振り返り記事
公開日:2024年7月12日

マーケティング戦略理論講座 市場データ分析 生活者に関するデータの収集と分析の考え方 振り返りレポート

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目次

『マーケティング戦略』(有斐閣アルマ)を教科書に用いた連続講座の第5回です。
マーケティング従事者がおさえておくべき基本理論について、本書の各章ごとに解説します。

今回の対象範囲は以下のとおりです(第Ⅱ部 第4章)。

▼今回取り上げる内容
・データの種類
・データ収集の方法
・母集団の設定と標本抽出
・測定尺度の性質
・分析事例

具体的な解説は本書に譲るとして、おさえておくべき内容を中心にまとめました。

必ずしも統計手法を自ら習熟する必要があるかと言うと、そうではないと池田は言います(もちろん自らできるほうが望ましいと言えます)。

今回解説する市場データ分析とは、仮説を検証するための方法であると言えます。周囲に統計や調査に明るい人やパートナー企業がいらっしゃるのであれば、共通言語で会話できることが最大のメリットです。マーケターに求められることで重要度が高いのは、自ら調査・分析ができるようになることよりも、仮説を生み出すことであると考えましょう。

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データの種類と収集法

データは一次データと二次データに分類することができ、それぞれの定義は以下のとおりです。

一次データの代表例は自社独自で収集したデータです。定量調査を行って収集するものもあれば、調査のために現地へ足を運び見聞きしたものについてまとめたデータなども含まれます。

二次データの代表例は国勢調査や、新聞・雑誌などが収集したデータであり、多くの人がアクセスできることが特徴です。

それぞれのデータの収集法について、図にまとめると以下のようになります。

一次データの収集法としてよく用いられるのが質問法です。なかでも、実務において利用されることが多いのは面接調査です。モデレーター一人に対して複数人で行うグループインタビューや、デプスインタビューと呼ばれる一対一で相手を深堀りする方法が代表的です。これらは主に定性調査で、定量調査の代表例はインターネット調査になります。電話・郵送・留置・FAX調査は国勢調査などの大規模調査では用いられる手法ですが、マーケティングの現場ではあまり用いられません。

マーケティングリサーチの変遷

データ収集を行う目的は顧客理解であると言えますが、マーケティングリサーチにおける考え方の変遷をおさえておくと理解が深まるでしょう。

2011年の3月にP&Gが発表した内容は、かなりセンセーショナルな内容でした。P&Gはマーケティングリサーチに多額の予算を投下している代表的な企業であり、そのP&Gが発表した内容だったということからも、事の深刻さが大きく広まるに至りました。内容は以下のとおりです。

特筆すべきは中央の「代表性がすべてといった独善的な思い込みを捨て去る必要がある」という点です。マーケティングの変遷と照らし合わせて考えるとその理由は明らかです。

「今使っているシャンプーで困っていることは?」とユーザーにたずねても、的確な回答ができる人はほとんどいないと言っても現在においては過言ではありません。マーケティングが顧客志向(ニーズ志向)になり、マーケティングリサーチを行う企業は増加しました。そして満たされていないニーズを満たすあらゆる商品・サービスが生まれた結果、ユーザーが欲しいものも企業が生み出すべきものも明確ではない時代に突入しています。もはや、生活者に尋ねるだけで筋の良い仮説やコンセプトを生み出すことはできなくなってしまいました。

その結果、マーケティングリサーチにおいて重要度が高まったのが観察法で、代表的な手法はエスノグラフィーです。エスノグラフィーとは、調査対象者が実際の商品・サービスを利用している現場へ調査員が訪ね、観察しながら撮影するというものです。撮影した映像を調査員と調査対象者が一緒に見ながら、シーンごとでの行動の意図を深堀りすることも合わせて行うことが一般的です。この手法のポイントは、調査員が着想を得ることが目的という点です。アイデアの種を見つけ出すのはマーケターであり、マーケターの腕の見せ所であるとも言えるでしょう。

誰を調査すべきなのか?

また、調査対象者は一般的に代表性(調査対象者全体の中において、偏りなく全体の性質をとらえられていること)がある方が望ましいとされていましたが、代表性にこだわってしまうと「当たり障りのない」「既知の」結果ばかりになるという経験をお持ちの方も少なくないはずです。

ユーザーイノベーション: 消費者から始まるものづくりの未来』(東洋経済新報社)では、どの商品・サービスにも少ない割合で一定数が必ず存在しているとされるリードユーザーについて言及されています。リードユーザーとは、商品・サービスに関する深い知識を持っていたり、企業が想像だにしない使い方をしていたり、改善の方向性に気づいていたりするようなユーザーのことを表し、エクストリームユーザーとも称されます。利用頻度が多い(だけの)ヘビーユーザーとは異なります。

リードユーザーはどのような商品・サービスでも少なからず一定数存在しているという点がポイントです。とはいえ、企業のマーケティング担当の人数とは桁が違う人数はいるはずです。リードユーザーの力を借りることで画期的な取り組みにつながった事例(LEGOのマインドストームなど)があり、自社のみでは発見できなかった仮説を見つけ出すために貴重な存在となってくれるはずです。ユーザーが企業の担当者よりも、知識や経験に劣る存在だとみなすことはもったいないことだと言えるでしょう。

