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公開日:2023年9月26日

「第一想起」は広告で獲得可能か? 振り返りレポート

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買ってもらうためには、真っ先に思い出してもらうことができるブランド(第一想起ブランド)を目指すことが欠かせません。

では、マーケティングコミュニケーションの主要な施策である広告は第一想起を高めるためにもっとも有効な手段なのでしょうか。広告に資源を集中すれば、第一想起のポジションを獲得できるのでしょうか。

今回はプレファレンスやパーセプションという考え方を中心に、想起を高めるために必要な考え方について解説します。

講座へお申し込みいただいた方の回答サマリー

今回は申し込み時に「第一想起獲得という目的において、もっとも効果を発揮するのは広告なのか?」という課題に回答していただきました。回答は以下のような傾向になっていました。

「そう思う・まぁそう思う」と「そう思わない・あまりそう思わない」で大きく2つに分かれる結果になりました。

多くの方がフリーコメントでその理由を回答してくださっていましたが、池田の回答は「第一想起は広告だけで獲得することはできない(広告は第一想起を獲得する手段のひとつ)」です。『売上の地図』を元にして、その理由を解説します。

『売上の地図』によれば、トライアル購入もリピート売上も、必ず想起という過程を経ていることがわかります(トライアル購入は想起率、リピート購入は再想起率に寄与)。

想起はマーケティング活動の結果にすぎません。想起を上げるにはプレファレンスを高める必要があります。プレファレンスを高めるには、価格・ブランドエクイティ・製品パフォーマンスがバランスよく高い状態であることが求められます。

価格と製品パフォーマンスはマーケティングコミュニケーションで高めることはできません。マーケティングコミュニケーションが作用できるのは、ブランドエクイティを高めることです。そしてブランドエクイティを高めるために寄与できる施策が、広告・PR(パブリシティ)・ソーシャルメディアです。

※マーケティングコミュニケーションのひとつである「店頭販促」を行い、価格を下げ、プレファレンスを向上させることはできますが、店頭販促は営業本部や事業部管轄のことが多いため、宣伝・PR・マーケティングを扱う本記事では除外しています。

広告・PR(パブリシティ)・ソーシャルメディアによってブランドエクイティが上がる→プレファレンスが上がる→想起が上がる→売上が上がるという構造です。そのため、今回の回答は「第一想起は広告だけで獲得することはできない(広告は第一想起を獲得する手段のひとつ)」となります。

思い出してもらえる確率を高める「プレファレンス」

プレファレンスとは、消費者がブランドに対して持つ相対的な好意度や選好性を指します。

サイコロのメタファーで考えてみるとわかりやすいでしょう(森岡毅著『確率思考の戦略論』より)。ミネラルウォーターを例に考えてみます。山田さん、鈴木さん、佐藤さんという3人がいて、この3人はそれぞれ1ヶ月に10本ずつミネラルウォーターを購入しているとします。

この3人が月に10回訪れる購入タイミングのたび、サイコロを振っていると考えてみましょう。

山田さんが6/10、鈴木さんが4/10、佐藤さんが4/10の確率で自社商品を選んだ(自社を示すサイコロの目が出た)とするとき、全体で自社のサイコロが出た確率は14/30です。市場にこの3人しか存在せず、購入頻度が変化しないと仮定したとき、自社のシェアは14/30(47%)です。

ミネラルウォーターを含む、大半の市場は超高度に成熟化しているため、誰かが獲ったら誰かが獲られる(結果が相対的なパワーバランスによって決まる)ゼロサムゲームです。このようにサイコロの出る確率「相対的に決まる競争優位の力」こそがプレファレンスです。

通常のサイコロであればどの目が出るのかは1/6から変化することはありません。しかし、プレファレンスは3つの要素を高めることで、自社の目が出る確率を高めることができます。

プレファレンスを構成する3つの要素

プレファレンスは先に述べた通り、価格、ブランドエクイティ、製品パフォーマンスの3つによって構成されています。

価格
プレファレンスは「相対的な好意度や選好性」であるため、他のブランドと比べて価格が高ければプレファレンスは下がります(高い方がプレファレンスが上がるラグジュアリーブランドもありますが話が複雑になるため例外とします)

ブランドエクイティ
ブランド理論の世界的権威であるデービッド・アーカーは、著書『Managing Brand Equity』(邦題:『ブランド・エクイティ戦略』ダイヤモンド社)の中で、ブランドエクイティが含む資産(負債)は、ブランド認知、知覚品質、ブランド連想、ブランドロイヤルティ、その他資産の5つによって構成されているとしました。

たとえばペットボトル入りのお茶の場合、各社の大規模なマーケティング活動によって、多くの顧客は主要な商品を知っており(認知)、どの商品もだいたい美味しい(知覚品質)ことを経験しています。となると、ブランドエクイティにおける相対的な競争は、ブランド連想とロイヤルティが主戦場になります。

ブランド連想は、単純化するとブランドイメージのことだと考えてください。そのブランド名を聞いたときに、何をイメージするか(連想するか)です。色、テレビCMや起用されているタレント、パッケージなど、すべてがブランド連想です。ブランド連想は広告によって形作られていることが少なくないでしょう。

良いブランドエクイティが形成されている商品・サービスであるほど、プレファレンスが高まりやすいと言えます。

製品パフォーマンス
プレファレンスを構成する3つ目の要素は製品パフォーマンスです。製品パフォーマンスが高いと知覚できているほど、プレファレンスが高まります。一方で、製品パフォーマンスは商品を買ったことがある人しか評価することはできません(クチコミを見ることによって類推することはできますが、自身の評価ではありません)。

