振り返り記事
公開日:2024年5月31日

マーケティングの学び方講座 実務に活きるインプットを効率的におこなう方法 振り返りレポート

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目次

マーケティングの領域は広範囲で専門性が高いことに加え、テクノロジーの進化や消費者ニーズの変化を常に反映させる必要があります。
そのような背景から、基本の学び方を習得できる機会がなく、学び方や成長の迷子になってしまうマーケターが後を絶ちません。
マーケティングの学び方を身につけることが、効率よくマーケティングを身につけて、成果を出すことにつながります。

今回は「インプット」に焦点を当て、マーケティングの全体像を踏まえた学習ステップごとのおすすめ書籍の紹介、効果的な読書術、そして学習効果を爆上げする生活習慣術について解説します。

※今回の内容は、2024年2〜4月にITmedia ビジネスオンラインで連載された「マーケティングの学び方を学ぶ塾」のトライバルメディアハウス代表 池田が執筆した原稿を、講義内容をふまえて再編集を行った特別版です。

インプットはなぜ必要なのか?

誤解してはならないことは、インプットの目的はすべからく「実務力」を高めるためです。

多くの人が「効率的に学習したいのにできていない」と、効率的な学習を望んでいますが、そんなものはありません。断言できます。焦りを覚えてしまうのは、他の優秀な人はできているのに、自分だけが効率的にできていないのではと感じるときです。しかし、その優秀な人は効率的にやったのではなく、愚直にやり続けたのです。誰にとっても効率的な方法というのは存在せず、自分なりの方法を見つけていくしかありません。

本来、「わからなかったことが、わかるようになる」過程では、脳にストレスがかかります。天気アプリで明日の予報を見るとき、脳にストレスはかかりません。晴れか雨かは既知の情報の更新なので、目や耳から入ってくる情報はそのまま脳にスムーズに入力されるからです。

一方、自身がまだ知らない体系的な理論や抽象度の高い概念を学ぶ場合、すんなり頭には入ってきません。なんとか頭に入れても「これはどういうことだ?」だったり、「わかったような、よくわからないような…」という状態になります。

「わかる」ためには、知った上でちゃんと自分の頭で考える。反芻(はんすう)する。そうすると、新しい知識が過去の知識や経験とつながり、「ということはつまりこういうことなのかな…?」と、自分なりに解釈できるようになる。そしてようやく「なるほどそいうことか!!」と「わかる」に達する。

耳で聞くAudio Bookなども便利ですが、インプットした新しい知識を反芻し、思考を巡らせ、解釈する工程を経ることが難しい(しない)ため、「知っている」(聞いたことがある)段階から脱することができず、結果、実務で使える知識にはならない(努力している割には報われない)可能性が高いと思います。結局、ラクに学べる方法などないのです。

前回の講座で解説したとおり、体系や順番を意識しながら基礎を学ぶ方法について、私なりのおすすめの方法を解説します。繰り返しになりますが、目的は「実務力」を高めることです。インプットをすること自体が目的になってしまわないように注意してください。

最強のインプット法は読書一択

25年以上にわたってマーケティングの学習と実務をしてきた僕のファイナルアンサーは、「最強のインプット法は読書一択」です。

本には、SNSやWeb記事やYouTube動画や無料ウェビナーにはない以下の素晴らしさがあります。

  • 出版社が認めた(経験や実績を持つ)人が書いている(一定の品質が担保されている)
  • プロの編集者が付き、目次構成案の段階から高度に練り込まれているため、必要な情報が必要な順番で必要な量だけ適切な表現で格納されており、無駄がなく、そして(一般人が書いたnoteなどより)格段に読みやすい
  • 当該テーマについて相応の情報量が詰まっている(1冊≒約10万字)※Web記事は3,000文字程度が一般的
    一定の情報量が塊として形成されているため、多くのnoteやYouTube動画より体系立った情報として整理されている(つまみ食いになりにくい)
  • 自分のペースで、思考や反芻をしながら(わからなければ何度でも戻って)読み進めることができる
  • ストック性に優れ、反復して学ぶことができる

「でも、2,000円は高いなあ…」と思いますか?

本を執筆してみるとわかりますが、10万文字の文章を、理路整然と、順序だって、わかりやすくまとめるためには、膨大な知識、経験、労力を必要とします。しかも、そこにプロの編集者が並走している。

実務や研究で大忙しの先人たちが、あっちへぶつかり、こっちへぶつかり身につけた「生きた知恵」を、たったの2,000円程度で手に入れることができる。こんなに安く買え、かつ高品質な情報パッケージはこの世に存在しません。

ちなみに、「評判が良いから買ってみたけど、期待はずれだった」という声があります。稀にそういう本もありますが、ビジネス書というものは、たったの一行でも役に立つ情報が得られれば、それで十分元はとれているのです。その「たったの一行」や「たったひとつの考える枠組み」が、あなたの仕事のアウトプットをほんの少しだけ良いものにし、その積み重ねが人生全体のキャリアを変えるのです。

「効率」を重視しすぎることによって、本来「素晴らしい出会い」が得られるはずだった本と出会えなくなるチャンスロスは計り知れません。本は、たった一行、たったひとつのフレーム(枠組み)だけでも得るものがあれば、元がとれたと考える。

この世で最も貴重な資源は時間であってお金ではありません。最も賢く、効率的に「実務で使える知識」を学びたいのなら、選択肢は書籍一択なのです。

マーケティング学習のステップ

これが、私の考えるマーケティング学習の9象限マトリクスです。

そして、以下の順番がもっとも「筋の良い学習プロセス」です。筋の良さとは、①楽しみながら挫折せずに続けられる、②途中で迷子にならない、③再現性高く学びを深められることを意味します。順に見ていきましょう(各象限ごとのおすすめ書籍もあわせて紹介します)。

Step1 リアリティと流れを学ぶ

まず導入は、マーケティングのダイナミックさを高いリアリティで感じることです。理論学習でくじけてしまう最大の要因はツマラナイ(と感じてしまう)ことです。しかし、その理論も本来は「感情を持った生身の人間の営みを科学したもの」であり、「理論=人間が持つ意識や行動のパターンや法則が整理されているもの」と考えれば、むしろおもしろくて仕方がないはずのものなのです。

そのため、理論を学ぶ前に、マーケティングのダイナミックさとリアリティをストーリー仕立てでインプットすることから始めてください。

推薦図書は以下の3冊です。

●推薦図書1
『USJを劇的に変えた、たった1つの考え方』(KADOKAWA)
森岡 毅 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4041041414/

USJをV字回復させたことで有名な、株式会社刀 代表の森岡毅氏が著した抱腹絶倒のマーケティングドキュメントです。取り巻く市場環境・競合・限られた経営資源からどのような戦略の全体像を描き、大きな成果を出したのか。まずはこの一冊からスタートしてください。

