
売上にとって一番重要な指標は「認知度」なのか? 振り返りレポート
今回のテーマは「売上にとって一番重要な指標は認知度なのか?」です。
マーケティングコミュニケーションにおいて重要なKPIの一つとされる認知度。果たして、売上にとって一番重要な指標は認知度なのでしょうか。本記事で解説します。
講座へお申し込みいただいた方の回答サマリー
本講座にお申し込みいただく際に、お答えいただいた課題への回答の傾向は以下のようになっていました。

売上にとって一番重要な指標は「認知度」なのか?
本記事では、認知度は「世間一般的にある程度知られていること」を表す度合いとします。認知度が高ければ、自分たちのブランドや商品・サービスが多くの人に知られていて、良さや強み、魅力などがある程度は把握されていることになります。
では、売上にとって一番重要な指標はこの認知度なのでしょうか。今回の回答は「認知度は一番重要な指標とは言えない」です。たとえば、以下のような経験はありませんか?
- スーパーに買い物に行くと知っている商品がたくさん置いてあるが、どんな商品かは知っているけど買ったことがない商品がある。
- 旅行先でたまたま入ったお土産屋さんで、知らなかった現地の名産品を購入した。
- ある調理器具が必要になったのでAmazonで調べていたら、クチコミが良い商品を見つけたので(聞いたことがないメーカーだったけど)購入した。
- 上記の例からも分かる通り、知っている(さらにある程度どんな商品なのかもわかっている)けど買わない・知らなかったけど買うことは日常生活でも頻繁に起こることがわかります。
もちろん、知っているブランドや商品、サービスは検討してもらえる確率が上がりますし、購入率も高くなります。しかし、知らない = 売れないということはありえません。
また、認知度が高い商品と低い商品を比べたときに、必ずしも認知度が高いほうが売上が多いとも言い切れません。以下の図をご覧ください。

上記の図のように、認知というマーケティングファネルの入り口を広げたとしても、購入に至るまでの歩留まりが悪い場合、結果的に売上は変わらないということもありえるのです(池田はこの過度に認知が広がっている状態を「無駄認知」と呼んでいます)。
以上のことから、認知度が売上にとって一番重要な指標ではないことが分かるでしょう(もちろん重要な指標の一つであるということに間違いありません)。
買ってもらうために必要な要素
ここまで、売上のために認知度が“一番”重要な指標ではないと説明しました。では売上にとって一番重要な指標とは何でしょうか。それを説明するために、買ってもらうために必要な要素について整理しましょう。

買ってもらいやすさは、上記の図のように「想起のされやすさ」と「買い求めやすさ」の両方が求められます。
後者の「買い求めやすさ」とは、欲しい・使いたい・行きたい・食べたいなどといった欲求が生じたときに、自社の商品やサービスの物理的な手に入れやすさのことです。
わかりやすい例で言うと、ランチでAバーガーを食べたいと思ったが、近くに店舗が無かった。そのため、目の前にあるBバーガーに入った。このような経験はありませんか。
どのような商品・サービスであったとしても(そしてどれだけ認知度が高い商品・サービスであったとしても)手に入れたいときに手に入らなければ、そもそも売上になりません。
売上に影響を与える一番大きな要素は、買い求めやすさであるといっても過言ではないでしょう。
一方で、マーケティングコミュニケーションに関わる人たちはこの買い求めやすさに関与する仕事ではないことがほとんどです。そこで注目したいのがもう一方の「想起のされやすさ」です。
「想起のされやすさ」とは文字通り、ある欲求が生じたときに、自社の商品・サービスが想起されるかどうか、そして購入や利用の選択肢に含めてもらえるかどうかを表します。
つまり、もっとも買ってもらえる状態とは「ある欲求が生じたときに、自社の商品やサービスが想起され、容易に手に入る状態」が理想であると言えるでしょう。マーケティングコミュニケーションに関わる人は、この想起と向き合うことが求められます。
おさえておきたいのは、想起は認知の先にあるということです。
知っておきたい「ブランドカテゴライゼーション」
想起は認知の先にあるとはどういうことか。それを解説するため、ブランドカテゴライゼーションという概念を用います。以下の図をご覧ください。

