『マーケティングつながる思考術』連続講座④コンテンツマーケティングは短期的なCV獲得に有効なのか? 振り返りレポート
トライバルメディアハウス代表の池田が2023年1月に上梓した、マーケティングの医療ミス撲滅を目指す書籍『マーケティング「つながる」思考術』(翔泳社)の詳細を解説する連続講座の第4回です。
コンテンツマーケティングは検討しなければならない多くの要素を含んだ施策であり、マーケティングの医療ミスを起こしやすい施策でもあります。
今回はコンテンツマーケティングの「得意なこと」と「不得意なこと」を中心に、他のマーケティング施策にも共通する実行上のポイントを解説します。
幅広い役割を担うことができる施策の危険性
コンテンツマーケティングはマーケティングファネル上のどこに位置するのか確認してみましょう。以下の図において、ピンク色になっている箇所がコンテンツマーケティングです。コンテンツマーケティングが行われる場所になりやすいという観点でWebサイトにも色がつけられています。
コンテンツマーケティングはマーケティングファネル上において、「潜在顧客」から「比較検討」にまでかなり横に長く位置していることがわかります。コンテンツマーケティングに限らず、マーケティングファネル上で横に長い施策はマーケティングの医療ミスが発生しやすいため注意が必要だと池田は強調します。
たとえば、マーケティングファネル上で「購入」に位置される販促イベントは、得たい成果が「どれだけ売れたか」であり、評価指標もそうなるため、関係者間での認識の相違は起こりにくいでしょう。対照的に、コンテンツマーケティングは人によって「認知」「興味獲得」「理解促進」「サイトへの集客」など、どんな課題を解決しようとしているのか、そして何を期待しているのかの認識違いがかなりの確率で起こります。当然ながら解決したい課題によって、時間軸や効果測定指標もすべて異なります。
コンテンツマーケティングは、単純化すると「PESOメディアでどのようなコンテンツを生活者に届けるか」という施策であるため、できることもPESOやコンテンツの性質によって多岐にわたります。だからこそ望める効果も多岐にわたるのですが、関係者が期待する効果も時と場合によって異なりやすいということになります。
マーケティングにおいては診断と処方が重要であると過去の講座でも繰り返し述べてきましたが、関係者間で求めていることや、どんな課題を解決しようとしているのかを丁寧にすり合わせなければならないということが、コンテンツマーケティングなどマーケティングファネル上で「横に長い」施策の最大の注意点です。
コンテンツが得意なこと
コンテンツは、それに触れた生活者にとって役に立つ・気分が晴れる・知識が得られる・共感できるなど、生活者にとって有益であることが伴ってなければなりません。有益なコンテンツを作ることができれば、生活者を惹きつけ、能動的に情報を取得しようと思ってもらうことができます。コンテンツが持つその強みをマーケティングに活かすことが、コンテンツマーケティングの本質です。
そのため、「良いコンテンツが用意できているのか? 用意できるのか?」は重要な問いです。コンテンツマーケティングが効くかどうかの前に、生活者が有益だと感じられるクオリティのコンテンツを用意できるかどうかが大前提です。コンテンツマーケティングを始めるときには、コンテンツにできるネタが豊富にあるかどうか、継続的に用意できるのかどうかを確認することが大切です。
コンテンツは短期的なコンバージョンに貢献するのか?
