【トライバル新作書籍刊行記念】特別講座&対談 池田紀行×高野修平 今日の売上と明日の売上をつくるファンダムマーケティング徹底解剖

2025年9月2日
投影資料DL

イントロダクション:ファンダムマーケティングの重要性

※このテキストは『今日の売上と明日の売上をつくるファンダムマーケティング徹底解剖』の書き起こしです。文中の登壇者名表記は敬称略。

開催趣旨とトライバルのミッション

池田:皆さん、こんばんは。今日も始まりましたMARPSでございます。今日は特別講義として、ファンダムマーケティングというテーマについてお送りいたします。

右下のところにありますが、今日の講師は、トライバルに所属をし、執行役員モダンエイジのレベルヘッドの高野修平という人間が、今月9月、新しい本『ファンダムマーケティング』を上梓するんですが、そちらの出版記念的な講義となります。

トライバルのミッションは、マーケティングの力でこの世の中をより良くすることです。

決して自社が書いた本だからそれをプロモーションしたいということではなく、マーケティングの本質、原理原則、あとは今の市場の環境だったりとかマーケティングの今の現状からすると、このファンダムマーケティングというコンセプトだったり手法が、きっとこれからのいくつかのマーケティング課題を解決するのにとても有用なコンセプトであり手法であるという風に我々は信じています。

このファンダムというものに関しては今日結構、ほぼ初耳ですとか「いまいち何が何だかよく分かりません」みたいな方も、もしかしたらいるかもしれないなと思いますので、短い時間ではあるんですけれども、本のダイジェストをギュギュっとお伝えするということが、今回のコンセプトになっています。

マーケティング学習の構造

これはいつもMARPSでしているお話ですが、マーケティングというのは特に全体の幅が広く、一つ一つの奥が深いんで、つまみ食いの勉強だけしていても全貌からどんどん離れていってしまって、学べば学ぶほどよく分からなくなるということになってしまいます。

理想は、個人で学んだ知識や経験(点)を線(マーケティングは線ですからね)としてつなげ、それが全体的な構造としての面として理解ができるようになって初めて、実務で生かせるというものになるわけです。とにかくSNSとかスマホで流れてくるスナッカブルなコンテンツというのは点のものばかりですから、これをどんどん流し込んでいても、ほとんど実務では役に立たないと思っています。

実務で使うためには、応用ができる立体として頭の中で構築しなければいけないので、その前段階として、面として全体を体系的に俯瞰し、構造的に理解するということが絶対に必要なんですね。

この点を学んで線としてつなげて面にしていく、というのを個人でやっていくのはなかなかしんどいので、MARPSはとにかく全体の俯瞰をした全体像や構造を、皆さんにみせた上で、今日は全体の中のこの点を学んでるんですよっていうことをずっとやってきてるわけです。過去2年にわたって。

そのベースとなるのがこの売上の地図と、この売上には因果の構造があって、どこが課題になってるのか、今皆さんが学んでるのは、どの部分をやってるのかみたいなところを示してきてるわけです。

ファンダムマーケティングと既存概念との違い

今回のファンダムと言われてるものは「ファン」という言葉がついているんで、かなり多くの人がファンダムマーケティングってなんかファンマーケティングの進化版なのかという風に捉えていらっしゃる方がすごく多い印象ですが、これは同じではないです。

全く違うものと考えていただいた方がいいかもしれません。何が違うんですかという話はこれから具体的にしていきます。

ファンダムマーケティングを少し理解をされてる方は次に当たる疑問が、今までのタイアップと何が違うのというところだと思います。これも似て非なるものなのです。

ファンダムマーケティングとファンマーケティングの違いとか、ファンダムマーケティングはタイアップと何が違うのか、みたいなところをきっちり理解をしていくことがポイントです。

このファンダムマーケティング(中長期的に取り組むファンダムブランディングと、短期的に売上を上げていくファンダムプロモーションの2つがある)がどう違うのかというところもきっちり理解をしていくと、実戦に生かせるものになっていくかと思います。

ファンダムマーケティングが今必要な理由

一番大事なことは、なんで今ファンダムマーケティングなるものを皆さんが知っておくべきなのか、というところだと思います。世の中いっぱいこういったバズワードが出てきます。

ただこのバズワードが悪いわけじゃなくて、今までできなかったことができるようになった、つまり今まで治せなかった病気が治せるようになった、ないしは治しやすくなったよっていうのがこの新しいコンセプトなり手法と言われてるものなんですよね。

