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公開日:2024年9月20日

マーケティング戦略理論講座 競争対応 競争優位を築くための基本理論 振り返りレポート

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『マーケティング戦略』(有斐閣アルマ)を教科書に用いた連続講座の第13回です。
マーケティング従事者がおさえておくべき基本理論について、本書の各章ごとに解説します。

今回の対象範囲は以下のとおりです(第Ⅲ部 第12章)

▼今回取り上げる内容
・競争対応の枠組み
・ポーターの3つの基本戦略
・製品ライフサイクル別戦略
・競争地位別戦略

競合との関係は、マーケティング活動すべてに影響します。これまでに学んだ市場の選択・分析・そして対応における各要素を理解しておくことで、競争戦略の解像度を上げることができます。

マーケティング戦略〔第6版〕 (有斐閣アルマ) 和田 充夫 (著), 恩藏 直人 (著), 三浦 俊彦 (著) Amazon.co.jpで購入する

「競争に対応する」とは?

前提として、現代の市場はゼロサムゲームです。ピザの例で例えると、誰かがピザを一切れを取ると、他の誰かはその一切れを取れないことを表します。

また、ソロモン・ダトカのベクトル図で表されるように、競争とは綱引きのようなものです。売上を減らそうとする力を常に競合が働かせているため、その力より大きい力で売上を上げる力を働かせることが求められます(売上を直接上げる綱は存在せず、すべての施策の総体で売上が引き上げられるという点には注意)。

競争に打ち勝つため、企業は戦略を立てて実行します。戦略とは「市場でどのように勝つのか」「そのために何をして・何をやらないのか」を定めることであり、戦略によって企業の方向性が規定されます。注意すべきなのは、市場も競合も動的に変化し続けているということです。

教科書で解説している概念は静的であると言えます。一つの時間軸を切り取って、そのときの事象や現象を抽象化していることが多いためです。今回学ぶ競争対応では、変化を続ける市場・競争環境に適応するため、戦略を組み替え続けることを求めています。

たとえば、STPは市場をセグメンテーションするプロセスを市場の時間を止めたような状態で行いますが、現場では刻一刻と変化する市場を俯瞰しながら行うことが求められています。

また、マーケティング・ミックスの諸要素(4P)は統合されてこそはじめて力を発揮します。どのように統合させて競合に打ち勝つ力とするのかを規定するには、要素一つひとつを理解できていることが欠かせません。

さらに、一つの時間軸を切り取って競合に勝てたとしても、それだけでは意味がありません。企業には持続可能な成長が求められているからです。持続的可能な成長を実現するには、持続的な競争優位を獲得することが至上命題となります。

競争戦略を考える3つの枠組み

教科書では3つの戦略について解説されています。その3つを以下のように整理します。

まず、①ポーターの3つの基本戦略は、3つの競争優位のうち、どこを目指すのかを規定するものであり、どうやって競合に勝つのかの方向づけがなされます。

②製品ライフサイクル別戦略は、時間軸ごとの戦略パターンを類型化したものです。そして③競争地位別戦略とは、市場内の地位によっての戦略パターンを類型化しています。

このように①②③は、このうちどれかを選ぶと言った性質のものではありません。方向性・時間軸・地位などの違いによって、組み合わせで戦略が決まるというものです。極端な表現になってしまいますが、①~③はすべて4パターンの戦略が示されているため、4×4×4の64通りある戦略の組み合わせから、今置かれている市場・競合・自社の状況に合わせて選び取っていくようなイメージです(実際の現場ではこのように分かりやすくはありません)。

ポーターの3つの基本戦略

競争優位のタイプを大きく3つに分けたものがポーターの3つの基本戦略です。

コストリーダーシップにおける注意点は、必ずしも最安値を志向しているわけではないということです。安いけど良い、というコストパフォーマンスを志向することが一般的です。

差別化における注意点は、自社の視点で見た競合との違いは差別化とは言わないということです。ポジショニングマップにおいて、競合と違う消費者をターゲットにするということでもありません。

