売上とBtoB ~BtoBマーケティングの本質~ 振り返りレポート
ビジネスにおけるBtoBマーケティングの重要性は、いまや日本の多くの経営者やビジネスパーソンが理解しています。一方で、自社のBtoBマーケティングにはどの要素が足りていないのか・具体的にどこをどのように強化すべきなのか、自信を持って答えられる方は多くないはずです。
今回は『儲けの科学 The B2B Marketing(ザ・B2Bマーケティング)』(日経BP)を執筆された、シンフォニーマーケティング株式会社 代表取締役の庭山一郎さんをゲストにお招きして、BtoBビジネスにおけるマーケティングの重要性や営業生産性を引き上げたマーケティング・オーケストレーションについて解説いただきました。本書は、日本マーケティング学会のマーケティング本大賞のファイナル9冊にも選出され、高い評価を得ている一冊です。
リーマン・ショック以後、日本でも多くのBtoB企業がマーケティングへの取り組みを開始しました。しかし、その多くでマーケティングが十分機能しているとは言えません。
庭山さんは2つの要因を指摘します。まず1点目が、BtoBマーケティングの実行のためにリソースを配分した経営者自身が戦略を持たず組織を立ち上げてしまい、マーケティング組織の適切な規模・評価・扱い方がわからなかったこと。そして2点目が、配置された担当者本人もマーケティングの全体像や具体策がわからず、汗をかいても成果が出ずに疲弊してしまうということです。
その課題に対して必要なのが「マーケティング・オーケストレーション」という考え方です。シンフォニーマーケティングでは「ビジネスのアイデアを、市場が最も価値を感じる形で製品・サービス化し、あらゆるリソース・ナレッジ・データ・テクノロジーを組み合わせ、全体最適で調和させながら、顧客を創造し、維持・拡大する経営戦略」と定義しており、、BtoBマーケティングにおける最適解であると庭山さんは言います。本イベントでは著書で伝えたかったエッセンスを庭山さんご本人に解説いただきました。
BtoBマーケティングが機能しない要因
日本企業のBtoBマーケティングが受注に貢献しなかったり、経営層や営業から評価されなかったりする理由はどこにあるのでしょうか。
庭山さんはBtoBマーケティングに関わる人の知識不足を指摘します。たとえば、展示会担当やWeb担当に対して「その施策に予算を投じて、何社・いくらの受注ができたのか?」と尋ねると、「受注への貢献度はわからない」「自分は展示会・Webの担当者なので売上のことは営業に聞いてほしい」などの回答が返ってくるそうです。
BtoBマーケティングは、各施策が売上にどれだけ寄与できたのかを捕捉できることが、BtoCのマーケティングとの大きな違いです。上記のような回答が返ってくるのは、施策がすべて部分最適になっていることが原因です。
日本では、累計2万社以上がマーケティングオートメーションツール(MAツール)を導入したと言われています。しかし、その95%は導入に失敗していると庭山さんは指摘します。MAツールは、そもそもデマンドジェネレーションのためのプラットフォームとして誕生しました。デマンドジェネレーションとは、営業に対して良い商談を安定供給することを指します。商談の安定供給ができ、売上への効果を可視化できて初めて、MAツールの導入は成功だと言えます。
MAツールのように、マーケティングに関するテクノロジーやツールの進化は著しいものです。しかし、Microsoft Wordの操作ができるからと言って、人の心を動かせる文章を書けるわけでないのと同じように、MAツールを操作できるからと言って営業が喜ぶ商談の供給ができるわけではありません。道具を活用できるレベルは、人や組織の知識のレベルによって大きく変わります。ツールさえあれば(操作さえできれば)理想が叶うと誤解されてしまうケースも少なくありません。
また、計画の曖昧さや言葉の定義が定まっていないことも問題です。たとえば以下の図のように、中期経営計画として以下のようなコンセプトが現場におろされたとしましょう。
ここで言う「マーケティングとは?」「こと売りとは?」「DXとは?」などの言葉の解像度が上がらなければ、現場は迷ってしまうだけです。人によってはマーケティングをリサーチと解釈することもあれば、画期的な商品・サービスを開発することだと捉えることもあるはずです。これも、経営者がマーケティングについて理解できていないことが招いてしまう問題です。このように、マーケティングに対する知識不足が多くの問題の根底にあるのです。