分のブランドが今どういう状況にあるか、何を乗り越えればいい感じになるのかというところまで理解しないと、これは成り立たないですからね。
池田:辛口なことを言うと、事例が好きな人というのは、すごく分かりやすくてすぐに真似できそうだからっていうところが心のどっかにだいぶあると思うんですよ。その事例を見てる時とか研究してる時とかって、すごく受動的だったり無目的だったり。「なんかいいのがあったらパクらせてもらうぜ」的な感じだけど。
この視点で考える時には、めちゃめちゃ目的に能動的に何かを発見する気構えでゴリゴリで掘りに行かないと。同じ事例を見てても「使えるじゃん」というところまでたどり着けないですね。
本田: そうなんですよ。リバースエンジニアリング、1回分解してないとだめで。表面的な成功とか、表面的な格好いいみたいなことじゃないから。自分のブランドはこういう構造の問題があるかなということと。他のキャンペーンがどういう構造になっているか、アイデア構造って書いてありますけど。それをちゃんと把握しなきゃいけない。それが似てるんだったらこれ応用できるんじゃないのって話になるから。 結構上級編かもしんないですけどね。
池田:なるほどね。でも、その上級編の研究をしない限り、表層的な事例の研究を自分たちの実務にそのままパクって、これとこれとこれを足して3で割る、みたいなことをしても絶対うまくいかないじゃないですか。
本田:絶対うまくいかないですね
池田:だからこの「アイデア構造」という言葉を使ってたんですね。
業界内の交流と「同質性」の危険性
池田: これはちょっと違う切り口のネットワーキングの文脈もあるんですけど。広報PRの世界、広告とかマーケも全部そうですけど。村を形成するから、「業界狭い問題」じゃないですか。同業との交流会とかいっぱいあるけれども。「一人広報だと寂しいからみんなで仲良くしたい」みたいなのがあるけど。「あんまり行きすぎはあんまり良くないよ」的な感じ。これはどうですか。
本田: そうですよね。広報PRだけじゃなくてありますよね。スタートアップ界隈。基本いいんですよ。ただ。どっかでちょっと冷めた目でも見といた方がいい。これは特に広報PRって仕事だから言ってるんですけど、なんでかっていうと。広報PRってあんまり同質的になっちゃだめで。
「こういう考え方の人いますよ」とか。さっきのジャーナリストの会話とか「全然違う目で見てくる人もいますよ」とか、これ自体が価値になるじゃないですか。
それを提案したりとか、インハウスだったら社長とか上の人に提言したりすると「なかなかいい発想するね」とか「そういうアドバイス待ってたよ」みたいになる。それが広報PRだけで集まっていると、廃れてきちゃうはずなんですよ。その、ものの見方が。
池田: なるほど、自社に特有の特徴なり差別的競争優位なり、違い・差別化ポイントみたいなものを見つけるためには。同化をしているところに飛び込んで、とことん同質的なところにはまるのもいいけど。「これが同質なんだ、じゃあこうずらすと異質になるな」という観点で同化をするんだったらいいかもしれないですね。
本田: そうですね。だからほどほどにっていう。もちろんいいんだけど、そればっかりにはまっていくと自分の視野が絶対狭くなるはず。
池田: 同質の慣習の中に浸かってないと、何が異質か、何が違いなのか、差別的なポイントになるのかっていうところの相対比較もずれそうだから。「ほどほどに」っていう表現がちょうどいいんですね。
本田: バランスですね。
経営層への関与と社内連携:PRパーソンの役割
池田: 「こういう時代だからこそ、広報パーソンはもっとずかずか遠慮せずに自社の事業や経営に乗り込んでいくべき。ただしお土産を持って」行ってよと。「お土産は『社会の関心や潮流』という客観的な見立てと視点」どんどん経営や他事業部にズカズカと行こうよ、という話とか。