差別化とは、消費者から識別された違いがあること、そのうえで自社のほうが良いと感じてもらえている状態のことを表します。

製品ライフサイクル別戦略

戦略の前提となる製品ライフサイクルについて、いまどのフェーズにあるのかは客観的に規定される要素はなく、主観的に規定されます。

以下の図の左側のように、ライフサイクルごとに採用者がリンクしていることをおさえておきましょう。

製品ライフサイクル別に、市場の成長性や採用者(顧客)、競合のひしめき具合などが異なっているため、マーケティング目的も変化します。導入期は知名獲得とトライアル売上の獲得、成熟期はシェアの最大化といった具合にです。

プロダクトライフサイクルの進行は一般的に抗うことはできないため、フェーズによって戦略を変えていくことが求められます。

競争地位別戦略

市場の地位によって戦略が変わることを表しています。注意が必要なことは、競争においてはどんなときでもトップシェアの企業がもっとも有利であるということです。

下位の企業が上位の企業に挑戦するときには、ランチェスター戦略の考え方を用いることが一般的です(以下の図において、強者とはシェア上位の企業、弱者とはシェア上位の企業以外と置き換えて下さい)。

たとえば、シェアトップの企業が広告宣伝予算を300億円持ち、下位の企業はそれが30億円だとしましょう。シェア上位と下位の企業が、10個のまったく同じ施策にそれぞれ同額のコストを配分したとき、一つの施策で使えるコストは30億円・3億円と10倍の違いがあります。これでシェア下位の企業は、上位の企業に勝つことは果たしてできるのでしょうか。

この例のようにシェア上位と下位の企業では、持っている資源がそもそも大きく異なります。そのため、シェア下位の企業が勝つためには、勝てる戦局に資源を集中する必要があるのです。シェア上位の企業の施策を、下位の企業が安易に追従したり真似したりしてはいけない理由もこのためです。

シェアトップのマーケットリーダーは、あらゆる資源が多く、顧客基盤が厚く、そして規模の経済性や経験効果が働くことでコスト優位性もあります。残念ながら、市場は勝っている企業がさらに勝つという構造になっているのです。

多くの人が誤解しがちなことは、戦略を学べばマーケットリーダーとの地位をひっくり返せるのではと考えてしまうことです。残念ながら、そのようなジャイアントキリングは多くの場合起こすことはできません。

シェア下位の企業は上位企業に対して、勝てる局面で勝ち続けることが求められます。そうすることで、じわじわとシェア上位企業との差を近づけていくことができるでしょう。

対して、マーケットリーダーは豊富な資源力で競合をねじ伏せ続けながら、持続的な成長を実現するため、市場そのものを拡大するアクションが時に求められます。サントリーがハイボールを啓発してウイスキー市場を成長させたり、現在はジンの市場を成長させたりすることをめざしていることは、その現れであると言えます。

まとめ

  • ゼロサムゲームかつ競合の力が大きく働く市場においては、戦略を組み替えながら競争に対応していくことが求められる。マーケティング・ミックスの諸要素を、その時点での市場に適応させ続けることもその一つ
  • 競争戦略の枠組みである「ポーターの3つの基本戦略」「製品ライフサイクル別戦略」「競争地位別戦略」の3つは、それぞれどれかを採択するのではなく、方向性・時間軸・地位の違いによって、どういった戦略を講じるべきなのかの示唆を与えてくれる
  • コストリーダーシップをめざすとは、最安値をめざすということではなく、コストパフォーマンスに優れている状態をめざすことを表す
  • 差別化とは自社が主語ではなく消費者主語で語られるべき。消費者から違いが認識されていること、それでいて競合より良いと感じてもらえている状態をめざすことが求められる
  • 製品ライフサイクルにおいて、今どのフェーズにいるのかは主観的に判断される。ライフサイクルの進行に抗うことは多くの場合不可能であり、ライフサイクル別の市場・顧客の違いによってマーケティング目的を変えるべきであることを示している
  • 競争においてマーケットリーダーが圧倒的に有利であるという絶対的な事実を忘れないようにしよう。シェア下位の企業が上位の企業に勝つには、勝てる局面を選ぶこと、勝てる局面に資源を集中させることが求められる
  • マーケットリーダーは資源の豊富さ、顧客基盤の厚さ、コスト優位性といった観点で競合よりも有利な立場に立つことができる。マーケットリーダーが持続的な成長を実現するには、市場そのものを成長させるという観点が時に求められる

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