●推薦図書2
『ドリルを売るには穴を売れ』(青春出版社)
佐藤 義典(著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4413036239/

イタリアンレストランの経営を舞台に、「何を売っているのか(ベネフィット)」、「誰に売っているのか(ターゲティング)」、「この商品でなければならない理由は何か(差別化)」、「その価値をどうやって届けるのか(4P)」を、ビジネス小説の流れにそってわかりやすく解説してくれます。

●推薦図書3
『決定版 戦略プロフェッショナル』(KADOKAWA)
三枝 匡 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4041127939/

マーケティングやセールスにとどまらず、事業(ビジネス)において、どのように競合と戦って勝利するかを圧倒的なリアリティとストーリーで学ばせてくれる一冊。まるで映画を観ている感覚で楽しめるはずです。

Step2 学習の全体感と課題感を学ぶ

Step1でマーケティングのダイナミックさやおもしろさがわかったら、いよいよ本格的な学習に入りたいところですが、ここでいきなり理論書を手に取ってしまうのは早計です。せっかくStep1でマーケティングのおもしろさを体感しても、いきなり理論書を手に取るとStep1と理論書の温度差が激しく、いきなりツマラナク感じてしまい、途中で読むことを諦めてしまいます。

そのため、まずはマンガを手にとってください。マンガ本はイラストやストーリー描写に紙面を使うため、情報量は一般的なビジネス書の1/5〜1/10しか入りません。しかし、その分「わかりやすさ」は段違いです。骨太の理論や枝葉の情報を入れる前に、マンガで「ざっくり」とした全体感と理論体系を学んでおくと、スムーズにネクストステップへ移行することができます。

推薦図書は以下のとおりです。

●推薦図書4
『マンガでやさしくわかるコトラー』(日本能率協会マネジメントセンター)
安部 徹也 (著), 松尾 陽子 (その他), ミイダ チエ (その他)
https://www.amazon.co.jp/dp/4820719203/

幅が広く、ひとつひとつの奥が深いマーケティング理論の全体像をわかりやすく学ぶにはマンガが最適です。まず本書で「全体像」を「ざっくり」把握してください。

以下は、マンガではないものの、ざっくりとした全体感と理論体系が掴みやすい内容の書籍です。

●推薦図書5
『マーケティングを学んだけれど、どう使えばいいかわからない人へ』
西口 一希 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4534059833/

マーケティング学習で樹海に入り込み、「学ぶ」と「できる」の間に存在する壁を乗り越えられない多くの初学者に「正しい学び方」を伝授してくれる一冊。わかりやすさは折り紙付きです。

多くのマーケターが「マーケティングの全体像がわからない」「何をどの順番で学んだらいいのかわからない」「自身の学び方が正しいかわからず不安」と感じています。ということは、あなたも「普通に」学習すると同じことになる可能性が高い。

そうならないためには、「なぜ多くの人はそうなってしまうのか」「そうならないためにはどうすればいいのか」をあらかじめ学んでしまった方が得策です。失敗する前に失敗パターンを学び、それを回避するルートを選ぶのです。そのためにおすすめの一冊です。

●推薦図書6
『マーケティング22の法則: 売れるもマーケ 当たるもマーケ』
アル ライズ (著), ジャック トラウト (著), 新井 喜美夫 (翻訳)
https://www.amazon.co.jp/dp/4884970233/

「一番手の法則」「知覚の法則」「集中の法則」など、「実態としてそうなっている」という「マーケティングの法則」を学べる一冊。ひとつひとつの法則は「点」ですが、このタイミングでこれらの「点(法則)」を学んでおくと、ゆくゆく脳内で「線」としてつながりやすくなります。すべての法則が事例をベースに解説されているため、難解さはなく、膝をたたきながら楽しく学べるはずです。

Step3 全体感と構造を学ぶ

マーケティングのダイナミックさとリアリティ、学習の失敗ルートを学んだら、ここからいよいよ本格的な学習を始めます。

ここで重要になるのが、先に述べた「全体感」です。どこからどこまでがマーケティングなのか・全体感はどうなっているのか・売上をつくるためのマーケティングにはどんな変数があり、どのような因果構造になっているのかを「概観」するのです。

一つひとつの解像度は粗くても構いません。まずは高所から俯瞰して全体を概観する。初動の段階で「面」を捉える地図を手に入れることができるかどうかで、以降のステップで迷子にならず歩むことができるかどうかが決まります。書籍なら(僭越ながら)拙著『売上の地図』(日経BP)が最適です。ここでマーケティング全体の「面」を掴んでください。

●推薦図書7
『売上の地図』(日経BP)
池田 紀行(著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4296112562/

売上は何かひとつの施策が効いて上下動するのではなく、複数の変数が構造的に影響し合ってつくられていることを解説した一冊。商品やサービスそのもの、売り場(配荷)、想起、好意、クチコミ、ソーシャルメディア、オウンドメディア、広告、PRなどがどのような構造を成して売上に至るのか。ここで(単純な因果関係ではなく)深い「因果構造」を理解しておきましょう。

●推薦図書8
『業界別マーケティングの地図』(日経BP)
池田 紀行 (著), トライバルメディアハウス (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4296204696/

洗濯用洗剤と自動車は買い物(検討)のされ方が違うように、マーケティング戦略は商品カテゴリー(≒消費者のカテゴリー関与度)によって大きく変わります。『売上の地図』で学んだ売上の因果構造が、業界によって「どこ」が「どのように」違うのか、お菓子・アイス、家電など14業界の考察で学べます。

Step4 全体感と流れを学ぶ

全体感を俯瞰する地図を手に入れたら、次に取り組むべきはマーケティングを「流れ」として掴む「線」の視点を手に入れることです。

売上は、ひとつの施策が効いて上がるような単純なものではなく、複数の変数が構造的に影響を与え合って上下動します。自動販売機のようにボタンを押せば商品が出てくるようなものではなく、電子回路のように複数の機器が構造的な役割を果たすことで効果を発揮する電子回路をイメージしてください。

お客さまに買っていただくためには、認知されていて、興味を持ってもらえていて、商品の特長をある程度理解してもらえており、好意度や信頼度が高く、一定の割合で思い出してもらえ、買いたいと思ったときに最適な価格ですぐ買える場所に商品が陳列されている必要があります。

市況も顧客も競合も常に動的に変化する中でお客さまに選択していただくためには、個別施策の前に、お客さまの購入(=売上)に至るルートが見えている必要があります。このマーケティングの主要な流れを掴むための書籍なら(これまた僭越ですが)拙著『マーケティング「つながる」思考術』(翔泳社)が最適です。

全体構造が見え、お客さまの購入までの流れ(主要ルート)さえ見えれば、あとはルート上に存在する個別障害物を乗り越えるのみです。

●推薦図書9
『マーケティング「つながる」思考術』(翔泳社)
池田 紀行(著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4798182079/