あとは「広報担当者の時間の6割は社内調整に使われてるって話がある。だから攻めの広報ができないってネガも聞くけど、結局攻めるための魅力的なタマは社内にしかないのも事実。」だから「社流と時流をつなぐのがプロの広報なんだな。」これはお土産話とか、社内で潤滑油のように動き回れみたいな感じの話ですけど。ここら辺はいかがですか。
経営層への提言に必要な武器
本田: 事業会社の広報の方をイメージして。代理店とかよりも大変な仕事なんですよね。広報PRが、今日のテーマもやっぱりマーケティングに重要な視点だとか、経営にとって重要な視点っていう風にはここ数年でどんどんなってきてるから。一つはやっぱこの「ずかずか遠慮せずに」っていうのに現れてますけど、自信持てよというか。
日本は特に広報PRとかでちょっと下に見られたり。「いいからリリース出しときゃいいんだよ」みたいな。事業戦略とかマーケティング、大事なことはこっちで決めてんだから。「言われたようにして」みたいな。そこで引いちゃだめで。対等な議論とかができるようになんなきゃいけない。
対等な議論ができるためのお土産というか武器は、この社会の関心や潮流。もしかしたら経営者とか事業部長とかブランドマネージャーとかマーケティング責任者にないものの見方というものを持っていく。そうじゃないと話聞いてもらえないですし。「なかなかいい意見を投げ込んでくれたかも」って思われないですよね。それは頑張って身につけなきゃいけないと。
池田: 社内で「自社で素晴らしい商品作ったぞ、多くの人たちに分かってもらいたい」という完全自社主語で物事を考えて仕事をしている方々と。社会という「彼らもあなたに別にそんなに興味を持っていません」というところのこの認識のギャップを埋めていく。
ちょうどこの狭間に立っているのが広報部じゃないですか。だから社会の方を向いて、「あなたたちそれを自社で話したいのは分かるけど、社会はこうですよ」みたいな感じのものをお土産にしてつないでいくみたいなところをやっていかないといけないということですよね。
本田: 家の中と家の外の話だとしたら、もう体の半分は玄関に行って体の外で、みたいな。攻めの広報のタマは言っても結局社内にあるんだと。「私は外の視線は持ってきますけど、社内のことは知りません」とか。それもまたダメなんですよね。
うまいこと両方の間ぐらいに立ってる人っていうのが。
池田:家の奥深くまで行ってネタを仕入れて、外の社会に出ていって。社会の潮流を読んでまた家の中に入ってっていう。常にどっちかにいちゃだめで、行き来をするから価値がある。
本田:そうそう。ずっと玄関に立っててもだめですから。フットワーク軽くダイナミックに行き来すると価値が上がってきて。
社長に信頼されるPRパーソンの資質
本田: 僕も知ってる人で優秀な方は、社長がすぐ聞くんですよね。「事業責任者こう言ってんだけど、広報としてはどう思う?」みたいな。ここまでいくと、かなりずかずか遠慮せずにやってるし、むしろもう社長の右腕みたいになってるわけじゃないですか。
池田:社長が本質的にパブリックリレーションズというものの可能性なり力なりに理解があるというところは前提だと思うんですけど。そこまで重用されているPRパーソン。何が社長にそこまで信頼されているんでしょうね。
本田: 何人かそういう方がいて、いろんなパスがあると思うんですけど。一つは、社会のお土産っていうのと若干矛盾するかもしれないですけど。やっぱり「俺が考えてること、私が考えてるっていうことを本当に分かってるな」ということですよね。
池田:社長が「こいつ俺の言っている本当のところちゃんと理解してる」と。
本田:自分の代弁者、「この人はちゃんと芯を食ったこと言うだろうな、自分の代わりに」という。一つはそれで。それがあった上で、外の視点も持ってくる。それは社長には立場上できない、難しいので。外の風も持ってくる。でも自社のことも分かってる。その領域まで行ってる人は、すごい右腕的な広報になってますよね。
