マーケティング戦略理論講座 マーケティング戦略の全体像 振り返りレポート
『マーケティング戦略』(有斐閣アルマ)を教科書に用いた連続講座です。マーケティング従事者がおさえておくべき基本理論について、本書の各章を解説しています。
今回の対象範囲は以下のとおりです。
・マーケティングの誕生
・マーケティング・コンセプトとは何か
・マーケティング戦略の体系
・マーケティング・ミックス諸要素
・マーケティング戦略の構築に向けて
具体的な解説は本書に譲るとして、おさえておくべき内容を中心にまとめました。連続講座の初回である今回は、理論を学ぶべき必要性と、序章の内容について解説します。
そもそも、“理論”とは何か?
以下の図をご覧ください。
現実で起こっている事象から事実を抜き出し、その事実を抽象化したものが概念と呼ばれます。そして、複数の概念を束にしたものが理論です。マーケティングの教科書が「抽象的すぎてよくわからない」と感じるのは、上記のプロセスで理論が成り立っていることが主な要因です。理論を学ぶときに理解しておきたいのは、抽象的なものはそのまま利用することはできないということです。
上記の図のように、抽象化されたもの(理論)を、自分自身の力で具体的な問題解決方法に落とし込むことが求められるのです。抽象化されたものをそのまま利用することは筋が良くありません。「マーケティングDXでデータドリブン経営を加速させる」のように、抽象的な概念やフレームばかりでは、なにか言っているようで何も言っていないに等しいと言わざるをえません。だからこそ、抽象化された理論は学んで終わりではなく、学んだものを自身で具現化することが必要なのです。
では、マーケティングは理論を学んでいなくても経験則で実行・改善できるにもかかわらず、なぜ抽象化された理論を学ぶ必要があるのでしょうか。
理論を学ぶメリットは主に以下のとおりです。
① 理論は、結果の予測性を高めてくれる
理論を学んでいれば、事象の因果関係・構造が理解できている状態になるため、新しい具体的な施策を行ったときに「結果はこの理論で言われていることに近いものになるはずだ」という予測が立てやすくなります。逆に「どうなるかわからないけどとにかくやってみよう」「よくわからないからやめておこう」のような“もったいない”思考や行動の回避にもつながります。
② 理論は、目の前の現象や事実を説明・解釈・整理する手がかりとなる
理論とは先述の通り事象を抽象化し、概念化されたものの束です。つまり、抽象化されている理論がわかっていれば、目の前の現象・事実に対して「あの理論の内容と近いことが起こっているのでは」と整理や認識がしやすくなります。拠り所となるような理論が身についていなければ、何がどうなっているのかわからないという状態に陥ってしまいかねません。
③ 理論は、仮説を生み出す基盤となる
たとえば、マーケティングの重要概念に「想起集合」というものがあります。売上が減少したときに「想起集合に入れていないからでは…?」と仮説をたてられるのは、想起集合という概念を理解しているからです。
マーケティングは経験則のみで実行することは可能です。一方で、多くの研究者が長い年月をかけて行った研究の末に生まれた理論を学ぶことと、たった一人で我流のマーケティングを短い社会人生で突き詰めることを考えれば、どちらが効率的かどうかは火を見るより明らかです。先人の知恵を学び、自身のマーケティング実行力を高めていくために理論を学ぶことをおすすめします。
過去の講座では、マーケターに必要なスキルやインプット・アウトプット方法を解説していますので、未視聴の方はぜひご覧ください。理論を学ぶ必要性や注意点についても解説しています。
▼マーケティングの学び方講座
・必須スキルと“筋の良い”学習プロセスとは
・実務に活きるインプットを効率的におこなう方法
・考える力が身につく実践的アウトプット法
マーケティングが普及した背景
マーケティングが生まれ、普及した大きな要因の一つに「需要と供給の逆転」と「競争の発生」があります。かつては圧倒的に需要のほうが大きい状態でした。技術や生産能力が追いつかず、供給が追いついていなかったのです。その後、技術の進化や生産能力の向上による供給力の向上や、複数の競合が誕生することによって競争が発生すると「売るために知恵を働かせる」必要が生じます。それがマーケティングが普及した背景です。
日本にマーケティングの概念が導入されたのは1955年だと言われており、当時は高度経済成長期でした。少し時間が遅れる形でアメリカと同様に、市場と需要の急拡大と生産能力向上による供給の増加によって、マーケティングの考え方が求められるようになったと言えます。
マーケティング・コンセプト
言葉の定義を確認してみましょう。
また、書籍では「マーケティング・コンセプトとは、まさに企業が全組織的にもつべき市場に対する考え方(概念)であると理解することが重要である」と述べられています。マーケティング・コンセプトは時代を経るにつれ、以下のように変遷しています。
①プロダクト志向(シーズ志向)→②販売志向→③顧客志向(ニーズ志向)→④社会志向
