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公開日:2024年3月15日

『マーケティングつながる思考術』連続講座⑦インフルエンサーマーケティングの本当の効力はなにか? 振り返りレポート

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トライバルメディアハウス代表の池田が2023年1月に上梓した、マーケティングの医療ミス撲滅を目指す書籍『マーケティング「つながる」思考術』(翔泳社)の内容をもとにした連続講座の第7回です。

インフルエンサーマーケティングは、SNSの普及と影響力を持った個人(インフルエンサー)の台頭によって一気に注目を集めた施策です。インフルエンサーマーケティングは「広告っぽさ」がなく、多くのフォロワーに一気にリーチすることができ、しかも売れるという魔法のような施策に見えるかもしれません。

一方で、インフルエンサーに投稿を依頼したものの、期待したような効果が得られなかったという話も少なくありません。インフルエンサーマーケティングはどのような課題を持つときに有効で、望ましい結果を出すにはどのようなことを考慮する必要があるのでしょうか。

インフルエンサーマーケティングの「得意なことと不得意なこと」を構造的に整理し、おさえておくべきポイントを解説します。

インフルエンサーマーケティングが注目を集めた背景

2000年ごろは、ペイドメディアやアーンドメディアがマーケティングコミュニケーションにおいて情報を届けるメディアの中心でした。まるでシャワーのように生活者へ情報を浴びせ、そして配荷されている小売店を増やすことで手に取ってもらう機会を増やすことがマーケティングの定石と考えられていました。

しかし、ソーシャルメディアの誕生によって生活者の情報流通は一変します。以下の図をご覧ください。

ソーシャルメディアやSNSの誕生によって、人と人・興味と興味がつながるようになり、SNSのタイムラインには絶え間なくユーザーが投稿した情報が流通するようになりました。そして、レビューサイトにはユーザーによって商品・サービスに対するレビューやクチコミがストックされるようになったのです。

ソーシャルメディアによる情報流通の環境変化がもたらしたのは、クチコミの変化です。
クチコミは人間同士の会話や伝聞によって発生するものであり、一瞬のうちに消滅するものでもあり、そして影響範囲も限定的でした。しかし、ソーシャルメディアが登場したことで、クチコミはカキコミ(書き込み)へと変化し、半永久的にインターネット上に残るものになり、そして人間関係の有無を問わず多くの人に接触できるようになったのです。これは人類史上において、とても大きなイノベーションだったと言えるでしょう。

そして、ブログの隆盛をきっかけに、商業メディアではない個人がコンテンツを発信し、フォロワーを獲得できるようになりました。かつて有名人・タレントではない一人の人間が影響力を得るためには、マスメディアに露出するしかありませんでした。

しかし、ソーシャルメディアによって、一人の人間が大きな発信力(や多くのフォロワー)を持てるようになったのです。つまり、誰でもメディアになれるようになったということです。それがインフルエンサーです。

インフルエンサーが通常のメディアと異なるのは、発信主体が企業やメディアではなく「一人の人間」であることから、親近感や親しみを感じてもらうことができ、ファンやフォロワーと心理的なつながりを構築できることです。

また、インフルエンサーの誕生だけでなく、情報を受け取る側の生活者の変化も見逃せません。ソーシャルメディアによって爆発的に情報の流通量が増えたことで、脳が処理できる限界以上の情報に私たちは日々接しています。そして、商品・サービスの選択肢が豊富にあり、どれを選んでも性能や機能に大きく違いがなくなった(コモディティ化してしまった)環境を私たちは生きています。

興味を持てる物事に限りがあるなかで、商品・サービスの選択肢や情報が多いということは、選択時における生活者の思考停止を招いているとも言えます。何かを選ぶときに、多くの情報にさらされることを生活者は非常に億劫に感じます。

だからこそ、信用できる相手(インフルエンサー)による「おすすめ」が比較検討というプロセスをスキップし、購入されるようになったという購買行動の変化が起こっています。この生活者に起こっている変化も、インフルエンサーマーケティングの人気に拍車をかける一つの要因であると言えるでしょう。