一つ一つが悪いわけじゃなくて、この流行りの施策だけやれば何でもうまくいくという風に、魔法の杖のように期待値が先行しすぎることはとても良くないですよと。頭痛の人は頭痛薬を飲む、胃腸の人は胃腸薬を飲むから治るのであって、頭痛の人が胃腸薬を飲んでいても治りませんねと。

ファンダムマーケティングのお話を今から高野がしますけれども、すごく有用なコンセプト・手法だと思いますが、こういう時には合います(例えばタイミングだったりとか課題だったり業界だったり)、あるいはこういった時にはファンダムは必ずしもベストな施策じゃないかもしれません、みたいなところはしっかりと冷静に判断をする必要があります。

ファンダムの1番ダイナミックだなと思うのはいつも示してるファネルで。普通はやっぱりこのファネルに順じて構造的に順を追って捉えていくことが癖づいてるわけですが、ファンダムプロモーションは、時にこのプロモーションが始まって1日から数日とか1,2ヶ月の間で一気にこのファネルを突き破っていくみたいなダイナミックな動きをすることがあります。

そういったところもすごく面白いところだなと思うのが一つと、あとやっぱり消費者だったりエンドユーザーの人たちが日々幸せに生きていくために、とても大事なのが音楽を代表としたエンターテイメントコンテンツなわけですよね。

なくても生活できるし、生きていけるんだけれども、あると人生がとても潤い、幸せなものになるというのがエンターテイメントコンテンツです。

今の経済状況だったりとか日本の状況から見ていると、やっぱりこのエンターテイメントコンテンツというものの、人の人生における存在感っていうのは、これからより一層増していくことはほぼ間違いがないだろうなと。そして企業のマーケティング、商品のコモディティ化、価格競争みたいなものは、年々どんどん激しくなる一方です。

ということを考えていくと、これからの企業のマーケティングと、エンターテイメントコンテンツを接続させたエンターテイメントコミュニケーションといったところは、これから5年10年で拡大をしていくことはほぼ間違いないと思ってます。

今日お話しするファンダムというのは、このエンターテイメントと既存のマーケティングをどのように連結をさせていくかという1つの考え方だったりもしますので、是非深く学んでいってもらえればなと思います。

ファンダムマーケティングの定義と従来の概念との違い

自己紹介と今日のゴール

髙野:改めてトライバルの高野でございます。トライバルの役員をやりながら、モダンエイジというマーケティングレーベルのレーベルヘッドを務めております。ここにある通り私もいくばくか書籍を出させていただいていて、ブランドマーケティングも当然専門家でもあるんですけども、音楽とかエンターテイメントの専門家でもあります。

今日のゴールは、ファンダムマーケティングの概要を知っていただくこととなります。もちろん全部を話すとなると2、3時間講義できるので、今日はまず概要という話になりますが、「なるほど。こういうことね」と思ってもらえたらとっても嬉しいです。

ファンダムマーケティングとファンマーケティングの違い

いわゆるファンマーケティングというのは、自社の商品やブランドに対して愛着を持ったファンを増やすことで中長期的に売上を大きくしていく話です。市場は自分たちのエリアになります。

対してファンダムマーケティングというのは、エンターテイメント(IP)のファンダムの力を借りて、自社のブランドや商品の売上と愛を獲得するマーケティングなので、実は全く違います。言葉としてはかなり違うのです。どっちがいいとかじゃなくて違うという話です。

タイアップ/インフルエンサーマーケティングとの違い

ファンダムマーケティングは、タイアップと一緒じゃないかと思う方もいらっしゃると思いますが、ここも実は結構違います。従来のタイアップとかインフルエンサーマーケティングというのは、人気度、知名度、フォロワー数みたいなものを保持するIPを活用した一種の打ち上げ花火の施策になります。

対してファンダムマーケティングというのは、可処分精神を占めるファンダムを有するIPを活用した、短期と長期を掛け合わせた施策です。この「可処分精神」というものが、実は従来のタイアップと全く違うところであることをこれから話していきます。

ファンダムマーケティングの定義

改めて一言で言うと何なの?ってことで言うと、ファンダムマーケティングとは、可処分精神があるファンダムの力を活用した、売れて愛されるマーケティング手法です。ここに出てくる新しいワードに対して今から説明をしていきます。

認知の限界と興味の獲得

認知だけのマーケティングは終わった

このファンダムマーケティングを語る前に、マーケティングのリアルみたいなものを一度整理しておきましょう。ということで、ここに書いてあるのが認知だけのマーケティングは終わったよという話です。

