
「幸せな」仕事が見つかるキャリアの描き方 〜本当の「やりたいこと」とは何か〜 振り返りレポート
「キャリア」には、ビジネスやマーケティングと違って「売上」「利益」「シェア」「顧客満足度」などの明確かつどんな人にも共通するゴールはありません。自らが望むゴールは、自分自身で見つけていく必要があります。
「年収」や「役職」、あるいはその他、社会や会社が引いたレールの上に、あらかじめセットされた通過点。これらは決して自らが進むべきキャリアの答えにはならない、ということには、すでに多くの人が気づいています。
しかし、それに変わるゴールはどのように設定すればよいのでしょうか。自分にとっての「幸せな仕事」や、「本当にやりたいこと」とは一体何なのでしょうか。ここに「キャリア戦略」を描くことの、そもそもの難しさがあります。
今回のイベントは国内外の企業でマーケター・新規事業担当として活躍する井上大輔さんをお招きしました。井上さんより、キャリア戦略を描く方法論ではなく、その前提となる「ゴールを描くための方法論」を解説いただいた内容をまとめます。

マーケティングにおける「差別化」とキャリアに転用する観点
キャリアに活かせるマーケティングの考え方の一つに、差別化があります。差別化とは他社の商品・サービスと違いを生み出すことにありますが、ただやみくもに違いを作っていくことが差別化の本質ではないと井上さんは指摘します。
差別化において重要なのは、まず競争の土俵に上がることです。
たとえば、輸入高級車として認識されたいのであれば、ベンツやBMWと同じ土俵に上がる必要があります。そして、それには一定の条件を満たす必要があります。優れたディーラー体験があること、一目でそれとわかるアイコニックなデザインがあること、インテリアの調度がホテルクオリティーに近いことなどがその一例です。これらは同質化要素と呼ばれます。差別化の前提は、自分を差別化したいライバルたちと同じ土俵に上がる事ですが、それにはこうした同質化要素を備えることが欠かせないのです。
こうした同質化要素を備え、上がった土俵の上で他のプレイヤーたちとの違いを打ち出していくことが差別化です。この時、同質化を備えて同じ土俵に上がれているプレイヤーが少なければ、些細な違いでも差別化要素になる可能性があります。例えば、レクサスはディーラーでの「おもてなし」がよく知られています。「おもてなし」はあらゆるところで体感できる日本の文化でもあるので、それ自体が特別にユニークというわけではないかもしれません。しかし、輸入高級車という土俵に上がっているプレイヤーとの比較においては、このおもてなしが特別な差別化要素になりうるのです。
この差別化の考え方をキャリアに転用してみましょう。
他の人と違う、差別化された強みを持たねば(でも持っていない)と感じて苦しむ人は少なくないでしょう。ただこれは、もしかしたら差別化要素を持っていないのではなく、持っている良さを差別化要素にできていないだけなのかもしれません。たとえば笑顔が素敵であることや、誰とでも壁を作らないなどといった個性も、そこで勝負したい土俵に上がっているライバルとの比較では立派な差別化要素になるかもしれません。本当の問題は、同質化要素を備えていないがゆえに、そもそも土俵に上がれていないこと、なのかもしれないのです。