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公開日:2023年10月10日

「一番売れている商品」が「一番良い商品」なのか? 振り返りレポート

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目次

今回のテーマは商品・サービスが持つ「価値」の考え方です。
世の中には多くのベストセラー商品・サービスが存在しますが、それらはすべて「一番良い商品」だったから売上を上げることができたのでしょうか。

商品・サービスがどのように選ばれるのか、そして顧客が商品・サービスの何に価値を感じているのか、を整理するために役立つ考え方(サービス・ドミナント・ロジックとトライブ)を解説します。

講座へお申し込みいただいた方の回答サマリー

今回はお申し込み時に「一番売れている商品は、一番性能が優れている商品であると思いますか?」という課題に回答していただきました。

ほとんどの方が「あまりそう思わない」「そう思わない」と答える結果になりました。
今回の池田の回答は「一番売れている商品が、一番性能が優れている商品であるとは限らない」です。

たとえば、とても美味しい料理を提供しているのに、ほとんどお客さんがおらず、もったいないと感じたことはありませんか?

軽自動車とスポーツカーを並べたときに、どちらが欲しいかは人によって異なるのではないでしょうか? 車を移動手段として考える人は前者、自身のステータスとして考える人は後者を選びやすいと言えるでしょう。

性能が優れた商品が、誰にとっても最高の価値を提供しているわけではないということをおさえておきましょう。

カテゴリーによって商品・サービスの選び方は変わる

商品・サービスのカテゴリーによって「買われ方」や「選ばれ方」が異なることを整理するために役立つのが以下の商品カテゴリーマトリクスです。

縦軸:最寄品か買回品・専門品か
最寄品とは、主に日用品などのことです。以下のような特徴があります。

  • 購入頻度が高い
  • 価格が安い
  • 直感的・習慣的に購入を決める
  • 買う前に簡単な比較・検討しかしない
  • 失敗したと感じても後悔が小さい など

一方、買回品・専門品は真逆の特徴があります。

  • 購入頻度が少ない(一年に一度、数年に一度、場合によっては一生に一度など)
  • 高価
  • しっかり情報収集し、念入りに調査して決める
  • 代替品や類似品をしっかり比較する
  • 失敗したときに後悔が大きい、後悔したくない気持ちが働きやすい など

横軸:理性的か情緒的か
軸の左側(理性的)に属する商品カテゴリーはスペックで選ばれやすいと言えます。たとえば、頭痛薬を選ぶときは効くかどうかが最優先され、情緒や自分らしさを重視しないでしょう。

軸の右側(情緒的)に属する商品カテゴリーは、理性的に選択する側面はありつつも(最低限のスペックは求められているものの)選ぶときに好み・気分・感情などが左右される商品・サービスであると言えます。

マトリクスのどこに位置するかによって「買われ方」「選ばれ方」が違うことを意識しましょう。また、スペックが一番良いから選ばれるわけではないこともお分かりいただけると思います。

「買われ方」「選ばれ方」が違うということは、取るべきマーケティングコミュニケーションの戦略・戦術も異なります。たとえば、ほとんど比較検討されない最寄品は、検索されることが少ないので検索エンジン対策はあまり必要ありません。一方で、失敗したくないから事前調査をしっかり行う買回品や専門品は検索エンジン対策が欠かせません。

また、マーケティングコミュニケーションでのメッセージやクリエイティブも変化します。
虫除け(マトリクス左下)は効き目を伝えるべきですが、高級レストラン(右上)は素材の良さ・調理法のユニークさだけではなく味わえる気分やステータスを訴える必要があります。

満足を生む価値の源泉とは何か?

商品・サービスを良いと感じているということは、顧客は何かしらの価値を感じているということです。

一方で、商品・サービスに感じる価値は必ずしもスペックがすべてではない(他のことに価値を感じて選んでいる)のは商品カテゴリーマトリクスからも明らかです。

では、売れるかどうかがスペックのみで決まらない以上、顧客は商品・サービスに対して何に価値を感じているのでしょうか? その源泉はどこにあるのでしょうか?