それぞれの言葉の意味についての詳しい解説は書籍を参照いただくとして、「①研究や技術によって良いものを作る(ことで市場に受け入れられる)」→「②良いものを作るだけでは売れない(需要を供給が上回った)ので、いかに販売部隊の手で売っていくかを中心に考える」→「③顧客ニーズに沿った商品を作り、販売部隊だけに依存せず売れる状態を作る」→「④顧客だけでなく社会全体を良くする方向を目指そうとする」という流れであることをおさえてください。
書籍にある通り、今日においてマーケティングの基本とされるのは③・④となります。マーケティングとは、顧客や社会のニーズを充足するため、市場におけるしくみを構築し、そのしくみを実践していくものであるということになります。
現場における「マーケティング」と「セールス」の違い
②販売志向と③顧客志向について補足します。「マーケティングの目的はセールスを不要とすること(マーケティングが上手くいっていればセールスは不要だ)」と理解されている方が少なくありませんが、必ずしもそうではありません。
両方とも目的は売上を上げるという点において共通しています。どちらが良い・悪いの話ではなく、ビジネスの現場においてはどちらも欠かせないもので、明確な優劣もありません。
バランスが大事だと池田は言います。セールスは商品を売り込むことで売上を上げるものです。時には、欲しいと思っていなかった人にニーズに気づかせ買ってもらう、という対面で行われるからこそ発揮できる力を持つのがセールスです。対して、マーケティングは顧客のニーズを探り、顧客から商品が求められる状態を作ることで売上に貢献するのです。繰り返しになりますが、大事なのはバランスなのです。
自社のマーケティングは、噛み合っているか?
マーケティングを実行するうえで重要な概念の一つが、マネジリアル・マーケティングです。言葉の定義を確認してみましょう。
システムズ・アプローチの枠組みとあるように、マーケティング戦略を実行するシステムが企業に導入されていると考えてみましょう。システムなので、構造を成し、相互につながり、連動しているようなイメージです。そのシステムを本書において以下の図で表されています。
マーケティング・コンセプトにおける顧客志向・社会志向を前提とし、マーケティングの目的を「市場需要の創造・開拓・拡大」としてとらえます。そして、その目的を達成するための対象を定め、マーケティング・ミックスの諸要素(4P)を計画・実行していくのです。
そしてシステムが円滑に動くためには、それぞれの要素が噛み合っていることが欠かせません。
例を2つ挙げてみましょう。ターゲット(マーケティング対象)を40代以上の男性にしているにも関わらず、諸要素における製品政策をパンケーキ中心にしてしまうと筋が悪いかもしれません。これが図におけるFit①です。
そして、40代以上の男性に立ち食いそばを提供しようとしているのに、場所が原宿駅前だとどうでしょうか。これはマーケティング対象と製品政策は噛み合っているのに、製品政策とチャネル政策が噛み合っていないということにならないでしょうか。これが図におけるFit②です。
このような不整合が起こらないように、マーケティング戦略においては、目的を達成するために、マーケティング対象と諸要素、そして諸要素同士がしっかり連動しているかを経営レベルでシステム管理することが求められるのです。それが、マネジリアル・マーケティングです。
まとめ
- 理論を学ぶことはマーケティング実行力の向上につながるが、学ぶことで即効果が得られるというものではない。なぜなら、学んだ理論は抽象化されたものであるため、自身が置かれている環境や状況に合わせて具現化することが求められるから
- 理論を学んでいなくてもマーケティングの実務を行うことはできるが、経験のみに頼るだけでは再現性の高い成果を得ることは難しい。多くの研究者が積み重ねてきた理論を学ぶことで結果的に効率良く成果を出すことにつなげることができる
- マーケティングが普及した背景にあるのは「需要と供給の逆転」。供給が大きくなることで「良いものを作って販売すれば売れる」という状態を維持することができなくなったため、顧客志向で市場を創造・開拓・拡大するマーケティングが必要になった
- 企業による市場接近に対する考え方(マーケティング・コンセプト)はプロダクト志向(シーズ志向)→販売志向→顧客志向(ニーズ志向)→社会志向のように変遷している。顧客や社会のニーズを充足するため市場にしくみを作り、実行していくマーケティングの考え方は顧客志向や社会志向が根底にある
- マーケティングとセールスに優劣はなく、売上を上げる目的においては両方重要だと考えよう。企業(商品)から顧客に向かってアプローチするのがセールス、顧客から企業(商品)が求められる状態をつくるのがマーケティングだと整理できる
- マーケティング戦略の実行はシステムのように捉え、マーケティング対象やマーケティング諸要素(4P)がそれぞれフィットしているか(連動しているか・噛み合っているか)を経営レベルで管理することが求められる