講座概要と学習の目的
今週のテーマ「カスタマージャーニー」
池田:はい、皆さんこんばんは。今週も始まりました。MARPSのデジタルマーケティング連続講座でございます。
今日はですね、12月12日、16回のうちの5回目、カスタマージャーニーについての回です。カスタマージャーニーをお話しいただくのであればこの方を置いて他にいらっしゃらないと思っております。株式会社ニューバランスジャパンマーケティングディレクターの鈴木健(すずきたけし)さんにお越しいただいております。
今日はですね、もうめちゃめちゃ多くの方から申し込みいただいていまして、もう450人ですよ。450名の方が申し込んでこのテーマについて学びたいということです。
このカスタマージャーニー、意外と難しいと言うんですかね。作ったけどなかなか現場で日常的に使いこなせてないという方々が非常に多いんじゃないでしょうか。是非今日はそこら辺のコツについても勉強していっていただければと思います。
点と線と面をつなぐ学習法
いつもお話ししていますが、ざっとまた、前説でお話ししますね。マーケティングは幅がめちゃめちゃ広くて1個1個の奥が深いので一生懸命勉強していてもですね、点と線と面が繋がらず現場で応用が効かないといった課題をかなり多くの方々がお持ちです。
デジタル施策はめちゃめちゃバリエーションが多いので、しかもやっているその領域もかなり細分化がされてしまっているが故、学びも実務の実践もどうしても「点」になってしまいがちなわけです。
ただマーケティングってのは流れがあるわけですから、必ず線として繋がって最終的には売上に繋がるわけですが、その前工程と今工程と後工程みたいなところの繋がりがいまいちわからないというお悩みを、かなり多くの方が持ってます。
ということで、このデジタルマーケティング連続講座も、MARPSすべてですがこの面をしっかり理解することを意識をしながら、この面の中のどの線のどの点を学んでいるのかといったところをきっちり逆引きしながら、全体を俯瞰して体系の中で今ここを学んでいる、とやっていくと比較的迷わずに習熟に向かっていけるんじゃないかということで、構造、俯瞰、体系と線を意識しながら点を学ぶということを是非皆さんも意識していってください。
デジタル時代におけるマーケティング
デジタルマーケティング連続講座なんですが、込めている想いは「デジタル時代におけるマーケティング連続講座」ですね。
リアルなマーケティングをやってたところにデジタルが来たんで、デジタルマーケティングもやっていこうぜ。これ別々なのはイマイチだから融合連携させていこう、みたいなものはもう結構過去のことで、今はもうありとあらゆるものがオンライン化デジタル化をしている時代において、マーケティングどうやっていくかっていう話なんで、右側に移行してるわけですね。
別にデジタルがすべてであってデジタルで何でもできるって言ってるわけじゃなくて、一般生活者とか消費者の人たちはもうデジタルまみれの空間で生きていて、SNSだって当たり前に使ってるわけですから、デジタルSNSが超当たり前の時代においてテレビCMはどうか、PRはどうか、みたいに考えていく。
デジタル時代に従来型のマーケティングをフィットさせていくという考え方が大事だと思います。
なので今回のカスタマージャーニーっていうのも、20年前のジャーニーと、このデジタル化をしたSNSが当たり前になった時代における消費者のカスタマージャーニーってどうなってんの?という考え方が、自然だよねということです。
デジタルをどう上手く使おう、SNSをどう上手く使おうってことも大事なんですけど、それらが当たり前の時代においての消費者のジャーニーってどうなってるのという考え方ですね。
連続講座の体系と今後の予定
全体的な体系図は、今回デジタルマーケティング連続講座で学ぶのは、このピンク色に塗っているところを1個1個学んでいってもらうことをやっています。オリエンテーションが終わって、概論①②が終わり、前回はMOpsを廣崎さんにお話いただき、今日がカスタマージャーニーです。
年内はこれで終了で、来年新年1発目が小川さんによるエビデンスとベストマーケティング、カテゴリーエントリーポイントみたいなところのテーマを学んでいく感じになります。後半はこの1個1個の具体的な施策について掘り下げていくというプログラムになってます。
今日の時間割は、今から引き継いで、鈴木さんによる講義をしていただいて、最後残り10分15分程度で皆さんから、今日もたくさんの質問いただいているんで、それを私の方でピックアップをしながら僕が鈴木さんに当てて、ディスカッションしながら質疑応答ができればなと。8時半に終了です。
講師紹介とカスタマージャーニーを考える背景
鈴木:よろしくお願いします。はい。皆さんこんにちは。お集まりいただきましてありがとうございます。おそらく録画でもご覧になる方もいらっしゃると思いますので、たくさんの申し込みがあったということも意識してお話できればなと思います。