コンテンツマーケティングでもっとも起こりがちなトラブルが、CPAが高くなってしまうことです。先に結論を述べると、コンテンツマーケティングが不得意とするのは短期的なコンバージョンの獲得です(ただし明らかな課題解決キーワードからのコンバージョンを狙うコンテンツSEOなどの一部例外はあります)。
コンテンツマーケティングは、生活者にとって有益な情報を提供するコンテンツを通じ、生活者を惹きつけ、情報を取得してもらう(そしてその結果として意識や態度を変える)という施策です。
注意すべきなのは、コンテンツは「自社の商品やサービスの購入を直接的に促すものではない」ということです。自社の商品・サービスをアピールし、購入を促すコンテンツを望んで取得するのは、すでに欲しいと思っている人だけです。
一方で、リスティング広告(検索連動型広告)は、すでに欲しいと思っている人や、買ってもらえる確率が高い人に向けて自社の商品・サービスを訴求することができる施策です。ニーズが顕在化している人たちに対して、直接買ってもらうことにつなげる施策がもっとも効率的(費用対効果に優れている)ということは間違いありません。だからこそ、競合が群がる激戦区でもあります。
コンテンツマーケティングは、この激戦区から一歩引いた施策であると言えます。
商品・サービスをすでに欲しい人に商品・サービスのメリットを直接訴求するのではなく、まだ欲しいと思っているわけではない人に対して、人を惹きつけるコンテンツを通じてアプローチするという考え方です。ドライヤーの例で解説すると以下の図のようになります。
すでにドライヤーを買い替えたいと思っている人ではなく、髪質に悩みがある人に向けた「上手な髪の乾かし方」をコンテンツとして提供します。そのコンテンツの中で自社ドライヤーの訴求をしても、その人が知りたいのは髪の毛の上手な乾かし方ですから離脱されてしまうだけです。「上手な髪の乾かし方」のコンテンツの中で、自然と自社商品のことを理解してもらう、というのが最適な考え方です。
このように、マーケティングファネルの購入にもっとも近い人ではなく、まだ遠い人にアプローチする(できる)施策であるから、CPAでリスティング広告と比較してしまうと不利になることは明確です。
ニーズが顕在化している人から効率的に売上が立つようになってから、コンテンツマーケティングで将来の顧客育成に中長期的な時間軸で取り組むことが、コンテンツマーケティングの考え方の前提にあることをおさえておきましょう。
顧客育成と時間軸の考え方
最後に、マーケティング施策の評価における「いますぐ客とそのうち客」と時間軸の考え方を解説します。以下の図をご覧ください。
多くの商品・サービスにおいて、ニーズが顕在化しているためすぐに売上につながる「いますぐ客」と、将来的に売上につながる可能性のある「そのうち客」に分類することができます。
「いますぐ客」の獲得には先述の通りリスティング広告がもっとも効率的です。しかし、「いますぐ客」の獲得は競合が多いため、将来の顧客となる「そのうち客」を育成することもマーケティング活動では欠かせません。
企業に勤めていると会計年度が一年区切りであるため、マーケティング施策の評価も一年単位で行われがちであると池田は言います。しかし、「そのうち客」は将来の顧客なので、商材特性によるものの、一年以内に売上につながるかどうかはわかりません。なかでも、車や住宅、BtoB商品は「そのうち客」が「いますぐ客」に変化するには一年以上の時間が必要となる場合がほとんどです。
一年で何かしらの結果を出さなければならないからこそ、なんとかして「いますぐ客」を獲得し、売上につなげたいと考えるのは仕方のないことです。一方で、その考え方が「そのうち客」の育成をおろそかにし、どんどん競合との消耗戦に突入してしまうリスクがあると池田は警鐘を鳴らします。
だからこそ、「そのうち客」の育成は時間がかかることについて社内で合意形成しながら、中間指標を正しく設定することは欠かせません。評価期間が1年なのに「成果が出るまであと2年待ってください」とは言えないからです。このように、マーケティング施策においては効果が出るまでの時間軸と、それに対応した適切な指標の設定が欠かせません。
その他、コンテンツマーケティングの資産性についてや、コンテンツへの導線確保の重要性など、コンテンツマーケティングでおこりやすい医療ミスについては動画でさらに詳しく解説しています。あわせてご確認ください。
まとめ
- マーケティングファネル上「横に長い」施策(幅広い役割を果たすことができる施策)は、関係者同士で期待する成果の認識が異なりがちなので注意が必要。コンテンツマーケティングはその代表的な施策の一つである
- コンテンツが得意なことは、商品・サービスの強みを売り込むのではなく、人を惹きつけて能動的に情報を取得してもらう点にある。そのため、そもそも有益なコンテンツを準備することが前提。また、良いコンテンツにつながるネタが用意できるのかどうかもあらかじめ確認しておく必要がある
- コンテンツマーケティングは多くの場合コンバージョンに直接貢献しない。また、リスティング広告などのニーズが顕在化した層に対するアプローチに比べ、CPAは高くなる。なぜなら、生活者が興味関心を持つ物事に対する有益な情報提供を通じて自社のことを訴求することが得意な施策であるため。
- 「いますぐ客」の獲得だけでは競合との競争が激化してしまうため、「そのうち客」の育成も一緒に行うべきである。一方で、会計年度は一年間隔であることから、単年度の売上向上に注力すべきという力が働きがち。「いますぐ客」と「そのうち客」獲得はどちらかではなくどちらも大切であるため、中長期的な顧客育成であることを踏まえた一年間隔での最適な中間指標の設定ならびに関係者間の合意が求められる