一方で、リードユーザーはエクストリームユーザーとも言われる通り、極端な存在であるという点には注意が必要です。リードユーザーの力を借りて発見した仮説が、必ずしも一般的なユーザーにもあてはまるものなのかどうかの検証はセットで行うことが欠かせません。

二次データやその他のデータに関するポイント

二次データは誰でもアクセスできる情報だからこそ、一次データと比べて希少性が低く、有効性が低いと考える人も少なくありません。一方で、一次データも扱い方には注意が必要です。日経クロストレンドにて、こゆるぎ総合研究所のコンサルタント・代表取締役 鈴木良介さんが寄稿したこちらの記事(注:有料記事)では、むしろ二次データの有用性が取り上げられています。

一次データは自社しか持っていない希少なデータではあるものの、データの有用性の判断は初学者や経験の浅い人には難しいものです。一方で、二次データはプロの編集者の目を通過して世に出ているものがほとんどのため、品質が担保されているといっても差し支えありません。秀逸な二次データを探り当てることができるということも、マーケターが身につけておくべきスキルであると言えるでしょう。

その他、マーケティングの現場でデータを扱う際に、おさえておきたいポイントを抜粋します。冒頭で述べた通り、データを自らの手で完全に扱えることの重要度はそう高くなく(できるに越したことはありません)、必要に迫られたときに身に着けていくという姿勢で臨むことがおすすめだと池田は言います。

母集団と標本抽出

標本の抽出法について、『マーケティング戦略』では複数の方法が挙げられていますが、マーケティングの現場で一般的な方法はスクリーニング調査と本調査です。たとえば、お酒に関する調査の場合は、飲酒頻度や量をスクリーニング調査として行い、スクリーニング調査によって抽出された対象に対して本調査を行うという流れが一般的です。

測定尺度の性質

データには量的・質的なデータの二種類あるということをおさえておきましょう。

平均値・中央値・最頻値の使い分け

データ分析においては平均値が使用されることが多いですが、場合によってはミスリードにつながってしまいかねない点には注意が必要です。たとえば、大谷翔平選手がロサンゼルス・ドジャースに移籍する際の契約金が約1015億円になったことで、花巻東高校(大谷翔平選手の出身校)の2013年度卒業生の平均年収が4000万円になった、ということが話題になりました。最小値と最大値の差が極端にあるときは、平均値ではなく中央値や最頻値を使用するほうが有効な場合があります。

クロス集計を使いこなそう

収集したデータを分析する際、マーケティングの現場でもっとも利用される分析方法はクロス集計であると言っても過言ではありません。どの項目をクロス集計するかという、軸の設定が重要なため、意識してスキルを磨くことをおすすめします。

カイ二乗検定とt検定

『マーケティング戦略』では複雑な計算式について触れられていますが、それぞれどういった役割を果たすことができるものなのかをおさえておけば問題はありません。

相関関係と因果関係

「AのときにB」が成り立っていることを表すのが相関関係です。Aが正の変化をしたときに、Bが正の変化・負の変化をするという正の相関と負の相関の2つがあります。たとえば、雨が降れば湖の水が増える(正の相関)、気温が上がると氷の体積が溶けて減る(負の相関)のようなものです。

相関関係があるからと言って必ずしも因果関係が成立するとは限りません。あたかも因果関係があるかのように見えてしまうものを疑似相関と言います。たとえば、「アイスクリームの消費量」と「ビールの消費量」には正の相関があります。両方とも暑くなったから増えたことは想像できますが、「アイスクリームの消費量」が増えたから「ビールの消費量」が増えた(あるいはその反対)は因果関係が成立しないことは明らかです。

この例だと因果関係がないことは明白なのですが、実際のデータ上だと判断が難しい場合も多いことに注意が必要です。

まとめ

  • データ収集・分析は、自らの手で行えることが望ましいものの、周囲に得意な人やパートナー企業がいる場合は必ずしも習熟しなければいけないというものではない。マーケターにおいて重要度が高いのは仮説を見つけ出すことであり、データ収集と分析は仮説を確かめるための手段。仮説を見つけ出せるだけでは不十分で、確かめる方法論を理解しておくという点において本章の内容は有効である
  • データには一次データと二次データの二種類がある
  • 一次データの代表的な収集法は質問法の面接調査。複数人で行うグループインタビューやデプスインタビューなどが代表的な手法。一方で生活者に尋ねれば筋の良い仮説やコンセプトが見つかる時代は終わっており、エスノグラフィーなどの観察法によって仮説を発見する手法の重要度が高まりつつある
  • マーケティング調査の対象者として、どのような商品・サービスにおいても一定数存在するリードユーザーの協力を仰ぐことが有効。企業の担当者が想像だにしなかった利用法・知識・改善方法を得られる可能性がある。一方でリードユーザーは極端な存在であることからも、リードユーザーから得られた仮説を一般ユーザーで検証することも欠かせない
  • 二次データは誰でもアクセスできる情報であるものの、プロの編集者の目を通過したデータであるという点においては秀逸なデータである。仮説を立証できる筋の良い二次データを発掘するためのスキルは磨いておこう

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