池田: 大企業の社長クラスの人から認められる広報パーソン。「俺が言ってることをちゃんと理解している上で外に詳しい」みたいなキャリアって言うと、やっぱり40代とかぐらいですか。
本田: そうですね。大企業だとおのずとそうなるでしょうね。 最近のスタートアップだと30代ぐらいでそういう人います。いますよ。
池田: 規模にも寄っちゃうけど、社長の全幅の信頼を置かれている広報PRパーソン。キャリアとしては5年7年とか10年でそれぐらいになってる人たちもいる。
本田: 全然いるし、今そういう時代じゃないですか。
本物のPRパーソンを見分けるリトマス試験紙
池田: 本田さん、ちょっと刺激的な投稿がありました。なんか感じるところがあったんでしょうね。
「本物の人と情報商材的な人を見分ける方法。それは『PRは無料だ』『ただでメディア露出』を言ってるかどうかに限る」と。これがリトマス試験紙だと。本当にPR分かって成果出してる人は死んでも言わない、このフレーズ。
本田:言わない。これは自信あります。絶対言わない。
「PRは無料」という誤解の背景
池田: どうですか。最近ノートとかYouTubeとか色々あるんですけど、なんか思うことありますか。
本田: そうですね。池田さんも初期の頃知ってると思うんですけど、まだまだここまでPRが認められてない。20年前とかもっと狭かったじゃないですかね。戦略PRの話とかあって、裾野が広がってきて、業界自体も広がってるし、話題も増えたし。これは喜ばしいことだと。
何でもそうですけど、裾野が広がってくと色々出てくるじゃないですか。まさにそういう感じだと思いますよ。割と元からあったんですよ、これ日本は。
なぜならPRっていうものが広告のおまけ的な扱いが強かったので日本は。大手代理店からすると、ぶっちゃけそれでいいというか。大きな案件がある時に、「ちょっとおまけでパブリシティもお願いしますよ」って言われて。請求しないでできるじゃないですか、全体の予算の中で。「PRって別にそんなフィーとか払ってやることなの」とか。たくさん出稿してたらおまけでついてくるものなんじゃないのっていう発想。
だからそういう習慣というか。これは海外には比較的ないです。「PRは無料」とか言ってる人いないんで。
池田: 海外、アメリカ、ヨーロッパはパブリックリレーションズとかPRパーソンの社会的地位、すごい高いじゃないですか。日本は本田さん言うように、やっぱり電通博報堂強すぎて。電通の傘下に電通PRがあって。広告代理店傘下のPR会社が日本で一番でかかったっていう歴史がやっぱり長く続いちゃったから問題というのはやっぱりどうしてもあると。
本田: ありますよね。アメリカもすごく裾野が広いんで、変な人もいっぱいいますよ。アメリカの多分日本の10倍ぐらいはPRパーソン人口がいるとして。みんながそんなすごいわけじゃなくて。うさん臭い人もいるんです。大きな市場って何でもそうじゃないですか。
池田: そうですね。これをリトマス試験紙にして、事業主の広報の方とか、支援側のPR会社に勤めている方とかは、僕もここら辺はちょっと境目だなと思いますので気をつけましょう。
PRとマーケティングの連結:成果測定とKPI設定
池田: ここからPRとマーケティングのところなんですけど、広報PRパーソンは「どれだけメディア出るんだ」とか、最近は僕が話を伺ってる広報PR担当の方とかも、「広報なのに売上上がったのか」ってすごく詰められるという風に皆さんおっしゃってる。そういう潮流になってきちゃってる。これはとても良くない。
本田さんも、PRってのはパブリックとのリレーションを作るんだから。別に売上を目的にして活動しているマーケティングとは違うんだから、答える必要はないんだけど。
「『このPRで露出量をどう想定しますか?』には答えないといけない」ようだし、最も重要な問いは『どういう状況になったら(=生活者の認識変容とその規模)売上向上が見込めますか?』。ここら辺ちゃんとマーケティングと行き来をしながら、考えたり会話できないといけない。
