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公開日:2024年3月1日

『マーケティングつながる思考術』連続講座⑤バズれば売上は上がるのか? 振り返りレポート

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トライバルメディアハウス代表の池田が2023年1月に上梓した、マーケティングの医療ミス撲滅を目指す書籍『マーケティング「つながる」思考術』(翔泳社)の内容をもとにした連続講座の第5回です。

ブログやX(旧Twitter)の普及によって発生したバズマーケティングブーム。
「バズる」とは、多くの蜂が群がっている様子を表す「buzz」から生まれた言葉であり、大多数の人が同じコンテンツについて話題にしている様子を表しています。

ブーム発生から10年以上経った今でも「とにかくバズりたい」「バズって売上を伸ばしたい」など、「バズれば無料で認知も広がるし集客や売上獲得もできる!」と考える人は少なくありません。魔法の杖のように思われてしまいがちな「バズ」について、より解像度高く理解できるようにポイントを解説します。

バズマーケティングが担うことができる役割

バズマーケティングは、広告・PR・ソーシャルメディア上のコンテンツが拡散されることを狙うマーケティング手法です。コンテンツによって人を惹きつける効果に加えて、多くの人が共有した結果として起こる拡散によって、リーチの拡大や、コンテンツに触れた人の強い興味喚起に貢献することができる施策です。一方で、拡散されるのはソーシャルメディア上であることから、バズが起こるかどうかはアンコントローラブルであることに注意が必要です。

マーケティングファネルマップでバズマーケティング(バズキャンペーン)の位置を確認してみましょう。

バズキャンペーンは、認知獲得や興味喚起にもっとも効果を発揮する施策です。「理解促進・比較検討・そして購入にまで影響するのでは」と考える人も少なくありませんが、バズるコンテンツの性質を考えるとそれは難しいことがわかります。

バズるコンテンツは、基本的に短尺であることがほとんどです。また、バズはネタの面白さによって感情が刺激されることで、多くの人がシェアすることによって起こります。長尺かつ説明的なコンテンツは感情を刺激しにくいためバズりにくく、そのため商品・サービスについて理解を深めてもらうことにはあまり効果を発揮しません。

バズキャンペーンにおいても、動画やコンテンツマーケティングなどと同様に、何を狙って行うのかという合意形成が欠かせません。バズは影響力が大きそうに見える施策であるからこそ、期待過剰が医療ミスにつながりやすい施策でもあります。バズマーケティングを行ったときに起こりがちなミスは主に以下の2つです。

① バズらなかった
② バズったけど売上に変化がなかった

この2つのミスが起こる要因をそれぞれ解説します。

なぜそのコンテンツはバズらなかったのか?

バズるためには、最低でもソーシャルメディア時代における情報設計が行われなければならないと池田は指摘します。それは以下の3つです。

すべてに含まれる「-able」は「~されやすさ」を表します。世の中でバズっているコンテンツはこの3要素すべてが含まれていることが多く、この3要素が揃えることがバズる確率を高めることにつながると池田は言います。

Talk-able(伝えやすさ)
一つ目の要素である「Talk-able」は、コンテンツが人に教えてあげたい・伝えてあげたいものになっているかどうかです。「Talk-able」があるコンテンツかどうかは、できるだけ複数人で検証することをおすすめします。

誰かに教えたい・伝えたいとなるのはどういうときか? を考えてみましょう。それは感情の振り子が大きく振れたときであると言えます。つまり、事前に期待していた以上のものに触れたとき、感情は動きやすくなります。たとえば、全然期待していなかった飲食店に入って、想像以上に美味しい料理と出会えたとき、人に教えたくなりませんか。あるいは、特に何も感じていないような、感情が凪のような状態のとき、感情を動かすコンテンツに出会ったとき、同じように人に教えたくなった経験があるのではないでしょうか。

池田がかつて多くのバズったコンテンツを分類し、バズるコンテンツはどのような感情を動かしているのかを整理したものが以下の「6つの琴線スイッチ」です。

バズマーケティング(バズキャンペーン)を検討するときには、どの琴線スイッチを押そうとしているのか、そして押した後に「どのような言葉で人に教えるのか・共有するのか」までイメージできていると、コンテンツの完成度が高まっていると言えるでしょう。

Buzz-able(バズりやすさ)
「Talk-able」が「個人の感情の動きを起こすことができ、語られやすいものであるかどうか」という要素であることに対し、「Buzz-able」はそのネタが話題になりやすい世の中の空気であるかを表します。

たとえば、お餅の話題であれば正月がもっとも語られやすい、のような四季のイベントとの相性や、世の中の流行や大きなニュース、時代の節目など、そのような“空気”をおさえられているかが重要な観点です。多くの人が関心を持つことに関連するコンテンツであればあるほど、他人に共有されやすく、バズる確率は高まると考えられます。

Share-able(共有しやすさ/情報摂取のしやすさ)
最後の一つは「Shareable」です。シェアボタンの有無が問題ではなく、そのコンテンツは受け入れられやすいコンテンツであるかという観点です。

