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公開日:2024年3月8日

『マーケティングつながる思考術』連続講座⑥SNS公式アカウントでモノは売れるのか? 振り返りレポート

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トライバルメディアハウス代表の池田が2023年1月に上梓した、マーケティングの医療ミス撲滅を目指す書籍『マーケティング「つながる」思考術』(翔泳社)の詳細を解説する連続講座の第6回です。

SNS公式アカウント運用はマーケティングの医療ミスを起こしやすい施策です。Twitter(現在はX)やFacebookの日本上陸以降、これらのプラットフォームは「企業やブランド、店舗などが無料で公式アカウントを開設し、フォロワーやファンと常時つながれる場所をつくることができる」という大きな変化を起こしました。

多くの企業が公式アカウントを立ち上げ、マーケティング効果を獲得するために試行錯誤を繰り返しています。その一方で「売上や集客につながらない」「拡散しない」「投稿しても全然反応がない」と嘆く企業も少なくありません。

本講座では、SNS公式アカウント運用について「できること」や、SNSアカウント運用を行うときにおさえておくべきポイントを解説します。

SNS公式アカウント運用ができること

SNS公式アカウントは、『売上の地図』では以下のとおり位置づけられます。プレファレンスの一要素であるブランド・エクイティに影響を与えることができるインプット施策として機能します。プレファレンスが高まった結果、想起される確率が高まり、売上につながっていくという構造です。

マーケティングファネルマップを見てみましょう。SNS公式アカウント運用は、以下の位置になります。

SNS公式アカウントの大きな特徴は、買っていただく前・後の両方に影響できる施策であるということです。その一方で、比較検討段階への影響や、いますぐの購入を促す販売促進効果はありません。詳しくは後述しますが、ソーシャルメディアは買ってもらう場所ではなく、買いたい気持ちをつくる場所であることを意識しましょう。

買っていただく前(ファネルの左側)は比較検討・購入の位置に置かれていないものの、再購入に位置づけることができるのはなぜでしょうか。それは、SNS公式アカウントを通じて購入・利用体験を思い出してもらうことで、そのまま購入に至ってもらうことができるためです(製品パフォーマンスが伴っていることが前提です)

「SNSのそもそも」を理解しよう

SNS公式アカウント運用について解説する前に、ソーシャルメディアやその一部であるSNSがマーケティングが行なわれる場所としてどのような特性を持つのかを理解しましょう。

フローとストック
ソーシャルメディアにはフローとストックという2つの性質が存在します。大量の情報が一瞬のうちにタイムラインをどんどん流れていくのがフローであり、ほとんどのSNSはフローの性質を持ちます。

フローは情報がどんどん流れていくことに加えて、人それぞれ見ているタイムラインが異なっているという分散という性質を持ちます。この点はよく見落とされがちなので注意しましょう。フローとは対照的に、ストックの性質を持つのが評価サイトやECサイトのレビューです。

SNS公式アカウントは主にフローの環境下で運用されていることがほとんどですが、Instagramはフローとストック両方の性質を持ち合わせたSNSであるといえるでしょう。タイムラインによってフローの性質があるだけではなく、購買意思決定に関わる情報探索に用いられる(ストックされた情報が参照される)という性質をもったユニークなSNSです。

消費者から消費者連合へ
SNSが誕生する前は、企業と生活者の間には情報の非対称性が存在していました。ほとんどの情報が企業やメディアによって生み出され、生活者に対して一方向的に伝えられていたものが、SNSの登場によって一変します。SNS上では生活者が情報を生み出す主体になり、企業の関与しないところで商品・サービスに関する会話が行われていることが当たり前になったのです。つまり、企業と生活者のコミュニケーション方法の在り方が根本から変わったと言っても過言ではないでしょう。

ソーシャルメディア時代のマーケティングの到来
マーケティング環境をソーシャルメディアとソーシャルメディア以外に分けて考えることもほとんど意味を成さないようになりました。生活者のそばには常にスマートフォンがあり、SNSで日常の過ごし方を決めたり、会話の中にSNSで得た情報が含まれたりするなど、ソーシャルメディアが日常の中に当たり前のように存在している市場環境でのマーケティングコミュニケーションを考える必要があります。マーケティングコミュニケーションの考え方をSNSに特化したり最適化したりするという考え方では視野が狭くなってしまうことに注意しましょう。

SNSは「公園」のような場所である
SNSはユーザーのユーザーによるユーザーのための場所であることを忘れてはいけません。SNSという公園を訪れるユーザーは、公園に来ることそのものが目的であるということです。メディアをコントロールできるものとして扱っていると勘違いしてしまいがちですが、大前提としてSNSにいるユーザーは自社の商品やサービスに用事は一切ないのです(用事があるのであればオウンドメディアに訪れるでしょう)。公園に爆音のアドトラックが乗り込んでくると、思い思いの時間を過ごしていたユーザーから敬遠されたり煙たがられたりすることは明らかでしょう。

