「興味」「好意」「信頼」は広告で獲得可能か? 振り返りレポート
今回のテーマは、マーケティングコミュニケーションの目的、すなわち購入意向を高めるための「興味・好意・信頼」の獲得方法です。
生活者はあらゆる商品・サービスに対し、さまざまな態度を形成しています。どのようなコミュニケーションを行えば、自分たちの商品・サービスに好意的な態度を持ってもらうことができるのでしょうか。今回は、態度の基本的な考え方や、「興味・好意・信頼」の中でもっとも最初に獲得すべきである「興味」が形成されるメカニズムと対処法について解説します。
講座へお申し込みいただいた方の回答サマリー
今回はお申し込み時に「興味・好意・信頼を獲得するために、もっとも有効な手法は広告だと思いますか?」という課題に回答していただきました。
「あまりそう思わない」が目立つ結果でした。今回の池田の回答は「認知は金で買えるが、愛はお金で買えない」。愛と表現していますが、興味・好意・信頼についても同じことが言えます。多くの資金を投下し、ひんぱんに広告を出すことで名前を知ってもらうことは可能です。しかし、興味を持ってほしい相手に対して、「自分に興味を持って!」と一方的に伝えても興味を持ってもらうことは難しいのではないでしょうか(恋愛でイメージするとわかりやすいでしょう)。
興味・好意・信頼の獲得は、広告で絶対に実現できないというわけではありませんが非常に難易度が高く、最適な手法であるとは言えません。詳しくは後述しますが、興味・好意・信頼を獲得するために有効な方法は、パブリシティとクチコミです。
今回の記事では、どんな人でも持っている「態度」について解説した後、好意・信頼の前にまず興味を持ってもらうことの必要性、人が興味を持つメカニズム、そして対処法を解説します。
商品やサービスに対する態度とは?
人は人に対してさまざまな態度を見せます。家族・職場の同僚・友人など、人間関係によって異なる態度を使い分けています。
人に対する態度と同様に、場所、商品、サービス、お店などに対しても人は態度を形成しています。たとえば東京や大阪、新宿と渋谷など、それぞれ「居心地がいいと感じる」「好きな街である」「あまり良い印象はない」など人によって持つ態度が異なるはずです。
態度を2つの軸を用いて4象限で分類すると、以下の図のようになります。
縦軸が認知的態度、横軸が感情的態度であり、端的に言うと縦軸が「良い・悪い」、横軸が「好き・嫌い」です。
生活者のニーズが十分に満たされていなかった時代は、商品・サービスを選ぶ基準は認知的態度(良い・悪い)が中心でした。美味しい・美味しくない、効く・効かないなどの基準です。同じニーズに対しても、商品・サービスによってパフォーマンスの差が大きかったため、そのような選ばれ方をしていました。
一方、現在はどの商品・サービスを選んでもパフォーマンスに大きな違いはなく、認知的態度のみで競合と差をつけることが難しくなりました。このような環境下においては、明確に商品・サービスを選択した理由を、良し悪しで言語化することは困難です。特に、無意識で手に取りやすい最寄品(≒一般消費財)ほどその傾向は強いのではないでしょうか(実際に身の回りの商品を選んだ理由を言語化できるか試してみましょう)。
認知的態度よりも「(明確に意識していないが)なんとなくこっちのほうが好きだから・気に入っているから」のような感情的態度で選んでいるケースが増えていると考えられます。
パフォーマンスによる良し悪しの評価(認知的態度)で商品・サービスを選択することがなくなったわけではありませんが、好き・嫌いの評価(感情的態度)で商品・サービスを選ぶことが増えてます。その場合、商品・サービスの良し悪しによって感情的態度が決定されるのでしょうか? 池田はそうではないと言います。以下の図をご覧ください。
まずは感情的態度によって商品・サービスを選択し、認知的態度が形成されることもありえます。商品・サービスを選ぶ前に、あらかじめ持っていた情報をもとに感情的態度が形成され、実際に手に取り、使ってみて認知的態度が形成されることもありえます。たとえば、好きなブランドだったから、良し悪しはわからないけど商品を手に取った経験はありませんか?