マーケティングの現場で頻発する医療ミス(こんなはずじゃなかった!)の発生原因の解明と解決策を提示しています。マーケティングにおける8つの原理原則を示し、カテゴリー関与度の低い最寄品と、カテゴリー関与度が高い買回品・専門品におけるトライアル購入とリピート購入に至る主要な4つのルート(線)を解説した一冊。マーケティングの〈点⇄線⇄面〉がつながる助けになるはずです。

●推薦図書10
『確率思考の戦略論』(KADOKAWA/角川書店)
森岡 毅 (著), 今西 聖貴 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4041041422/

USJのV字回復や、2025年夏に沖縄にグランドオープン予定のジャングリアなどでも用いられている需要(集客)予測モデル(NBDモデル)が解説されています。数学の方程式は難解なので飛ばしても差し支えないですが、マーケティング実務において重要な戦略とプレファレンスについて、実戦の流れを深く学べる一冊です。

●推薦図書11
『ブランド・パワー』(翔泳社)
木村 元(著)
https://amzn.asia/d/9F6JhE6

ブランドの効果検証を可能にするための基礎的なフレームワークを説いた一冊。効果検証の全体像の解説を通じて、ブランドを構成する要素を構造化して捉えることができます。また。また、状況別ケースワークの解説を通じて、課題に対する打ち手の考え方を学べる点もおすすめです。

Step4.5 思考力を磨く

ここで少しだけ番外編を。マーケティング学習の9象限マトリクスには含まれていませんが、ここで思考力を磨くプロセスを経ておくと、ネクストステップ以降の学習効率が上がるため、ぜひStep5に入る前に以下の本で思考レベルを上げてください。推薦図書は4冊です。

●推薦図書12
『「具体⇄抽象」トレーニング』(PHP研究所)
細谷 功 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4569845991/

事例はわかりやすいですが、いくら事例を学んでもマーケティングの実務力は上がりません。理由は、事例は「具体」で再現性が低いからです。再現性を高めるためには、個別の具体から本質やパターンを抽出して「抽象化」する必要があります。「ヒント」ではなく「答え」を、「理論」ではなく「事例」を求める風潮が強いですが、「学習のための学習」ではなく、「実務力を高めることをゴールとした学習」をするならば、抽象化スキルは必須です。ぜひこのタイミングで「具体⇄抽象」を学び、「事例くれくれ族」から卒業してください。

●推薦図書13
『メタ思考トレーニング』(PHP研究所)
細谷 功 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/456982773X/

上記『「具体⇄抽象」トレーニング』の姉妹本です。メタ思考とは、「物事を一つ上の視点から考える」こと。具体→抽象→具体の「筋の良い縦移動」をするためには、「自身で質の良い “なぜなぜ”」を繰り返す必要があり、そのためにはメタ思考力が必須となります。2冊同時に手に取り、本書に沿ったトレーニングで「思考回路」を変えてしまいましょう。

●推薦図書14
『思考力改善ドリル』(勁草書房)
植原 亮 (著)
https://amzn.asia/d/fYOirDG

因果関係や推論といった考え方をわかりやすく学ぶことができ、問題解決のためのクリティカルシンキングを身につけることができます。

●推薦図書15
『解像度を上げる』(英治出版)
馬田 隆明 (著)
https://amzn.asia/d/d7UNfeW

深さ・構造・視点・時間といった切り口で物事を捉えることができるための考え方を解説している一冊です。

●推薦図書16
『問題解決の全体観 上巻 ハード思考編』(コンテンツ・ファクトリー)
中川 邦夫 (著), コンテンツ・ファクトリー (編集), 中川 学 (イラスト)
https://www.amazon.co.jp/dp/4904256026/

このタイミングでなくても構いませんが、いつか必ず手にとって欲しいのが本書です。マーケティングの目的は「お客さまに買っていただくこと」ですから、やるべきことは「お客さまが買わない理由を明らかにして、課題を解決すること」、つまり問題解決です。本書は、問題解決における課題と解決法を超高度に抽象化し、汎用的な「型」と万能な「道具」を提供してくれます。

●推薦図書17
『問題解決の全体観 下巻 ソフト思考編』
中川 邦夫 (著), コンテンツ・ファクトリー (編集), 中川 学 (イラスト)
https://www.amazon.co.jp/dp/4904256034/

上巻の「型」と「道具」に続き、「思考様式」と「試合運び」を教えてくれます。仕事もマーケティングも「問題解決」の連続です。ここで「問題解決の全体観」をインストールし、一気に戦闘力を上げてしまいましょう。

Step5 個別の手法や概念を学ぶ

このステップでようやく個別の手法や概念を学びます。手法や概念とは、たとえば「デジタルマーケティング」「SNSマーケティング」「コンテンツマーケティング」「SEO/SEM」「UX/UI」などを指します。手法や概念の選択や学ぶ順番は、あなたの実務上の課題感に沿って決めて問題ありません。

ひとつだけ注意してほしいのは、できる限り法則・パターン・規則性などをまとめた一定の抽象度で整理された本を選ぶことです。「具体」や「事例」本はわかりやすいかもしれませんが、その分、再現性が低く賞味期限も短いため、個別手法や概念を学ぶ際も、ある程度抽象度が高い本を選択することをお勧めします。

●推薦図書18
『インストア・マーチャンダイジング 第2版』
流通経済研究所 (編集)
https://www.amazon.co.jp/dp/4532320968/

売上に最も大きな影響を与えているのはフィジカルアベイラビリティ、つまり売り場(=配荷率)です。デジタルマーケターは売り場に関する知識が不足しているケースが目立つため、本書で「売り場の基本」をしっかり学んでおきましょう。

●推薦図書19
『たった一人の分析から事業は成長する実践顧客起点マーケティング』(翔泳社)
西口 一希 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4798160075/

マーケティングの目的は「お客さまに買っていただくこと」ですから、顧客理解や顧客戦略は重要テーマです。本書では、ひとりの顧客の意見から強度のあるアイデアを見つけ出す「N1分析」のほか、顧客ピラミッド✕ブランド選好の2軸によって顧客を9つのセグメントに分類し、個別の戦略を最適化させる「9セグマップ」を紹介しています。顧客を「視る」解像度が格段に上がる一冊です。

●推薦図書20
『“未”顧客理解』(日経BP)
芹澤 連 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4296112694/

売上を増やすためには、既存顧客の離反防止だけでなく、必ず一定の割合で新規顧客を増やし、浸透率を高めていく必要があります。本書では、新規顧客「候補者」を “未”顧客(=まだ当該商品を知らない、知っていても興味がない層)とし、ここからライトユーザーを増やしていかない限り売上は増やせないと提唱します。既存顧客重視の施策(=ファンマーケティング)への偏重は危険だと警鐘を鳴らす一冊。