まず、資料スライドに沿ってお話していきたいと思いますので、投映させてもらいます。
タイトルでですね、カスタマージャーニーから導く(元々のご案内では)統合マーケティング戦略って言ったんですけど、統合ってちょっと言いすぎかなと思って除いておきました。
カスタマージャーニーみたいなものは、皆さんも聞いたり、見たりやったりしてるであろうということは、ご質問いただいた内容とかも拝見しても分かるんですけど、使い方を色々と考えていただくような、ツールの1つですね。
カスタマージャーニーは別に僕は専門家じゃないんですが、でも1番今までやってて、自分がしっくり来る考え方なので、皆さんにもご紹介してるというところです。
統合って本当は入れたいのは、基本的に個人でやるものじゃないですね。チーム全体とか、エージェンシーやベンダーまで含めて考えるものなので、それ自体が、統合するんですよという意味を含めてるんですけど、ちょっとそこまで体験できないので、今回はマーケティングという、触りとしてお話しします。
鈴木氏のキャリアと経歴
自分のちょっと自己紹介なんですけど、元々僕はキャリアの始めは広告代理店で、国内の代理店の営業からスタートして、外資系に行ってちょっとマーケティングツールをかじり、そのきっかけで外資系のマーケティングの仕事とかをちょっとやるようになって、スポーツブランドにナイキに移って、それから競合のニューバランスにいます。
ニューバランスに15年ぐらいいますので、スポーツブランドに20年いることになります。代理店と事業会社両方に体験してるってことは、僕にとっては非常にメリットがあったことですので、そういう背景の中でお話しします。
ニューバランスの歴史と現状
本論に入る前にちょっと自社の宣伝もしておこうかなと思います。ニューバランスは今から110年以上前に、アメリカの東海岸、マサチューセッツ州のボストンで生まれたメーカーで、最初は矯正靴の製造メーカーとして、今で言うとオーダー式のインソールみたいなのが最初なんですけど、それを入れると、バランスがなくても歩けるようになるということで、履いた人に新しいバランスをもたらすという意味でニューバランスという名前は、その頃から使っていました。
60年代ぐらいにランニングシューズを作ったりとかして、72年に、ジェームスデイビス(現会長)が引き継いで、彼が一代で世界的なスポーツブランドに育て上げました。この時代はナイキも「ブルーリボンスポーツ」という名前でビジネススタートしたのが70年代なんで、アメリカのスポーツブランドが70年代をきっかけにして発展してた歴史があり、その中の1つでもあります。
今は、大谷翔平選手と契約して、日本人にとっても、スニーカーだけじゃないスポーツブランドとしてやろうとしています。ちょっとそのコマーシャルをご覧くださいませ。
カスタマージャーニーを今考える背景
今日の内容としては、先ほど池田さんがデジタル時代のマーケティングというところでお話をしていましたが、カスタマージャーニーってのは目新しい概念ではないと思うんですけども、じゃあ今考えなきゃいけないのかというところを背景としてまず話します。
カスタマージャーニーをやる背景は、消費者体験とメディア環境の変化っていうのが基本的な答えでございます。マーケティングに関してはこの10年か15年ぐらい、2000年代の10年代以降からの変化が非常に大きいと思います。
この変化は3つの大きな変化が起きてるんじゃないかと考えています。起因はやっぱりデジタルということなんですけども、デジタルが変える広告と消費者の関係、それからテクノロジーによるマーケティングの再定義、そして最後にちょっと「体験」の重要性ということが、この変化の大きな要因かなと思っています。
消費者体験とメディア環境の3つの変化
デジタルの影響:検索行動とエンパワーメント
デジタルが私たちの生活、考え方、行動をどのぐらい変えたのでしょうか。
自分はこれですね、検索行動というか、ググるってことです。僕がサラリーマンになり立ての頃は検索という言葉は一般的ではなかったですが、今はうちの子供でもググるぐらいなので、検索すること自体がデジタルがもたらしたことなんですね。
マーケティング的に考えるとその行動が生んだ結果っていうのが、エンパワーメントです。エンパワーメントっていうのは、消費者や顧客側に主導権が移ったってことです。
以前はマスメディアが情報発信側なので、消費者は情報を受け取るだけでしたが、今や情報を求める側が主体となるツールが出てきて、この情報を元にしてメーカーやブランドが広告やマーケティングをするようになった。行動する側の者自体に力が移ったってことが1番大きな転換です。
行動の変化とメディア総接触時間
行動の変化として見ると、メディアの総接触時間は、博報堂さん(博報堂生活総合研究所)のデータで見ると、2000年代も時間が増えてくるんですが、メディアごとに接触時間が変化してきました。マスメディアは少なくなってるのは当たり前のように感じるかもしれませんが、割合が変化することで、顧客側が能動的に使ってる時間が増えている、と言えます。
