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公開日:2024年8月30日

マーケティング戦略理論講座 価格対応 価格設定のマーケティング戦略とは 振り返りレポート

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目次

『マーケティング戦略』(有斐閣アルマ)を教科書に用いた連続講座の第10回です。
マーケティング従事者がおさえておくべき基本理論について、本書の各章ごとに解説します。

今回の対象範囲は以下のとおりです(第Ⅲ部 第9章)。

▼今回取り上げる内容
・価格設定の基本方針
・新製品の価格対応
・製品ミックスを考慮した価格対応
・心理面を考慮した価格対応
・割引による価格対応
・需要の弾力性

具体的な解説は本書に譲るとして、おさえておくべき内容を中心にまとめました。

値付けにおける万能な理論は存在しません。そのため、値付けは他のマーケティング要素と比較して、感覚的に行われることがどうしても多くなりがちです。市場で売り出す価格について、その価格にした理由をどうやって説明するのか。そのための考え方を身につけることを意識しましょう。

マーケティング戦略〔第6版〕 (有斐閣アルマ) 和田 充夫 (著), 恩藏 直人 (著), 三浦 俊彦 (著) Amazon.co.jpで購入する

価格の基本と、価格が持つ機能や側面

売り手と買い手の双方の立場で決定されるということが、値付けにおける基本的な考え方です。

売り手の目線で見たときの「売っても良いと考える価格」と、買い手の目線で見たときの「買っても良いと考える価格」の、双方が交わるポイントが売買が成立する価格です

また、価格には3つの機能と側面があります。

  • 痛み
  • 品質バロメーター
  • プレステージ

商品を購入するとき、消費者は“痛み”を感じます。価格が高ければ高いほどその痛みは強くなるでしょう。一方で、価格が高ければ高いほど、消費者は「その商品は良いものである」と感じます。これはBtoCとBtoBのどちらであっても変わりません。そして、価格が高すぎる場合には、RTB(Reason To Believe:信じるに足る理由)を示すことが求められます。また、価格が高ければ高いほど、消費者はプレステージ(威信や名誉)を感じるようになります。

また、価格と利益の観点で、感度分析という分析手法を用いて日本と米国の差を表したものが以下の図です。

これは「価格」「変動費」などの要素が1%改善したときに、営業利益の向上にどれだけ寄与するのかを分析したものです。日本は、価格が改善すれば米国に比べて営業利益が大きくなるとされています。

日本は「良いモノを作ってお値打ち価格で届ける」という文化が根強く、安くて良いことが称賛されやすいことが背景にあると考えられます。この文化は素晴らしいものである一方で、価値を正しく伝え、適正な価格で販売し、適切な利潤を得られる状態が理想であると言えるでしょう。とはいえ、価格は競争によって大きく変化することも特徴です。実務において、価格の決定要因はほとんど競争にあると池田は言います。

「消費者はいくらなら買ってくれるのか」という点はもちろんですが「競合は(同じような商品を)いくらで売っているのか」という点が値付けには欠かせません。そのために、価格を決める類型や戦略を知っておくことは選択の幅を広げることにつながります。

価格の考え方の類型

今回の「価格対応」は教科書の他の章と比べ、以下のように分類して整理するとわかりやすくなります。

ここからは、ポイントを絞って解説します。

損益分岐点

あらゆるビジネスパーソンが知っておくべき概念であると言えます。コストを固定費(事業を継続する以上かならず発生するコスト)と変動費(売上や生産量、販売数などに応じて増減するコスト)に分解し、利益が発生する販売量を計算する考え方です。

この考え方は、採算が取れる(利益が確保できる)金額から価格を決めるためのアプローチに用いることができます。

コンジョイント分析

価格決定要因の変数が多い商品・サービスの値付けで用いられる方法です。要素ごとに求める品質や重要度などを定量的に採点し、価格とその価格を実現する機能の組み合わせなどを分析する方法です。

新製品の場合の価格対応

新製品の場合は、上澄み吸収価格戦略や市場浸透価格戦略が代表的な戦略です。ここでいう新製品とは、「自社にとって」ではなく「市場にとって」の新製品であることに注意が必要です。

新製品の場合、商品・サービスを欲するのはイノベーター理論で言う「イノベーター」や「アーリアダプター」であることがほとんどです。

このような人たちは新しさを求め、高額であっても手に入れようとする人たちであるため、高めに価格設定を行い、市場導入期に利益を回収しようと考えるのが上澄み吸収価格戦略です。世の中に初めて登場したときのiPhoneなどが代表例です。

一方で市場浸透価格戦略は、市場導入期において低価格で一気にシェアを広げようとする戦略です。シェアを取ることが重要な商品・サービスにおいて有効であり、後発ブランドでも用いることができる戦略です。たとえば、フリマアプリにおいてメルカリは後発ブランドだったものの、手数料無料の戦略で当時業界トップだったフリル(現在は楽天ラクマ)からシェアトップを奪取することに成功しました。