ここからは、価値という目に見えないものを捉え、理解を助けるための概念として「グッズ・ドミナント・ロジック(以下GDL)」と「サービス・ドミナント・ロジック(以下SDL)」について解説します。

SDLは非常に難解な理論であるため、わかりやすさを重視し単純化してお伝えします。詳しく知りたい方は、以下の論文を参考にしてください。

▼サービス・ドミナント・ロジック~「価値共創」の視点からみた日本企業の機会と課題~
https://www.jstage.jst.go.jp/article/marketing/27/3/27_2008.004/_article/-char/ja/

お伝えしたいのは、GDLからSDLへと価値の捉え方を変えてみましょうということです。「この商品・サービスはこうゆうモノだから」を起点とせずに、商品・サービスの価値を捉えることをめざします。

GDLでは(そして多くのマーケターは)、価値は企業が創り出し、その価値が形になったものが商品・サービスであると考えます。そして、顧客はその価値に見合った金額を出して購入し、その価値を消費する消費者であると考えます。

たとえばビールだと、喉越しがよく、キレがあるから、飲むと一日の疲れをリフレッシュできる…といった価値を企業が規定します。そして、顧客はその価値をそのまま消費していると考えます。このビールによって、企業は「顧客は喉越しとキレを感じ、飲むといい気分になる」と思い込んでいると表現しても過言ではないでしょう。

一方で、SDLは、商品・サービスと顧客の間で価値は共創され、価値の量や質はあくまで顧客しだいであるという考え方を提供します。

同じくビールの例だと、グラスに注ぐかどうか、注ぎ方の上手さ、ツマミの有無、一緒に飲む相手の有無、飲む場所、飲む時間やシチュエーションなどといった顧客に依存する文脈(環境・感情・スキルなど)によって、顧客ごとに感じる価値は異なります。

そして、顧客との共創によって初めて価値が生まれていると考えます。缶ビールはそれ単体だとただの缶に入った液体にすぎず、価値が生まれるのは顧客との共創あってと考えます。

他の例だと、美容師が遺憾なくテクニックを発揮するには「動かない」という顧客の協力が必要です。最高峰の実力を持ったエンジニアたちが作り上げているGoogleも、老人と現役ビジネスパーソンが使った場合、成果の得られやすさが異なります。老人の場合、Googleを役に立たなかった・価値がなかったと判じることもあるかもしれません。

また、もっと広い範囲や、多人数で価値を共創していることもあります。たとえば、夢の国と言われるディズニーランド。夢の国で過ごす時間を、ゲスト(来園者)全員が最高の時間にするために、ホストだけでなくゲストも、あたかも本当に夢の国にいるかのような振る舞いをします(ゲスト同士で手を振り合うなど)。ホストとゲスト、またゲスト同士による価値の共同創造があってこそ、ゲスト全員が夢の国にいるようだ、という価値を感じています。

繰り返しになりますが、価値は企業が一方的に規定できるものではないという考え方を提供するのがSDLです。顧客(たち)の存在があって、はじめて価値が生まれます。顧客の文脈(環境・感情・スキルなど)や顧客同士が共有し合う文脈(空気感・共通認識・言語など)によって価値の量や質は常に変化するのです。この価値を文脈価値と言います。

文脈価値の理解を助ける「トライブ」

トライブとは、共通の興味・関心やライフスタイルを持った集団のことを指します。「同一の血統を持ち、族長が存在する部族」が語源です。

マーケティングでは「共通の興味関心を持った集団」を意味しており、その集まりはオフライン(リアル)の知人同士であることもあれば、Instagramのハッシュタグに代表されるようにオンラインでお互いの顔も知らないような“ゆるい”つながりの場合もあります。

トライブのポイントは以下の3つです。

  • トライブは細分化していくことができる
  • トライブ同士には相性がある
  • トライブ同士がつながる(複数の相性の良いトライブに属しやすい)

トライブは細分化していくことができる
たとえば、サッカー好きというトライブがあったとして、サッカー好きにも種類が存在します。プレーすることが好き、観戦が好き、特定のチームや選手が好き、海外リーグが好き、Jリーグが好き、などです。

トライブ同士には相性がある
たとえば、ハーレーに乗る人は一般的にアメリカンなスタイルを好む人が多いため、革ジャンを好んで着る方が多いので「ハーレー好き」と「革ジャン好き」はトライブ同士の相性がよいと考えられます。

トライブ同士の相性が悪い場合もあります。バイクのなかでもオフロードバイクが好きな方は、特徴的なバイクの形状やオフロード(未舗装の道路)における走破性を好んでいる傾向があります。

オフロード走行には機能性の高い服装が好まれるため、革ジャンなどを着用したアメリカンな格好は適しません。つまり、オフロードバイクと革ジャントライブの相性が良いとは言えません。相性の良さとは、以下のように言語化できると考えられます。