特に注目すべきは赤い、携帯とかスマホの時間です。2024年は、割合的にはスマホがさらに増加をし、テレビの割合が未だに大きいですが少なくなっています。
メディアが増えることで総時間は減ってるわけじゃなくて、顧客がメディアを使う時間自体がトータルで増えてるのかなと思うと、全然便利じゃなくなってるんだなと。むしろ皆さんも経験あるかもしれませんけど、追われているという風に言えなくもないと思います。
赤いバーが増えるということは、エンパワーメントの部分がさらに強力になっているのではないかなと思います。
テクノロジーによるマーケティングの再定義
もう1つ、テクノロジーの変化によるそのマーケティング再定義というところなんですけど、パソコンからスマートフォンに変わった時、みんなの関心はスクリーンにありました。
しかし、実際はスクリーンそのものがメディアということよりも、そのデバイスそのもの、インターフェースそのものが、AIを搭載することでどんどんスマートなものになっていくところがあります。
これは、スクリーンなしにインターネットと繋がって家電とかもそうですが、今までやるそのデバイスとは違った行動を流すようになってきている。
インターネット・オブ・シングス(IoT)という言葉がありましたが、数年前からやっぱりAIを搭載するようなデバイスが増えたということで、インターネット・オブ・インテリジェンスという言葉がCESなんかでも言われています。
AIとデジタル化によってそのツールそのものの定義がちょっと変わってくることによって、やり方をちょっと変えなきゃいけないっていう風な頭にだんだんなってきたと思います。
象徴的なのが生成AIツールの代表格のチャットGPTです。今はGoogleだったGeminiとか、MicrosoftだったCopilotみたいな、使うデバイスにそのままビルトインされてそのままできるようになったものもあります。
AIがサポートすることによって、エンパワーされた消費者の行動が今度はまたAIによって影響されてしまうということが起きるので、純粋に消費者が起点となってマーケティングのゴールだけじゃなくなってるってのは、このAIによるインテリジェンス感によって作られてくるのかなという風に思います。
ダッシュボタンが変えた「売り場」の定義
もうちょっと時代を前に戻すと、デバイスとかそのテクノロジーが考え方を変えるきっかけになった例は、Amazonさんが一時期配布してたダッシュボタンです。
これはなんてことはない物理的なボタンで、押すとロゴの消費財がAmazon経由で届くだけなんですが、何がすごいかっていうと、消費財は大体なくなった時に気がつく、買おうかな、買わなきゃって思うようなものなんです。
通常、消費財のマーケターの仕事は、買いに行った際に、売り場で棚のシェアを上げることが1つの目的でした。テレビCMをやる目的も、この棚を取るのが1つの目的でもあります。
これは習慣的に「お店の売り場に行ってブランドを選択する」という行動があることが前提だったんですけど、ダッシュボタンが家の中にあって「押す」という行動があると、ブランドの決定が棚の前じゃなくて家の中で起きてしまうわけです。
ダッシュボタンを見た時に思ったのは、こんな何でもないようなデバイスそのものが、競争する場所を再定義させるっていうことがありえるということです。
テクノロジーが変えるものは、デバイスだけではなくて、売り場そのものを変えていくところもあります。O2OとかOMOみたいな言葉は、単純にデジタルとオフラインをつなぐとか横断するってことではなくて、顧客にとっての売り場というのは何なんだろうかっていうことを突きつけられるようなものだったと思います。
店舗に商品がなければデジタルにも棚があってそこから届けられますよっていうことが、シームレスにデジタルとつながることでもあります。売り場自体がリアルなところだけじゃなくて、ECも含めて売り場ですっていうのが当たり前のように期待されてます。
在庫がどこにあるのかをデジタルで調べれば分かったりするわけです。売り場自体はテクノロジーによって、今までと定義され方が変わってくるということです。
体験性:ジョブ理論から学ぶ
ここまでは、行動とテクノロジーによる再定義の話でしたが、最後に変化の部分で体験性について話します。
体験というのは買う体験とか使う体験みたいな言葉で、何か感動したり特殊なものを指すような言葉に思われますが、自分が言う体験というのはもっとシンプル、単純なもので、接点とかステップに必ずまつわるものだと思います。
ジョブ理論は破壊的イノベーションで有名なクリステンセン教授が、ジョブという言い方でこの体験の重要性を説明しています。
【ミルクシェイクの事例】