●推薦図書21
『コンセプトの教科書』(ダイヤモンド社)
細田高広 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4478116342/

マーケティングだけでなく、企画・開発・営業・経営・起業すべてにおいて重要となるのが「筋の良いコンセプト」です。コンセプトの筋が悪ければ、マーケティングの基本となる「誰に、何を、どのように」もズレてしまい、高い成果を出すことは難しくなります。抽象的・掴みどころがない・センスが必要(センスの無い自分には無理)と捉えられがちなコンセプト開発の技法を、高い網羅性を担保しつつ、実に見事に、わかりやすく解説してくれる素晴らしい一冊。

●推薦図書22
『デジタル時代の基礎知識「PR思考」』(翔泳社)
根本 陽平 (著), 伊澤 佑美 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4798155683/

PR(マーケティング寄りのパブリシティ)を学ぶ一冊目として最適の書。タイトルの通り「PR“思考”」を学ぶ構成になっており、ど真ん中のPR(主にパブリシティ)の具体的ノウハウだけでなく、広告を含むマーケティングコミュニケーションのすべてにおいて「PR的な思考」(=人やメディアが伝えたくなる情報設計のコツ)が解説されています。

●推薦図書23
『パーセプション』(日経BP)
本田哲也 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4296200860/

(売れるポイントは)「認知」から「認識(パーセプション)」へ変わりつつあることを豊富な事例とともに解説する一冊。「プレファレンス(サイコロの目が出る確率)は同一パーセプション内の競争によって相対的に決まる」ため、自社商品がどのパーセプション内に属しているかが重要と説きます。PRを学ぶ上で欠かせない視点を提供してくれる一冊。

●推薦図書24
『The Art of Marketingマーケティングの技法』(宣伝会議)
音部大輔(著)
https://amzn.asia/d/jdftrqi

顧客の状態と行動を記述し、各ステップにおいてどのようなアクションを行うことで、顧客のパーセプションを変えていくのかを検討する『パーセプションフロー・モデル』を解説する一冊。

●推薦図書25
影響力の武器[第三版]
ロバート・B・チャルディーニ (著), 社会行動研究会 (翻訳)
https://www.amazon.co.jp/dp/4414304229

言わずと知れた大ベストセラー。人はどんなメッセージに影響を受けるのか、社会心理学や行動経済学とも隣接する「人の動かし方」がギッシリ詰まった一冊。ハードカバーで分厚いですが、わかりやすく解説されているため苦労なく読めます。全マーケター必読の書。

●推薦図書26
『新規顧客が勝手にあつまる販促の設計図』(翔泳社)
中野 道良 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4798166413/

タイトルは『販促の設計図』ですが、内容はBtoBマーケティングの基本を解説する本です。世には数多のBtoBマーケティング本がありますが、豊富でわかりやすい図版、的確かつ平易な解説は本書が一番です。BtoBマーケティングを学ぶ一冊目として最適の書。

●推薦図書27
『売上につながる「顧客ロイヤルティ戦略」入門』(日本実業出版社)
遠藤 直紀 (著), 武井 由紀子 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4534053398/

既存顧客のLTV(Life Time Value:顧客生涯価値)を向上させるためのCRM(Customer Relationship Management)の基本と、よくある(効果の出ない)CRMモドキにならないための金言があふれています。私も『売上には「良い売上」と「悪い売上」がある』という一節は、いろいろなところで引用させていただいています。「ファンマーケティング」を学ぶ前に読んでおきたい一冊。

●推薦図書28
『デジタル時代の基礎知識「ブランディング」』(翔泳社)
山口 義宏 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4798155438/

マーケティングROIを引き上げるブランド戦略は、もはやあらゆる商品やサービスのマーケティングにおける必須の取り組みとなりました。抽象度が高いブランド、ブランド戦略、ブランドマーケティング、ブランディング、ブランドマネジメントなどの概念を学び始める一冊目として最適なのが本書です。まずは「正しいブランディング」の概念や言葉の定義をインストールし、「ブランド」を理解するベース(基礎)をつくりましょう。

●推薦図書29
『ブランディング・ファースト』(クロスメディア・パブリッシング)
宮村 岳志 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/429540411X/

大企業が取り組むブランド戦略やブランドコミュニケーション本が多い中、経営資源が限定的な中小企業でも取り組め、かつ「ブランディングはイメージ戦略ではなく経営戦略である」と提唱する一冊。「ブランディングの本質はインナーにある」と、従業員へのメッセージ浸透やコミュニケーションが重要との指摘も本質的。中小・中堅企業だけでなく、スタートアップベンチャーの経営にも参考になる一冊。

●推薦図書30
『実務家ブランド論』(宣伝会議)
片山義丈 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4883355276/

Apple、NIKE、スターバックスなどを引き合いに出したブランド本を「教科書ブランド論」とし、「多くの日本企業は、そんなものは真似できない。学ぶだけ無駄」と喝破する一冊。ダイキン工業株式会社 総務部 広告宣伝グループ長である著者による「現場のリアル」と「じゃあどうするか?」がまとめられた実務家ブランド論。

●推薦図書31
『ブランドは広告でつくれない: 広告vs PR』(翔泳社)
アル ライズ (著), ローラ ライズ (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/479810373X/

「興味喚起や好意・信頼向上はPRにしかできない」という持論をベースに、ブランドは広告にはつくれない(=PRでしかつくれない)と提唱しています。著者がPRパーソンなため、多少PR礼賛しすぎ(広告を落としすぎ)な感は否めませんが、「確かにそういう見方もある」論拠は少なくないため、大局的な思考を身につけるためにも一読をお勧めしたい。

●推薦図書32
『ブランド戦略シナリオ: コンテクスト・ブランディング』
阿久津 聡 (著), 石田 茂 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4478374007/

ブランドは文脈(コンテクスト)によって形成されているという視点でまとめられた本。電通の石田氏と、一橋大学大学院経営管理研究科教授の阿久津氏がコラボした実践×アカデミアが融合した良著。本書で紹介されているアセロラドリンクのブランドコンテクストマップは秀逸すぎて感動をおぼえます。

●推薦図書33
『ブランディングの科学』(朝日新聞出版)
バイロン・シャープ (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4023316490/

「従来のセオリー(99%のマーケターが信じる理論や経験則)は、そのほとんどが間違っている」という論をエビデンスをベースに解説。商品ごとのユーザー属性はどのブランドもほとんど変わらないためターゲティングし過ぎるのはダメ、ターゲティングしすぎると効率はよくなるが対象が狭くなりすぎるため獲得単価が上がる、ほとんどのブランドの売上はロイヤルカスタマーではなく、未顧客やライトユーザーによって支えられているためロイヤルティマーケティングの効果は限定的、など批判的な視点を提供してくれる。従来のセオリーとどちらも学んだ上で、自身の考えをまとめていく上で多くのヒントが得られるはずです。