定量的な状況見立ての重要性
本田: やっぱり人が動いて、その前に認識が変わったりして「あれ」ってなって、それで「買ってみようかな」ってなって、実際買うって相当すごいことじゃないですか。それを何十万人、何百万人に起こしていこうっていう。これは相当難しいことで、そんなことを起こすのが、池田さんもよく言ってるけど「魔法じゃないんだから」と。
一つの手段とか一つのCMとか一つのPR記事で起こるわけない。どこまで行ってもブラックボックスのところもありますけど、メカニズムとして作用し合った結果で、買う人が増えたり売上が上がったりするから。ここはPRだけとかマーケだけっていうよりも、やっぱり共同作業だと思うし。
どういうところを把握していくかと言ったら、この状況見立てが大事で。例えばさっきのパーセプションギャップがある。これは調査とかすれば分かりますよね。このパーセプションギャップが解消されたら。計算上は20%ぐらい購買意向者が上がるんじゃないか。これもある程度想定はできることですよね。
じゃあ、20%ぐらいの人に対してパーセプションギャップを解消するには。パーセプションギャップを解消するコンテンツをどれぐらい出せばいいかって、やっと落ちてくる。そうするとPRの領域になってきて。いろんな露出とか、ペイド、ソーシャル、オウンドも含めて、このぐらいのリーチは必要なんじゃないですかと。
どんどんこれはPRの人が分かってなきゃいけない。そこはやっぱりしっかり答えなきゃいけないんだけど。ゴールが「記事が100個出ました」とか。「想定1000万人にはリーチしてんじゃないですか」っていうのは、はっきり言って何の意味もなさないわけです。
池田: PRパーソンも。KPI設定とか、シミュレーションで。この最終的な状態目標に近づくためには何がどうなってなきゃいけないのかって。基本足し算と掛け算だけで全部計算式が組めるから。算数レベルなんですよね。使っている難易度は。電卓でもできるぐらいのレベルなので。数学マーケティングとか、難解な方程式とか一切いらないんだけど。
結局この売上になるためには。これだけの意識・態度・認識変容が起こらなきゃいけなくて。そのためには何人に何回どのコンテンツがどれだけ伝わっている必要があるのか。伝わることによって意識・態度・認識変容は何%の転換率で起こり、その何パーセントが実際の購買にどれぐらいの遅延浸透効果で行動に変わるのか。
ああでもないこうでもないって計算しながら。当たったね、外れたねって、少しずつ精度高くしていくっていうことをやんなきゃだめってことですよね。
本田: PDCAを回していく。それが一番精度が上がると思う。
池田: そうですよね。メディア露出をしましたとか、クリッピングをしたりとか広告換算とかも。そういうことやってる場合ではないってことですよね。
本田: 量を把握するには必要なこと。広告換算はもうあんま見ないですけどね。 記事の数とかリーチっていう量的な部分は、ベースとして。それは算数の計算式の一番最初のところに登場しなきゃいけないから。必要なんですけど。
PRパーソンのキャリア戦略:経営統合とAI時代への対応
池田: この辺の話ができるのはやっぱり本田さんだな。
「真の広報っていうのは、経営者の頭の中を可視化できるストーリーテラーだよね。商品広報とか企業広報とかって切り分けがもはやあまり意味なくて、なぜなら経営者の頭の中では商品も企業も一体だから」と。
「経営レベルで策定されるパーパスや未来シナリオ発信に、従来の縦割広報組織は追いつけていない」と。
経営者の頭の中を可視化するストーリーテラー
本田: これもさっきの経営者の右腕になるPRパーソンということにつながるんですけどね。この言葉を変えると「経営者の頭の中を可視化できるストーリーテラー」みたいな。
一つはその頭の中を可視化できるんだから、もう分身レベルで憑依してるかのように社長の言いたいことが分かる。このストーリーテラーというのが大事で、分かって代弁できてるだけでも意味ないわけですよね。それはもしかしたら顧問弁護士も分かってるかもしれないし。
