振り返り記事
公開日:2023年11月6日

売上とブランド ~おさえておくべきブランドの“本質”とは~ 振り返りレポート

目次

「ブランド」と「ブランディング」。
マーケティングの世界でこれらの言葉は日常的に使われますが、人によってその定義や解釈、認識は実に多様です。ブランドに関する議論をしようとしても、人によって解釈や理解が異なることで苦労した経験を持つ方も少なくないでしょう。

今回の特別イベントは、ブランドの体系化に取り組んだ名著であり、日本マーケティング学会 マーケティング本大賞を受賞した『ブランド戦略論』の著者である中央大学 名誉教授の田中氏をお招きしました。すべてのマーケターがおさえておくべきブランドの基礎知識を解説いただいたイベントの内容をまとめます。

ブランドとは何か?

田中さんが言うには、ブランドの明確な定義というものは存在しません(だからこそ議論が複雑化しやすいと言えます)。ブランドを強化しよう・ブランディングをしようとなったとき、もしもブランド=商品の名前・ロゴ・シンボルだと規定してしまうと、商品・サービス名やロゴのリニューアルに取り組めばよい、ということになりかねません。これらの方法がまったく効果がないとは言えませんが、ブランディングという本質から外れていることも少なくありません。ブランドについて、どのように理解するとよいのでしょうか。

ブランドとは、企業や商品・サービスについての「認知システム」であると考えてみましょう(認知システムとは言語学由来の考え方です)。たとえば、私たちは初めて見た椅子でも、それを「椅子」だと認識します。それは、私たちの頭の中に「椅子とはこのようなものである」と認知するシステムが出来上がっているからです。

同様に、特定のブランド名を聞いたりロゴマークを見たりしたとき、過去の経験や体験をもとに品質や価格、受けられるサービスのイメージなどさまざまなものを思い浮かべ、「このブランドは、このようなブランドである」という認識やイメージを抱きます。

そして、人によってブランドの「認知システム」に大きな違いはなく、社会的に共有されたシステムであることももう一つのポイントです。たとえば、マクドナルドと聞いて思い浮かべることは、マクドナルドを知っている人同士の間で大きな違いが生じることはなく、ほぼ共通した理解を持っているはずです。

まとめると、ブランドとは顧客の頭の中に作られる仕組みであり、どのように商品・サービスを知覚するかを司るシステムであり、そのシステムが同じ著名ブランドであれば人によって大きく異なることなく社会的に共有されている。この状態が、ブランドが成立している状態であると田中さんは言います。

このシステムについてもう少し深掘りしてみましょう。人はブランド名やブランドロゴ、そして店舗や商品パッケージデザインなどを見ると、頭の中でさまざまなイメージ・印象・経験などを瞬時に思い起こします。思い起こされるものをTHINK・FEEL・IMAGINEの3つの観点で整理することができます。スターバックスの例で考えてみましょう、

THINKとは価格やコーヒーの味、受けられるサービスの品質など左脳的・理性的なイメージです。そして、FEELはTHINKとは対象的に、おしゃれ・素敵・ゆったりできるといった感情的な側面を持つイメージです。最後のIMAGINEは、今ここにないものを思い浮かべる力・想像する力です。スターバックスに行けば、緑色のエプロンを着た方が明るく出迎えてくれて、フラペチーノなど代表的な商品があり、商品を受け取ったらゆったりしたスペースで美味しいコーヒーを味わえる…のような期待できる体験の想像と言えます。ブランド名に対して「◯◯のようなブランド」というキーワードのみのシンプルな想像ではなく、より立体的かつ複合的に要素が絡み合っている想像がIMAGINEです。これは企業にとって良い経験や体験である場合もありますが、悪い方向に想像される場合もあります。

このように複雑なブランドという概念を、いかに企業にとって好ましい状態に持っていくことができるかどうかがマーケターには求められています。一方で、マス広告で生活者にリーチすることがスタンダードな手段であった時代と比べると、ブランドが構成されるプロセスも複雑化し、難易度は高まっていると田中さんは言います。

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