私たち現代人というのは、情報大爆発の中で生きてるわけです。テレビ、スマホ、リアルを含めば、ありとあらゆる情報をめちゃめちゃ浴びています。パソコンみたいにスペックには限界がありますから、一体いつ浴びたんだか覚えてないぐらいのもの、いっぱいあります。

Netflixのオリジナル作品『バブル』は、とんでもない金額をかけたマーケティングを仕掛けていきます。テレビCMはもちろん、109をジャックしたり、渋谷の地下道をジャックしたり、もちろんデジタル広告も回しまくってるみたいなので、一体いくら掛けたんですかというぐらいのことをやっているわけです。

しかし、ここで「観た」っていう人ってそんなにいないんですよ。知ってはいるよ、なんか聞いたことあるなという方はいるんですけど、「見ました」というのが実はなかなかいない。ここにものすごい溝があるということです。

今のマーケティング界隈の状況において、認知っていうのはお金で買えます、究極は。なんですけど、そこから「見たい」「知りたい」「行きたい」「買いたい」みたいな興味っていうのは買えないということなんですね。

認知は必要です。ただ認知だけで物や人は動かなくなったよ、ということなんです。大事なことは、認知を得てはいるけれども、いかに興味を作るのかというところを考えたマーケティング戦略が必要です。認知の先の興味を獲得しなければいけないんだという話です。

興味を生み出す「トライブ」の概念

その興味を獲得するための考え方としてトライブというものがあります。デモグラ、いわゆる20代女子といったものはもちろん大事なんです。ですが、20代女子というデモグラだけでマーケティングできるの?という問いです。

例えばF1(20から34歳女性)は年齢で言ったら1周以上違いますし、その中にはテレビを見る人もいれば見ない人もいるし、インドアの人もいればアウトドアの人もいるわけです。

となると、そういった括り方ではもう刺さらないよねという。この細分化時代の中で言うと、結構しんどいよという話です。デモグラがいらないわけではないけれども、デモグラだけではマーケティングできなくなってきたよという話です。その時に必要なのがトライブということなんです。

加えてさらに僕らの情報がどういった届き方をされているか、ということを考える必要があります。スマートニュースやX、インスタグラムなど、今のSNSを含んだ情報の受け方というのは、相当パーソナライズがされているということです。

ただ届く時代は終わっちゃって、その趣味嗜好の中で細分化された興味があるものが出やすくなってくるという事実がある。その中に情報を入れ込んでいかなきゃいけないよねという話です。

その時に大事なのがこのトライブという考え方で、トライブというのは、年代とか性別を超えて、共通の趣味や興味、価値観で形成される部族という意味です。超簡単に言うと、トライブって何ですか?って言われたら、「◯◯が好きな人たち」という風に思ってください。

デモグラフィックと、このトライブ、それを足し算した時に、誰に当てたいんだろうということを考えていかないと、認知の先の興味というものは獲得できないという話になってくるということです。だからトライブってとっても重要なんです。

テレビ番組で言うと、TBSの『マツコの知らない世界』はまさにトライブの典型的な番組で、人気の高い番組というのは、実はこういったトライブを押さえていることが結構多いんです。こういったトライブというのは、僕らのブランドマーケティングでとても応用できるよという話です。

トライブマーケティングで一番徹底的にやっているなと思うのがポカリスエットです。ポカリはデモグラで切るなら基本的には10代の若年層ですが、中でも徹底的に音楽とダンストライブというものを中心に据えたマーケティング戦略を描き、それを続けるってことをやっているから、非常に強いブランドを作っているというのがあります。

行動を促す「可処分精神」の重要性

トライブの奥にある世界

興味を獲得するのはトライブ、ここまではそうですが、そこからじゃあどうやって実際の行動まで起こすことができるのかということを考えていく必要があります。その時に実はトライブの奥にもう一個世界があるのです。それが可処分精神です。

可処分精神の定義と特徴

可処分精神とは、「ついついそのことばかり考えてしまうもの」。もうちょっと丁寧に言うならば、「自分の人生においてかけがえのないもの」とか「生きる活力となるもの」です。精神なので可処分時間とか可処分所得の上の概念になってきます。なぜならそれなくしては生きていけないからです。

可処分精神がある状態ってどういうことかというと、その対象となるものに対して日々の最重要事項として暮らしているんです。それを軸に日々をスケジューリングしたり、暮らしをします。例えば、推しのライブがあるから私は一生懸命仕事をする、予定を調整する、体調を整えるということがあると思いますが、そういったことです。