インフルエンサーを一括りにして考えてはいけない

「インフルエンサー」と一括りに考えるのではなく、マーケティングにおいてはインフルエンサーは特性ごとに分類することをおすすめします。以下の図をご覧ください。

一番上にあるタレント・芸能人はマスメディアを中心に活動しており、芸能事務所に所属していることが一般的です。フォロワーやファンがもっとも多いですが、インフルエンサーマーケティングという枠組みで考えるには適さないため除外して考えます。

タレント・芸能人以下、「トップインフルエンサー」「カテゴリーインフルエンサー」「ブランドインフルエンサー」の3つのカテゴリーが登場していますが、これらの性質差をWho文脈(どういう人なのか)とWhat文脈(何を言うか)の観点で考えてみましょう。

トップインフルエンサー
タレント・芸能人に近しい存在であり、その人自身が多くのファンやフォロワーを抱えています。「その人が好きだから」という理由でフォローされている人であることがほとんどです。何を言うかではなく「その人が言うから」という理由で発信内容に注目が集まります。

カテゴリーインフルエンサー
特定のカテゴリーについて突出した経験や知識を持っていることで、信頼を集めているインフルエンサーです。たとえば「年間100泊以上を野外で過ごすキャンプ歴30年以上のインフルエンサー」の方がいたとして、「この人が言うんだから信頼できるんだろうな」という一種の権威性を発揮していることが特徴です。

ブランドインフルエンサー
特定のブランドや商品・サービスに対して熱狂的なファンであるインフルエンサーです。熱量高くブランドや商品・サービスの情報を発信していることから、権威とまではいかなくても、発信している内容に説得力や意味を感じてもらうことができるインフルエンサーです。

このように、インフルエンサーと言ってもそれぞれ持っている性質や発揮できる影響力が異なっていることからも、マーケティング上の位置づけも一括りにすることはできません。では、各フレームを用いながらインフルエンサーマーケティングのマーケティング上の立ち位置を整理しましょう。

インフルエンサーマーケティングの立ち位置

『売上の地図』において、インフルエンサーマーケティングはソーシャルメディア内で行われる一つの施策に位置づけることができます。

インフルエンサーマーケティングのマーケティングにおける注意点の一つが、インフルエンサーの持つメディアとしての性質です。PESOの分類で考えてみましょう。

「金銭を支払ったりサンプル品などを提供したりすることで、フォロワーに向けて情報を届けてもらう」という切り口だと、インフルエンサーをペイドメディア的なとらえ方をする方が少なくありません。施策の実行スキームだけで考えると誤りではありませんが、それだけでは不十分です。

前提として、インフルエンサーが活躍する場所はソーシャルメディア、なかでもSNSが中心です。過去の講座でも解説したように、SNSは公園のような場所であり、売り込みをするための場所ではなく、SNSに来るユーザーの目的は多くの場合「SNSに来ること」そのものであり、商品・サービスについて知りたいわけではないという重要な前提条件はインフルエンサーマーケティングにおいても変わりません。

また、インフルエンサーはアーンドメディア的な性質を持ちます。インフルエンサーは企業やブランドではなく、一人の生活者であることがほとんどです。第三者の立ち位置で、商品・サービスのことを伝えているということがアーンドメディア的であると言えます。だからこそ、企業主語の発信よりも信頼度が高く、興味を持ってもらいやすいのです。

そして、先述したインフルエンサーの分類によって、ファネル上の位置(得意なこと・不得意なこと)が異なります。

トップインフルエンサーは認知獲得から興味喚起までが得意であり、カテゴリー/ブランドインフルエンサーは興味喚起から比較検討までが得意です。

インフルエンサーの分類ごとの違いをもう少し詳しく整理しましょう。

縦軸はリーチ力の大きさです。単純にファンやフォロワーの多さとも言え、芸能人やタレント、トップインフルエンサーが強い領域です。そのため、トップインフルエンサー施策はマーケティングファネル上、認知獲得や興味喚起に強いと言えます。

