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公開日:2024年6月21日

マーケティング戦略理論講座 事業機会の選択 企業成長のために市場需要を探ろう 振り返りレポート

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『マーケティング戦略』(有斐閣アルマ)を教科書に用いた連続講座の第2回です。マーケティング従事者がおさえておくべき基本理論について、本書の各章を解説しています。

今回の対象範囲は以下のとおりです(第Ⅰ部第2章)。

・事業創造への道
・企業成長のベクトル作り
・事業戦略のポートフォリオ

具体的な解説は本書に譲るとして、おさえておくべき内容を中心にまとめました。今回のポイントはマーケティングの歴史の理解、そして経営全体の戦略検討に用いられるフレームワークの「アンゾフの製品・市場マトリクス」と「プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(PPM)」です。

歴史を理解し、フレームワークを理解すると、あくまでこれらのフレームワークは基本であり、この基本をおさえたうえで「どう勝つのか?」をより深く考える必要があることがわかるはずです。

マーケティング戦略〔第6版〕 (有斐閣アルマ) 和田 充夫 (著), 恩藏 直人 (著), 三浦 俊彦 (著) Amazon.co.jpで購入する

マーケティング環境はどのように変化したのか?

本書の内容からは外れますが、今後の講座の理解を深めるためにマーケティングがどのように変化したのかを解説します。

前回の講座で取り上げたマーケティング・コンセプトの変遷と、マーケティング1.0から始まる2.0や3.0への変遷は、時期が必ずしも一致していません。上記の図におけるマーケティング2.0の後半でマーケティングのゲームチェンジが起こったと考えられると池田は言います。STP・4Pというフレームワークだけでは勝てるマーケティング戦略を実行することができなくなったのは、なぜでしょうか。

当時のCMに見るモノからコトへの変化

上記の図において、マーケティング2.0の途中で販売志向から消費者志向/社会志向へ変化しています。消費者志向がうたわれるようになったのは大体1980年代だと考えられます。販売志向では競争に太刀打ちができなくなり、STP・4Pが隆盛を極めたのがこの年代です。

さらにその節目が変わったのは1990年代です。1980年代から1990年代においてどのような変化が起こったのかを具体的事例で理解するために、以下のCMを見比べてみましょう。

まず、1983年に放映されたこちらのCMは、有名なコピー「いつかはクラウン」とともに、製品そのものが最大限フォーカスされたCMであることがわかります。そして時代は移り、1997年に放映されたこちらのCMは、ホンダのステップワゴンの有名なCMです。子どもと一緒に出かけることを訴求したクリエイティブですが、車体が登場しているのはCMの最後だけという作りになっています。

この2つのCMを見比べると、良いモノを訴求するクリエイティブから、コトを訴求するクリエイティブへと大きく変化していることが明らかです。また、コピーライターの糸井重里氏が1988年に西武百貨店の広告コピーで用いた「ほしいものが、ほしいわ。」も、すでにモノにあふれていて、いい暮らしをするために買いたいモノは十分に充足している当時の様子が伝わります。

つまり、戦後からバブル経済が終了するまでの数十年間にわたる高度経済成長において、モノを中心とした豊かな暮らしを実現するという時代は終わりを迎えたことがわかります。このことが、STPと4Pだけでは通用しなくなった時代の訪れでもあると池田は言います。なぜなら、超高度に市場が成熟した結果、製品同士の顧客にとっての明確な違いはなくなってしまったからです。

1990年代~2000年初頭に起こったこと

上記の図において、バブル景気が終了付近で始まったのが「ブランドマーケティングブーム」と「CRMブーム」です。この2つの概念が広まった背景にも、STPや4Pだけで差別化すること(選ばれる理由を作ること)が難しくなったことがあります。

ブランドマーケティングは、製品だけでなくブランドによって商品・サービスが選ばれる仕組みを作っていくことをめざすものです。そして、CRMは一人の顧客からの売上を最大化することをめざす仕組みであることからも、STP・4Pだけでは新規顧客を獲得することが難しくなったという時代背景が汲み取れます。

中長期的に時間と予算をかけてブランド投資をしていくことに対する関心が高まったと同時に、インターネットの普及と合わせてデジタルマーケティングという大きなパラダイムシフトが起こっています。その代表例が、2002年にOvertureとAdWordsが日本で検索連動型広告を開始したことです。中長期的にブランドを作っていこうという考えと、短期的にいますぐ客からの売上を獲得しようというベクトルが真逆のマーケティング概念や手法がほぼ同時期に生まれていることは興味深い事例です。

STP・4Pが限界をむかえた理由

まとめると、STPと4Pが限界をむかえた理由は市場が成熟したからだということができます。かつては技術競争中心で企業は競っており、顧客の「もっとこうなればいいのに」を叶える製品開発力を有する企業が勝っていました。

そして、相当なスピードで各社の技術力が上がった結果、店頭に並んでいる商品の違いがわからないから、顧客は一番安いものを手に取る価格競争に陥ってしまうということにつながります。その状態をコモディティ化と言います。