顧問弁護士にできないのはやっぱりストーリーテリングで。これはコミュニケーターとしてのPRパーソンとか、コミュニケーションの仕事の領域に入ってくる。それをどう魅力的に伝えるか。
あるいはさっきの話で、社会から見るとこういう話の方が有効だから、ちょっとだけ違う切り口で伝えると響きますよね、とか。この両方があると素晴らしい広報、真の広報ということになる。
歴史的に、商品の広報ですとか企業広報ですとかインベスターズリレーションズですとか社内広報ですとかって、割と手段別に切り分けられてきた歴史があるので、セクショナリズムもある。経営者の頭の中にはセクショナリズムはないので。全部が融合して課題になっている。
今消費者側を考えても。企業ブランドを考えて消費行動も起きるし。「この企業いかがなものか」とボイコットもされるかもしれない。コーポレートコミュニケーションみたいな領域も切っても切れない。どんな商品が出るか。企業としてのいいふりをしても、「お前のところの商品これ違うだろう」とか「環境に配慮していないだろう」とか。
境目がないんですよね。若干そのセクショナリズムというのが、社内も支援会社も追いつけてないところがあって。
池田:広報部はいろんな縦割組織の潤滑油として、外を含めてあっちこっち走り回るというところもあるし。広報部の中でも、社外に対して活動されているチームと、おっしゃる通りインターナルのコミュニケーションの社内広報だったり。大企業の場合、IR担当とかも。すごい縦割り。広報の中ですらね。
PRキャリア形成における「掛け算」の視点
池田: なんで本田さんは広報の仕事をしてきたのに。他の人よりもこのマーケとの連結だったりとか、経営との連結だったりとか。広告宣伝とPRの違いを、広告宣伝のことをよく分かってるからPRとの違いも相対比較ができるとか。そっちに近づいていけたわけじゃないですか。これは何なんですか。何が違いますか。
本田: やっぱり越境的なことなんじゃないですかね。好き。やっぱり僕、事業会社を経て30手前ぐらいで広報PRの世界に飛び込んだんですけど。1回事業会社やってたからかもしれないですけど、別にPRっていうものが全てだとは思わない。手段だし。アメリカのPRみたいなのはすごいなと思ったんだけど。
これが日本のマーケティングと融合したらどうなるかとか、日本の広告と融合したらどうなるかとかっていうのは。初期の頃から思ってたかもしれないですね。
池田:PRのスペシャリストになっていったんだけど。別にPR信者でPRズブズブの井戸の中にいたわけじゃないからっていうところが良かったと。
本田:そこはむしろ避けてきました。頭の中にPR発想は常に持つようにしてるんだけど。そのPR発想を発揮する場所は、色々クリエイティビティとか宣伝広告領域とかマーケティング領域とかあるわけじゃないですか。そこにPRの発想を広めるということをすごく意識して。もう25年ぐらいかな、やってきたんで。
池田: これは逆説的でいい答えですね。PRの業界でいい広報PR、それこそAI時代に負けない、これからの時代で勝ち残っていける広報になるためには広報PR業界に閉じないっていうところが実は一番大きなポイントだと。
本田: そうですよね。閉じちゃだめじゃないですかね。
池田: 掛け算のところに価値がどんどん来るから。掛け算ということは、相手のことも一定レベルでちゃんと知らないと掛け算にならない。
本田: そうです。広く浅くって意味では言ってない。広告のことも勉強しましょう、マーケティングのことも勉強しましょう、いろんなところに首を突っ込むっていうのじゃなくて。掛け算がどこに発生するかという頭を常に持つことじゃないですか。
池田:自分が立脚している広報PRの領域の部分と、ほぼ同じレベルでというのは厳しいにしても、なんとなく知ってるレベルではない。ある一定レベルまでちゃんと、1.5個ぐらい持っていて掛け算ができるといいですね。
