マーケティング実践講座 ~ヒットを生む“法則”と実践のポイント~ 振り返りレポート
プロのマーケターとして成果を出し続けるためには、理論の学習はもちろん実践を通じて試行錯誤の経験を積み重ねることが欠かせません。
今回は『グローバルで通用する「日本式」マーケティング 元・味の素マーケティングマネージャー直伝の仕事術』(日本能率協会マネジメントセンター)を執筆された、freebee株式会社創業者・代表取締役の中島広数さんをゲストにお招きし、一流企業のマーケターとして長年成果を出し続けてきた経験をもとにした”マーケティング実務”におけるノウハウやポイントを解説いただきました。
「良い物を作り、伝え、売る」というメーカーが行っている一連のプロセスにおいて、マーケティングがどのように行われているのかの内情を知ることができる貴重な機会となりました。
メーカーで働いている方はもちろん、メーカーに対して提案やマーケティング支援を行っている方は特におすすめの内容です。
マーケティング活動のエッセンス
マーケティングは幅広い活動を示す概念です。中島さんはバリューチェーンでマーケティング活動の全体像を示しています。それぞれの活動が線のように連なりながら(この連なりをバリューチェーンと呼びます)価値を最大化していくのがマーケティングであると言います。
そして、上記のバリューチェーンにおいて活動を色ごとに3つに分解して考えることができます。まず、コンセプトを作る(新商品企画・開発)を表す青い丸、次に利益を出すための事業計画やマーケティング・営業プランを作り、工場における需給管理行うなど「利益を出すための計画づくりと実行」が赤い丸、最後に生活者に向けて行うブランドコミュニケーションが黄色い丸です。
マーケティングにおいては、これら3色の丸すべてで価値を最大化することが求められます。たとえば、始点となる青丸におけるコンセプトづくりが生活者に受け入れられるものでなければ、全体としての価値を大きくすることは困難です。
青い丸や赤い丸の箇所における知識の習熟はどのように行うのですか、という池田の問いに対して、ビジネススクールやMBAに通う人がいたり、味の素の場合は社内で教えていく文化があるのでそれで学んだりすると中島さんは言います。
上記のように学ぶ機会に恵まれやすい大企業とは異なり、中小企業だと学ぶ機会が限られてしまうこともあってか、誰にとってのサービスなのかという青い丸の活動が突き詰められていないことも少なくありません。技術力はあるもののユーザーに価値を実感してもらう方法がない、商品開発と広告宣伝・販促に一貫性がない、ブランドマネジメントができていない、ノウハウが形式知化されていないなどの課題もあります。
メーカーにおけるマーケターは一般的に2つに分けて考えることができます。
企画・開発マーケターは(コミュニケーション戦略にも携わるものの)商品を生み出すことを主な役割とし、販売マーケターはそのカウンターパートとして「どうやって売るのか」を検討・実行します。採算を管理する(利益を生み出すための管理を行う)のは下の販売マーケターです。このようにメーカーの中でも役割ごとに人員が分かれており、すべてのことを経験するにはかなりの時間を要します。
商品がうまく売れないとき、バリューチェーンのどこに原因があるのかを診断することは容易ではありません。先程のバリューチェーンでいうと、課題の位置と改善に取り組む方向性は以下の図のように整理ができます。
一般的な広告代理店が関わる活動(関わろうとする活動)は黄色い丸の「⑥ブランド育成」「⑦広告ROI改善」がほとんどです。一方で、メーカーサイドは青い丸のコンセプトに課題を感じていることも少なくありません。だからこそバリューチェーンの全体像を理解しておくことや、経験が無いとしても知識があることだけでもメーカーに寄り添いやすくなることも多いはずです。
たとえば、「③製品開発業務の標準化」は工場に関することなので、広告代理店が支援できる領域ではありません。しかし、③で行われていることをブランドコミュニケーションに役立てる(生産の様子をクリエイティブに活かす)ことができるかもしれません。これは、生産の現場で行われていることを知っていてこそです。
また、青い丸・赤い丸・黄色い丸すべてで価値を最大化するのがマーケティングであるものの、独創的なプロダクトが起点であるべきだと中島さんは言います。独創的なプロダクトを生み出すことは決して容易なことではありません。ヒットした・しなかった商品の要因分析を行うことが欠かせないのです。それらを抽象化することで、自身が学ぶべきことや、次回に活かすべきことを100を超える商品に関わった経験を経て中島さんは蓄積し続けてこられました。