さらに可処分精神がある状態というのは、必然的に可処分時間と可処分所得を獲得している状況なんです。可処分精神を掌握してしまえば、必然的にお金も時間も取れるんだからめちゃめちゃいいじゃないかという話になるわけです。
この可処分精神というものをいかに獲得できるかっていうことが、実はこれからのマーケティングコミュニケーションにとって、とても重要な考え方です。
可処分精神が獲得されている条件はこの4つです。

  1. 応援文脈から、その何がしかが世の中に出ていくことを応援していること。
  2. 人生にエネルギーを与えてくれること。
  3. 好きな要素が3つ以上あること。
  4. お金と時間を使った経験があること。

この4つ全てがある状態が、「可処分精神がある」状況なんですね。

企業ブランドでは獲得が難しい可処分精神

ほとんどのブランドが、可処分精神を獲得するっていうのはめちゃめちゃ難しいんです。ラグジュアリーとかごく一部のブランドを除いて可処分精神を獲得できる企業ブランドというのはありません。

ここまで私は「これからは可処分精神が大事」と「可処分精神を獲得するのは難しい」という相反する話をしてきたわけですが、だからこそ今日お話する「エンターテイメント」が重要になってくるわけです。

企業ブランドでは、自分の推しを世の中に知ってほしいと自腹で広告枠を買って掲載する「応援広告」、もしくはアニメ『うたの☆プリンスさまっ♪』のファンがみんなで一緒に興行収入30億円にコミットする、といった現象は起きません。

ここまで行ってこそ可処分精神がある状態と言えるわけです。企業のブランド商品だけでは可処分精神は獲得できないけれども、横のエンタメという場所では、アイドルでも役者でもアニメでも漫画でも映画でも、とにかくエンタメと言われているもの多くは、この可処分精神を占めることに成り立ってる世界なわけです。

これからの時代、可処分精神の獲得が重要だとするならば、エンターテイメントはめちゃめちゃ重要な役割を持つよということなんです。このブランドとエンターテイメントをどううまく接近させるかという中身が、まさにファンダムマーケティングという話になってきます。

タイアップの限界とファンダムの根源性

タイアップは何でするんですか?究極この2つです。そのIPを活用してその商品やブランドを届ける/売ることができる。もしくはブランドイメージやメッセージ、想起を体現してくれるから。

デジタルマーケティングで今普通に行われているインフルエンサーマーケティングも同じタイアップだと考えると、僕らが生きている今の状況というのはまさにタイアップ戦国時代なんです。

インフルエンサーマーケティングで言うと、専門性を生かしたKOL(キーオピニオンリーダー)型はとても有効だと思います。だがしかし、RFE型(リーチ、フォロワー、インプレッション型)と言われるフォロワー数が売りのインフルエンサーは、フォロワー数は多い割に、熱狂的なファン(可処分精神を占められているファン)がほぼいないです。

私には、このRFE型みたいなインフルエンサーマーケティングって本当に意味があるんですか?という問いがあるわけです。私は売れないし愛されないと思っています。

ファンダムマーケティングは、江戸時代の歌舞伎と浮世絵の関係に見られるように、時代を超えて存在する人間の根源的な欲求にアプローチをする考え方なんです。

大事なことは、人気があるとか知名度があるということでタイアップをすることではなくて、そのタイアップ先のIPに可処分精神があるのかというところが、何より普通のタイアップと違う点なのです。ここが大きな分岐点になってきます。

狙うべきファンダムの選定

ファンダムの定義と濃度

ファンダムとは、まさにここに書いてある通り、可処分精神がある熱狂的なファンのことを言います。ちょっと好きみたいなものは全然ファンダムじゃないんです。なぜならそれなくしては生きていけないレベルではないからです。

トライブ(趣味嗜好)は「◯◯が好きな人たち」で母数は多いですが、その奥に「これがなくては生きていけないよ」というファンダムがいるという図です。当然母数は少なくなってきますが、濃度はどんどん高くなっていくんです。ファンダムに近づくほど、それをうまくはめることができたら確率的にモノも動きます。

(事例:オーディオテクニカとアイアンマンのイヤホン)オーディオテクニカがアイアンマンとコラボしたイヤホン(それなりの値段)は即完しました。これは間違いなくマーベルとかアイアンマンのファンダムが買っているわけです。一方でアイアンマンのトライブには属していても、ファンダムではない私は買っていません。