クリステンセンさんがミルクシェイクスタンドのコンサルを受けた時、朝ミルクシェイクを買う人が大体朝買う人を観察しました。彼らに共通してるのは、朝車で通勤する人だということです。朝食の代わりに買ってることは想像できますが、クリステンセンはなぜミルクシェイクを選ぶんだということを考えました。
結論として、ミルクシェイクが、買った人に雇われて、いい仕事をこなすからだったんです。その仕事とは、30分以上長い時間車に乗っている間の時間を過ごす方法であることでした。
バナナは食べやすいけどすぐ食べ終わっちゃう。ドーナツは時間かかるが手が汚れてしまう。ミルクシェイクは、上手に仕事をこなす。朝食としても腹持ち良くて、退屈しないものだというところです。
体験性というのは物だけ見てても絶対出てこないんです。車に乗っているという状況とその体験そのものが、ミルクシェイクのベネフィットを作り出すんです。
顧客がどういう風にミルクシェイク自体を使っているのかを細かく観察したり見てみないとそれが出てこない。前後の文脈、あるいは状況そのものが体験を作り出す。
カスタマージャーニーを考えるにおいても、この体験性は独立した接点とかものじゃなくて、前後の関係性とかその置かれてる状況を意味します。この体験性をよく考えること自体がデジタル時代においても重要になってきます。
体験性は単純にものを消費するだけじゃなくて、デジタル時代であればアプリを使うとかも含めて重要になってきます。こういった3つの変化を元に考えるとカスタマージャーニー的な考え方が重要になってくると考えました。
カスタマージャーニーの定義と活用目的
デジタル時代におけるマーケティングの考え方
デジタルマーケティングと伝統的なマスマーケティングはそれぞれのマーケターの出自ややったりすることが違うこともあり、あまり交流がないように見えることがあります。デジタルは専門的な領域が多いということもあります。
しかしデジタルマーケティングとマスマーケティングは対立するわけではありません。デジタルマーケティングのサイドの方が、伝統的なマーケティングを含めたトータルなスキルとして、成り立たせようとしている。
最先端のデジタルの領域は、独立して使うのではなくて、統合して考える必要があるものとして捉えるべきです。
伝統的なものとデジタルで何が違うのか。背景と同じで、変化してきたものがなんなのか、を考えることで修正すべき点・注意点が見えてきます。基本プロセスは伝統的でもデジタルでも変わりません。しかし、顧客にまつわる情報や行動、そしてその体験性に注意してみなきゃいけない。
分析で言うと、消費者インサイトを見つける際にただデモグラフィックで観るだけではなく、彼らが何を考えてどう動こうとしているかという体験性を観るべきです。
プランニングの際には、どういうセグメーションやターゲットを設定するかということもありますし、彼らにとっての価値を抜き出すには先ほどのジョブ理論のような観点がないと、何がよいと思っているのかを導き出せません。
実行のフェイズにおいては、それらを踏まえてどういった顧客体験を提供するのか。これらは独立した考え方ではなく、デジタル化によって生じた変化を取り入れて、分析・プランニング・実行を行っていく必要があるということです。
顧客を中心にするという基本原則
マーケティングの基本は、どんな時代でも変わらない、常に顧客を中心にするということです。顧客の創造がマーケティングの第一義である限りは、顧客を中心にして考えることは新しいテクノロジーが出てきても変わりません。顧客を中心にして考えましょうというのを実現する手助けが、カスタマージャーニーだと思ってください。
自分たちが面している顧客というものを、わかりやすくチーム内に共有するためには、こういう見方が必要だと思っています。
カスタマージャーニーは、想定する顧客像(ペルソナ)の具体的な目的(旅の終点)に沿ってどのような体験をしているか(感情的反応や文脈も含む)をプロセスで示すものが基本的な考え方です。
広告代理店にいたので、消費者調査やインタビューをたくさんしてきましたが、調査やインタビューでは点で聞くことが多いんですね。「このブランドについてどう思いますか?」「この商品をどのように使っていますか?」といった「点」でしか顧客を理解しようとしない。
ジャーニーは、顧客が生活の中で生きている具体的な人間なので、その前後の文脈、何を目的にして行動してるのかという全体像を見つけるためのものです。
こういったことを頭に入れておくと、ブランドやメーカーあるあるの一方的な狭い始点を避けることができるんじゃないかと思います。
ジャーニーマップ作成の目的と実行
カスタマージャーニーを作る理由とか目的をまず設定しましょう。
特にチームでやる場合の最初の目的は、顧客の考え方がみんな同じ目線かどうかを確認したいということです。ジャーニーは優れたプランニングを見出すというよりも、まず出発点として消費者の全体像を掴むのが大事なことなので、これがずれたままチームで動くと、すごいバラバラな行動をしたりします。
