『マーケティングつながる思考術』連続講座⑨ファンコミュニティで顧客の囲い込みはできるのか? 振り返りレポート
トライバルメディアハウス代表の池田が2024年1月に上梓した、マーケティングの医療ミス撲滅を目指す書籍『マーケティング「つながる」思考術』(翔泳社)の内容をもとにした連続講座の第9回です。
ファンマーケティングの延長線上でたびたび検討されるファンコミュニティの開設。
熱量の高いファンを集め、ファンが交流することでロイヤルティの向上が期待でき、LTV向上やファンのさらなる増加など、多くのことを期待されて開設されたファンコミュニティが、閉鎖に至ってしまう例も少なくありません。
今回は、ファンコミュニティを始めるときに考慮すべき「できること」と「できないこと」だけでなく、続けていくためにあらかじめおさえておくべきポイントについても解説しました。ファンコミュニティは、「始める」のは簡単ですが「続ける」のは本当に大変です。始めるにせよ、始めないにせよ、転ばぬ先の杖を持っておきましょう。
※第8回(ファンマーケティング)とセットで学習することでより理解が深まる内容です。
ファンコミュニティのマーケティング上における役割
ファンコミュニティは、『売上の地図』においてロイヤルカスタマーに向けて行う施策です。
また、マーケティングファネル上で見ると、「買っていただいた後」に行うマーケティング(ポストマーケティング)施策の一つです。
詳しくは後述しますが、ファンコミュニティはロイヤルカスタマーを対象にした「買っていただいた後」のマーケティングだからと言って、リピート売上の向上だけを目的にすると失敗する施策です。そして、ファンコミュニティによって何を得たいのかを明確にすること、組織のトップにコミットしてもらうこと(会員数・売上・LTVなどの数字だけで評価しないこと)が求められる施策です。
ファンコミュニティの誤解と失敗要因
ここからはファンコミュニティにおいて、施策の失敗に直結するポイントを中心にまとめます。なお、項目は多いですが、ファンコミュニティを全否定するものでは決してありません。ファンの力を借りながらマーケティングを行うことで、中長期的な競争優位性を築ける可能性を秘めているのがファンマーケティングであり、ファンコミュニティです。企業やブランドにとって強力な手段となりえる一方で、だからこそ難易度の高い施策でもあるとおさえておきましょう。
①相性が悪いにも関わらず取り組んでしまう
以下の商品カテゴリーマトリクスにおいて、ファンマーケティングやファンコミュニティと相性が悪いカテゴリーであるにも関わらず、ファンコミュニティに着手することがそもそも大きな失敗要因であることが少なくありません。
ファンコミュニティの相性が良いのは、関与度が高い商品カテゴリー(マトリクスの上半分)です。たとえば、(マトリクス上に表記はありませんが)エンターテインメントは関与度が高い代表的なカテゴリーであると言えるでしょう。ファンクラブはエンターテインメント業界において古くからある手法ですし、むしろファンがいないと存在できないビジネスであると言えます。
エンターテインメントのように、関与度が強くない商品カテゴリー(特に関与度が低い最寄品=下半分のカテゴリー)において、顧客がその商品カテゴリーの商品・サービスをテーマにして、活発に交流しているイメージを持つことができるでしょうか。カテゴリー関与度が低い商品・サービスは(一部例外はあるにせよ)そもそもブランドコミュニティに向いていないと言えます。
②金銭的な価値以上にファンの価値を見ていない
企業主語だと、ファンに「もっとお金を使ってほしい」と考えるかもしれませんが、その考えはそもそも誤りです。もちろん、マーケティング目的で行うわけですから「儲けるため」に行うことは当然です。
一方、ファンがコミュニティに参加したいという動機は「好きだから会話したい・近づきたい・より近い存在になりたい」というものです。この気持ちを持つファンに対して、あからさまに「もっとお金を使ってほしい」という企業の下心が見えてしまうと、ファンの気持ちが一気に冷めてしまうかもしれないことに注意が必要でしょう。
ファンコミュニティの価値を金銭的な価値だけで換算すると、そもそも割に合わないことがほとんどです。以下のような簡単なシミュレーションを行ってみましょう(このようなシミュレーションが事前に行われずに施策を始めてしまうことも失敗要因の一つです)。
「ファン全体のうち、コミュニティに入ってくれたファンが、今より多く買ってくれたことで増えた金額」と「ファン全体のうち、コミュニティに入ってくれたファンが、友人・知人に推奨することで増えた金額」を足した金額を投下予算で割った数式です。つまり、ファンコミュニティに投下した金額の費用対効果を計算する数式です。計算結果が100%以上であれば予算以上の売上を獲得できたことになりますが、ファンコミュニティの運営効果だけで100%を超えることはまずないでしょう。リスティング広告などのCPA効率と単純比較してしまうと、まったく見合わないことは明らかです。ファンコミュニティのほうが売上獲得効率が良いケースはほぼないと言っても過言ではありません。
だからこそ、ファンが持つ金銭的な価値以上のものに目を向けることがファンコミュニティには不可欠なのです。そして、費用対効果だけで見ると効率が悪く見えるファンコミュニティであっても、取り組むべきであるという組織のコミット(とくに組織のトップのコミット)無しに成立しない施策でもあるということです。
