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公開日:2024年8月28日

サイレントカスタマーの真実とリピート売上 ~顧客離脱のリアルと回避法~ 振り返りレポート

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過去の講座で繰り返しお伝えしてきたように、売上には「トライアル売上」と「リピート売上」の2種類しかありません。「トライアル売上」の重要性については言うまでもありませんが、一方で新規顧客を獲得できたとしても、顧客が流出する「バケツの穴」をふさがない限り、収益の安定は望めません。

今回は『こうして顧客は去っていく サイレントカスタマーをつなぎとめるリテンションマーケティング』(日本実業出版社)を執筆された、國學院大學経済学部 教授の宮下雄治さんをゲストにお招きして、顧客が離脱する理由を紐解き、ビジネスの「診察・診断・治療」を行うための基本を解説いただきました。

離脱する顧客の多くは企業に不満を表明することをせず、何も言わずに去っていく「サイレントカスタマー」であると言われています。そのため、顧客が離脱する理由を突き止めるのは容易ではありません。本イベントでは宮下雄治さんに顧客が離脱する際に多く見られるパターンや、顧客維持戦略を強化するためのポイントについても伺いました。

こうして顧客は去っていく サイレントカスタマーをつなぎとめるリテンションマーケティング 宮下 雄治 (著) Amazon.co.jpで購入する

満足していても顧客は去っていく

リピート売上を増やすためにどのような打ち手を行うかを検討することは少なくありませんが、今回のテーマはその前提となる顧客理解を行うための内容です。

「これまでのマーケティングが通用しなくなった」「商品・サービスを大きく変えたわけではないのに顧客が離れていく」などといった悩みは尽きません。顧客が離れていく理由についても、適切な診断を行ったうえで対策(処方)を行っていくことが欠かせないのです。

一方で、顧客数が減ったなどの“失敗”を寛容しない文化や、悪いニュースは共有されにくい文化が日本にはあること、そして、数字が伸びていくという成果が分かりやすい顧客獲得とは異なり、マイナスをゼロに近づけるような作業をあまり好まないマーケターは多いということが、顧客離反から目を背けてしまう(対処を怠ってしまう)要因となってしまいがちです。

宮下さんは「リテンションマーケティング」の重要性を説きます。リテンションマーケティングとは、今いる顧客を大切にし、いかに長期的な関係性を築いていくかという、既存顧客の定着・維持に注力したマーケティングです。注意として、ファンマーケティングのことを指すわけではありません。ファン化を促し、ファンが喜ぶことをするというのもリテンションマーケティングにおける手法の一つですが、それがすべてではありません。

顧客離反の対処におけるポイントは、顧客接点の点検と、流出を最小限に食い止めることです。このことは、守りを強化するだけでなく、次の一手を打つという攻めの経営にもつなげられると宮下さんは言います。

バケツのメタファーで考えてみましょう。蛇口から水をバケツに注ぐ行為を集客、バケツ内の水量は客数と考えられます。バケツに穴が空いていると、水(顧客)は流れ出てしまいます。この穴が大きければ大きいほど流出量は多くなり、この穴こそが「顧客の何らかの不満やネガティブ感情の表れ」なのです。また、穴は一つとは限りません。

集客によって獲得できた顧客がいかに多かったとしても、穴が大きくなり、流出する顧客が増えてしまえば収益は安定しません。しかし企業は、漏れ出た水を補うためにさらに蛇口を緩める(入ってくる水を増やす)ことに注力してしまいがちです。穴が大きかったり、競合のバケツがあったりするにもかかわらず、とにかく蛇口の数を増やすことや蛇口から出る水量を増やすことに躍起になることは危険です。

バケツに穴が開いているのは、顧客の不満などネガティブな感情が原因である場合もあれば、不満が要因ではないこともあります。つまり、不満がないのに去っていく顧客も存在するということです。

穴を防ぐためにやるべきことは、顧客が去っていく理由を突き詰めていくこと。そもそも、なぜ水が漏れ出してしまうのか(穴が空いてしまっているのか)を把握することについては、単純なことなのに意外とできていないことなのかもしれない、と池田は言います。

「新規顧客をどうやって増やすか?」という問いは重要です。「リピート売上をどうやって増やすか?」という問いも必要です。その間に「せっかく獲得した顧客を流出させないためにはどうするか?」という視点も忘れてはいけません。

代表例として、放送局であるWOWOWの事例が挙げられます。2006年から2007年の間、同社は新規加入者を56万件獲得したものの、解約数が55万5000件に上り、解約率が約99%になりました。このことをきっかけに、WOWOW社内で解約防止部を立ち上げ、全社的に顧客流出を止めることに取り組みました。

WOWOWが取り組んだのは徹底的なデプスインタビューを実施し、解約者のペルソナ作成とコミュニケーションポイントを決めて対策を行うことでした。インタビューの中では「(チャンネル数や番組数が多いため)番組を録画し過ぎて自己嫌悪に陥って解約した」のような、WOWOW側には思いもよらなかったような解約理由もあったそうです。

リテンションマーケティングで期待できることは、売上と利益の安定的な獲得だと考えられます。なかでも、もっとも良い効果はサービス品質や顧客対応の向上ができること。逆に言うと、サービス品質や顧客対応の向上ができなければ、解約率増加、収益の悪化、そして評価の悪化によって新規顧客獲得にも影響し、そもそもバケツに入る水の量の減少という負のループに陥ってしまいかねないのです。

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