スマートフォンやSNSの普及によって、日常的に接触するコンテンツが爆発的に増え、多くの人は一つのコンテンツに時間を割かなくなりました。新聞や書籍など、じっくりと時間をかけて摂取する情報は敬遠されがちになっています。だからこそ、あらゆるメディアの情報量が圧倒的に端的かつ少なくなったり、要約が用意されていたり、「ながら」や受動的態度で接触できる動画や音声が用いられたりしています。例えるなら、情報を吸収するために「噛む」必要があったコンテンツから、さっと「飲み込める」コンテンツが好まれるようになったと言えます。

このような時代においては、コンテンツは作ればよいのではなく、摂取しやすいものになっていることが望ましいと言えるでしょう。また、現在はコンテンツによって情報を摂取するためには、複数のハードルが存在するようになったと考えられます。以下の図をご覧ください。

まずは、多くの情報が流れるタイムラインで指を止めることが1つ目のハードル、そしてちょっと覗いてみるかとタップしてもらうことが2つ目のハードルです。

タップしてもらうことができたから(興味を持ってもらうことができたから)と言って、いきなり「さぁどうぞ」と思う存分コンテンツを見てもらおうとするのではなく、まずは「注意を払って、時間を割いても見るべきかを判断させる」ためのステップを挟むことが大切です。生活者は暇ではないからこそ、最初の数十秒の体験がつまらなければいつでも「戻る」ボタンを押す体制があることをおさえておきましょう。

しっかり指を止めてもらい、タップしてもらい、面白そうと感じてもらい、しっかり見てもらうというすべての要素がそろっているコンテンツが「Shareable」なコンテンツであると言えます。

以上、「Talk-able」「Buzz-able」「Shareable」について解説しました。まとめると、バズるコンテンツは感情を動かすものであり、共有されやすい空気が出来上がっていて、コンテンツそのものが摂取しやすいものになっている必要があるということでした。

バズマーケティングで売上につながりやすい条件とは?

バズマーケティングで起こりがちなミスの2点目は「バズったけど売上につながらなかった」という点です。冒頭でマーケティングファネルを用いて解説したとおり、バズマーケティング(バズキャンペーン)はそもそも認知獲得と興味喚起に有効な施策ではありますが「バズった結果売れる」がありえないわけではありません。

たとえば、『カップヌードル』『どん兵衛』『チキンラーメン』などで多くのバズを起こしている日清食品が代表的な例でしょう。以下の『売上の地図』をご覧ください。

そもそも、日清食品の製品(『カップヌードル』など)は歴史が長く、売上が「トライアル売上」であることは少ないでしょう。ほとんどの場合が「リピート売上」です。

そのため、すでに多くの生活者が製品を認知しており、買ったことがあるから製品パフォーマンスの高さ(手軽においしく食べられること など)を知覚しており、価格も安く、多くの売り場で手に入れることができます。このように想起につながる各要素がすべて高い状態にあるからこそ、あとは、瞬間的に想起を高めたり、再想起させられればリピート売上につながりやすいということです。

つまり、日清食品のバズキャンペーンに触れた人は、すでに日清食品の製品に対するプレファレンスが高い状態であるため、「久々に食べてみるか」という再想起を獲得しやすい状態が常にあるから、バズったことで再想起され、売上(リピート売上)を上げることができているということです。

このように、再想起によってただちに売上に寄与できる商品・サービス(特に最寄品)はバズキャンペーンとの相性が良いと言えるでしょう。

買回品や専門品はバズキャンペーンが有効ではないというわけではありません。しかし、実施する場合は正しい目的設計が欠かせません。バズキャンペーンは認知や興味喚起に貢献ができるため、ニーズが顕在化したときにより好意的に、より購入の選択肢の一つとして思い出してもらいやすくなります。そのため、強く興味喚起を行うためのバズキャンペーンは有効であると言えるでしょう。

まとめ

  • バズマーケティング(バズキャンペーン)はコンテンツに触れた人の感情を大きく動かすことで、認知獲得や強い興味喚起を起こすことができることが最大の強み。ただし、説明的なコンテンツは感情を動かすことが難しく、理解促進や購入につなげることは多くの場合難しい手法である。また、バズが発生するソーシャルメディアは基本的にアンコントローラブルであるため、バズを起こすことも同様にアンコントローラブルであることを理解しよう
  • バズるために限らず、コンテンツを制作するときにはソーシャルメディア時代の情報設計に必要な要素「Talk-able」「Buzz-able」「Shareable」をおさえておこう。感情を大きく動かすことができ、共有しやすい空気があり、情報を摂取しやすいという3要素が揃ったコンテンツはバズる確率が上がると言える。
  • バズることによって売上につながる確率が高いのは、すでに強力なプレファレンスがある最寄品の場合のみ。買回品や専門品の場合はバズによってすぐ売上を上げることはできないが、ニーズが顕在化したときに好意的に想起されやすい状態を作るためのアプローチとして有効な場合はある。社内でバズマーケティングを行う目的についての合意形成は欠かさないようにしよう

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