ファンが持つ「金銭的な価値」では測れない価値として、以下のようなものがあります。
商品開発・改善のヒント
ファンはほとんどの場合、自社の商品・サービスを使い倒してくれている存在です。インタビューを行えば、そのファンが持つノウハウやアイデアの種を得ることができるでしょう。
ジャーニーのヒント
ファンが、どうしてファンになってくれているのかについて、直接対話して体験談を引き出すことで、ファンを増やすためのコミュニケーションのヒントになります。一方で、ファンになった理由を、多くのファンは言語化できないことに注意してください。
コンテンツのネタになる
ファンがファンになった背景にある体験談や、商品・サービスを利用するときのノウハウなどをコンテンツに活かすことができます。購入検討層が訪問するオウンドメディアにおいては、購入を後押しするためのコンテンツになっていただくことも可能です。新規顧客に向けたマーケティングコミュニケーション戦略に役立つコンテンツのネタを、ファンは持っているかもしれません。
インターナルコミュニケーション
ファンとの交流を通じて、社員のモチベーション向上や動機づけにつながる効果も無視できません。ファンイベントに訪れるくらいの熱狂的なファンの様子を見て、涙を流す社員がいるように、ファンは社員に火を付ける存在でもあると言えるでしょう。
ファン株主
ファンが株主となり、経営を支える存在にもなってくれる例もあります。
これらによってもたらされる価値は、すべて金銭的な価値(単年度における売上獲得貢献)だけでは評価できないと言えるのではないでしょうか。
③ファンコミュニティ運営には愛ある社員が手をかける必要がある
「ファンコミュニティという箱を用意すれば、ファンが勝手に盛り上がってくれる」というのは幻想です。手をかけなければ人は集まらず、活発に会話も行われません。
まず、ファンコミュニティの集客に苦労するケースが少なくありません。一般的に既存顧客に告知できる手段としては、メルマガやSNS公式アカウント、店舗がある場合は店頭でのコミュニケーションが代表的でしょう。これらの集客効率は開設直後がピークで、じょじょに反応率も下がり、集客はどんどん困難になります。その結果、ファンコミュニティに人を集めるために広告を行う…のような本末転倒な結果になってしまうことも。コミュニティに入りたいくらい熱量の高いファンは、そもそも数が少ないことに注意が必要です。
また、順調に集客できたとしても、ファンコミュニティの運営に関わっている社員が自社商品・サービスを愛していない限り、参加してよかったと思ってもらえるコミュニティの運営は困難です。ファンが一番話したい相手は中の人=社員であるにも関わらず、ファン度が低い社員と会話してガッカリしてしまうファンの姿は想像に難くないでしょう。
④ファンにもいろいろな人がいる
そもそも、ファンも一人の人間ですから、決して暇ではありません。ファンの可処分時間にも限りがあり、「ファンだから、ファンコミュニティがあれば、好きな対象のことばかりを考えている」と考えることは誤りです。
また、ファンコミュニティは「ファンが集まり交流する場」ですが、ファンはそもそも語りたい・つながりたいと思う人ばかりではないことに注意が必要です。もちろんファン同士で交流したいと考えているファンもいれば、調査であれば協力したい人・裏話や開発秘話のようなエピソードを知りたい人のようにファン一人ひとりのニーズはさまざまです。
ファンコミュニティがファン同士が交流する場として機能したとしても、一部のファンが固定化し、新規層に対して排他的な振る舞いをしてしまうような状態にならないようにも注意が必要です。それだけでなく、時間経過によってファンでなくなったり、ファンコミュニティに働きかける運営に反応するファンが一部になったりすると、ファンコミュニティの効果も逓減してしまうかもしれません。そのため、期間限定で参加できるようにするなどの仕組みを設けるなど工夫も必要です。
以上、ファンコミュニティにおける注意点を解説しました。ファンコミュニティによってもたらされる価値は大きいものの、「果たして自社がファンコミュニティを行う必要があるのか」「ファンが交流するための場を用意する必要があるのか」については、あらかじめしっかり検討することが求められます。
まとめ
- ファンコミュニティはリピート売上を増やすことだけを目的にしてしまうとほとんど失敗する施策である。ファンによってもたらされる価値は金銭的な価値(単年度における売上獲得貢献)だけではないことを理解しよう
- そもそも不向きな商品カテゴリーでファンコミュニティを行うと失敗しやすい。ファンコミュニティとは中長期的にファンとつながり続ける場であるため、関与度が低い商品カテゴリーでファンコミュニティを成立させることは難しい
- ファンコミュニティは自走しない。愛ある社員がしっかり手をかけなければ、ファンの離脱につながってしまいかねないことに注意しよう
- ファンも一人の人間として使える可処分時間には限りがあり、ファンとして求めるニーズもさまざま。また、ファンコミュニティに積極的に参加する人たちが固定化してしまうと得られる効果が逓減してしまうリスクを認識しておこう
提出期限のない宿題
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【宿題】
ファンコミュニティで顧客の囲い込みはできるのか?
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