想起はなぜ重要? 認知との違いや購入に至るまでのプロセスを解説

最終更新日:2026.8.21

作成日:2026.8.21

めまぐるしく変わる市場環境において、多くのマーケターが「プロモーションを行っているのに売上が増えない」という問題に直面しています。その根本的な原因は、「名前を知られていること(認知)」と「買いたいときに思い出されること(想起)」を混同している点にあります。

本記事のテーマは「想起」。株式会社トライバルメディアハウス代表の池田が提唱する『売上の地図』の因果構造をベースに、『マーケティング戦略』(有斐閣アルマ)にある消費者行動分析、中央大学ビジネススクール教授の松下氏による『消費者行動論』(有斐閣アルマ)のアカデミックな知見を融合し、生活者がブランドを記憶し、思い出し(想起)、購入にいたるまでのプロセスをひもときます。部分最適な点のアプローチから脱却し、生活者に選ばれ続ける強固なブランドを築くためのベースとなるナレッジをお届けします。

要点まとめ

  • 売上の手前にある最重要KPIは認知度ではなく想起率。助成想起だけでなく純粋想起されるブランドを築くことが重要
  • カスタマージャーニーにおける顧客期間は5%程度、残りの95%は市場にいない未顧客期間。そして、全ての購買のうち約8割は事前想起されたブランドを選んでいる
  • 生活者が自発的に思い出せる想起集合の数は、平均して「2個以下」と狭い枠
  • 想起とは、長期記憶の引き出しの中から必要なブランドの情報を検索し、手元に引っ張り出すプロセスのこと
  • 想起を引き上げる強力なエンジンが「プレファレンス(選好性)」であり、価格、製品パフォーマンス、ブランドエクイティの総和で構成される

目次

  1. 想起は純粋想起、認知は助成想起 評価の違い
  2. 想起はなぜ重要か 購入する8割は事前想起したブランドを選んでいる
  3. 想起させたい生活者は使用する人に限らない 消費者行動の本質
  4. 想起集合における2個の壁と第一想起の優位性
  5. 想起される前段階の、覚えてもらうための概念 記憶の多重貯蔵モデル
  6. 想起を最大化するエンジン プレファレンスを高める3つのアセットとCEPsの連動
  7. 想起の理解は自身のメタ認知から
  8. 想起について解説する講座

想起は純粋想起、認知は助成想起 評価の違い

多くのブランドが日々の活動で追いかける指標に「認知度」がありますが、ブランド名を提示されて「言われれば知っている」「ロゴを見ればわかる」という状態は、「助成想起」にすぎません。認知度は、予算を投じて広告や露出の量を増やせば、競合他社と同時に高めることができる「絶対評価」の指標です。

一方で、生活者のニーズが顕在化した瞬間、例えば「喉が渇いたな」「エアコンが壊れたな」と思ったときに、何も見ずに自発的に思い出してもらえる状態が「純粋想起」であり、これこそがマーケティングによって獲得するべき「想起(メンタルアベイラビリティ)」です。想起は、生活者の脳内にある非常に狭い引き出しの中で、競合ブランドとポジションを奪い合う「相対評価」の指標です。『売上の地図』においても、売上を増やすための重要変数として位置づけています。

つまり、認知はどの企業も広告量を増やせば競合も含めて上がるものですが、想起は生活者における順位のため、自社が上がれば競合は下がるという相対的な評価になります。

認知はされているけれど想起はされていないというのは、よくあるパターンです。認知を獲得してブランド名が知られていたとしても、ニーズが顕在化した瞬間に思い出してもらえなければ、選択肢に上がり購入されることはありません。そのため、売上の直前にある最重要KPIは認知度ではなく想起率であり、助成想起だけでなく純粋想起されるブランドを築くということが求められています。

想起はなぜ重要か 購入する8割は事前想起したブランドを選んでいる

想起の重要性について理解するために、「顧客はずっと顧客なわけではない」という点も頭に入れておきたい考え方の1つです。

株式会社コレクシアの村山氏による講義「マーケターのための費用対効果と投資対効果 徹底理解講座③ ブランディングという「投資』は、どのように売上につながるのか?」では、カスタマージャーニーにおける顧客期間は5%程度にとどまり、残りの95%は市場にいない未顧客期間であると伝えられました。

高関与商材を例に挙げると、車を買い替えるタイミングは7年に1回(※)、エアコンはダイキン工業の片山氏によると13年に1回です。買い替える際は「製品の調子が悪くなった」など、壊れたタイミングである方が多いと思いますが、7年や13年のうち大半は需要がなく、製品のことを考えている人は少ないでしょう。そうした95%の方々は顧客とは言えません。