IP選定マトリックスとセグメントマス

IPを「認知度」と「可処分精神」の4象限で見た場合、

  • 右上(高認知度・高可処分精神):最強ですが、コストが高く、使用頻度が増大し、ブランド連想にばらつきが起きるという懸念があります。使用ルールが厳しく、使い回しのようなクリエイティブになりがちです。
  • 左上(高認知度・低可処分精神):リーチはいいと思いますが、物が動かない(ファンダムがいない)です。
  • 左下(低認知度・低可処分精神):論外です。
  • 右下(低認知度・高可処分精神):ネクストブレイクゾーンです。コストは低く、応援文脈が使える。コラボレーションをしている企業がないんで、ブランド連想がつきやすい。さらに自由度の高いクリエイティブが作れます。

この右下の領域が、実は多くのブランドにお勧めであり、私はセグメントマスと呼んでいます。このセグメントマスとの協業がファンダムマーケティングにおいてはおすすめです。

ファンダムマーケティングがもたらす価値

ファンダムマーケティングがもたらす価値は、大別すれば5つです。

  1. 新規顧客が獲得できます。ECでも店頭でもです。つまり売れます。
  2. 熱狂的なファンダムは拡散します。広がります。
  3. ファネルをぶち抜く(認知から購買まで一気に超える)ことができます。
  4. ブランドエクイティ(ブランド連想とかロイヤルティ)といった領域に影響を与え、それを高めることができます。
  5. 意味性を持った購買、「その商品でいい」じゃなくて「その商品がいい」という意味を持った購買の結果、愛されることができます。

とりわけユニークなのはこのファネルをぶち抜くというところです。ファンダムマーケティングは一切その商品を知らなくても、知った瞬間に迷わず買うということができる。

ファンダムマーケティングの共通ルール

施策の向き不向き

ファンダムがいるエンタメには様々なカテゴリーがあり、それぞれ得意不得意の領域があります。ファンダムマーケティングにはファンダムプロモーション(売上目的)とファンダムブランディング(愛される目的)の2つがあり、これによってエンタメのジャンルで向き不向きが存在しているということです。

共通する絶対的なルール

ファンダムプロモーションだろうが、ファンダムブランディングだろうが、どっちにも共通する絶対的なルールは以下の3つです。

  1. 可処分精神あるファンダムを確保すること。
  2. 「ありがとう」と言われるコンテンツを提供すること。
  3. 正確なターゲット設定で正しくファンダムの居場所に届けること。

「ありがとう」と言われるコンテンツ

ファンダムは熱狂的なので、企業から出すものは、思わず「ありがとう」って言ってもらえるようなコンテンツを提供する必要があります。企業が言いたいことをただ言わせるのではなく、あくまでファンダムが「やった!」と喜んでもらえるようなコンテンツを作る。

コンテンツが「ありがとう」を発動させるための要素は、大きくこの2つです。「わかってるね!感」と「そうきたか!感」。

「わかってるね!」というのは、推しの文脈とか背景をちゃんと理解して、ファンダムが納得するものです。「そうきたか!」というのは、文脈を踏まえたうえで、「こことここがこうなってこうなっちゃうの!?」というサプライズです。

この両者ないしどちらかは、必ず企画コンテンツに入れておかないと、ファンダムからありがとうが発動されることはまずないです。むしろそれをやらなかった場合は、「はいはい、お仕事で利用しましたね」「推しも大変だな」みたいな形になって逆効果を産む恐れがあるので注意が必要です。

メディア設計もポイントです。対象となるファンダムの主なSNSはもちろん、それぞれのメディアで何ができて何ができないかということを分かっておかないと、せっかくいいものを出しても届かないとか広がらないということがあるので注意が必要です。

絶対厳守すべき7箇条

  1. ブランドのターゲットとIPが一致しているか。
  2. 企画コンテンツがファンダムが喜ぶものになっているか。
  3. デジタルで強力なパワーを持つか(人気フォロワー数だけではないが、あるに越したことはない)。
  4. ブランドとそのIPの両者のトーンマナーの世界が合っているのか確認してください。
  5. IPの下に、アクションするファンダム(購買とか口コミとか推奨をちゃんとするのか)がついているか見極めましょう。
  6. 過去に同業他社と同じようなコラボ事例がないかチェックが必要(理想は1発目が一番美しい)。
  7. もし人間(タレントなど)であれば、自分の言葉で語れるかがとても大事です。なぜそのブランドと僕は私は組んだのかってことをちゃんと発信できる力があると、ファンダムは「なるほど、そういうことか、だから組んだんだな」ということで意味を理解し、より応援が加速するということが起きる感じになります。