ジャーニーは、既存顧客のセグメントを理解するなど、ベーシックな意味合いでも役に立ちます。
仮説を設定して、具体的な情報があった場合は、想定した顧客とのギャップを発見します。例えば、ニューバランスにとって新しいお客さんのジャーニーを作ったら、既存の売り場や情報経路にはブランドの接点が見つけられなかった、といったギャップが発見されました。
なので「まずギャップを埋めないといけないよね」というチームの基本理解になったということがありました。
ジャーニーは作っただけだと、ただの絵なので、実行に移すことまで含めてジャーニーを設定する意味合いがあると思います。実行を通じて仮説を検証し、分析を進めることや、うまくいっている施策をデータとして検証するためにどのデータを見ればいいかといった導き方もできます。
3つのジャーニーと「真実の瞬間」
カスタマージャーニーは大きく分けて3つのジャーニーがあると考えています。
3つの体験:Discover, Personalize, Achieve
これは3つの体験と呼んでいて、Discover(ディスカバー)、Personalize(パーソナライズ)、Achieve(アチーブ)と呼んでいます。
MOTはMoment of Truth(モーメントオブトルース)の略で、真実の瞬間(大事な時)です。
使用体験(Second MOT: Achieve)
Achieve(アチーブ)は青いところの使用体験で、商品がどういう風に使われてるかというジョブの実現みたいなところ(Second MOT)です。これは消費財メーカーにとって一番の調査対象であり、使用体験そのものを重視します。
購買体験(First MOT: Personalize)
Personalize(パーソナライズ)は緑色のところで、購買体験そのもの(First Moment of Truth)です。これは、棚の前でどういう行動を取るか、何を見ているかという点が重視され始めた時期に生まれた言葉です。売り場でのメッセージや、自分に合ったフィッティングなどを考える。
メディア体験(Zero MOT: Discover)
Discover(ディスカバー)は赤い場所で、購買とか使用より前に、調べたり検索したりするメディア体験(Zero Moment of Truth)です。これはGoogleが言い出した言葉で、デジタルによって特に重要視されてきました。
この3つは1個だけで成立してるわけではないので、皆さんのカテゴリーやブランドがどこを今重視してマーケティングしてるかを考えてみて欲しいと思います。
ランニングシューズの事例から見るジャーニー実践
題材:ニューバランスのランニングシューズ
具体的にどういうことを考えてやればいいかをご紹介します。
題材は、ニューバランスのフレッシュフォームというランニングシューズです。このシューズは、ランニングするだけじゃなく普段も履いて、ウォーキングしたりできる靴として売っています。ランニング時の足圧分布をデータに基づいてデザインされ、進化しているロングセラーのシューズです。
ペルソナ設定:ランニング初心者「伊藤洋子さん」
例としてペルソナは、ランニングの初心者、伊藤洋子さん(29歳の女性)です。東京の丸の内に勤める事務職で、神奈川県平塚市に住み親と同居。ランニング歴は1年くらい。コロナ中にテレワークで運動不足になり、近所の公園で走り始めたのがきっかけ。LINEやソーシャルメディアを使って検索し、ランニングの情報を見ることが多い。
彼女は、ランニングしたいから始めたのではなく、運動するきっかけが欲しいだけで、たまたまそういう背景でランニングする機会があったという設定です。
ジャーニーの例とゴール設定
ジャーニーは、顧客が最終的に何を求めるかを想定して作っていく必要があります。マーケターのゴールは購入してもらうことになりがちですが、買って終わりの人はほとんどいない。最終的に何を求めるかを想定することで、ペルソナやジャーニーを豊かにし、考えの幅を広げることができます。
この場合はマラソン大会で完走するっていう風にしましたが、最初からマラソン大会で走るっていう風にゴール設定するランナーはほとんどいないと思います。
伊藤洋子さんの場合、きっかけは運動するきっかけが欲しいだけで、ランニングじゃなくても良かった。タッチポイントは公園とか身近な場所で、思考とか感情を記述することがポイントです。スタートはストレス発散したいということで、ランニングが頭に浮かんでるわけではない。
やり始めると使うものに興味が出てきて、自分と同じように走っている人をソーシャルメディアで検索したりします。靴は高いのでハードルが高かったり、機能が必要か迷いがちですが、続けるなら合ってない靴を履いて怪我をしたくないという、マイナスを解消していいものを買うかとなる。
ランニング継続を支援するデジタル技術
ランニングはやればやるほど自信がつく。他のスポーツと違ってゲームではないので勝敗はありませんが、少しでも走り続けてると必ず前よりも楽に走れたり体ができてくるんです。これが精神的にも自信がつくきっかけになって目標ができる。