さらに、同講義では、全ての購買のうち約8割は事前想起されたブランドを選んでいるという研究結果について言及がありました。この8割の方は、ニーズが顕在化したタイミングには、どのブランドにするか決まっているということを意味します。「壊れたから買い替えたい」と思ったときには、すでに「これまで使っていたダイキンのエアコンにしよう」とブランドを決めているということです。反対に、ニーズが顕在化したときに製品について比較・検討する方は2割にとどまるため、短期の刈り取り施策に挙げられるリスティングやリターゲティングは、この少数派に対するアプローチとして限定されることになります。

売上を増やすには、ニーズが顕在化したあとの上記施策に取り組むことも重要ですが、顕在化する前の8割の方に想起されるように準備しておくことも大切です。

「保有期間は平均7.2年」2023年度乗用車市場動向調査について丨一般社団法人 日本自動車工業会丨2024年4月17日

想起させたい生活者は使用する人に限らない 消費者行動の本質

誰に想起させるべきか、という点については、『消費者行動論』における「消費者行動=購買行動ではない」という前提理解が必要です。ここでいう消費者行動には、商品を購入すること(購買行動)だけでなく、調べる・利用する・食べる・捨てる・飾る・クチコミを調べるなど、あらゆる能動的な行動が含まれます。買う瞬間だけを切り取ってしまうと、生活者のリアルな心理からかけ離れた、机上の空論を戦略の軸にしてしまいます。

また、実務において重要なのが、「買う人(購買者)」「使う人(使用者)」「支払う人」が常に同じではないという点です。例えば男性用化粧品において、実際に毎日使用する「使う人」は男性ですが、ドラッグストアなどの店頭で商品を手に取り、レジで「支払う人(買う人)」の約3割は女性、すなわち母親や配偶者であるというデータが存在します。この場合、いくら「使う人(男性)」のニーズに特化した成分や機能を長文でアピールしても、店頭で「支払う人(女性)」の目に留まり、そのときに想起されなければ、購買行動には至りません。

想起集合における2個の壁と第一想起の優位性

生活者が何かを購入する際、脳内では以下のようなトーナメント戦(ブランドカテゴライゼーション)が繰り広げられています。

生活者がブランド名を知っており(知名集合)、ある程度特徴や便益を理解している(処理集合)としても、実際にニーズが顕在化したときに脳内で純粋想起される選択肢の集合体「想起集合(エボークトセット)」に入るという壁は極めて高いものです。

学術的には、人間が一度に処理できる選択肢の数は「5〜9個」と言われることもありますが、株式会社トライバルメディアハウスが実施した調査『第一想起白書2025』では、ビール、掃除機、マヨネーズなどの身近なカテゴリーにおいて、生活者が自発的に思い出せる想起集合の数は、平均して「2個以下」しか存在しないことが明らかになっています。

この狭い範囲のなかで、最も最初に思い浮かぶポジションが「第一想起」です。第一想起を獲得しているブランドは、市場におけるトップシェアブランドとほぼ一致します。これは『ダブル・ジョパディの法則』が示す通り、シェアが高いブランドほど既存の生活者基盤が強固で、日常的に反復的アプローチされているため、必然的に第一想起されやすくなり、第一想起されるからこそさらに選ばれるという正のループを確立しているためです。

想起集合に入れなかった惜しいブランドは、名前と特徴は知られているものの思い出されない「保留集合(ホールドセット)」に留まってしまいます。ここにおける最優先の課題は、さらなる知名の拡大のため広告などにお金を投じることではなく、生活者の「思い出すきっかけ」を増やすアプローチへ転換することです。

想起される前段階の、覚えてもらうための概念 記憶の多重貯蔵モデル

想起集合や第一想起は、一度決まったらほかのブランドは入れないかというと、そうではありません。想起集合や第一想起に入るブランドは変動する、という特性を持っています。

想起集合に入るプロセスを理解するために、人間の脳における記憶のメカニズムについてもひもときましょう。ここで重要な手がかりとなるのが、アトキンソン氏とシフリン氏が1968年に提唱した『記憶の多重貯蔵モデル』です。記憶は、感覚記憶、短期記憶、長期記憶の3つで構成されます。

感覚記憶

五感を通じた外部刺激による感覚記憶は、視覚なら1秒以内に消え、聴覚なら最長5秒程度保持されます。CMの最後に流れるサウンドロゴは、この耳の感覚記憶に残るために活用されます。ここで選択的注意(知覚)を向けられた情報だけが、次の短期記憶へと転送されます。選択的注意がされない記憶はすぐに忘却されます。

短期記憶

短期記憶はパソコンのメモリー、あるいはデスクの上にたとえられます。デスクの上のスペースには限界があり、保有できる容量は約7個、時間は15秒から30秒程度という特徴があります。記憶を維持させるため、反復を行う(繰り返し伝える)ことによっても長期記憶に入る可能性はありますが、解釈や意味づけをされた方が長期記憶に入りやすいと言われています。