本田:PRパーソンはやっぱりブランドマーケティングとかも勉強した方がいい。してない人が多いんですよ。「そういうのはちょっと違うんで」みたいな。マーケターもそうですよ。「自分はマーケティングの仕事をしてるから、広報だのプレスリリースだの関係ない」と思ってる人もいっぱいいる。
別にプレスリリースの書き方を毎日練習しなくてもいいけど、PRってどういうものかというのはマーケターが勉強すべきだし、クリエイターもね。クリエイティブディレクターがPRのことをわかってるってのは最強ですよ。
AI時代に生き残るキャリア戦略
池田:時間になってしまいました。最後に、 広報PRパーソンのキャリアの積み方。世の中不確実な中で、全ての人がやっぱり今不安だし。本当にこの会社で、この業務でこのキャリアを積んでいって。AIに負けない人生100年時代、手に職して飯が食っていけるんだろうかっていうのは。全員が持っている悩みだと思う。これからこういうことをしておくといいんじゃないの。安心できるんじゃないのっていうところを最後に一発。
本田: これはやっぱりAIの話とだいぶ関わってきて。最近はブルーカラービリオネアなんて話も出てきて。AIに負けないというか。AI自体ができないところと、身体性が伴うところ。
あとはやっぱりかなり新しいものを生み出すっていうクリエイティブの領域。画像を作るとか動画を作るというクラフトの話をしてるんじゃなくて。まだ見ぬ何かを思いつくみたいなところは、やっぱり構造上まだちょっと難しいと思うんで。それを広報PRの仕事に絡めればいい。
例えば、本当に生身の人間で会いに行ってジャーナリストからインプットをもらうとか、そういうリレーションとかはAIはできないですよ。あとは、どういう文脈にしたらいいか。誰もまだ見たことのない文脈で、この企業を語って、このブランドを語っていけないかみたいなのは、やっぱり残る領域で。
持っていかれるのは、割と表面的な報道分析とか。色々な調査みたいな。これはもう圧倒的に、僕らもそうですけどAIに任せちゃえばいいんで。そういうところだけやってるキャリアだと厳しくなる。
池田:社長に「これで行きましょう」「なんでだ」「AIがそう言ってるんで」って言ったら、「バカ野郎」ってなっちゃうから。やっぱりその社長と話をしたり、メディアの人と話をしたり。
あとは各事業部の利害が一致してなくてコンフリクトで、「俺は聞いてないぞ」とか「俺はあいつが嫌いだ」とか。そういったところを縦横に動き回りながらコンテクストプランニングして、社内の合意形成を取っていくみたいな。
本田:極めて人間的な合意形成。これはAIにはできないし。AIの力も借りたデータドリブンなところが今求められるし。やっぱり確実に未来を作る仕事だと思った方が良くて。過去を分析する仕事じゃなくて。
あとは属人的な経験。職人的なところがあるわけですよ。職人の人がパッと手を入れて「まだ温度が」とかやるじゃないですか。「ここの空気感だと湿度感だとだめだ」とか。そういう目に見えない暗黙的な経験ってあると思いますよ。リアルな仕事。
池田: 皆さんいかがだったでしょうか。Xの投稿を一瞬見ただけだと分からない奥の話まで聞けて、僕もすごく面白かったです。
本田: こんなんで良かったんですか。
池田: 僕は大満足ということで。この続きが知りたい方は@hondatetsuya70をフォローしてください。なんで70でしたっけ。
本田: 1970年生まれというだけです。
池田: セブンティだったんですね。
本田: セブンティです。
池田: 皆さん、よかったらフォローしてチェックしてみてください。
本田: お願いします。
池田: 時間が押しましたが、今日はこれにて終了です。本田さんありがとうございました。
本田: どうもありがとうございました。
池田: 皆さん、また来週再来週かお会いいたしましょう。失礼します。