そのため、一般的にマーケティングコミュニケーションの土台となるのは「良し悪し」の訴求であることが多いですが、感情的態度を計画的に向上させることも求められます。池田は定期的なブランド調査で「好意度」を取っている企業は多いものの、意図的・計画的に向上させることをマーケティング目標にしている企業は多くないと言います。
一方で、感情的態度を良くするとは言ったものの、気をつけるべきは自分たちのブランドや商品・サービスを好きだと思ってもらうことの難しさです。多くの企業が一足飛びに好意度を向上しようと考えますが、その前に興味を持ってもらうことができなければ、好きになってもらうことはできません。そもそも、生活者は多くのことに無関心です。
たとえば、Yahoo!ニュースは日々8,000本前後の記事が更新されています。しかし、すべてのニュースに興味を持ち、目を通している人はいません。すべてを見る時間がないからではなく、ほとんどのニュースに興味が無いからです。この記事を読んでいる皆さんも、無意識的に自分が興味のある情報・ない情報を取捨選択しているはずです。TwitterやInstagram、TikTokなどを見ているとき、興味のある情報を見つけるまで指は動き続けているのではないでしょうか。
このように、自分たちのことを知らない・無関心な相手に対して、自分たちが発信している情報に興味を抱いてもらうこと(そしてその先に好意・信頼を感じてもらうこと)はそもそもかなり難しいと認識することが大切です。
人はどうすれば興味を持つのか?
人が興味を持つ仕組みについて解説する前に、まず世の中の物事(コト)を4つに分類した以下の図をご覧ください。
他人ゴト
世の中のほとんどの物事がここに分類されます。
世の中ゴト
世の中の多くの人が興味を持っている物事を表します。マスメディア(特にテレビ)が取り上げている物事がほとんどで、たとえば芸能人のゴシップ、有名企業の不祥事、大きな災害や病気のまん延、オリンピックやワールドカップなどのスポーツの祭典、流行している物事などです。世の中ゴトはマスメディアにしか作ることができません。
仲間ゴト
人間関係や興味関心のつながりのなかで、そのつながりに属している人たちが興味を持っている・関心を示している物事です。人間関係や興味でつながるSNSが仲間ゴトの形成を得意としています。たとえば、友人内で流行っている遊びや、韓国好きの人たちの中で最近注目されているアイドルなどです。
自分ゴト
生活者一人ひとりがそれぞれ関心のある物事です。興味を持ってもらっている状態とは、自分ゴト化してもらえている状態と言うことができます。
自分ゴトになりやすい(自分が物事に興味を持ちやすい)のは、世の中ゴトや仲間ゴトで話題になっている物事です。世の中や仲間が興味を示している物事には、自分も興味を持ちやすいということです。たとえば世の中で流行っていて、仲間もどんどんその流行に乗っていくなかで、自身も興味を持った経験はありませんか? 池田はこのような状態を「世の中ゴト仲間ゴト包囲網」と称しています。
『ブランドは広告でつくれない 広告vsPR』という書籍において「PR first, advertising second.」という考え方が紹介されています。これはPRによってまずは興味を持ってもらい、興味を持ってもらった相手に広告を届けるべきという考え方です。
たとえば、登山に興味がない人に、登山で利用する装備品を熱心にアピールしても興味を持ってもらうことはできません。PRの力によって、世の中や仲間が登山に関心を持ち、「登山ってちょっとおもしろそうだな」と感じてもらうことで、「登山のときには当社の靴がおすすめです」というメッセージに興味を持ってもらいやすくなるということです。
また、マーケティング施策に用いるAIDMAやAISASといった購買行動モデルは認知から始まっていることが一般的です。しかし、InstagramやTikTokのような「あなたはこうゆう物事も好きなんじゃないですか」とオススメしてくるプラットフォームでは、興味を持つことから始まって、商品を知るというケースも増えています(自身がInstagramやTikTokを触っていて、同様の経験が無いか考えてみましょう)。
今の生活者の行動を考えると、商品・サービスを買ってもらう過程において、すべて認知から始まっているわけではないこともおさえておきましょう。
どうやって興味を持ってもらうのか?
