売上はマーケティングコミュニケーション(広告・PR・販促)だけで増やせるのか? 振り返りレポート
今回のテーマは、「売上はマーケティングコミュニケーション(広告・PR・販促)だけで増やせるのか?」です。
今回の学習内容のポイントは、マーケティングコミュニケーション“だけで”という点です。MARPS(マープス)に参加されるみなさんは、マーケティングコミュニケーションに従事する方が多いです。自身の仕事をどのように捉えるべきかがわかる内容ですので、ぜひご一読ください。
講座へ申し込みいただいた方の回答サマリー
本講座にお申し込みいただく際に、お答えいただいた課題への回答の傾向は以下のようになっていました。
「売上はマーケティングコミュニケーション(広告・PR・販促)だけで増やせるのか?」
今回の解答は「マーケティングコミュニケーションだけでは売上を増やすことはできない」です。では、それはなぜかを紐解いていきましょう。
マーケティングとマーケティングコミュニケーションの違い
前回のオリエンテーションでも解説したように、マーケティングの目的を極端に単純化すると「お客様に買っていただくこと」になります。
お客様に買ってもらえない要因を明らかにし、それを一つずつ潰していくことで、買ってもらえる状態を作っていく。そのために行う事業活動はすべてマーケティングの一部だとすると、マーケティングコミュニケーションは伝えることに関わる、以下の色が異なる箇所の活動を表します。
『売上の地図』からマーケティングコミュニケーションの立ち位置を理解する
マーケティングコミュニケーションの立ち位置を整理するために、池田が作成した『売上の地図』を用いて解説します。赤枠で示されている箇所(テキストボックス)がマーケティングコミュニケーション施策を表しています。
この地図を理解するために重要なことは、入力(インプット)と出力(アウトプット)の関係です。
売れない理由があると、その理由を解消するために施策を行います(インプット)。そして、インプットの結果、何らかの結果(アウトプット)が得られます。
『売上の地図』上では、矢印の根元にあるテキストボックスがインプットであり、矢印の先がアウトプットを表します。
あらゆる矢印が、複数のテキストボックスを経て最上段の売上へと行き着きます。そして、赤枠で囲われたマーケティングコミュニケーション施策は、矢印の出発点(インプット)であることがわかります。一方で、赤枠から直接売上につながる矢印は無いこともわかります。
つまり、インプットの結果であるアウトプットが、次のインプットになり、最終的に売上というアウトプットにつながっていく連鎖的な構造であることを示しています。
具体的には、マーケティングコミュニケーション→プレファレンス→想起(想起率)→売上という構造です。
おさえておくべきことは、売上の途中経過であるプレファレンスや想起も結果であり、直接コントロールできるものではないことです。例えば掃除機であればダイソン、ビールであればアサヒスーパードライのように想起してもらえる状態は、さまざまなマーケティングコミュニケーションが行われた結果として実現できているのです。
※プレファレンスと想起については、後日開催の講座で詳しく解説します。プレファレンスや想起が高ければ「生活者が必要に迫られた時、購入の選択肢に入れてもらいやすい」とご理解ください。
プレファレンスや想起を高めるために(良いアウトプットを出すために)行う入力(インプット)がマーケティングコミュニケーションであり、マーケティングコミュニケーションによって変えられることと変えられないことがあることをおさえましょう。
マーケティングコミュニケーションの目的とは?
『売上の地図』を用いて、マーケティングコミュニケーションは最終的に売上につながるプレファレンスというアウトプット(結果)を出すものであると解説しました。
さらに詳しく、マーケティングコミュニケーションの目的を別の観点で深掘りします。
まず、マーケティングコミュニケーションの目的を以下のように定義してみます。(これは仮の定義です)
「マーケティングコミュニケーションの目的は、消費者の意識・認識・態度を変えることによって、行動を変えること(買っていただくこと/買い続けていただくこと)」
一部を図に表すと以下のとおりです。
言葉の定義を解説します。
意識を変えることを表す意識変容については、さまざまな文献によって定義が曖昧だったりバラバラだったりすることから、この場ではマーケティングファネルの左から右へ近づけていく活動のこととお考えください。具体的には、知っていただくことや、商品やサービスを理解してもらうこと、興味を持ってもらうこと、などです。
態度とは、単純化すると「良し悪し」と「好き嫌い」を表します。人は、人に対してだけではなく、商品やサービスに対しても異なった態度を示します。
かつては「良し悪し」のみで購入する商品・サービスが決められることが多かった一方で、あらゆる商品・サービスが飽和した今の時代では、「好き嫌い」も商品・サービスが選ばれる要因になりがちです。好意度を上げる重要度が高まっていると言えるでしょう。
態度を変えるとは、良いと思ってもらうことや、好きになってもらうことを表します。
認識(パーセプション)はポカリスエットの例で解説します。商品のカテゴリーとしてはスポーツドリンクに大別されますが、ポカリスエットは「どんな場面で飲むか?」という認識が良い意味で多岐にわたる珍しい商品と言えるでしょう。例えば、「風呂上がり」「風邪をひいたとき」「お酒を飲んだとき」「乾燥しているとき」などが挙げられるでしょう。これは、大塚製薬による数十年以上にわたるマーケティングコミュニケーションの結果として得られた認識(パーセプション)であると言えます。このように認識を変えることもマーケティングコミュニケーションの目的の一つです。
そして行動を変えるとは、買ってもらうこと・買い続けてもらうことです。
マーケティングコミュニケーションによって「買い続けてもらうこと」は可能なのか?
