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公開日:2024年7月5日

マーケティング戦略理論講座 標的市場の選択 成熟市場におけるマーケティングの考え方 振り返りレポート

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目次

『マーケティング戦略』(有斐閣アルマ)を教科書に用いた連続講座の第4回です。マーケティング従事者がおさえておくべき基本理論について、本書の各章ごとに解説します。

今回の対象範囲は以下のとおりです(第Ⅰ部第3章)。

▼今回取り上げる内容
・標的市場と市場細分化
・市場細分化の考え方と発展
・市場細分化の基本軸
・市場細分化軸の体系
・市場細分化採用の手続き

具体的な解説は本書に譲るとして、おさえておくべき内容を中心にまとめました。今回のポイントはSTPの基本的な考え方と、セグメンテーションにおける軸に関する考え方です。

1980年代前半まではマスマーケティングが全盛でしたが、市場が成熟化した結果STPの重要性が高まりました。とはいえ、「マスマーケティングは終わった」と考えるのではなく、マスマーケティングに近い考え方が有効な商品・サービスはいまだに存在します。極端にマスマーケティングは不要と考えるのではなく、必要に応じてマスマーケティングの考え方を取り入れる必要があることを意識しましょう。

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STPの基本

STPとは、市場を細分化し、狙う市場を決め、その市場でのポジショニングを確立するために活動することです。

セグメンテーションを実際に行うときは4象限で表すことが多く、2つの軸をどのように設定するのかがポイントです。どのような場合にも有効な軸はないため、試行錯誤を繰り返すことが欠かせません。

上記の図においてS3(T3)をターゲットに定めた場合、同じ象限にいる競合を分類し、どこにポジショニングをするのかを決めるために新しく軸を区切ることもあります。

注意点としては、空白地点を見つけたからそこを標的にしようと考えたものの、規模がなかったりニーズがなかったりすることです。空いている市場があったときには、空いている理由がなにか(競合が参入してない理由はなにか)を考えることも重要です。

市場の選び方の変化と未来

『マーケティング戦略』内では、市場空間の選択について4分類が示されていました。

この4分類については、以下のように変化していると考えることをおすすめします。

まず、マスマーケティングから市場の成熟化に伴い、ニーズが多様化したことに伴って、STPをおこなって複数市場を狙う(②)もしくは一つの市場に集中する(③)ことが選択されます。多くの市場を狙うには、相応の経営資源が必要です。

そして、ワン・トゥ・ワン・マーケティングは顧客一人ひとりのレベルでニーズにフィットしたマーケティングを行っていこうとする考え方のため、“顧客一人ひとり”という究極のセグメンテーションが行われた状態であるとも言えます。

最後のデジタルマーケティングは、デジタル空間におけるマーケティングのことではありません。オフラインとオンラインの境目がなくなった現代において、ワン・トゥ・ワン・マーケティングをマスレベルかつリアルタイムで実行できる状態を実現することと考えてみましょう。多数(数十万人~数百万人単位)の顧客のデータをリアルタイムで分析し、一人ひとりに合わせたレコメンデーションを最適なタイミングで行える状態です。マスをターゲットとしながら、一人ひとりのニーズを叶えるというセグメンテーションの最終形だと言えます。

たとえば、小売店での体験は近い将来かなり進化していくことが考えられます。カートに備え付けられたタブレットを起動すると顧客を識別し、過去の購買データなどさまざまなデータを参照し、店舗内の移動に伴って売り場近くで商品のオファーやクーポン提示が行われるような状態です。そして、これを来店した一人ひとりに対してそれぞれ異なる体験を提供するのです。このような未来が実現することはそう遠くないと予想されます。

このように、マスマーケティングから、基本であるSTPを行って、標的市場を分化・集中化して選択することが多くの企業で行われており、さらにデジタルの力でワン・トゥ・ワンの状態をマスに近づけていく競争をしていると言えます。

セグメンテーションが必要な背景

マスマーケティングから分化・集中というセグメンテーションの基本について解説します。

商品(のターゲット)・メディア(でリーチできる範囲)・ターゲットのサイズが一致しているほどマーケティング効率は良いと言えます。

かつては、大多数の人に向けた商品をマスメディアでリーチし、多くの人が購入してもらうことがマスマーケティングでした。たとえば、洗濯機・冷蔵庫・白黒テレビの3種の神器が家庭に普及したことなどが挙げられます。その後、ターゲットのニーズが細分化され(図の右下)、ニーズに合わせて商品の品種が増加(多品種少量生産)。そしてインターネットの普及によってメディアも細分化するに至っています。

現在のマーケティングにおいても、商品・サービスのターゲットに合わせたメディアを選択し、届けたいターゲットに届けるということが欠かせません。これが市場の現状です。

上記はあくまで理想であり、市場では生活者がニーズごとにわかりやすく固まっているわけではなく、それが明示されているわけでもありません。そのため、セグメンテーションを企業によって意図的に行う必要がありますが、細分化された市場セグメントが有効なのかどうかを以下の可能性が伴っているかを確認する必要があります。

これら4つの可能性の有無は、マーケティングをしていると自然に考えていることがほとんどですが、考えきれていないことがないかを顧みるための軸としておさえておきましょう。