●推薦図書34
『予想どおりに不合理』(早川書房)
ダン アリエリー (著), Dan Ariely (原名), 熊谷 淳子 (翻訳)
https://www.amazon.co.jp/dp/4150503915/

人間はときに非合理的な判断や行動をとる、ということがわかっているからこそ、そのパターンや法則を学ぶことができます。それが行動経済学という学問。この世界を学び始めると、「そうそう!あるある!」とおもしろくて仕方がなくなります。行動経済学を学び始めるために最適な一冊。

●推薦図書35
『情報を正しく選択するための認知バイアス事典』
情報文化研究所 (著), 米田 紘康 (著), 竹村 祐亮 (著), 石井 慶子 (著), 高橋 昌一郎 (監修)
https://www.amazon.co.jp/dp/4866802103/

「行動経済学」「統計学」「情報学」の3つの研究分野から合計60の認知バイアスを解説する一冊。人間には「脳のバグ」と言われる認知バイアスがあります。ダイエットをしているのにジャンクフードを食べてしまう、金欠なのに高額な買い物をしてしまう、Aの方が得なのにBを選んでしまうなどはすべて認知バイアスです。人の意識や態度を変えることで行動を変えるマーケティングにおいて、人間の抗うことのできない認知バイアスを学んでおくことはとても大切。危険なので悪用しちゃ駄目ですよ。

Step6 個別理論を学ぶ

この段階で個別理論をしっかり学びます。前回も触れましたが、とにかく実務家マーケターは(驚くほど)理論を学びません。

くどいですが、重要なことなので繰り返します。再現性高く成果を出し続けるマーケターになりたいのなら、必ず理論を学んでください。

マーケティングの相手は人間ですから、マーケティングの目的は「人間の営みを科学し、再現可能性を高めること」と言い換えられることは先に述べました。そしてその人間の営みにおけるパターン、法則、規則性を過去数十年にわたって研究し、成功確率を上げ、失敗確率を下げ、マーケティングROIを最大化するために体系化されたものが「理論」です。

現場で実行されるあらゆるマーケティング施策は理論の上に立脚しており、先人が数十年かけて構築してくれた「成功と失敗のパターン」や、守るべき「型」がここに凝縮されています。

理論を学べばマーケティングで成果が出せるわけではありませんが、成果を出し続けているマーケターはすべからく理論を学んでいます。必ず実践的ノウハウだけでなく、そのベースとなる理論を学んでください。

書籍なら、和田充夫・恩藏直人・三浦俊彦著『マーケティング戦略〈第6版〉』(有斐閣アルマ)がお勧めです。少々難解に感じるかもしれませんが、(多くの人が読み切れる)マーケティングの理論書として本書以上に正確かつ高い網羅性でまとまっている本を私は知りません。なお、本書籍を教科書にした連続講座を行っていますのでそちらもぜひご参加ください。

そして本書読了後は、自身が担当する仕事や課題認識にそって、消費者行動論、ブランド論、流通・店頭、価格、広告、広報PR、販売促進、心理学、社会心理学、行動経済学どについて専門の理論書を手に取っていけば良いと思います。

●推薦図書36
『マーケティング戦略〔第6版〕』(有斐閣)
和田 充夫 (著), 恩藏 直人 (著), 三浦 俊彦 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4641221839/

少々難解に感じるかもしれませんが、(多くの人が読み切れる)マーケティングの理論書として本書以上に正確かつ高い網羅性でまとまっている本を私は知りません。全マーケター必読の書です。

●推薦図書37
『消費者行動論』(有斐閣)
青木 幸弘 (著), 新倉 貴士 (著), 佐々木 壮太郎 (著), 松下 光司 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4641124639/

消費者行動理論だけで一冊の理論書になっている恐ろしく奥深い本。マーケティングにおける消費者行動、消費行動と消費パターン、消費者行動の変化とその諸相、情報処理のメカニズム、情報処理の動機づけ、情報処理の能力、購買意思決定の分析、購買前の情報処理、購買時の情報処理、購買後の情報処理、購買意思決定プロセスとマーケティングなど、全マーケターが知りたがっていることが理論として凝縮され、整理されています。

●推薦図書38
『基礎から学ぶ認知心理学』(有斐閣)
服部 雅史 (著), 小島 治幸 (著), 北神 慎司 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4641150273/

消費者行動論における情報処理のベースとなる「認知のメカニズム」について学びを深める本。人の記憶や感覚、思考といった認識のしくみが科学的に理論化されているため、「広告やPRによってプレファレンスを高め、想起集合から第一想起入りを果たす」などといった現場で発生する仕事に厚みのある論理的裏付けや誤謬を見抜く視点を与えてくれます。

●推薦図書39
『ベーシック流通と商業〔第3版〕』(有斐閣アルマ)
原田 英生 (著), 向山 雅夫 (著), 渡辺 達朗 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4641221715/

マーケティング4Pにおけるチャネル戦略に該当するテーマですが、本書はそれだけにとどまらず、流通や店舗に関わる理論・仕組み・社会的役割を「変わりゆく生き物」のように捉え解説しています。マーケティングからの視点だけでなく、流通が人間の社会的な営みにおいて「いかになくてはならない存在か」を理解できる一冊。知識の深みが増すため、一読をお勧めしたい一冊。

●推薦図書40
『現代広告論 第3版』(有斐閣)
岸 志津江 (著), 田中 洋 (著), 嶋村 和恵 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4641220794/

実践的な広告をアカデミックの視点から理論化した骨太な広告論。「何も広告を理論で学ばなくても…」という声もあるでしょうが、だからこそ(本書一冊だけでいいから)広告理論を学んでおきましょう、と言いたい。広告の運用実務もKKDD(経験と勘と度胸とデータ)だけでは立ち行かなくなりますよ。

●推薦図書41
『ブランド戦略論』(有斐閣)
田中 洋 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4641165106/

複数の実践本を読み、いよいよしっかりとブランド理論全体を体系的に学ぼうという段になったら手にとって欲しい一冊。フォントの小ささ、文字数の多さ、本の分厚さに怯むかもしれませんが、最初から最後まで精読せずとも、困ったときに手に取る広辞苑のような辞書的存在としても頼れる一冊です。一家に一冊の書。

●推薦図書42
『〔エッセンシャル版〕マイケル・ポーターの競争戦略』(早川書房)
ジョアン・マグレッタ (著), マイケル・ポーター(協力) (その他), 櫻井 祐子 (翻訳)
https://www.amazon.co.jp/dp/415209320X/