いかにランニングを続けていただくかに、ランニング業界のマーケティングとしては1番力が入っていて、デジタルテクノロジーで1番恩恵を受けているのもこの点です。
ナイキが始めたランニングログアプリができたことで、ランナーがこのジャーニーのステージを継続的にやることができるようになり、モチベーションになって次の目標を立てやすくなった。テクノロジーによってランナーが増えた。
ジョブストーリーとブランドの役割
最低点(ボトルネック)と最高点
ジャーニーで考えるところは2つ大きなポイントがあります。1つは最低点(ボトルネック)、もう1つは最高点です。ジャーニーが失敗する可能性があるのは最低のポイントがあるところです。
例えばダイエットの失敗は、ダイエット自体を辞めてしまうことです。なるべく失敗させないことが重要です。
ボトルネックを解消する方法や最高点を良くする点を考えること自体がマーケティング施策の1つになります。ランニングアプリを無料で使わせるのも、続けてもらうこと自体に意味があって、ランニングのギアを買うきっかけになりやすいから。
商品の役割をジョブストーリーとして定義する
ジャーニーを作ったら、この商品の役割をジョブストーリーという形で作ってみるのがポイントです。ジョブ理論のジョブと一緒で、この商品がジャーニーの中でどういう役割を果たせられるのか、どういうジョブを達成するために顧客に雇われるのかを書いてみる。
これは設定したペルソナや、彼女が考えるどんな目的のために使われるのかによって変わります。
例えば、ジョブとして日常的にダイエットするためにウォーキングで使うということもあるかもしれません。その場合、履き心地が良くて、服に合わせやすいデザインであることがマーケティングの目的になるわけです。
ジャーニーの中から、商品とかサービスの位置付けをジョブとして定義することで、マーケティング施策の方向性を作ることができます。
ブランドは顧客をヒーローにする
ブランドの役割は、ブランドをヒーローにするのではなくて、顧客自体をヒーローにするのがブランドです。顧客を主人公にして、お客が達成したい目的を達成させる手助けをする。ブランドの役割は、ボトルネックみたいなものを解消してあげることや良いところを強化してあげること。これにより、ブランドがうまく立つようなストーリーテリングができるようになります。
マーケティング戦略の4つのステップ
ジャーニーに基づくマーケティングのまとめ
まとめとして、カスタマージャーニーを元にしたマーケティングを考えるのはこの4つのステップが必要です。
- 常に顧客(価値を求める人)からはじめる。
- マーケティングを実行する仮説目標をつくる。
- 目標達成のためのアクションを実施する。
- 結果から次の仮説をつくるインサイトを発見する。
統合したマーケティングは、この部分の考え方がチーム全体で共有されてるかどうかを確認するためにジャーニーとかジョブストーリーみたいなものを設定することです。
やり方そのものは、皆さんの状況や目的によって変えていって構わないという風に思います。
私の講義は以上になります。皆さんご成聴ありがとうございました。
Q&A
池田:ありがとうございます。お疲れ様でした。結構色々と質問いただいているんですが、今日頂いた質問の中でやっぱり1番多い、よく聞くものなんですけど、カスタマージャーニーマップ作ったけどそんな理想通り行かないじゃんみたいなやつって本当に多いですよね。
絵に描いた餅じゃんとか机上の空論じゃんとか、現場であんまり使えないとか、これは一体どんなところの歯車が合ってないからそういう事態になっちゃうっていう風に思われますか?
鈴木:机上の空論なのはその通りなんですけど、別にその記述することとか、もし、自分が想定してる顧客の行動がその自分たちがやってるマーケティング通りじゃなかったら、その空論通りにやるんだったら、何が間違ってるのかをもうちょっと考えた方がいい。
うまくいかなかった。で、何か違うことをやりたくて作ったんだけど上手くいかなかった、ということはあると思うんですけど、それはじゃあ、何が原因なんですかってことをもうちょっと考える必要がある。
カスタマージャーニーがいいとか悪いじゃなくて、自分たちがやった施策に問題があるわけだから。ジャーニーだってあくまでも本当にExcelの表みたいなもので道具だから。
池田:1番多いのは、やっぱりマーケターの期待とか希望とか、こうなってくれたらいいなみたいな願望で作っちゃうジャーニーマップが世の中すごく多いなと思うんですけど。
鈴木さんのところも、ファクトとしてのデータだったり、消費者調査の定量調査とか、グループインタビュー、デプスインタビューでお客さんから聞いた一次情報だったり、そういったものもジャーニーをケースで作っていく時の1つの裏付けとして、作ってるんじゃないかなという気がするんですけど、そこら辺どうですか?
