振り返り記事
公開日:2024年7月19日

マーケティング戦略理論講座 消費者行動分析 消費者行動とマーケティングの考え方 振り返りレポート

目次

『マーケティング戦略』(有斐閣アルマ)を教科書に用いた連続講座の第6回です。
マーケティング従事者がおさえておくべき基本理論について、本書の各章ごとに解説します。

今回の対象範囲は以下のとおりです(第Ⅱ部 第5章)。

▼今回取り上げる内容
・消費者行動とマーケティング
・消費者を理解する
・消費者のインタラクションを理解する
・ポストモダン消費者行動分析

具体的な解説は本書に譲るとして、おさえておくべき内容を中心にまとめました。

今回のテーマである「消費者行動分析」は、次回以降に詳しく取り上げるマーケティング・ミックスの諸要素(4P)における土台になるものです。買ってほしい相手となる消費者を見誤ってしまうことで、マーケティング実行の出発点から道を誤ってしまうケースも少なくありません。

消費者行動については、有斐閣アルマ『消費者行動論』を題材に中央大学ビジネススクール(大学院戦略経営研究科)教授の松下氏に解説いただいたイベントの記事も公開していますので、あわせてご覧ください。

マーケティング戦略〔第6版〕 (有斐閣アルマ) 和田 充夫 (著), 恩藏 直人 (著), 三浦 俊彦 (著) Amazon.co.jpで購入する

製造の効率化から消費者への適応へ

モノを作れば売れた時代においては、いかに効率的にモノを作るかという研究が進んでいました。代表的なものがF.W テイラーによる科学的管理法(1911年)です。これは製造工程におけるそれぞれの作業を細分化し、一つ一つの作業の時間管理や無駄の排除を行うことで、徹底的な効率化をめざしたものです。

しかし、モノを作るだけでは売れなくなった時代になってからは、「いかに多くの人に買ってもらうか」というマーケティングの研究が発展します。効率よくモノを作る必要があることはもちろんですが、多様化したニーズに応えて買ってもらうためには、消費者を知ることが欠かせません。E.J マッカーシーによるマーケティング4P(1960年)が消費者を中心に置いたことからも、4Pの前提として消費者行動分析は欠かせないものとされています。

消費者行動を分析する研究

消費者行動分析は学際的分野だと言われています。学際的分野とは、各分野の際にまたがっている分野のこと。図で表すと以下のようになります。

心理学・経済学・社会心理学・文化人類学といった人間を科学する領域の際に位置づけることができます(それぞれの領域がにじんでいる・またがっている)。

消費者行動分析に関する研究においては、2つの局面があるとされています。まずは個別消費者を対象とした研究です。そしてさらに集団としての消費者や、消費者同士のインタラクションにまで研究が進むようになりました。

個別消費者を対象とした研究の一つがS-O-Rモデル研究です。この研究で触れられていることは非常にシンプルで、人間は何かしらの刺激を受けて、反応を返すというものです。逆を言えば、反応を得るためには刺激を与える必要があるということです。なんらかの刺激を受けた後、反応があるまでに何が起こっているのかについてはブラックボックス(不明)とされていました。

そのブラックボックスを明らかにするために進んだ研究がS-O-R研究であり、代表的なものが以下のハワード=シェス・モデルです。インプットとしての刺激があり、アウトプットとしての反応がある中間(ブラックボックスとされていたもの)を知覚構成概念と学習構成概念の2つの概念を用いて説明されました。

そして、消費者行動に関する研究は「消費者を情報処理者とみなす」ことによって発展します。

この図では、多くの情報の中から消費者はどのように情報処理を行うのかという「刺激→長期記憶⇄短期記憶→行動」について整理されており、マーケティングにおいて重要な2つの可用性のうち、想起のされやすさ=メンタルアベイラビリティの理解を助けてくれます

想起されるには? を構造で理解するブランドカテゴライゼーション

ブランドカテゴライゼーションとは、ある商品カテゴリーについて生活者一人ひとりの頭の中で、どのようにブランドを分類しているかを概念化したものです。想起集合とは「購入における好意的な選択肢の集合体」のことを表します。

入手可能集合(消費者が情報を入手できる全ブランド)の中から、まるでトーナメントのように各段階を勝ち上がっていき、最後の到達点が第一想起のポジションとなります。

各段階について解説します。

知名段階(知名集合 or 非知名集合)
ブランド名を知っているか、知らないかです。知っているブランドは次の段階に進むことができます。

処理段階(処理集合 or 非処理集合)
名前は知っていたとしても、どのようなブランドなのかがわからない(何のイメージもわかない)ことがあると思います。その場合、非処理集合に分類されます。何らかのイメージがわくブランドは、次の段階に進むことができます。

考慮段階(想起集合 or 保留集合 or 拒否集合)
最後に、購入を前向きに考えられるかどうかで分類されます。前向きに考えられるブランドの集合体こそが想起集合です。注意すべきは拒否集合の存在です。知っているし、どんなブランドかもわかっているものの、買いたいと思わないブランドに分類されることもあります。

そして、想起集合のなかでも、真っ先に想起されるブランドが第一想起ブランドです。想起集合に入ることができるブランド数は限られており、ほとんどの商品カテゴリーで2〜3つとされています。この想起集合に入ることができるかどうか・入った後に維持することができるかどうかが多くのブランドにおいて重要なマーケティング課題であると言えます。

想起される前に、そもそも覚えてもらうには?