① トライブに属する人同士の価値観や嗜好が近い
② それぞれのトライブが好むモノ・コトに興味を持ちやすい(ハーレー⇔革ジャン)
③ 利用シーンにおいて、それぞれのトライブが好むモノ・コトが同時に存在していても違和感がない(馴染む・より映えるなどの相乗効果がある)

トライブ同士がつながる(複数の相性の良いトライブに属しやすい)
先述の②にも関連しますが、たとえば、キャンプ好きの方はビールが好きであったり、DIY好きであったり、車ならSUVやミニバンが好きだったりします。図に表すと以下のようになります。

あるトライブに属している人は、相性の良いトライブが好む対象(キャンプトライブの人は車・ビール・ミニバンなど)に興味を持ちやすいと言えます。

このように、顧客は一つのトライブのみに属しているのではなく、属しているトライブと相性の良いトライブの一員でもある、というように複数のトライブ同士の関係を俯瞰して捉えてみることが大事です。

顧客は、どんな価値を感じているか?

そして文脈価値の話に戻ります。以下のInstagramの画像をご覧ください。

所々にワーゲンバスという車が登場していますが、一段目右上は自転車、二段目左はガレージとサーフボード、三段目は空やキャンプと…といった具合に撮影され、投稿されています。

では、このワーゲンバスのユーザーは、ワーゲンバスの性能やデザインのみに価値を感じて投稿しているのでしょうか? 写真のバリエーションの豊富さからも、そうではないことがわかります。

さまざまな◯◯トライブでの時間を、ワーゲンバスとともに過ごすことで、価値を共創しています。たとえばキャンプだと、おしゃれな空間にワーゲンバスの存在が良い調和を生んでいる(それがとても良い)という価値を感じていると言えます。

異なるトライブにおける異なった文脈によって、異なる価値を感じている(そしてその瞬間をInstagramに投稿している)のです。これは、このユーザーがワーゲンバスと共創して生み出した、このユーザーならではの文脈価値です。ワーゲンバスの存在だけでどんな価値を感じているのだろうかと考えずに、顧客が属するトライブごとに、ワーゲンバスと一緒にどんな価値を共創しているのだろうかと考えると、価値が捉えやすくなるのではないでしょうか。

今回のテーマである「一番売れている商品」は「一番良い商品」なのか。これは売れている商品であるほど、多くのトライブや人から価値を感じられやすく、その価値の性質も多彩であると考えられます。

価値をこのように捉えることで、自分たちの商品・サービスをマーケティングするときに何をコンセプトにするのかヒントにしようということを最後にお伝えします。

企業・ブランドは製品スペックによる物理的便益を価値の中核と考えがちです。一方で、顧客は自分が欲する価値とそれを提供する便益の有無によって商品・サービスを選びます(すべての商品・サービスがそうではありません)。特に先述した商品カテゴリーマトリクス上、上半分に位置する買回品や専門品の場合、見ている目線が図の通り真逆になることも少なくありません。

ここでお伝えしたいのは、マーケティングコミュニケーションのコンセプトを考えるときに、製品スペックや物理的便益を起点に考えると顧客が感じる価値を見誤りやすいということです。

自分たちの商品・サービスはどのようなトライブに好まれ、顧客はどのような価値を共創し、どのような文脈価値を感じているのだろうかを考えてみましょう。

まとめ

  • すでに多くの商品・サービスのスペックは、生活者が求める基準を上回っていることがほとんど。そのような状況下において、性能が良い商品・サービスであれば必ず売れ、必ず良い商品・サービスだと思ってもらえるわけではない
  • 商品カテゴリーマトリクスで示される、最寄品か買回品・専門品か、理性的か情緒的かによって、買われ方が異なることが分かる。買われ方が変わるということはマーケティングのやり方も変わる
  • 価値は生活者と商品・サービスによって共創される。その価値の量・質は商品・サービスのスペックだけでなく顧客のニーズによって変化する。顧客との共創によって生まれる価値を文脈価値と言う
  • 文脈価値を捉えるにはトライブという考え方を理解する。トライブは「共通の興味関心を持った集団」を表し、トライブには大小と相性がある。相性が良いトライブ同士はつながりやすい
  • 顧客は異なるトライブにおける異なった文脈で、異なる価値を感じている。顧客がなぜいい商品と感じているのかについて、製品スペックだけで規定できない広がりがあることを意識しよう
  • マーケティングコミュニケーションのコンセプトを考えるときに、製品スペックを起点に考えると顧客が感じている価値を見誤りやすい。顧客はどんな価値を感じるために、自分たちの商品・サービスを選んでいるのかを考えてみよう

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