どうやって市場を細分化するのか

冒頭で、セグメンテーションは4象限で行われることが一般的で、軸の設定が大事であると解説しました。その軸の設定方法として用いられる考え方の代表例を解説します。

人口動態的特性軸(デモグラフィック)は、帰属属性と達成特性の2つに分類できます。帰属属性は生まれつき決まっているもの、達成属性は生き方によって変化するものです。

社会経済特性とは、達成属性のなかの一つの考え方です。たとえば「年収1000万円を超える人はだいたいこのような消費特性がある」という括り方をするものですが、社会属性と消費価格帯は、どのような所得層の家庭でも100円ショップで買い物しているようなことからも、必ずしも有効ではない(考え方はより人それぞれ)と考えるほうが自然です。

デモグラフィック的な軸は、それだけでセグメンテーションを成立させることは困難になりつつあります。東京都の居住区でセグメンテーションしてみても、同じセグメント内で考え方や志向はバラバラであることは想像に難くないはずです。

そのため、セグメンテーションにおいては社会心理的特性軸(サイコグラフィック)を用いることが一般的となりつつあります。

サイコグラフィックによる消費行動の分析アプローチ

消費行動を分析・分類するためのアプローチにおいて、以下3つの代表的なアプローチが存在します。

ライフサイクルアプローチ

ライフサイクルとライフステージの考え方において、どういった消費行動を行うのか・共通性があるのかを分析するアプローチです。

ライフサイクルとは、消費行動を始めるようになってから人生を終えるまでの過程のことを指します。その過程の中で、どの過程にあるのかを示すものがライフステージ、ライフサイクルの中で起きる人生の転換点となるイベントのことをライフイベントと言います。

ライフサイクルの考え方においては、特定のライフステージにいる人や、ライフイベントを迎える人などがセグメンテーションの軸として用いることができます。

ライフスタイルアプローチとトライブ

ライフスタイルアプローチはAIOやVALSなどが伝統的な手法としてありますが、どのようなライフスタイルをしている人をセグメントしターゲットとするかについては、企業ごとにさまざまな考え方が用いられていることが一般的です。

ライフスタイルを分析するときに参考になる考え方の一つがトライブです。

単純化すると「◯◯好き(◯◯嫌い)」のように興味関心によって括られた人たちだと考えるとわかりやすいでしょう。

また、トライブ同士には相性があり、「革ジャン好き」の人は「アメリカンのバイクが好き」、「アメリカンバイクが好き」な人は「オフロードバイクはあまり好きでない」など相性の良し悪しがあることもポイントです。

一般的にサイコグラフィックの考え方においては単一的に「〇〇な人」と規定することが多いですが、トライブは掛け合わせることでよりセグメントやターゲットの解像度を上げることができます。以下の図のように、キャンプ好きな人はDIYも好きなことが多く、ビールや朝飲むコーヒーにこだわりがある、のようなイメージです。

ライフコースアプローチ

ライフコースアプローチはライフサイクルのように「大体このような過程を経て生きていく」という消費者の括り方をするものではありません。

ライフイベントごとの分岐においてどのような選択をしたのか・どのようなルートをたどったのか・そしてその結果どのような消費者となったのかという枝分かれの観点で分析する考え方です。

以上、3つのサイコグラフィックによるセグメンテーションの軸の例について解説しましたが、デモグラフィック・サイコグラフィックともに市場における生活者や、そのなかのターゲットの解像度を上げるための手段です。ターゲットの顔がありありと浮かぶくらい解像度が上がるように、さまざまな軸や組み合わせを試すことにチャレンジしましょう。

まとめると、市場の細分化と標的市場の設定は以下のようなプロセスで進行します。

なお、マスマーケティングにおいても市場細分化に至っている理由は、マスターゲットであったとしてもある程度の細分化が現代のマーケティングにおいては必要だからです。たとえば、多くの人が食べるポテトチップスであっても、減塩や濃い味などのセグメント対応が必要であるということです。

まとめ

  • STPとは市場を細分化し、狙う市場を決め、その市場でのポジショニングを確立するために活動すること。セグメンテーションは4象限で行われることが多く、どのような軸を設定するかがポイントとなる。軸の定め方はマーケターによってさまざまで絶対的な正解は存在しない
  • 市場の選び方はマスマーケティングから細分化された市場の集中・分化へと至っていった。デジタル技術の発展により、ワン・トゥ・ワン・マーケティングがマスターゲットかつリアルタイムに移行していく未来は近い将来起こり得る
  • 商品とメディアとターゲットそれぞれのサイズが一致しているほどマーケティングは効率的になる。マスマーケティングのときはマス商品・マスメディア・マスターゲットだったが、ターゲットのニーズが細分化したことで商品の品種は増え、インターネットによってメディアも細分化するに至っている
  • 市場の細分化の軸にはデモグラフィックとサイコグラフィックの2つがある。デモグラフィックのみで分類することは難しくなっており、サイコグラフィックによる市場の細分化が多くの場合で必要となる
  • サイコグラフィックによるセグメンテーション軸の設定には、ライフサイクル・ライフスタイル・ライフコースによるものがあり、ライフスタイルによる分類の一つにトライブがある。それぞれ強み弱みがあるので、どういった市場の細分化をしたいのかによって適切な使い分けができるように概念をおさえておこう

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