成功事例:オーディオテクニカによる声優トライブの掌握

短期的なプロモーションの成功

オーディオテクニカさんが3万円のノイズキャンセリングワイヤレスイヤホンのプロモーションがあった時、ライバルが多い中、口コミを見ると、オーディオテクニカの口コミはなんかアニメとか声優のファンの人たちが結構光っているというのがまずデータとして取れました。競合他社は音楽とのタイアップが多いけど、誰も声優っていうのがやってなかったんです。

この2つの領域から勝てるんじゃないかと考え、声優というトライブの中で熱狂的なファンダムがいる人物として、内田真礼と内田雄馬という実際の兄妹をキャスティングし、音声ストーリークリエイティブを作ってSpotifyで流すということをやりました。

その結果、明確に内田真礼・雄馬のファンダムが反応し、「最高です。ありがとうございます」「財布を開く」といった形で、ありがとうの発露もされ、明確にブランド好意とか購入意向が見て取れました。

定量的な結果では、音声クリエイティブに当たった人と当たっていない人で、認知も好意度も購買意向も約10倍ぐらい差が違うというのがまず出ました。さらに、実際に購入したという人がまず6%いるんです。

3万円の商品にも関わらず、検討せずに突き抜けて買う人がいたのです。ちゃんと文脈を合わせれば(もちろん商品力も大事ですが)、ちゃんとファネルを突破して買うことができる結果、この商品めちゃめちゃ売れたというのがあります。これが、いわゆるファンダムプロモーションなんです。

愛されるための継続と資産化

従来のタイアップは、IPのパワーに頼りすぎます。ファンダム側からすると、そのブランドや商品は別に何だっていいと。自分の推しがまた別のところとコラボしたら全然そっちに行き、タイアップが点でしかなく、ブランドに落ちないわけです。

本来強いブランドというのはブランドアセットが溜まってる状態を指し、そのアセットが溜まるというのはこの継続性が何より重要なのです。最終的にやりたいのは、エンタメのファンダムを中長期的にブランドのファンダムへと進化させるのがゴールなわけじゃないですか。そうすれば指名買いが起きるわけです。

このファンダムの力をプロダクトやブランドに持っていく。これが本来的なファンダムマーケティングの1番理想的なパターンだったりします。

オーディオテクニカも、内田姉弟の結果が出た後、製品は変わりますが、この声優トライブを続けていくということをやりました。オーディオテクニカとしては、競合他者の中で声優トライブのマーケットを掌握するという作戦を見ました。継続として文脈、その結果の応援することによって、声優トライブから指名買いを作ることができます。

内田真礼・雄馬から始まり、その後製品を変えて別の声優さんでやり、1年後また声優さんを一新してやり、最新作ではスターウォーズのIPの声優を当て込むという形で、結構これずっとやってるんです。面白いのは、別のブランド担当者(競合さん)が、「声優はちょっともうムズいな。オーディオテクニカさんがやっちゃってるもんな」という風になるわけです。

それはここまで牙城を築くと、他のブランドがやった時にファンダムは逆効果を産むわけです。それぐらい本当にこういった継続してやることによって愛されることができるのが、本当にファンダムマーケティングの価値だったりします。

コスメを扱っているコーセーコスメポートさんも、会社としてファンダムマーケティングをやってます。最初は声優さんから始まったけど、VTuberを積極的に活用し、今も継続をしています。

商品も売れますが、それに加えて「どうせ買うならジュレームがいい」といった形で、その指名買いを促すために、VTuberトライブとか声優トライブを掌握していくんだということをやって動いているのです。

講義のまとめ

まとめると、以下の通りです。

  • 認知はお金で買えますが、興味は買えません。
  • 興味を生み出すにはトライブを攻める必要があり、さらにその奥の可処分精神を持つファンダムを狙うことが重要です。可処分精神のあるファンダムを掌握できれば、お金も時間も勝ち得ることができるからです。
  • ファンダムは昔からある人間の根源的な欲求です。そして現代は多くのコンテンツがファンダムの可処分精神を奪い合うタイアップ戦国時代です。
  • ファンダムマーケティングの成果を出すには、可処分精神があるファンダムの活用、ありがとうと言われるコンテンツの制作、そして文脈に合ったメディア戦略の設計の3つが必要です。
  • 愛されるためには、継続が大事です。継続により、他者の参入障壁を築き、ファンダムやトライブから応援され指名買いされることになります。

ファンダムマーケティングがもたらす5つの価値

ファンダムマーケティングがもたらす価値は、「売れる」「広がる」「ファネルを超える」「高める(ブランドエクイティ)」「愛される」の5つです。

ファンダムマーケティングは、売れて愛されるためのマーケティング手法です。これを魔法の杖と捉えず、お客様の課題に合わせる必要があります。

Q&A

池田:ファンダムマーケティング、ファンダムプロモーションとファンマーケティング、タイアップの違いといった理解はできたと思いますが、相性の良い業界と相性の良くない業界・商品はありますか?