興味を持つメカニズムについて解説しましたが、具体的に興味を持ってもらうためにはどうゆう手法が考えられるのでしょうか。PESOモデルを用いて解説します。
ソーシャルメディアが誕生する以前は、Paid(広告)・Owned(自社が持つメディア)・Earned(主にマスメディア)の3種類のメディアが存在していました。マーケティングコミュニケーションの主役はPaidであり、Paidに出稿するついでにEarnedでの露出を狙っていく、という考え方が一般的でした。繰り返しになりますが、商品・サービスがパフォーマンス(とそれに伴う認知的態度)によって評価され、パフォーマンスに優れた商品・サービスがどんどん誕生していた時代はこの考え方で問題はありませんでした。
その後、主にソーシャルメディアの誕生がキッカケとなり、生活者によって生み出されたコンテンツが爆発的に増加します。それに加え、商品・サービスごとのパフォーマンスの優劣が大きく変わらなくなったことで、メディアが持つ影響力が変化しました(図の右側)。
有象無象のコンテンツが爆発的に増えたことで、企業による公式情報を発信するOwnedの信頼性が向上しました。一方で、Owendは検索流入がほとんどであることから、すでに物事や商品・サービスに対して興味を持っている人が訪れることがほとんどです。そのため、興味を持ってもらうためのメディアとしてあまり有効ではありません。
興味・信頼・好意を獲得するメディアの主戦場は、EarnedとSharedの2つです。先述した通り、世の中ゴト・仲間ゴトが興味を喚起するからです。
そして、世の中ゴトを形成できるのはマスメディアで、仲間ゴトはソーシャルメディア内のクチコミによって形成されます。しかし、この2つのメディアは企業の手で直接コントロールすることはできません。
アンコントローラブルなこの2つのメディアを活かすには、広告宣伝の担当者もPR視点を持つことが求められます。かねてよりPR担当の方は、メディアに興味を持ってもらうために(そしてその先の生活者に興味を持ってもらうために)自社の商品やサービスに関連し、かつ生活者の関心が高い物事は何かを日常的に考えています。同じような考え方が、広告宣伝の担当者にも求められているということです。
「関心テーマ」を考える練習をしよう
PR視点を身につけるとは、「関心テーマ」を見つける力を身につけると言い換えることができます。
※関心テーマとは『戦略PR 世の中を動かす新しい6つの法則』にて本田 哲也氏が提唱した考え方です。
商品・サービスが持つ価値だけでは、生活者は興味を持ちにくいことはここまでお伝えしたとおりです。そのため、商品・サービスが持つ価値と、ターゲットの関心事、そして世の中の関心事と重なることは何かを考えてみましょう。それが関心テーマです。
たとえば、パン粉単体では興味を持ってもらうことは難しいと言えるでしょう。では、多くの生活者が興味を持ちそうかつ、パン粉が関連していることで言うと「揚げ物」が挙げられそうです。プロテインの場合だと「筋トレ」、PCスタンドだと「在宅勤務のデスク環境」などです。つまり、商品主語ではなく生活者が興味を持ちそうな切り口は何かを考えるということです。
商品・サービスの持つベネフィットをいかに伝えるかが広告宣伝に関わる方に求められる主なスキルでしたが、関心テーマを考えることで新しい訴求内容が見つかることもあるはずです。関心テーマの考え方を身につけるには、書店の雑誌コーナーに立ち寄ってみて、どんな雑誌でどんな特集が組まれているのかを見に行くこともおすすめです。
関心テーマを見つけ、その関心テーマがPRやSNSの力で世の中ゴト・仲間ゴトになるように工夫し、興味を持ってもらう。そして興味を持ってくれた人に対し、広告の力で自分たちの商品・サービスのことを伝え、コミュニケーションを続けることでいつか好きになってもらう。いま、マーケティングコミュニケーションにはそういった考え方が求められています。
まとめ
- 人は人に対してだけではなく、商品やサービスなどあらゆるものに態度を持つ。態度には良し悪しを表す認知的態度と、好き嫌いを表す感情的態度がある。いまは多くの商品・サービスがほぼ変わらないパフォーマンスであるため、感情的態度が商品・サービスの選択に影響しやすいと言える
- 好きの反対は無関心。生活者はほとんどのことに興味がないため、一足飛びに好意度を上げようと考えるのではなく、そもそも興味を持ってもらうことからはじめる必要がある。一方で、興味を持ってもらうためのハードルはかなり高いことを認識しよう
- 世の中ゴトと仲間ゴトになっている物事に対して、人は興味を持ちやすい。世の中ゴトはマスメディア、仲間ゴトはSNSによってつくられる
- 興味を持ってもらうためのメディアについて、Paidの影響力が下がり、相対的にEarnedとSharedの影響力が高まっている。この両メディアは企業で直接コントロールできるメディアではないため、この両メディアで世の中ゴト・仲間ゴトと作るために広告宣伝担当者もPR視点を持つことが求められる
- 関心テーマを見つけるトレーニングをしよう。自身の商品のベネフィットを押し出すのではなく、自社商品・サービスのベネフィットと世の中ゴト、そしてターゲットの関心ゴトが重なる関心テーマを見つけ、興味を持ってもらうことをめざそう