きょうび、競合のいない市場などありませんから、すべてのマーケティングはすなわち競争戦略でもあります。M.E. ポーターの原著『競争の戦略』や『[新版]競争戦略論Ⅰ・Ⅱ』は少々ハードルが高いですが、本書はコンパクトに要点を簡潔にまとめてくれています。

●推薦図書43
『ストーリーとしての競争戦略』(東洋経済新報社)
楠木 建 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4492532706/

言わずと知れた30万部突破の大ベストセラー。「戦略の神髄は、思わず人に話したくなるような面白いストーリーにある」というコピー通り、真に秀逸な競争戦略には表からは見えない「そういうことだったのか!」が隠されています。M.E. ポーターの競争戦略を学んだ上で本書を手に取るともう一段視座を上げることができます。

●推薦図書44
『サービス・マーケティング』(有斐閣)
黒岩 健一郎 (著), 浦野 寛子 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4641150877/

1920年には3割未満だった第三次産業就業者が2015年には7割を超えています。つまり、日本の主要産業はサービス業ということです。それにもかかわらず、世のマーケティング本はメーカー(製造業)のマーケティング理論が大勢を占めています。サービスにはサービス特有の特性があります。本書でサービス・マーケティングの原理原則をおさえておきましょう。

●推薦図書45
『戦略ごっこ』(日経BP)
芹澤 連 (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4296204041/

ここまで紹介した理論書はすべて「従来のセオリー」を学ぶものです。一方で本書は「あなたたちが “当たり前” と信じているそれらの理論は、もしかしたら間違っているかもしれませんよ」とエビデンスをベースに警鐘を鳴らします。従来のセオリーと、それらを覆すエビデンスを論拠にした主張。どちらも学んだ上で、強度と厚みのある自身の考えを整理する刺激を与えてくれる一冊。

Step7 ケーススタディで学ぶ

個別の手法や概念を学び、そのベースとなる個別の理論を学んだら、ケーススタディで解像度を高めましょう。

このケーススタディも、個別手法や概念の学習同様、一定の抽象度で整理した教材がお勧めです。Web記事などで読める事例はわかりやすいですが、理論書にまとめられているケーススタディの方が「理論との接続」が最適化されているため、理論とケース(事例)がバラバラなままにならず、それぞれが「つながる」ことで「(頭で)理解」するだけでなく「(腹で)納得」することができるはずです。書籍なら、グロービス経営大学院著・編集『〈改訂4版〉グロービスMBAマーケティング』がお勧めです。

●推薦図書46
『[改訂4版]グロービスMBAマーケティング』
グロービス経営大学院 (著, 編集)
https://www.amazon.co.jp/dp/4478107351/

理論とケース(事例)を接続させるために最適な一冊。理論は抽象度が高く、事例は具体性が強い。それぞれを個別に学んでも理論と事例はつながりにくい特性がある中、本書は理論学習からケーススタディへシームレスにつなげてくれます。

[推薦メディア]
日経クロストレンド
https://xtrend.nikkei.com/

本ではありませんが、豊富な事例を日々大量に提供してくれる日経クロストレンドへのアクセスは生活習慣に組み込むべき。良質な記事は有料会員限定なので、この際、会員になってしまいましょう。必ず元は取れます。

Step8 全体理論を学ぶ

最終仕上げは、全体理論の学習です。書籍なら、700ページを超えるコトラー&ケラー&チェルネフ著『マーケティング・マネジメント』(丸善出版)ですが、正直申し上げて、すべてのマーケターがここまで進むことが必須だとは思いません。

もちろん、到達するに越したことはありませんが、それぞれが現場で担う領域やレベルに応じて、必要な論文などに当たる作業などでも良いと思います。大事なのは、個別も全体も、信頼性の高い理論を学ぶ姿勢を継続することです。

●推薦図書47
『コトラー&ケラー&チェルネフ マーケティング・マネジメント〔原書16版〕』(丸善出版)
フィリップ コトラー (著), ケビン レーン ケラー (著), アレクサンダー チェルネフ (著), & 2 その他
https://www.amazon.co.jp/dp/4621307479/

How-Toや事例学習に注意!

最後に、9象限マトリクスで触れなかった「How-Toや事例を学ぶ」について注意喚起をしておきます。

マーケティング学習において大きな障害(?)となっているのが、「手っ取り早く手が出せて、なんとなく賢くなった気になれるコンテンツ」が世にあふれていることです。

YouTubeやX(旧Twitter)で観る動画はラクです。再生ボタンをポチッと押せば、何もせず情報が向こうから流れてきてくれます。しかも、どの動画コンテンツも(途中で離脱されないよう)相当洗練されています。「ポイントは3つ!」「これだけでOK!」と限界まで情報を削ぎ落とし、対談や講義なら美味しいパンチラインの箇所だけを編集でつなぎ合わせ、テロップ付きで「魅せて」くれます。

これらの動画コンテンツはクオリティが高く、飽きずに(むしろ楽しみながら)観ることができ、そして一定の(学びの)達成感や充足感を感じさせてくれます。

また、成功事例を解説するWeb記事も日々大量に生産されています。事例はわかりやすいためとっつきやすく、(ヒントや考える材料ではなく)「答え(=すぐに真似できる成功の方程式)」と捉えられがちです。しかし、A社の成功事例は「A社特有のマーケティング課題を解決するために実施した施策によって、A社の課題が解決した事例」です。その成功事例はA社の商品特性・強みや弱み・顧客基盤・競争環境・使える予算・タイミングなどの最適性などが合致したから成功したのであり、B社がそのまま真似をしても前提が違いすぎてうまくいくはずがありません。

理論や概念の解説が多い本は「抽象的すぎて現場では使えない」「事例があればわかりやすいのに」といった感想が持たれがちですが、具体の事例からパターンや法則を見出すことが抽象化(≒理論化)なのですから、抽象的で当たり前なのです。具体の事例ばかり学んでいても、再現性は高められません。手法や概念を抽象で学び、自身の努力で具体に落とす。第一線で活躍しているマーケターは、ほぼ例外なくこのプロセスで仕事をしています。あなたも、そろそろ「事例クレクレ族」から卒業するときです。

How-Toや事例を学ぶなとは言いません。ただ、そこ(Cの象限)だけを学んでいても、マーケターとして習熟することは難しいことを理解し、本質的な学習に取り組んでください。

最強の読書術

ここまで、マーケティング学習の9象限マトリクス(学習ステップ)に沿った推薦図書をご紹介しました。ここで皆さんが知りたいのは「たくさんあるな…」「全部読まなきゃダメ…?(大変そうだし、お金かかるな……)」「本読むの遅いんだよな…」「本じゃなきゃダメ?(他の方法でもいい?)」「アンダーラインとか引いた方がいいの?」「付箋とか貼った方がいいの?」「読んだ後は要点を何かにまとめた方がいいの?」などの「効率的な読書法」でしょう。