以上のことから、現代のマーケティングはSTP・4Pによって「競合と違うポジションを見つけて、そこで競争優位を構築する」ということだけでは競争に勝てない環境であることがわかります。

勘違いしてはいけないことは、STP・4Pが不要になったわけではないということです。STPと4Pだけでは勝てない時代になった、と理解することが大切です。

そのため、需要を創造していくマーケティングの働きは、現代のビジネス環境においてより必要なものになりました。「モノからコトへ」だけでなく、「トキ消費」や「イミ消費」などを促すには、どのように需要を創造すればいいかを考えることがマーケターには求められていると言えます。

汎用性が高いアンゾフの製品・市場マトリクス

ここからは「アンゾフの製品・市場マトリクス」と「プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(PPM)」について解説します。冒頭でも触れた通り、これらは経営において用いられるフレームワークで、その目的は経営資源をどのように投下するべきなのかの戦略を整理するために役立てるものです(使い方を少し改変すれば、事業やブランド、マーケティングのレイヤーでも使える秀逸なフレームワークです)。一方で、このフレームワークを利用したからといって、需要創造の方法を容易に明らかにできるわけでないことに注意が必要です。

「アンゾフの製品・市場マトリクス」は市場の既存・新規、製品の既存・新規の四象限に分け、それぞれの象限ごとに戦略類型ができあがるというものです。以下、各象限の具体例をピックアップします。

① 市場浸透戦略(市場既存・製品既存)
使用頻度や量を増やすことをめざす戦略です。かつて「朝シャン」(朝にシャンプーすること)を訴求したプロモーションがありましたが、シャンプーの利用頻度が2倍になれば売上も増えるだろうという考え方です。

② 市場拡大戦略(市場新規・製品既存)
もっともわかりやすいのがグローバル展開です。日本で販売していた製品を、違う国で販売するというものです。

③ 新製品開発戦略(市場既存・製品新規)
既存市場に新製品を投下するこの考え方は、たとえばI-neが『ボタニスト』に続き『YOLU』を高価格帯のヘアケア市場に投下したことがわかりやすい例です。

④ 多角化戦略(市場新規・製品新規)
新しい製品で新しい市場に臨むことをめざす戦略ですが、やみくもに多角化するのではなく、既存事業とのシナジー(相乗効果)が発揮できるかが重要です。たとえば、富士フイルムはカメラフィルムの製造技術を、化粧品に転用することで多角化を実現しています。

プロダクト・ポートフォリオ・マネジメントのポイント

プロダクト・ポートフォリオ・マネジメントは、複数の概念の存在を前提としているフレームワークです。それが以下3つの経済性と、プロダクトライフサイクルです。

プロダクト・ポートフォリオ・マネジメントを理解するために、以下のビジネスやプロダクトにおける原理原則をおさえておきましょう。

  • 大量生産を行うほど、製品一つずつにかかるコストは下がる(規模の経済)
  • 年月を経るほど、学習効果によって一つの事業を行うコストは下がる(経験効果)
  • 一企業で複数の事業を行うほうが、資材や技術の流用が可能なためコストは下がる(範囲の経済)
  • プロダクトには導入期・成長期・成熟期・衰退期という段階が存在している(プロダクトライフサイクル)
  • 成長期は売上が急拡大するがコストも増大し、競争に生き残って成熟期を迎えることで利益が最大化する(プロダクトライフサイクル)

利益は「売上ーコスト」で表すことができます。利益を上げるためには、売上を上げるかコストを下げるか、両方を実現するかしかありません。プロダクト・ポートフォリオ・マネジメントは、上記のコストや利益にまつわる原理原則に則り、複数事業を有する企業において、どこにどのように投資していくかを明らかにするためのフレームワークです。

このフレームワークを使いこなすには、以下のポイントをおさえておくとよいでしょう。

  • どの事業(製品)も右上の戦略的製品からスタートし、プロダクトライフサイクルの各期を経るごとに反時計回りで位置づけが変わっていく
  • 逆回り(時計回り)することは基本的に無い。しかし、「花形」・「金のなる木」になることができずに、「低迷」にいってしまうことはある
  • 「金のなる木」で得られた利益を、成長市場の製品として位置づけられる「花形」や「戦略的製品」への投資に回す

まとめ

  • マーケティングがSTP・4Pだけでは立ち行かなくなってしまった理由を理解するためには、社会の歴史を理解しておくことが有効
  • 市場が高度に成熟したことでコモディティ化を招き、モノからコトへと呼ばれるようになった。「良いものを買う」以外の消費を促す=需要を創造するマーケティングが求められる
  • STP・4Pは不要になった概念ではなく、マーケティング戦略における基本だと理解する。基本だけでは勝てなくなった市場環境においてどうすべきなのか、をさらに考えることが現代マーケティングでは求められる
  • 「アンゾフの製品・市場マトリクス」や「プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント」は、一般的にマーケティングではなく経営で利用されるフレームワーク。経営資源をどのように投下するのかという戦略を整理するために役立てられる
  • 「プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント」は、3つの経済性とプロダクトライフサイクルと合わせて学ぶことで理解が進みやすい

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