鈴木:そうですね。基本はやっぱり定量調査も含めて、情報経路、買う前にどういうところを見てますかとか、どういう行動してますかっていうのが、定量的にも当てはまるので、そういうのは見てます。
習慣行動としてはあるんですよね。消費者って必ず。なので、習慣行動を整理する、それは必ず間違ってないと思うんですよ。分かっていることと分かっていないことをごっちゃにしすぎると役に立たないように思っちゃうんですよね。
僕はだから目線合わせる時にやった方がいいですよって言うのは、意外とこの部分は、社内であんまり話題にならないんですよ。近すぎて。
施策だけの話をしちゃって、そもそもやっぱり自分が言ってる消費者ってどういう人でどういう行動するの、何を見てどういう風にやってるの、何が皆さんにとった当たり前ですかっていうのも結構違うんです。マーケティングって意外と(チームの)みんなが一貫した行動を取るだけで効果が上がるんで、そのためにも非常に役に立つと思います。
池田:鈴木さん、ずっと一貫して仰っているけど、マーケティングって1人でやるもんじゃないから、社内のいろんなプレイヤーやベンダーとかいろんな参加者とワンチーム作ってやっていく時に、意外と当たり前のことの認識がみんなずれている中で結構気づかずロスしているところが大きいっていうことですよね。
鈴木:鈴木:そうですね。前提を話さないんで、みんな。
池田:意外とそれがずれてるってことでしょうね。
鈴木:はい。それはあります。すごくあります。
池田:ジャーニーを作る目的の1つは、マーケティング活動を一緒に行っていくメンバー全員が超当たり前と考えている、ターゲットのお客さんの、始点と終点をみんなでこう思ってるけど、どこがどのぐらいどういう風にずれてるっていう認識というところもとても大事な作業であると。
鈴木:そうですね。当然日本でやってるから日本語しか喋らない人ばっかりなわけで、皆さんが例えばロシアに行ってマーケティングしろって言われたらまず何しますってことと一緒なんですよね。彼らが何を行動してるか、例えば自分がよく消費するものでもコーラ買うとかでも全然違うことしてるかもしんないですよね。
すごいシンプルなペルソナとかカスタマージャーニーを書くだけで全然違うと思うんですよ。自分たちが相手にしてる人たちが自分たちの知らない人だという前提で考えれば、それをその当たり前の方法で整理するだけでも全然違うんですよね。
池田:なるほどね。ありがとうございます。ペルソナっていう問題が出てくるんですけど、ペルソナってシンプルだけど、めちゃめちゃ難しいって捉えている方が多いですよね。
こういう人にいて欲しいっていう希望が先行して、すごい理想がほとばしっちゃって、存在しない偶像みたいなやつを作っちゃうみたいな、こういった問題はどうやって回避したらいいんですかね?
鈴木:これもやっぱり同じなんですけど、1つそれがその、想像できているかいないかわからないけど、そのチームの中で共有できるイメージがあるんだったら、それって検証しがいがあるところだと思うんですよね。
プロフィールで、いそうもない人が出てくることはあるけど僕はそれで良いと思っていて、考えてることとか何を持ってどうするかみたいなところを突き詰めていくとそんなにプロフィールとかには左右されないんですよ。やっぱ人間のインサイトになってくので。
よく出てくるのが、デジタル中心になってから承認欲求が、っていう人が多いんだけど。承認欲求がある人ってそんなにいないよねとは思いますけど、そういうツールがたくさんあるからそう思っちゃうんでしょうね。そこはちょっと避けたいなと思うところはあります。
商品やカテゴリーで、どう習慣行動とかで消費するかを考えた方がよい。っていうことを考えた方が実りはあります。ただ、なんでそのペルソナにしてるかって言うと、やっぱりグループでの人間がどう行動するかって想像しにくい。1人の人間としてやっぱ想像した方がいいんですよ。そのためにもっとプロフィールがいる、細かい設定がいるんです。
池田:じゃ、それはその想像を具体化をしていくための1つの補助材料として、そういった情報があった方が、みんなで闊達に議論ができてまとめられるという。ただ、大事なのが1番下の思考とか感情ってさっきまとめられてたところじゃないですか。センターピン的な思考や感情っていうのは別に29歳の女性だろうが39歳の男性だろうが変わんないじゃんということですよね。
鈴木:そうです。そうです。でも1人の人を想像しないとなかなかそれは出てこないからっていうね。自分に置き換えられれば一番いいんだけど、やったことや使ったことがなかったりすると難しいので。
池田:顧客のセグメントが複数ある場合、ペルソナごとにジャーニーもすべて作り替えなきゃいけないのかみたいな質問もあるんですけど、これについてはどうですか?