プライスゾーンとプライスライン

製品ミックスを考慮した価格対応において、プライスラインとプライスゾーンの考え方をおさえておきましょう。

プライスラインのわかりやすい例は「松・竹・梅」です。また、複数のプライスラインのうち、もっとも売れているプライスラインをプライスポイントと言います。

プライスゾーンをどれだけ広げるのか、プライスラインをどれくらい用意するのかは価格による戦略の一つであると言えるでしょう。秀逸な例としては100円ショップが挙げられます。100円ショップはすべての商品を100円にすることで、圧倒的な安さによって「痛み」を取り除くことができています。また、すべての商品が均一価格であるため、購入前に「いくらだろう」と悩む必要を排除することで、買うか・買わないかだけを選択させることができます。結果、来店時の購入点数を増やすことができるという画期的なビジネスモデルであると言えるでしょう。

威光価格のジレンマ

心理面を考慮した価格対応には、端数価格・威光価格・慣習価格があります。なかでも威光価格は、高いほどプレステージがあるという効果を発揮するものの、買ってくれる人に限りがあること、安くした瞬間にプレステージが失われ、逆に売れなくなる場合があることがジレンマであると言えます。

そのため、高価格帯のブランドがまったく別の名前を冠した別ブランドをつくるケースがあります。たとえば、ソニーは「AIWA」という別ブランドで安価帯のオーディオを販売しました。

HILO(Hi-Low Price)とEDLP(Everyday Low Price)

日本と米国の(特に食品・飲料などの日用品販売における)違いを表す代表的な考え方としてHILOとEDLPがあります。

日本はHILOが採用されていることが多く、日本におけるHILOは来店頻度を増やすための戦略です(スーパーに行くと多くの商品が日によって金額が違っていることがわかります)。一方で、米国はEDLPという「いつ行っても低価格」という考え方が取り入れられています。

日本におけるHILOにおいて、チェリーピッカーと呼ばれる「安いときしか買わない消費者層」の存在は大きくなります。チェリーピッカーは、企業の販促予算によって行われる値引きの恩恵をもっとも受けている存在です。

「この商品・サービスはだいたいこの金額だろう」と消費者が認識している価格のことを参照価格と言います。特売されやすい商品は、通常価格に戻った瞬間に売上が落ちやすくなります。これは、参照価格が特売時の価格になってしまっており、その価格より高いと「次安くなったときに買おう」などとされてしまいがちです。そのため、特売に頼って販売されている商品は不利であると言えます。

一般的に食品や飲料、日用品のメーカーは工場を稼働させ続けることが求められており「安定的にたくさん売る」ことが求められます。一方で、価格を下げすぎるとブランド毀損や利益が縮小されてしまう、というジレンマを抱えています。

プロスペクト理論

行動経済学における考え方で、人間は得をしたときの嬉しさよりも、損をしたときの悲しさが大きくなるという考え方です。

いつも買っている商品が安くなっていたときの嬉しさよりも、高くなっていたときに感じる悲しさのほうが大きくなるため、「値段は大きく下げたくないが、でも価格を戻したり上げたりすると売れない」というジレンマを加速させる要因の一つになっています。

ダイナミックプライシングの効果と弊害

季節や日時、天候などによって価格を変化させるダイナミックプライシングは、取りこぼしていた利益を回収しやすくなるモデルだと考えられています。

一方で、利便性と嫌悪感が紙一重である施策であるとも言えます。たとえば、雨が降ったときにタクシーの乗車価格が上がっていたとしたら、(高くなっている理由は理解できるけれども)足元を見られているように感じてしまう(腹落ちはできない)人もいるはずです。

価格弾力性

価格弾力性とは、価格が変化したときにどれくらい需要が変化するかを表した指標です。たとえば、スーパーで売られている298円の商品が198円になっていると需要が大きくなります。この状態を「価格弾力性が大きい」と言います。

一方で、1000万円の車が50万円下がっただけでは需要は大きく変化しません。この状態は「価格弾力性が小さい」と言います。

まとめ

  • 価格対応において、絶対的な考え方は存在していない。感覚的な値付けを脱却するには、その価格をつけた根拠を説明できる範囲を広げておこう
  • 値付けは売り手と買い手の双方の立場で決定される。一方で価格は市場競争における影響を大きく受ける要素であり、「消費者が手にとりやすいか」だけでなく「競合はどれくらいの価格で売っているのか」という視点を忘れてはいけない
  • 価格には「痛み」「品質バロメーター」「プレステージ」という機能と側面を持っている
  • 価格の考え方には「新製品対応」「製品ミックス」「消費者心理」「割引」などに分類できる

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