先ほど、マーケティングコミュニケーションの目的をいったん以下のように定義しました。
「マーケティングコミュニケーションの目的は、消費者の意識・認識・態度を変えることによって、行動を変えること(買っていただくこと/買い続けていただくこと)」
では、買い続けてもらうことは可能なのかを検証してみましょう。
結論から言うと、マーケティングコミュニケーションだけでは実現することができません。
その理由を、C/Pバランス理論を用いて解説します。以下の図をご覧ください。
縦軸のConcept(コンセプト評価)とは、商品・サービスを買う前に買いたいと思わせる力の大きさを表します。横軸のPerformance(パフォーマンス評価)は買った後に、商品を良いと感じる力の大きさを表します。
コンセプト評価とパフォーマンス評価の高低の組み合わせによって、売上の伸び方を四象限に分けたのがC/Pバランス理論です。コンセプト評価の高さはトライアル購入に影響を及ぼし、パフォーマンス評価の高さはリピート購入に影響を及ぼします。双方が高いと(象限4)継続的な売上につながります。
コンセプト評価は、マーケティングコミュニケーションによって高めやすいと言えます。例えば、大企業は新商品が出た際に大量の広告出稿を行い、生活者の「なんだかよさそうな商品だ」「おいしそうだ」「使ってみたい」のような気持ちを喚起します。(そしてその結果、トライアル購入につながりやすくなります)
一方、パフォーマンス評価は「商品・サービス」そのものに依存します。
例えば、あなたにはいつも飲んでいるお酒がありますが、新しい商品を見かけて試しに買いました(トライアル購入)。その商品がとても美味しかったからまた買ったり(リピート購入)、あまり美味しくなかったのでもう買わなかったりするという経験はありませんか?
以上のことから、マーケティングコミュニケーションによって買い続けていただくことは難しいことがわかります。リピート売上にもっとも寄与するのは、商品・サービスが持つ「もう一度買いたいと思わせる力」だからです。
マーケティングコミュニケーションによって「買っていただくこと」は可能か?
ここまで、マーケティングコミュニケーションによって買い続けていただくことが難しいことを解説しました。
次にマーケティングコミュニケーションによって「買っていただくこと」は可能なのかを検証してみましょう。
以下の図を用いて解説します。
この図は、売上という力を強めようとしても、競争相手のコミュニケーションによって逆の力(売上を減らそうとする力)がはたらき、綱引きのような状態になることを表しています。あらゆる商品・サービスが飽和するいま、競合が存在しないことはほとんどありえません。自社が100万円売れたら、競合が100万売れていない状態(逆もしかり)なのです。
そして図の右上を理解するうえで、以下のポイントをおさえておきましょう。
- マーケティング効果と広告効果を混同しない
- 売上はすべてのマーケティング活動の総体によって発生する
- 広告効果はマーケティング活動の一要素にすぎない
マーケティングは「お客様に買っていただくこと」を目的とした活動ですから、マーケティング効果とは、上記の図における売上です。
一方で、マーケティングコミュニケーションは「お客様に買っていただくこと」を目的とした活動のうち、伝えることに関わる活動です。これはマーケティング活動の一要素にすぎません。
マーケティング活動に含まれる細かい要素(広告、価格決め、営業パーソンの営業力など)が、それぞれ売上を引き上げるための力の一部になります。綱引きのような図の上で、それぞれが細い綱のような役割を果たし、最終的な売上を伸ばそうとする力に集約されるのです。
つまり、マーケティングコミュニケーションの一部である広告で実現できるのは、広告で実現できる「広告効果(例:認知向上)」だけなのです。生活者がマーケティングコミュニケーションによって「欲しい」と感じ、お店に買いに行ったけれど、店頭に置いていなければ(配荷されていなければ)買うことはできません。
以上のことから、マーケティングコミュニケーション“だけ”では「買っていただく」を実現することはできません。
結論として、マーケティングコミュニケーションの目的を定義すると、以下の通りになります。
「マーケティングコミュニケーションの目的は、消費者の意識・認識・態度を変えることによって、購入意向を高めること」
行動しようという気持ちを喚起するまでが、マーケティングコミュニケーションが実現できる効果です。
まとめ
今回の記事では、以下のことを解説しました。
- マーケティングコミュニケーションとは、「お客様に買っていただく」ために、伝えることに関わる活動を表す。
- 『売上の地図』では、マーケティングコミュニケーションがインプットとなり、プレファレンスというアウトプット(結果)を発生させる。そのアウトプットが次のインプットとなり、最後に売上へと行き着く。マーケティングコミュニケーションというインプットが、直接的に売上というアウトプットにはつながらない。
- リピート売上にもっとも影響するのは「商品・サービスをもう一度買いたいと思わせる力」である。マーケティングコミュニケーションの力“だけ”で買い続けてもらうことはできない。
- マーケティングコミュニケーションを含む事業活動の総体の結果として得られるのが売上であるため、マーケティングコミュニケーションの力“だけ”で買ってもらうことはできない。
- マーケティングコミュニケーションの目的は「消費者の意識・認識・態度を変えることによって、購入意向を高めること」。