カテゴリーインフルエンサーやブランドインフルエンサーは、ファンやフォロワーが多いわけではないのでリーチ力は低く、「その人自身に関連すること」は多くの場合において影響力をまとうことは難しいと言えるでしょう。

一方で、その人が持つ知識・経験・熱量などによって「発信するモノやコト」についての説得力や心を動かす力に優れています。そのため興味喚起や、比較検討に強いと言えます。

たとえば、キャンプ歴1年のトップインフルエンサーがテントをおすすめしたとしたら、キャンプ初心者かつその人のファンやフォロワーは、そのテントをほしいと思ってくれるかもしれません(「◯◯さんが使っているから、私も欲しい!」)。

しかし、キャンプに詳しい人からすれば、キャンプに詳しいとか、ブランドに対する熱量が高い相手のおすすめするテントのほうが興味を持ちやすく、購入意向が高まりやすいでしょう。

インフルエンサーマーケティングは先述のように「多くのファンやフォロワーを持つインフルエンサーに対して金銭あるいは商品・サービスを提供することで、企業やブランドに代わって告知を行ってもらう手法である」ととらえたとき、話題化や拡散、集客、売上を期待されることが少なくありません。しかし、これまで解説したようにそれぞれのインフルエンサーの持つ性質は異なり、期待できる効果も異なり、最適な効果測定指標も異なるということをおさえておきましょう。

インフルエンサーバイイングからインフルエンサーリレーションズへ

最後に、インフルエンサーと短期的かつ金銭的な関係ではなく、ブランドの協力者として中長期的な関係値を築くことを池田は推奨しています。

上記の図において、Bはブランド・IFはインフルエンサー・Cは生活者・C/BIFはカテゴリー/ブランドインフルエンサーのことを表しています。

図の左側がペイドメディアのようにインフルエンサーと関係を持っている状態です。右側は、インフルエンサーを支援するという考え方のもとで行われ、企業・ブランドとインフルエンサーの間でエンゲージメントを構築し、そしてインフルエンサーによる発信によってさまざまな形で影響力を発揮し続けるという考え方です。

インフルエンサーが持つ真の価値は「多くのフォロワーに第三者の立場で情報を届けてもらうこと」ではありません。インフルエンサーは先述したようにアーンドメディア・シェアードメディア双方の特徴を持つからこそ、ペイドメディアにはできない興味・好意・購入意向の向上ができるということが真の価値です。そのようなインフルエンサーと中長期的に関係値を築くことは、個人の発信力が強まった時代において企業やブランドにとって強力な競争優位の構築につながるのではないでしょうか。

まとめ

  • インフルエンサーマーケティングが注目を集めたのは、ソーシャルメディアやSNSの登場によって、もともと影響力が高かったクチコミが保存性を獲得し影響範囲を拡大したことが要因の一つ
  • インフルエンサーはフォロワー数や影響力の種別によって「トップインフルエンサー」「カテゴリーインフルエンサー」「ブランドインフルエンサー」に分類することができる。それぞれ誰が・何を言うかによって、どのような影響力を発揮できるかが異なるため、解決したい課題によってインフルエンサーの選定・期待できる効果・効果測定指標は変化する
  • インフルエンサーは主にソーシャルメディアやSNSで活動し、第三者という客観的立場で発信しているという点から、シェアードメディアとアーンドメディア双方の性質を持つ
  • 「金銭を支払うことで多くのフォロワーに第三者の立場で情報を届けてもらえる」ことではなく、アーンドメディア・シェアードメディア双方の性質を持つことから、信頼・興味・購入意向の獲得に優れていることがインフルエンサーマーケティングの持つ真の価値。だからこそ、金銭的かつ短期的な関係ではなく、インフルエンサーと中長期的な関係構築を行うインフルエンサーリレーションズの活動を推奨する

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