そのため、日常的に買う商品/買う頻度が少ない商品と、トライアル購入/リピート購入ではそれぞれ製品パフォーマンスがプレファレンスに寄与する度合いが変わります。

もっとも製品パフォーマンスがプレファレンスに寄与するのは、買う頻度が少ない商品のリピート購入です。具体的には家電や車などの買い替えなどが該当します。高い買い物になればなるほど人間は失敗したくないので、慎重に調査します。そのときに過去の経験で良い商品・サービスである(良いブランドである)と思っているほど、プレファレンスは高まります。逆に日常的に買う商品かつトライアル購入であれば、深く製品パフォーマンスのことは考えず、瞬間的に判断して手に取ることも少なくないはずです。

以上、ここまでプレファレンスが想起を高めることについて解説しました。

繰り返しになりますが、一番買われる可能性が高いのは、最初に思い出してもらえる第一想起ブランドです。第一想起ブランドは、想起集合の1位です。想起集合は、ニーズが顕在化したときに頭の中で純粋想起される「好意的な選択肢」の集合体です。つまり、プレファレンスが高い順に想起します。これが、価格、ブランドエクイティ、製品パフォーマンスが高いとプレファレンスが高くなり、プレファレンスが高くなると想起されやれやすくなる(サイコロの目が出る確率が上がる)メカニズムです。

プレファレンスはパーセプションに依存する

ここまで、想起を高めるにはプレファレンスを高める必要があり、プレファレンスを高めるには、価格・ブランドエクイティ・製品パフォーマンスという要素を高める必要があると解説しました。一方で、これらが揃っていればどんなときでも第一想起になりやすいわけではありません。

プレファレンスはパーセプションに依存します。パーセプションとは、顧客が商品やサービスに対して持つ認識です。パーセプションとは、多くの人が持っている共通の認識や理解であり、必ずしも事実を指しているものではありません。しかし、消費者や顧客は、社会や自身が持つパーセプションに基づいて物事を考え、意思決定をしています。つまり、想起はパーセプションにもとづいて行われているのです。前提となるパーセプションを生活者が持っていない限り、自社商品・サービスが想起されることはありません。

洗濯洗剤のアリエールの例で見てみましょう。

「小さい洗剤が良い洗剤である」と考えられていた時代に、「除菌ができる洗剤が良い洗剤である」というパーセプションは世の中に存在していませんでした。

そのためP&Gは「洗濯をしても菌が残っている」ことを啓発するPR活動を行いました。結果、そのことが生活者のパーセプションとなり、洗剤を選ぶときに「洗濯のときに除菌ができたほうがよい」と生活者は考え、除菌ができるアリエールを想起するようになった(そして買われるようになった)のです。

想起される選択肢に入ることができれば、その中でプレファレンス(サイコロの目が出る確率)を高めて売上を獲得するチャンスを増やすことができます。ですが、パーセプションが最適な状態になっていないと「プレファレンスを高める戦いの土俵にも上がれない」のです。

カテゴリーエントリーポイントによってサイコロを振ってもらうチャンスを増やす

「サイコロを振ってもらえるチャンス(シーン)」を増やすことができれば、自社商品の目が出る回数を増やすことができます。この「どんなときにサイコロを振ってもらえるか?」の理解を助ける概念に「カテゴリーエントリーポイント(CEP:Category Entry Point)」があります。カテゴリーエントリーポイントとは、誰かが何かを食べよう、飲もう、行こう、買おうと思ったときに想起される入口(の数)を指します。

たとえば観光地として有名な鎌倉には多くの人が訪れます。鎌倉は、なぜそんなにも多くの人を惹きつけるのでしょうか。カテゴリーエントリーポイントの視点で見てみましょう。

私たちは、何か(たとえば週末の行き先)を決める際、何かしらのカテゴリーから入り、次にその中の選択肢を比較検討し、1つに決定します。サイコロの目が出る「確率」はそれぞれのカテゴリーエントリーポイントごとに異なりますが、入口(≒CEPの多様さや数の多さ)は多ければ多いほどサイコロの目が出る「回数」を増やすことができます。

つまり、鎌倉は、都心から近い・海がある・神社仏閣が見たい・おしゃれなカフェに行きたいなど、あらゆるCEPで選択肢に入り、鎌倉の目が出る可能性があるサイコロをたくさん振ってもらえているので、多くの人が訪れているのです。

だから強いブランドは多くの入口を持ち、かつそれぞれの入口で一定のプレファレンスを獲得しているためサイコロの目が出る回数が多いのです。

しかし、カテゴリーエントリーポイントをやみくもに増やすことが必ずしも良い戦略ではありません。主要ターゲット市場におけるサイコロで自社製品の目が出る確率を高めることが最優先です。次にCEPを広げ、それぞれのCEP内でもサイコロの目が出る確率を上げていくことで、サイコロを振ってもらう回数を増やしていくという考え方をしましょう。

まとめ

  • もっとも買ってもらえる第一想起ブランドになるためには、プレファレンスを高めることが不可欠。プレファレンスはサイコロを振ったときに自分を指す目が出る確率と考えることができ、その確率は高めることができる
  • プレファレンスは価格・ブランドエクイティ・製品パフォーマンスの3つで構成され、プレファレンスを高めるにはこの3つを高める必要がある。一方で商品・サービスの特性によってどれがもっともプレファレンスに寄与するのかは異なる。
  • プレファレンスが高まれば必ず想起されるわけではない。生活者の顧客が商品やサービスに対して持つ認識=パーセプションによって、そもそも自社商品・サービスが想起の選択肢に入らないこともある。
  • サイコロを振ってもらう回数は、カテゴリーエントリーポイントを増やすことで実現できる。ただし、限られた資源を最適に配分する意味では、まずはターゲット市場におけるプレファレンスを高めることを最優先に行い、次のカテゴリーエントリーポイントを探っていくという段階的な考え方が求められる

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