SNS公式アカウントは公園に出す出店のようなものであると考えましょう。公園に来ている人たちに対して自分たちの情報を「良ければ見てもらえませんか」というコミュニケーションが必要となる場所です。マーケティングをさせていただくという姿勢を忘れないようにしましょう。

SNS公式アカウントによる想起への貢献

『売上の地図』において、トライアル売上やリピート売上のためには想起が大切です。生活者のニーズが顕在化したときに、購入を検討する好意的な選択肢の集合体を想起集合と呼びますが、この想起集合に入ることがマーケティングにおける重要な目的の一つです。また、想起集合の内容は変化し続けるため、想起集合に入り続けることも必要です。

このためにSNS公式アカウントが発揮することができる最大の効果は「ゆるくつながり続けることができる」という点です。

生活者との断続的なコミュニケーション手法の一つとして代表的なものがメールマガジンですが、メールマガジンほど存在感がない点がSNS公式アカウントの弱みのように見えて、最大の強みでもあるという点が特徴的です。

SNSへ無目的で訪れ、受動的に情報を摂取する生活者に対し、ときどき目に入るくらいの存在感で情報を伝え続けられることや、接点を保ち続けられることがSNS公式アカウントの「できること」であり強みです。

たとえば、不動産サイト『SUUMO』の例を解説します。人生のうち限られた機会である引っ越しにおいて衝動買いが起こることはほとんどなく、比較検討のために検索行動が行われることが一般的です。検索行動を行った人に対して『SUUMO』を利用してもらうためのアプローチは数多く行われていますが、それは自社に限った話でなく競合他社も同様です。そこでSNS公式アカウントによって「ゆるくつながり続ける」ことで、ニーズが顕在化したときに『SUUMO』と検索されることを目指したのです。

この『SUUMO』の例のように、ニーズが顕在化したとき、自社の商品・サービスを真っ先に想起してもらうために欠かせない要素が以下の3点です。

できるだけ最近(Recency)に、頻度高めで(Frequency)、感情を動かした回数が多いほど(Engagement)想起されやすくなるというものです。なお、Engagementは「今日もいいね!」のような好意的な感情の積み重ねによって、感情的な結びつきを少しずつ蓄積していくことが真骨頂であり、SNS公式アカウントがもっとも得意とすることの一つでもあります。

なお、SNS公式アカウントへのエンゲージメントが高い層は、そうでない層と比較して想起率や購入意向が高く、LTVも高いことはトライバルメディアハウスが支援を行った数多くのSNS公式アカウントで共通しています。

SNS公式アカウントの機能

また、SNS公式アカウントはRFEを意識したコミュニケーションによって想起を高めることも含め、以下のような機能を果たすことができると整理できます。

情報を知ってもらったり、先述したようなエンゲージメントを増やしたり、生活者の会話を促すファシリテーターのような存在になったり、インフルエンサーとコミュニケーションするための窓口になったりなど、果たすことのできる役割は多岐にわたります。

また、SNSに日常的に触れていると、SNSを通じて世の中の空気感をキャッチしやすくなります。SNSで適切にコミュニケーションをとるための肌感覚を満たすこともできると言えるでしょう。時代に取り残されず、炎上リスクを下げるという間接的な効果もあるはずです。

SNS公式アカウントは、うっすらと生活者とつながり続けられるマーケティング施策として、代替できない施策であるといえるでしょう。

まとめ

  • SNS公式アカウントは買っていただく前後の両方にアプローチできる施策だが、買っていただく前の比較検討や購入促進の効果を発揮することはできない。一方で製品パフォーマンスが伴っている商品・サービスの再想起を促すことができれば、再購入にも寄与できる施策である
  • ソーシャルメディアにはプラットフォームによってフローとストックそれぞれの性質がある。フローのメディアは「人によって見ているタイムラインが異なっている」という分散の性質があることをおさえておこう
  • ソーシャルメディアは生活者の生活の一部になっているため、ソーシャルメディアとそれ以外のマーケティングを分けて感がるのではなく、ソーシャルメディアが存在していることを前提としてマーケティングすべてを検討する必要がある
  • SNSはユーザーのユーザーによるユーザーのための空間であるため、過度に「買ってください」とアピールしても効果は望めない。公園に出した出店のように、よければ見てもらえないかくらいの温度感でマーケティングをさせていただくという姿勢を忘れないこと
  • SNS公式アカウントは生活者の日常を邪魔しない程度に「うっすらとつながり続ける」ことができ、ニーズが顕在化したときに真っ先に想起してもらう可能性を高められることが真骨頂である。つながり続けて想起につなげるためにはRFEが必要で、最近・頻度高く・感情を動かすことができているかを意識しよう

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