高野:そうですね。相性がいい業界はスーパーとかドラコス(ドラッグストアで販売されている化粧品)さんとか、コンビニとかで売られている商品、日用品とかですね。非常に相性が良い。あとはさっきのコモディティ化がめちゃめちゃ激しい業界とかは、やっぱり一個突き抜けることがしやすいなと思います。

逆に、ファンダムプロモーション(短期的な売上)と相性が良くないのは、家を買う、車を買うといった商材です。それだけで選ぶわけではないので、ファンダムブランディングにおいては有効だと思いますが、ファンダムプロモーションという意味では、時間もかかるため向いていません。

池田:オーディオテクニカの事例が3万円でしたが、ファンダムプロモーションで短期的に売上のところまでつなげるとすると、商材の価格の上限は、どのくらいですか?

高野:そうですね。3万円でもちょっと高いぐらいだと思いますけども、やっぱり1万円ぐらいが多分理想的な、ま、理想で上限的に言うと1番ベストかなと思います。

池田:数百円、数千円、1万円ぐらいまでだったらこのファンダムの力で、意識、態度、行動変容まで一気に短期間でガツっといける商材としての相性の良さがあると。

高野:そうですね。で、あとやっぱりさっきの文脈がすごい大事で、なんでこれとこれが組んでるのとか、なんでこれやってるのという理由が結構謎なのっていっぱいあるじゃないですか。

そういったコア、ちゃんとファンダムを理解できていることが、さっきの売れるだけじゃなくて応援とか愛とかに至るために非常に重要なところかなと。ここは多分さっきの従来と全く違うところですね。

池田:価格が高く、買う頻度が低く、リスクが高い商材(専門品など)の場合は、短期的なファンダムプロモーションには当然繋がりません。その場合はファンダムブランディングの方が相性がいいということなんですか?

高野:はい。なので今日は事例として持ってきていないですけど、そういう想起を作りたいとか、その今すぐ客の育成の中の一つの手法としてファンダムブランディングを使うというのは有効です。

池田:ファンダムプロモーションの施策に乗り出すには、およそいくらぐらいの予算が必要ですか?

高野:組むIPや期間にもよるとは思うんですけど、ごくミニマムで行こうと思ったら800万円とか掛かると思うんですね。理想は1,500万円ぐらいからは必要だと思いますね。

池田:1,500万円ぐらいあると、比較的自由度のある企画が立てられる。

高野:はい。セグメントマスであるなら、はい。

池田:組むIPや、ネクストブレイク、セグメントマスとしての規模感に応じて金額感はかなり上下動するけど、ま、800から1,500万ぐらいあるとまずは1回やることができるかもねと。

社内障害と乗り越え方

池田:現場でいろんなプロモーションとか施策をやってきたんだけど、次の一手が見つからない。あるいはインフルエンサーマーケティングをやりまくってきたんだけど、昔はよかったけどこのままだとマズいといった課題感を持っている人はとても多い気がするんだけど。

ファンダムプロモーションを社内で実施したいと考えた時に、上長への理解や稟議上のハードルといった社内障害がありますよね。よくある社内障害の種類、特徴、およびそのうまい乗り越え方を教えてください。

高野:あの、やっぱり一個目はその担当者が概念を理解しました。それで、じゃあ、こういったIPじゃないですか、となった時の「上長がそのIPを知らない問題」ですよね。「誰それ?そいつ(IP)で売れるんですか?」となるわけです。

例えばエスエス製薬さんのアレジオンの花粉の薬の事例では、VTuberを起用しようとした時に「そのIPで売れるんですか?」となったりしました。

乗り越え方としては、例えば投げ銭の額などのデータを全部出して、熱狂的なファンがお金を費やすというポテンシャルをデータとして説明することが大事です。特にセグメントマスは知られていない場合があるため、ポテンシャルをデータとして説明することが必要です。

池田:上長、意思決定権を持っている方がかなりニッチなセグメントを特化したところに当てる際に「いいところに目をつけたね!」ってなる可能性は低いじゃない。むしろ「え、誰?知らない」ってなってしまうけど、その障害を乗り越えていくためにファクトとしてどれだけ大きなファンダムを持っていたり、そのファンダムが魅力的なのかをデータで示していくと。

高野:あと、手法ありきで話さないってことですね。概念から入っていかないと、「他の施策と何が違うの?」となってしまうので。

池田:流通のバイヤーさん向けの場合も、彼らが知らないIPである場合があると思いますが、同じ対策で良いですか?