そこで、学習効率を加速させるインプット術として、僕の独断と偏見による最強の読書術を解説します。

「読むべき本」の選び方

多くの人から「世の中にはたくさんの本がありすぎて、読むべき本がわからない」という声を聞きます。私なりの考えをお伝えしましょう。

人に「お勧めの本」を聞かない

「読むべき本の選び方」の1つ目は「お勧めの本を人に聞かないこと」です。前回の記事で推奨した47冊はいわば必修科目のようなものです。ここで言っているのはそれらが終わったあとの応用科目と考えてください。

本は「人と人の出会い」のようなものです。上司や部下、同僚、メンター、友人、恋人などで「人生を変えた出会い」を経験した人は少なくないでしょう。なぜ「その人」との出会いが人生を変えるほど大きなものになったのか。それは「タイミング」がドンピシャだったからです。どんな「運命的な出会いを果たした人」であっても、まったく違うタイミングで出会っていたら、「運命的な出会い」にならなかった可能性は大きいはずなのです。

本も同じです。

あなたが仕事をする中でぶち当たるさまざまな壁の存在が、その壁を乗り越えるために必要な「知識ニーズ」や「情報ニーズ」を形成します。その「ニーズ」は「あなた」が「いま」欲しているもので、隣の人が欲しているものとは違います。

にもかかわらず、多くの人は他者に「お勧め本」を尋ねてしまう。その人の「お勧め」はその人のタイミングと合致していたからお勧めするくらい良かったのであって、それがあなたにも刺さるとは限りません(だいたい外れます)。

すると、「信頼のおける人に紹介されて読んだけどイマイチだった(ガッカリだ)」という感想を持つことになります。これは、紹介者の推奨が悪かったのではなく、「その本はいまあなたが読むタイミングではなかった」ということなのです。

ビジネスにおける読書は、「楽しむため」ではなく「自身の課題を解決するため」という明確な目的があります。頭が痛ければ頭痛薬を飲む。胃が痛ければ胃腸薬を飲む。薬は、自身の病気や症状に合ったものを飲みます。本も同じです。自身の課題に合ったものを読む。だから、人に「お勧め本」を尋ねるのは悪手なのです。

大型書店に行く

とはいえ、「読むべき本」は、頭痛や胃痛などのように自身の症状を明確に把握できるほど簡単ではありません。どのようにしたら、自身の症状を知ることができるのでしょう。答えは大型書店に行くことです。Amazonでは駄目です。2〜3時間の十分な時間をとって、書店、それもできる限り大きな書店に行ってください。

理由は、大型書店の店頭にさえ行けば、情報が「受動的」に取得できるからです。本棚の前に立ち、数十冊、数百冊の表紙を見るだけで、あなたの手は必ず無意識に動きます(何冊かの本を手にとってパラパラめくりたくなります)。それが「あなた」が「いま」読むべき(な可能性の高い)本です。

大型書店であれば、平積みで紹介されている本はすべからく評価が高く、買って損する本はかなり少ないはずです。

「読むべき本」がわからない人は、騙されたと思って大型書店に行ってください。そして、本棚に立ったとき、自分の手がどの本に動くのか。直感に従ってください。大型書店に行く→直感に従う→パラパラ読む→買って読む→「読んでよかった」と「なんだかイマイチ」を繰り返しているうちに、あなたはいつのまにか誰かにお勧め本を聞くことはなくなっているでしょう。

読書スピードを上げる方法

最も多くの人が知りたい情報はこれでしょう。効率的なインプットのためには、まず「本を読むスピード」を上げなければなりません。

「私、本読むの遅いんですよ~」と言う人がいます。「もっと早く読めるようになりたい」と「速読」に手を出す人も少なくありません。大量の本を読もうとすると、誰もが自分の読書スピードの遅さに辟易してきます。「こんなスピードじゃ全部読みきれない。よし、速読の練習をしよう!」。だいたいこうなります(僕もそのひとりでした)。

でも、速読法ってなんだか怪しいですよね。眼球を早く動かすとか、写真のようにシャッターを押す感覚とか、無意識に訴えるとか。ということで、悩める(ビジネス本の)読書家の方々に、20代のときに年間100万円分(≒約500冊)の本を読んでいた僕が、ファイナルアンサーを授けます。

世の中で「速読術」「速読法」として提唱・販売されている方法論は、すべて嘘です。大事なことなのでもう一度言いますよ。すべて嘘です。今日この時点から、眼球を早く動かす方法や、写真のようにシャッターを押すような読書術は、1億%実現不可能なものとして、人生の選択肢から完全に削除してください。

これらの速読法がやろうとしていることは、「誰でも簡単に月収10万円!」「◯◯で資産を倍にする方法」などといった情報商材や、「何もしないで腹筋が割れる!」「聞いているだけで英語がしゃべれるようになる」といった眉唾商材と何ら変わりません。

読んだことのない小説や専門書を、1冊5分や10分で読めるわけないじゃないですか。僕らは、書いてることを目から入れ、脳で意味を理解し、反芻(はんすう)、咀嚼、解釈して行きます。その一連の作業を、見開き1ページ(約1,000文字)1秒で理解できるわけがありません。

ちなみに、2016年にカリフォルニア大学から「速読」は不可能(飛ばし読みは有効)だと科学的に証明されたという論文が出ています。ということで、いまこの瞬間から、「いつか速読法を身につけたい(それさえ身につければ読書スピードが劇的に上がる)」という淡い期待と選択肢は完全に抹消してください。

読書の世界にも魔法の杖なんてないことがわかったところで、再現可能な速読法を教えます。最初に言っておきますが、読書法に「そんな方法があったんだ!」「これは世界の大発明だ!」なんてものはありませんので、当たり前のことしか書いてありません。予めご了承を。

1. 読書前

  • 読書の目的を決める(この本を読むことによって何が得たいのか、ゴールを設定する。これによってヒントや答えを探すように読むようになります)
  • 著者略歴を見てどんなバックボーンの人が書いたものなのかを把握する
  • 「はじめに」を読んで全体感を把握する
  • 「目次」を読んで全体の流れと論理構成を把握する
  • 「おわりに」を読んで読後感の想像を広げておく
  • 最初から最後まで、1ページ2~3秒くらいでめくりながら、本当におおざっくり、全体的に、だいたいどんなことが書いてありそうか、雰囲気を掴む

ここまでがだいたい10~15分くらいです。この読書前のひと作業が劇的に読書スピードを上げるポイントです。漠然と1ページ目から読み始めることはやめましょう。

2. 読書中

  • 気になった所に赤線を引く(この際、どこに強く共感したのかがわかりづらい「ページへの付箋」よりも、赤ペンで当該箇所に線を引いたほうが良い
  • 感じたことがあれば、そのページの余白に赤ペンでメモをどんどん書いていってしまう