長期記憶

短期記憶から転送され、半永久的に貯蔵される場所が、ハードディスクにあたる長期記憶であり、デスクの引き出しの中にたとえられます。長期記憶には、意味や概念、背景を知ることによる「意味記憶」や(この製品はこのような製法で作っています、など)、ストーリーテリングに代表される経験や思い出などの「エピソード記憶」によって転送されます。

想起とは、長期記憶の引き出しからブランド情報を検索し、短期記憶という極めて狭いデスクの上にカードを引っ張り出す行為を指します。長期記憶に入ることでニーズが顕在化した瞬間に、引き出しの中からデスクの上へ自社ブランドを引き出す=想起を獲得できます。反対に、長期記憶に入っていないと、思い出してもらうことは難しいと言い換えられます。長期記憶に転送させるために、記憶に対してアプローチできることは、以下6つです。

  • 五感に訴える
  • 繰り返し伝える
  • 文脈価値を伝える
  • 言葉やネーミングを工夫する
  • キャラクターやロゴを訴求する
  • 感情を動かす

想起を最大化するエンジン プレファレンスを高める3つのアセットとCEPsの連動

記憶されたうえで、想起集合の最前列(第一想起)に並ぶという結果を引き出すためには、マーケターが直接コントロールできる入力として「プレファレンス(選好性)」を高める必要があります。 プレファレンスとは、生活者が買い物のたびに頭の中で振る「サイコロの自社商品の目が出る確率」であり、以下の3つのアセットの総和によって構成されています。

  • 価格:購入にかかる金額
  • 製品パフォーマンス:使った後の満足度
  • ブランドエクイティ:広告、PR、ソーシャルメディアを通じてマーケターが能動的に蓄積できる、記憶の資産(ブランド認知、知覚品質、ブランド連想、ブランド・ロイヤルティ)。

プレファレンスを高めるうえで極めて重要なのが、生活者の購買プロセスの起点となる「問題認識」と「CEPs(カテゴリーエントリーポイント)」の連動です。

消費者行動論において、情報処理、すなわち購買動機のスタートは「目標とされる状態(理想)」と「現状」の間にズレ(ギャップ)が生じ、そのズレがある一定の大きさ(閾値)を超えた「問題認識」にあります。この問題が認識される具体的な条件やオケージョン、文脈(いつ、どこで、誰と、何を達成したいか)を、ブランドと強固に連結させたものがCEPs(ニーズが顕在化する入り口のドア)です。

生活者の頭の中には、このCEPsという「入り口のドア」が無数に存在しています。そして、ドアをガチャッと開けた瞬間に立ち上がる、共通の認識や理解が「パーセプション」です。大塚製薬の『ポカリスエット』を例に、問題認識から想起、選択にいたるプロセスを当てはめてみましょう。

  • 問題認識・CEPs:「風邪をひいて熱が出た。水分補給をしたい」という状況
  • パーセプション:「風邪のときの水分補給には、水やお茶よりも『ポカリスエット』などの飲料水が良さそうだ」という認識
  • プレファレンス:ほかのスポーツドリンクよりも『ポカリスエット』がよいという相対的な好意度、選考性

いくらプレファレンスを高める努力をしても、生活者のパーセプション(認識)がズレていれば、そもそもサイコロを振ってもらう土俵にすら上がれません。日常の具体的なCEPsを洗い出し、適切なパーセプションの受け皿を作ったうえで、3つのアセット(価格・製品パフォーマンス・ブランドエクイティ)を通じてプレファレンスを積み上げる。この一連の流れをつなぎ合わせることこそが、生活者に第一想起され、持続的な売上を生み出すための定石と言えます。

想起の理解は自身のメタ認知から

想起は、日ごろの生活習慣の中で自らの行動をメタ認知することから、そのメカニズムを体感できます。自分がどのようなCEPsを経てブランドを想起しているのかを観察し、売上の因果構造への理解を深めましょう。

MARPSで提供している記事や講座から、点としての知識を線としてつなげることができます。組織の共通言語として全体像を共有しながら、持続可能な成長を築いていきましょう。

想起について解説する講座

監修

本記事は、マーケティング戦略・ブランド戦略の専門家である池田紀行 の監修のもと作成しています。トライバルメディアハウス代表として、企業のマーケティング戦略設計および第一想起獲得に関する支援実績を多数有し、本記事はその実務知見に基づいて構成されています。

池田紀行 プロフィール

トライバルメディアハウス代表。マーケティング戦略・ブランド戦略領域を専門とし、第一想起を起点とした戦略設計・IMC支援を行う。企業のマーケティング変革支援を多数手がける。

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