想起のされやすさを高めるためには、そもそも記憶してもらう必要があります。記憶についての理解を助ける「記憶の多重貯蔵モデル」について解説します。

記憶には、感覚記憶、短期記憶、長期記憶という貯蔵庫(登録器)があるとされています。

感覚記憶
目、耳、鼻、口(舌)、身体(皮膚)などの感覚レジスターを通して受けた刺激が0秒から5秒程度持続する記憶のこと(図は1秒と記載)。

つまり、日常生活の中で受ける外部刺激のすべてを指します。これらすべてを記憶してしまうととんでもない量の情報を貯蔵しなければならないため、極めて短い時間で、入力と忘却を繰り返す特性を持っています。

短期記憶
短期記憶は、容量に限界があり、短時間(15秒〜30秒)で忘却される特徴を持ちます。感覚記憶から転送された情報と、長期記憶に保存されている情報の意味づけを行う機能があります。

電話番号を記憶するときなどに少しの間だけ保持される記憶だけでなく、長期記憶の中から検索された情報の出力場所でもあることがポイントです。

長期記憶
短期記憶から転送されたもので、半永久的にかつ上限なく貯蔵される記憶のことです。長期記憶に入ると、情報を整理したり、検索することが可能となります。情報を取り込むことを「記銘(符号化)」、保存することを「貯蔵」、記憶を引き出すことを「想起」と呼びます。

感覚記憶、短期記憶、長期記憶をパソコンで例えると、感覚記憶は、CPUなどのマイクロプロセッサ内部にある演算や実行状態の保持に用いる記憶素子、短期記憶は、様々な情報処理を行うメモリー(主記憶装置)、長期記憶は、あらゆる情報を蓄積しておくSSDやハードディスクが該当します。長期記憶がデスクの引き出し(の中)、短期記憶がデスク(の上)と例えることもできます。

伝票処理などの仕事をする場合、引き出しから資料を引き出し、デスク上で作業を行います。買い物行動も同じで、多くの商品やサービスについての情報はいつも引き出しの中にしまわれていますが、ニーズが顕在化したり何かしらの刺激を受けたりすることによって引き出しが開きます。そして、最大3つの選択肢が机に置かれ(想起され)、検討、購入される。これが刺激→想起集合→購入までのメカニズムです。

※短期記憶と長期記憶の意味づけを行うチャンキングや、短期記憶から長期記憶へ転送されるためのリハーサル、長期記憶の種別など、各記憶の連動やメカニズムについて詳しくは池田が執筆したこちらのnoteでより詳しく解説しています

以上を単純化すると、マーケティングにおいて記憶に残してもらいやすくするため(そして想起されやすくするため)には以下の要素が必要だと言えるでしょう。

消費者は他人や集団からも影響を受けている

ここまで、消費者行動分析における消費者個人を対象にした考え方を中心に説明しましたが、冒頭で述べた通り消費者行動分析の研究は「集団としての消費者」や「消費者同士のインタラクション(相互作用)」による研究も進んでいます。消費者行動は「個人→個人」や「集団→個人」の影響を受ける、とおさえておくと分かりやすいでしょう。

「個人→個人」については、代表的な研究がE.M ロジャースによる新製品普及過程研究(一般的にイノベーター理論とよばれるもの)です。

この図は、新製品が市場で普及していくプロセスについてモデル化しているものです。ポイントは、初期採用者(アーリーアダプター)の存在によってマジョリティ(大衆)に広まっていくということです。初期採用者は他人の購買に影響を与えるオピニオン・リーダーとしての性質を持ちます。オピニオン・リーダーとは、カテゴリーインフルエンサーのようにそのカテゴリーについて優れた知識を持ち、フォロワーに影響を与える力を持つ人と捉えて問題ありません。。

そして、「集団→個人」の影響について代表的な研究が準拠集団に関するものです。

ここでおさえておきたいポイントは、商品カテゴリーによって準拠集団からの影響の受けやすさが異なるということです。一方で、準拠集団の影響を受けやすいとされる「アパレル」という商品カテゴリーだからといって、必ずしも準拠集団の影響を受けるというわけではありません。また、準拠集団を形成する消費者のデモグラフィック的な特性によっても影響の大きさは変化します。

つまり、商品カテゴリーという区別だけでなく、ブランドごと・準拠集団ごとに受ける影響力もかなりバラバラだということです。

消費者行動分析においては、自らが取り扱っている商品・サービスごとに自らの頭で考えることが欠かせません。消費者行動分析の成り立ちや基礎はおさえつつ、多様化する消費者行動に対して仮説を立てられる力がこれからのマーケターに求められる必須スキルだと言えるでしょう

まとめ

  • マーケティングは「モノを作るだけでは売れなくなった」時代において、消費者に適応することが求められる。マーケティング4Pが消費者を中心に置いているように、前提となる消費者行動を見誤ると具体的なマーケティング戦略も失敗に陥りやすい
  • 消費者行動分析は消費者個人を取り上げた研究から、集団としての消費者や消費者同士のインタラクションが取り上げられるようになった
  • 消費者個人を情報処理者とみなす研究においては、刺激から行動にいたるまで頭の中でどのように情報処理が行われているのかを説明している。これはマーケティングにおける重要な2つの可用性である「想起のされやすさ=メンタルアベイラビリティ」を高めることについての理解を助けてくれる
  • ブランドカテゴライゼーションは「購入における好意的な選択肢の集合体」である想起集合に含まれるには、知られていること・知っていて特徴を理解してもらえていることの前段階をクリアしている必要があることを示す
  • 記憶の多重貯蔵モデルは、記憶は感覚記憶・短期記憶・長期記憶の3つがあり、感覚記憶から短期記憶に残るには選択的注意を向けられる必要があること、短期記憶は長期記憶との意味付けを行う役割があることなど、記憶のメカニズムを構造化したもの
  • 消費者行動分析は時間を経るごとに複雑化している。大切なことは基礎はおさえつつも、自らの頭で消費者行動についての仮説を立てられるようになること

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