蛍光ペンも良いですが、それだと余白にメモを書き込む際、別のペンに持ち替えなければならないので、筆記用具は赤ペン一本に絞りましょう。

3. 読書後

できれば、読了後の感想やメモをnoteなどにまとめていく(言語化しながらアウトプットすることで知識の粗熱が取れ、情報が染み込みます。アウトプット法については次回詳細を解説します)。

いかがですか? ぜんぶ普通のことでしょう。世の中なんてそんなものです。甘い言葉には罠がある。基本に忠実に、愚直に読書道を極めるしかありません。

ポイントは、本を綺麗に残そうとしないことです。

読書の目的は本に書かれている内容をできる限り多く体内に吸収することです。本を綺麗に残すことではありません。だから、琴線に触れたこと、気づきを得たこと、疑問や調べてみようと思ったこと、自分なりの解釈や意見、今度実務で取り入れてみたいことなどを、どんどん当該ページの余白に書き込んで行きましょう。メモ程度でも、書くことによって記憶の定着も良くなります。ポイントなのは、参考になった箇所だけでなく、疑問や反論、自分の意見も書き込んでいくことです。それこそが、読書という刺激によってあなたの体内で発電された最も重要な「思考が進化する変化点」そのものだからです。

読んだ本はフリマサイトで売らない

「本の端に折り目をつけたり赤線を引くとメルカリで売れなくなるから嫌だ」という方へ。「読んだけどほとんど記憶に残っていない(=仕事のパフォーマンスが変わらない)」読書に1ミクロンも意味はありません。

小説は楽しむために読むものですが、ビジネス書は「仕事のパフォーマンスを向上させること」が目的です。そのためには、先に述べた通り、参考になった箇所、疑問に思ったこと、自分の意見やアイデアをどんどん書き込み、何度も行ったりきたりしながら思考のレベルを上げる必要があります。

「書籍購入費の元を取る」とは2,200円で買った本を2,100円で売ることではなく、その読書によって生涯における仕事のパフォーマンスが何%か向上し、結果として数万や数十万円のリターンを得ることです。

ちなみに僕は過去に1,000万円分以上の本を読んでいますが、給与(≒報酬)として1億円以上のリターンを得ている実感があります。真に元を取りたいのなら、読んだ後にその本をフリマサイトで売ることは選択肢から抹消してください。

速読法の最後に、不都合な真実をお伝えします。

「読むのが早いからたくさん読める」は因果が逆

「読むのが早い人はいいよな。でも私は読むのが遅いからそんなにたくさんは読めない!」という人がいます。でもこれ、因果が逆なのです。

本を読むのが早い人は、ほぼ例外なく大量の本を読んでいます。つまり、読むのが早いから大量の本を読めるのではなく、大量の本を読んでいるから、読むのが早いのです。多くの人が考えている因果とは順番が逆なのです。

同一テーマで複数の本を大量に併読していくと、「あ、これはあっちの本にも書いてあったな」「ここはだいたいの本で書かれている共通概念の確認だから飛ばして良さそうだな」と土地勘が付いてきます。

土地勘があるから、「飛ばして良い箇所」と「本書特有の主張(メインディッシュ)」を見分けることができる。だから、読むのが早いのです(つまり、読むのが早い人は適宜飛ばし読みをしているということです)。初学者は土地勘が無いため、「飛ばして良い箇所」と「熟読したほうがいい箇所」の分別がつかず、全部読まなければなりません。だから遅いのです。

仕事の質が量からしか生まれないことと同じです。量をこなすから重要な箇所と、さほど重要ではない箇所を仕分けることができる。だから結果として緩急がつけられる。近道はありません。この世に絶対はありませんが、これだけは絶対です。

読書量の目安は年間100冊

最後に。読書が重要なことも、速読するためにはたくさんの本を読まなければならないこともわかった。じゃあどのくらいの量を読めばいいの? が気になりますよね。

目安は、手取り給与の1/10です。本当は1/5と言いたいところですが、少々マッチョすぎるので1/10にしておきます。月給の手取りが20万円なら2万円、30万円なら3万円です。税込み2,200円の本なら、2万円で約9冊(年間約109冊)、3万円なら約13冊(年間約163冊)買えます。

文化庁の国語に関する世論調査(2018年)によると、日本人の平均年間読書量は12.3冊で、月に1冊も本を読まない人は47%、1〜2冊が34%、3〜4冊が18%、5〜6冊が10%、7冊以上読むと答えたのは4%程度でした。しかも、この読書の大半は小説や趣味に関する本です。

ビジネス書を月に10冊読めばトップ3%に入れます。あなたが努力をするように、クライアントも、上司も先輩も同僚も部下も後輩もすべからく努力しています。その中で「相対的に」多くの知識を増やすためには、「相対的に」読書量で上回るしかありません。それが、手取り給与の1/10を書籍購入費に回すという目安です。

インプットは複利で効く

新NISAの開始と昨今の株高で投資に熱い視線が注がれています。投資(特に積立型投資信託)の魅力とは何でしょう。それは複利です。仮に1年間の運用利回りが3%の投資信託の場合、1万円の元本は1年後に10,300円になり、2年目には(10,300円の3%の)10,609円になり、3年目には(10,609円の3%の)10,927円になります。利子に利子がつく。これが複利の効果です。

1の365乗は1のままですが、1.01の365乗は37.8です。毎日1%賢くなるだけで、1年後には38倍の戦闘力になる。始めるのに遅すぎることなんてないですが、若いうちからたくさんの本を読み始めた方が得な理由はここにあります。

圧倒的な量の本を読む。空っぽの頭の中に、整理棚ができ、そこに先人たちの叡智が詰め込まれていく快感を感じてください。仕事をしながら、それを少しずつ使っていくと、やがてそれはあなただけの経験と知恵になります。がんばりましょう。

まとめ

  • 学習の流れは全体感を掴んでから、流れ・構造を掴み、そして個別を学んでいくという手順がおすすめ
  • 全体感を掴んでから、思考力を磨いておくプロセスを入れておくと、その後に学ぶ個別の学習効率が上がる
  • インプットにおいて圧倒的におすすめなのは読書。ただし人におすすめを効くのではなくて、自らの課題にフィットした書籍に手を伸ばすことが欠かせない
  • インプットの目的は実務力を上げること。Web記事やSNSで流れてくるコンテンツを受動的かつつまみ食いするだけでは学習としては筋が悪い。実務に活かすためには、自らの頭で考えるという脳にストレスを与える過程が必要
  • 読むのが早いからたくさん読めるのではなく、たくさん読むことで読書スピードは上がる
  • インプットは早めに始めれば始めるほど複利で効いてくる。実践力を上げるために、早くからインプットに取り組もう

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