鈴木:それは1回やってみればいいと思いますよ。でも、意外と共通点が多い。見てるメディアとかは行く場所は違うかもしれないですけど、行動はそんなに変わんないんじゃないかなっていうちょっと感じは。
全部作らなきゃいけないのって言われたら全部作る必要ないんけれど、女の人は基本的にスポーツ用品には行かないんで、彼女たちが行くとか目につくところに置かないとダメなんですよね。
池田:B to CとB to Bがあるんですって言ったらそれはもう全然違うから2つ作んなきゃダメだよっていう話ですけど、例えば30代の女性と40代の男性の2つがあるんですって言った時に、思考や感情が共通しているなら1個作って、でもこの30代と40代男性はここが若干違うよねっていうところを微調整するはあってもいいかもね。
鈴木:目的がやっぱり違うのとカテゴリエントリーポイントが違う場合はもちろんあるんで、そういう場合は違った方がいいとは思いますけど。もし複数作んなきゃいけないのかで迷っているんだったら1回やってみればいいと思うんで。どっちがいいのか悩むくらいなら作っちゃった方が早いなっていう感じですね。
池田:このジャーニーマップ結構作ったら作りっぱなしで、これを活用して仕事をしていくみたいなことをやってる人が意外と少ない。
ボトルネックを解消するためにどんな活動をやって、どのKPIが数値になったら解消に向かってるのか、この最高点をより一層、いい感情になっていくために、具体的に誰がいつ何をするので、それによってどのKPIがどう動くので、それを実行してその数字はそういう風に動いたのみたいなことを検証していくわけですよね?
どれぐらいの期間で見直したり少し微調整を加えたりみたいなことってやった方がいいんですかね?
鈴木:大きな絵でいえばそんなに変わらないかもしれないですけど、接点自体の時間が変わってきたりとか、行動自体がなんか置き換えられたりしてる場合はやっぱありますので。
書き換えるというより、1回作るとどこを注意して見ておく必要があるかっていうのは分かるんで。追っかけるトラッキング調査だったり、インタビューの際に聞いていけばいいんだと思うんですよね。
共通言語ができるんで、共通言語ができると「じゃあこのところをちょっと見てみよう」ってなるんで、全部金科玉条のようにする必要なくて。このカテゴリーのマーケティングで1番変化が起きそうだったり、競合がガンガンやりそうなところってどこなのっていうのを見極めて、そこをやっぱり強化しようという話になるんですよね。
池田:地図みたいなものができるから指差し確認をしながら、必要に応じてチェックをして微調整を半年とか1年ぐらい、気になるところを適宜チェックしていくみたいなそんな感じですかね。
実際にじゃあ、真っ白な紙に作とかってやると意外とね、簡単なようで意外と難しいというか時間がかかる作業だと思うんで、皆さん是非せっかくなんで実際に自分でちょっとワークをしてみて、同僚とか上司部下とか、チームで、あとはベンダーとかに見てもらってやっていくと「あ、意外とみんな全然違う“当たり前”の概念の中でやってたんだね」みたいなところの発見があるんじゃないかと思うんで是非やってみて。
鈴木:そうですね。あとはやっぱりみんな顧客について話す機会ってあんまりない。実はあんまりなくて。
池田:施策のことばっかり喋ってますもんね。お客さんの話をするっていうのは結構。
鈴木:それぞれのメンバーがどういう風なことを考えてるかも理解できるんで意外とそれはチームビルディング的にもすごく役に立ちますね。
池田:確かに。うちもやってみます。
鈴木:あと、B to Bの質問がきていましたが、やっぱりB to Bをモデルにしてると思うんですね、カスタマージャーニーって。有名な「THE MODEL(ザ・モデル)」自体がもうセールスのカスタマージャーニーなんで。プロセス化してるわけですから、B to Bの方がやはりステップがはっきりしてますのでね。B to Cの方がちょっとその、ステップが混ざったり、あっち行ったりこっちたりしますから。
池田:確かに。ありがとうございました。ということで、皆さん是非自分で手を動かしてチームで、取り組んでみてください。これでMARPSのデジタルマーケティング連続講座年内は一旦終了で再開は、年明けの1月16日になります。
今日は、ニューバランスジャパンマーケティングディレクターの鈴木さんにカスタマージャーニーマップのお話をいただきました。鈴木さん改めて今日はありがとうございました。
鈴木:ありがとうございました。
池田:はい、皆さんさよなら。また来年会いましょう。良いお年を。