ブランドカテゴライゼーションとは、ある製品カテゴリーについて生活者一人ひとりの頭の中でどのようにブランドが分類されているかを概念化したものです。詳しく知りたい方は恩藏 直人氏が書いたこちらの論文をご覧ください。
入手可能集合(消費者が情報を入手できる全ブランド)の中から、まるでトーナメントのように各段階を勝ち上がっていき、最後の到達点が第一想起のポジションである、と思っていただくと分かりやすいでしょう。
各段階について解説します。
知名段階(知名集合 or 非知名集合)
ブランド名を知っているか、知らないかです。知っているブランドは次の段階に進むことができます。
処理段階(処理集合 or 非処理集合)
単純化すると、名前は知っていたとしても、どのようなブランドなのかがわからない場合(何のイメージもわかない場合)があると思います。その場合、非処理集合に分類されます。何らかのイメージがわくブランドは、次の段階に進むことができます。
考慮段階(想起集合 or 保留集合 or 拒否集合)
分かりやすく言うと、購入を前向きに考えられるかどうかで分類されます。前向きに考えられるブランドの集合体こそが想起集合です。
注意すべきは拒否集合の存在です。知っているし、どんなブランドかもわかっているが、買いたいと思わないブランドに分類されることもありえます。
そして、想起集合のなかでも、真っ先に想起されるブランドが第一想起ブランドです。
想起集合に入ることができるブランドは限られている
トライバルメディアハウスが2022年に行った「Evoked Set調査2022」では、以下のようなデータが明らかになりました。調査した15カテゴリーにおける想起集合に含まれるブランド数の平均値は、温泉地が最多の2.42個、歯磨き粉が最少の1.48個で、すべてのカテゴリーで3個未満でした。

この記事を読んでいただいている方も、「ビールと言えば」「歯磨き粉といえば」を考えてみてください。名前を挙げられるブランドや商品・サービス名はそう多くないことが分かると思います。
マーケティングコミュニケーションの力で達成すべきこと
マーケティングコミュニケーションは、お客様に買っていただくことを目的としたマーケティング活動の中でも伝えることに関わる活動であり、マーケティングコミュニケーションの目的は「消費者の意識・認識・態度を変えることによって、購入意向を高めること」であると前回の講座で解説しました。
それは、「マーケティングコミュニケーションの結果、自分たちのブランドが真っ先に想起される状態を実現すること」とも言い換えることができるでしょう。
認知度は想起に至る入り口として重要な指標ですが、その先にある「想起のされやすさ」を追うことが一番重要です。
ただし、誰もが「ビール」「掃除機」「歯磨き粉」などといった大カテゴリーの中でナンバーワンを目指せるわけではありません(もちろんそれが達成できれば強固な競合優位性を築くことができます)。
マーケットシェアがナンバーワンのブランドは、使える経営資源もナンバーワンです。正面から戦っても勝てる見込みは高くありません。だからこそ歯磨き粉ではなく、口臭予防の歯磨き粉で、自動車ではなく軽自動車で、家電ではなくぜいたく家電で第一想起を狙うなど、市場をセグメントし(小さくして)その中での第一想起を狙うべきです。
大切なことは、自分たちのブランドや商品・サービスは、どういった欲求・場面・状況などのときに想起されたいかという解像度を高め、言語化に取り組むことです。リソースが大手企業と比べて限られているブランドや商品・サービスであるほど、どのように想起を獲得するのかという観点で戦略を工夫する必要があると言えるでしょう。
まとめ
今回の記事では、以下のことを解説しました。
- 知っているけど買ったことがない・知らなかったけど買ったといったことは頻繁に起こりえる。認知度が高いことが、売上の大きさに必ずしも比例しない。そのため、売上にとって一番重要な指標は認知度ではない
- 買ってもらうために必要な要素として「買い求めやすさ」と「想起されやすさ」が存在する。マーケティングコミュニケーションに関わる人は「想起されやすさ」を高める必要がある。想起のされやすさは、認知された先に実現できるものである
- ブランドカテゴライゼーションの考え方によれば、想起集合に入るためには段階を踏む必要がある。想起集合とは、前向きに購入を検討できるブランドの集合体のことを指す
- 想起集合に入ることができるブランドや商品・サービスの数は限られる
- 想起されるためには認知されなければいけないので、認知度は重要な指標である。一方で、一番重要なのは真っ先に自分たちのブランドが想起される状態を実現することである