高野:そうですね。基本的には同じ対策をしますけども、特に流通系はもう今デジタル化が進み、バイヤーもデジタルやSNSをよく分かっているので、むしろ(タイアップに)ウェルカムだと思っています。ただし、鬼滅など乱発されているIPだと「お腹いっぱい」になるようです。

転ばぬ先の杖:失敗を避けるための注意点

池田:ファンダムをこれから検討、実施される際に、ここだけは注意しておいた方がいいという「転ばぬ先の杖」的なもの、失敗しやすい点などありますか?

高野:やはりさっきのファンダムの目的が1番危ないと思いますね。

「とりあえずこのIPを使おう」が1番危険で、ファンダムは人生になくてはならない存在なので、うまくはまれば応援者、購入者になってくれますけれども、一歩間違えると相当なクレームや不買運動に発展する可能性があります。

ファンダムへの愛とリスペクトを忘れないことがめちゃくちゃ大事です。推し活で買ってくれるだろうとか思ってポイポイはめるとすぐバレるので。

企業とかブランドから、組みべきIPへの愛と理解が必要です。自分が愛してやまないものを企業やブランドがわかったうえでやっているということは伝わるので、そこの愛とリスペクトは誰を使うにしても重要だと思います。

池田:これ、めちゃめちゃ重要だし、広告脳とかタイアップ脳で「お金払ってるんだから隙にやらせてもらうぜ」とか、刈り取り思考だったりコントロール思考だったりとか。

そういう、ファンダムとかファンの方とかを邪険にしてマーケティングとか広告で売り付けようみたいな感覚を、とにかくできる限り、いかにゼロにして、ちゃんとファンダムの人たちと、いつもよく言ってるよね、B2CからB with ファンダムだという感覚で。企画と実行のところまで本気でやりきれるかというところがめちゃめちゃ重要なところかもしれませんね。

高野:いや、本当そうです。企業さんが刈り取りとか言うのは絶対ダメだと思います僕は。

池田:たまにいるけど、ファンの方のことを「あいつら」という表現で呼ぶような、愛のない感覚の状態ではやらない方がいいね。1発アウトだね。

「やめ時」の難しさについて

池田:これやめ時が難しそうに思うので始める時に結構慎重に判断必要かなと思うんですがでしょうかっていう質問が来ているんですが、これどうですか?やめ時。

高野:いや、あのむしろやめちゃう人が多いんですよ。さっきの話につながるんですけど。もう「刈り取ったからオッケーかな」みたいな、そういうことじゃないんだよなと。

むしろ難しくはないんですね。始める時は慎重な判断っていうより大事なことは、愛とリスペクトがあれば究極一発でも帰ってくるんですよ。

メガネのZoffさんで『うたの☆プリンスさまっ♪』と昔コラボした際、ファンダムは「Zoffさん最高だ。私はZoffを買う」となり、売れました。コラボ期間が終わった後も、彼らは6年間ずっとZoffを買い続けたのです。これは「オタクの恩返し」と言います。セグメントマスだったうたプリを引き上げてくれた感謝を込めて、Zoffを使い続けるという行動が起こったのです。

施策をやめることは難しくはありませんが、やめたとしても、愛とリスペクトがファンダムからもらえるような企画コンテンツになっていれば、その後の恩返しが期待できるのです。

池田:ただのタイアップやってオタクの恩返しなんてまあ絶対にありえないもんね。終わった瞬間にもう買わないからね。ということで今日はファンダムマーケティングについて高野修平さんにお話を伺いました。ありがとうございました。

高野:ありがとうございました。よろしくお願いいたします。

池田:はい、では皆さんまた次回お会いしましょう。お疲れ様でした。さよなら。

高野:さよなら。失礼します。

【トライバル新作書籍刊行記念】特別講座&対談 池田紀行×高野修平 今日の売上と明日の売上をつくるファンダムマーケティング徹底解剖